架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
72 / 83

ノルウェー上陸作戦

しおりを挟む
 ノルマンディー上陸に成功した連合軍だったが、上陸地点周辺で足止めを受け、その後の進撃は遅々として進まなかった。
 ロンメル率いる装甲軍とパウルス率いる第六軍が粘り強く抵抗し、ドイツ国防軍最長老のルントシュテット元帥が西方総軍総司令官として指導を行っている事もあり、連合軍の進撃はストップしていた。
 連合軍側の作戦も拙かった。
 連合国遠征軍最高司令官アイゼンハワーが広戦域戦略、前線を徐々に前に進め敵に左右から回り込まれないようにする作戦を採っていた。
 連合軍各部隊は進撃路を見つけても勝手に進軍する事は出来ず、見つけた穴をドイツ軍はすぐさま埋めたため、改めて攻撃を仕掛けたときには激しいドイツ軍の抵抗に遭い、連合軍の攻撃は遅々として進まなかった。
 ノルマンディー上陸後三ヶ月後にはドイツを降伏させるという連合軍のスケジュールは既に破綻していた。
 そこでチャーチルが事態打開のために40年よりドイツ占領下にあるノルウェーへの上陸作戦を提案した。
 ノルウェーは北海を挟んで英国の対岸にあり、ノルマンディーで使用した艦艇と上陸用舟艇を転換させるだけで即座に実施可能。
 ドイツ側のノルウェーに配備されている戦力が少なく少数の兵力でも成功する可能性が高く、白夜の季節であり、航空支援が容易である、とチャーチルは主張した。
 そしてノルウェーを占領すれば、

 1.スウェーデンのキルナからドイツに送られる鉄鉱石を遮断できる
 2.ドイツ本土の北方に連合軍の拠点を作る事が出来、爆撃を強化できる。
 3.ティルピッツをはじめとするドイツ海軍の対ソ連援助船団攻撃拠点を奪うことが出来る。
 4.ノルウェーと英国の間に海上封鎖線を構築し大西洋へ向かうUボートとグラーフ・ツェッペリンなどの空母機動部隊をバルト海に封じ込めることが出来、大西洋の連合軍船団の被害を減少させることが出来る。

 などのメリットがあった。
 反対意見もあったが、チャーチルの強引な主張により実行された。
 結果は、大失敗だった。
 作戦立案上陸開始まで時間が足りなく、上陸地点周辺への攻撃が十分行えなかった。
 また苦戦するノルマンディーへの補給と補充が優先され、十分な上陸兵力が集まらなかった。
 五〇キロ以下のドーバー海峡を越えるノルマンディー上陸でさえ上手くいっていないのに最短でも五〇〇キロ先のスカンジナビア半島へ航空機を送り込むことは困難だった。
 四年前のバトル・オブ・ブリテンの時、ノルウェーに進出したドイツ空軍第五航空艦隊が、爆撃機のみで空襲を仕掛け、大損害を受けて撃退したことをイギリス人は忘れていた。
 大戦の間に航空機の性能は上がっていたが長距離飛行はパイロットの疲労を高め、戦場上空の滞空時間を短くした。
 このことも事前爆撃の不徹底へ繋がり、ドイツ軍の反撃戦力を残す結果となった。
 ノルウェー特有の地形も上陸作戦を困難にした。
 氷河が削り出したフィヨルドは深く険しく、湾の奥まで艦艇で移動できたため兵士を各地へ送り込む事が出来た。
 だが、上陸した途端、彼らには険しい崖が眼前に現れ前進を阻んだ。
 しかも援護するはずの艦艇も深いフィヨルドの奥地、山の裏側に隠れたドイツ軍を艦砲射撃できず、撃滅できなかった。
 連合軍の艦艇が去ると、配備されていたドイツ軍は山の稜線に戻り、頭上から上陸したばかりの連合軍に砲火を浴びせ、出血を強いた。
 前進を阻まれているところへ、予め配備されていたアルプスで鍛え上げられた山岳猟兵師団の精鋭が、通行不能とされたルートから進撃し連合軍に奇襲攻撃を行い連合軍は混乱した。
 上陸から時間が経つとドイツ本国からの増援も到着し、連合軍は日ごとに不利となり、上陸から二週間後、撤退した。
 明らかな失敗であり「第二のガリポリ」「チャーチルの肉屋再開」「やらない方がマシだった」とまで連合軍の一部で言われていた。
 だが、これは言い過ぎだった。
 戦後判明したことだが、連合軍のノルウェー上陸作戦にドイツ軍は動揺し、多くの兵力を送り込んでいた。
 これが、連合軍への優勢をもたらしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

処理中です...