60 / 83
東部戦線
しおりを挟む
「ノルマンディーへ上陸したが進撃が遅れているぞ」
苛立たしげにルーズベルトは欧州の戦況を纏めた報告書を読み上げ、幹部達を叱責した。
「ロンメルの装甲軍が頑強に抵抗しています」
申し訳なさそうにマーシャルが理由を説明し始めた。
「それとフランスで再編成中だったパウルスの第六軍も参戦し、我々の進撃に対して抵抗しています」
「スターリングラードの生き残りか」
ルーズベルトは溜息を吐きながら言った。
四二年一二月に行われたソ連の反攻作戦ウラヌス――スターリングラード包囲作戦は失敗に終わった。
パウルスが指揮下の装甲軍団をいち早く脱出させ、救援戦力として活用できたことと、総統命令に反して、スターリングラードを脱出したため彼の第六軍二〇万は助かった。
ヒトラーは烈火の如く怒ったが、スターリンの反攻作戦が行われている状況では一兵でも欲しいところであり、第六軍二〇万は替えの効かない貴重な戦力であり、戦線を維持するには必要だった。
事実、ドイツ軍の南方軍集団は、第六軍の兵力を十全に活用し、戦線崩壊を防いだ。
もしここで第六軍が壊滅したら、コーカサスへ攻め込んでいた部隊の撤退が遅れ、一〇〇万のドイツ軍が壊滅していただろう。
ソ連軍にも連合軍にとっても大きなチャンスだっただけに、スターリングラードの失敗はルーズベルトの記憶にも深く残っている。
「あそこで勝っていれば全て変わったはずだ」
スターリングラードのあとも失敗は続いた。
コーカサスからの退却を見たスターリンがウクライナ奪回の為に冬季攻勢を仕掛けたのだ。
当初は奇襲となり、ソ連軍はドイツ軍へ深々と侵攻。一時は作戦が成功するかと思われた。
だが、ハリコフを死守するよう命じたハウサー率いる武装親衛隊装甲軍団も、ヒトラーの命令に反してハリコフを放棄。
機動防御を展開し、逆に急進撃で突出したソ連赤軍の後方を遮断し、包囲して壊滅させた。
おかげで南方軍集団はソ連の反攻に耐えきり四三年に攻勢を仕掛け一定の成果を収めることにドイツ軍は成功した。
だがドイツ軍最大の戦果は、ソ連軍の撃滅ではなく、死守命令を安易に出しすぎるヒトラーの作戦への影響力が低下した事だろう。
これまではラインラント進駐、オーストリア併合、チェコスロバキア併合などを成功させ、アルデンヌ迂回作戦を成功させフランスを屈服させた実績を持つヒトラーの命令に逆らえる国防軍の将軍はいなかった。
モスクワ攻略失敗で陰りが出ても直後に出された死守命令により、軍の敗走を防いだという観点もあり、ヒトラーの意見を無視することは出来なかった。
だが、ヒトラーに対する疑念が生まれた。
そして、四二年秋から四三年春にかけての国防軍の作戦行動、ヒトラーの死守命令に反して積極的な機動防御を展開し、多大な戦果を上げたため、国防軍の権威は回復しつつあった。
ヒトラーは、四二年のブラウ作戦失敗、四三年米英軍のイタリア上陸もあり国防軍に対する影響力は低下。
無用なヒトラーの干渉が少なくなりドイツ軍が東部戦線で善戦する結果を生み出した。
特にイタリアへ投入されるはずだった装甲師団や重戦車大隊が東部戦線に投入されたためソ連赤軍は四三年のクルスクで敗退し、後退していた。
連合軍にとって幸いなことにドイツも戦力不足によりこれ以上の進撃は出来ず、東部戦線は膠着状態に陥っていた。
グデーリアンの装甲兵総監へ復帰や、モーデルの善戦などで東部戦線の戦況は維持されており、ソ連はドイツ軍を叩き出すことが出来ずにいた。
兵力の余裕が出来たことにより、ローテーションを作る事が出来たため、パウルスの第六軍が――フランスへ上陸作戦を警戒する任務も含まれるが休養と再編成へ赴けるくらいは出来た。
「スターリンも、ふがいない」
多大な物資を、合衆国軍の増強に使うべきリソースさえ割いてレンドリースでソ連に送っているだけに、ソ連の失敗、東部戦線の膠着はルーズベルトを苛立たせた。
「我々の支援が少ないとスターリンは怒っていますが」
恐る恐る報告するマーシャルの言葉は事実だった。
苛立たしげにルーズベルトは欧州の戦況を纏めた報告書を読み上げ、幹部達を叱責した。
「ロンメルの装甲軍が頑強に抵抗しています」
申し訳なさそうにマーシャルが理由を説明し始めた。
「それとフランスで再編成中だったパウルスの第六軍も参戦し、我々の進撃に対して抵抗しています」
「スターリングラードの生き残りか」
ルーズベルトは溜息を吐きながら言った。
四二年一二月に行われたソ連の反攻作戦ウラヌス――スターリングラード包囲作戦は失敗に終わった。
パウルスが指揮下の装甲軍団をいち早く脱出させ、救援戦力として活用できたことと、総統命令に反して、スターリングラードを脱出したため彼の第六軍二〇万は助かった。
ヒトラーは烈火の如く怒ったが、スターリンの反攻作戦が行われている状況では一兵でも欲しいところであり、第六軍二〇万は替えの効かない貴重な戦力であり、戦線を維持するには必要だった。
事実、ドイツ軍の南方軍集団は、第六軍の兵力を十全に活用し、戦線崩壊を防いだ。
もしここで第六軍が壊滅したら、コーカサスへ攻め込んでいた部隊の撤退が遅れ、一〇〇万のドイツ軍が壊滅していただろう。
ソ連軍にも連合軍にとっても大きなチャンスだっただけに、スターリングラードの失敗はルーズベルトの記憶にも深く残っている。
「あそこで勝っていれば全て変わったはずだ」
スターリングラードのあとも失敗は続いた。
コーカサスからの退却を見たスターリンがウクライナ奪回の為に冬季攻勢を仕掛けたのだ。
当初は奇襲となり、ソ連軍はドイツ軍へ深々と侵攻。一時は作戦が成功するかと思われた。
だが、ハリコフを死守するよう命じたハウサー率いる武装親衛隊装甲軍団も、ヒトラーの命令に反してハリコフを放棄。
機動防御を展開し、逆に急進撃で突出したソ連赤軍の後方を遮断し、包囲して壊滅させた。
おかげで南方軍集団はソ連の反攻に耐えきり四三年に攻勢を仕掛け一定の成果を収めることにドイツ軍は成功した。
だがドイツ軍最大の戦果は、ソ連軍の撃滅ではなく、死守命令を安易に出しすぎるヒトラーの作戦への影響力が低下した事だろう。
これまではラインラント進駐、オーストリア併合、チェコスロバキア併合などを成功させ、アルデンヌ迂回作戦を成功させフランスを屈服させた実績を持つヒトラーの命令に逆らえる国防軍の将軍はいなかった。
モスクワ攻略失敗で陰りが出ても直後に出された死守命令により、軍の敗走を防いだという観点もあり、ヒトラーの意見を無視することは出来なかった。
だが、ヒトラーに対する疑念が生まれた。
そして、四二年秋から四三年春にかけての国防軍の作戦行動、ヒトラーの死守命令に反して積極的な機動防御を展開し、多大な戦果を上げたため、国防軍の権威は回復しつつあった。
ヒトラーは、四二年のブラウ作戦失敗、四三年米英軍のイタリア上陸もあり国防軍に対する影響力は低下。
無用なヒトラーの干渉が少なくなりドイツ軍が東部戦線で善戦する結果を生み出した。
特にイタリアへ投入されるはずだった装甲師団や重戦車大隊が東部戦線に投入されたためソ連赤軍は四三年のクルスクで敗退し、後退していた。
連合軍にとって幸いなことにドイツも戦力不足によりこれ以上の進撃は出来ず、東部戦線は膠着状態に陥っていた。
グデーリアンの装甲兵総監へ復帰や、モーデルの善戦などで東部戦線の戦況は維持されており、ソ連はドイツ軍を叩き出すことが出来ずにいた。
兵力の余裕が出来たことにより、ローテーションを作る事が出来たため、パウルスの第六軍が――フランスへ上陸作戦を警戒する任務も含まれるが休養と再編成へ赴けるくらいは出来た。
「スターリンも、ふがいない」
多大な物資を、合衆国軍の増強に使うべきリソースさえ割いてレンドリースでソ連に送っているだけに、ソ連の失敗、東部戦線の膠着はルーズベルトを苛立たせた。
「我々の支援が少ないとスターリンは怒っていますが」
恐る恐る報告するマーシャルの言葉は事実だった。
0
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる