架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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東部戦線

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「ノルマンディーへ上陸したが進撃が遅れているぞ」

 苛立たしげにルーズベルトは欧州の戦況を纏めた報告書を読み上げ、幹部達を叱責した。

「ロンメルの装甲軍が頑強に抵抗しています」

 申し訳なさそうにマーシャルが理由を説明し始めた。

「それとフランスで再編成中だったパウルスの第六軍も参戦し、我々の進撃に対して抵抗しています」
「スターリングラードの生き残りか」

 ルーズベルトは溜息を吐きながら言った。
 四二年一二月に行われたソ連の反攻作戦ウラヌス――スターリングラード包囲作戦は失敗に終わった。
 パウルスが指揮下の装甲軍団をいち早く脱出させ、救援戦力として活用できたことと、総統命令に反して、スターリングラードを脱出したため彼の第六軍二〇万は助かった。
 ヒトラーは烈火の如く怒ったが、スターリンの反攻作戦が行われている状況では一兵でも欲しいところであり、第六軍二〇万は替えの効かない貴重な戦力であり、戦線を維持するには必要だった。
 事実、ドイツ軍の南方軍集団は、第六軍の兵力を十全に活用し、戦線崩壊を防いだ。
 もしここで第六軍が壊滅したら、コーカサスへ攻め込んでいた部隊の撤退が遅れ、一〇〇万のドイツ軍が壊滅していただろう。
 ソ連軍にも連合軍にとっても大きなチャンスだっただけに、スターリングラードの失敗はルーズベルトの記憶にも深く残っている。

「あそこで勝っていれば全て変わったはずだ」

 スターリングラードのあとも失敗は続いた。
 コーカサスからの退却を見たスターリンがウクライナ奪回の為に冬季攻勢を仕掛けたのだ。
 当初は奇襲となり、ソ連軍はドイツ軍へ深々と侵攻。一時は作戦が成功するかと思われた。
 だが、ハリコフを死守するよう命じたハウサー率いる武装親衛隊装甲軍団も、ヒトラーの命令に反してハリコフを放棄。
 機動防御を展開し、逆に急進撃で突出したソ連赤軍の後方を遮断し、包囲して壊滅させた。
 おかげで南方軍集団はソ連の反攻に耐えきり四三年に攻勢を仕掛け一定の成果を収めることにドイツ軍は成功した。
 だがドイツ軍最大の戦果は、ソ連軍の撃滅ではなく、死守命令を安易に出しすぎるヒトラーの作戦への影響力が低下した事だろう。
 これまではラインラント進駐、オーストリア併合、チェコスロバキア併合などを成功させ、アルデンヌ迂回作戦を成功させフランスを屈服させた実績を持つヒトラーの命令に逆らえる国防軍の将軍はいなかった。
 モスクワ攻略失敗で陰りが出ても直後に出された死守命令により、軍の敗走を防いだという観点もあり、ヒトラーの意見を無視することは出来なかった。
 だが、ヒトラーに対する疑念が生まれた。
 そして、四二年秋から四三年春にかけての国防軍の作戦行動、ヒトラーの死守命令に反して積極的な機動防御を展開し、多大な戦果を上げたため、国防軍の権威は回復しつつあった。
 ヒトラーは、四二年のブラウ作戦失敗、四三年米英軍のイタリア上陸もあり国防軍に対する影響力は低下。
 無用なヒトラーの干渉が少なくなりドイツ軍が東部戦線で善戦する結果を生み出した。
 特にイタリアへ投入されるはずだった装甲師団や重戦車大隊が東部戦線に投入されたためソ連赤軍は四三年のクルスクで敗退し、後退していた。
 連合軍にとって幸いなことにドイツも戦力不足によりこれ以上の進撃は出来ず、東部戦線は膠着状態に陥っていた。
 グデーリアンの装甲兵総監へ復帰や、モーデルの善戦などで東部戦線の戦況は維持されており、ソ連はドイツ軍を叩き出すことが出来ずにいた。
 兵力の余裕が出来たことにより、ローテーションを作る事が出来たため、パウルスの第六軍が――フランスへ上陸作戦を警戒する任務も含まれるが休養と再編成へ赴けるくらいは出来た。

「スターリンも、ふがいない」

 多大な物資を、合衆国軍の増強に使うべきリソースさえ割いてレンドリースでソ連に送っているだけに、ソ連の失敗、東部戦線の膠着はルーズベルトを苛立たせた。

「我々の支援が少ないとスターリンは怒っていますが」

 恐る恐る報告するマーシャルの言葉は事実だった。

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