架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
58 / 83

ハルゼーを嫌うキング

しおりを挟む
「いい加減にしないか!」

 キングとマーシャルの口論を見かねたルーズベルトは苛立ちを隠さず、口にした。

「君らがここで口論して敵に勝てるのか?」
「「……申し訳ありません」」

 キングとマーシャルは返答した。

「優先順位は変わらない。ヨーロッパが優先だ。できる限り艦艇を回せ」
「それではインド洋が持ちません」
「イギリスへの供与は最低限に済ませろ。大西洋が優先だ」
「はい」

 イギリスを干上がらせアメリカの支援がなければ生きていけないようにするのがルーズベルトの目的だった。
 イギリス最大の植民地であり生命線であるインドが奪われるのであれば、良いことだった。

「キング、東海岸で就役した空母をグラーフ・ツェッペリンの撃沈に回せ」
「それでは太平洋は」
「慣熟訓練代わりだ。早急に沈めて、太平洋に回せ。それとマリアナを早急にかたづけろ。その後は、十月を目処にフィリピンを目指せ」
「台湾がよろしいと思いますが」
「攻略は難しいだろう」

 キングが推す台湾は島が大きく、遠い。
 マリアナで手こずったのを見る限り攻略出来るとはルーズベルトには思えなかった。
 また、攻略したとしても、付随効果、キングが言うには中国大陸の蒋介石率いる国民党と連絡をとり連携して日本を攻めることが出来るというのも疑問だ。
 日本軍が最近行っている大陸打通作戦で蒋介石は大打撃を受けた。
 陸軍兵力もそうだが、大陸沿岸部と根拠地である奥地重慶が切り離された影響は大きく。沿岸部の飛行場が使えず、日本のシーレーン攻撃が出来なくなった。
 特に汪兆銘率いる南京政府軍の能力は日に日に向上している。
 日本から与えられる武器や、民生品による生活向上は民心が日本側、南京政府に向きつつある。
 士気が低い国民党軍は蹴散らされ、民心は重慶政府から離れており、この戦争で保つかどうか不明だ。
 多大な援助を行っているが、インド洋の封鎖もあり十分ではない。
 蒋介石はあてに出来ないとルーズベルトは判断を下しており、中国との連絡には積極的ではなかった。

「それに国民がフィリピン奪回を求めている」

 ルーズベルトは不機嫌に言った。
 二年前のバターン陥落後に脱出したマッカーサーは、脱出後記者に対してアイ・シャル・リターン――必ずフィリピンに帰ってくると唱えた。
 日本軍の攻勢の前にアメリカ軍が敗退を続けた時期のため、力強い言葉にアメリカ国民は熱狂した。
 今でも国民は支持しており、マリアナを陥落させたことによってマッカーサーの唱えるフィリピン奪回に期待していた。

「10月にはフィリピンへ上陸を果たせ」
「無理です。マリアナを陥落させてから、艦隊を再編成し、準備に時間がかかります」
「第三艦隊がいるだろう。フィリピン攻略は第三艦隊に命じろ」
「反対です。ハルゼーは問題です」

 キングはルーズベルトの意見に反対した。
 太平洋艦隊にはハルゼー率いる第三艦隊とスプールアンス率いる第五艦隊の二艦隊がいるが、所属艦艇は同じだ。
 大作戦には、規模が大きくなる程準備が必要であり、司令部のスタッフの休養も必要になる。
 そこで、一つの作戦を一方の艦艇司令部が実行している間、もう一方の司令部は休養を取り、次期作戦に備えて計画を練るというルーチンワークを行っていた。
 所属艦艇は二つとも同じであり作戦ごとに司令部が変わるだけ。勿論艦艇側も、艦艇側のスケジュールで休養と再編成を行っており、十分な休養がとれていた。
 そのシステムに従えばハルゼーの第三艦隊の出番だ。
 だがキングは個人的にハルゼーを信じていなかった。
 ファイティングセイラー、ブル――戦う水兵、猛牛という渾名が付く程、ハルゼーは好戦的で闘争心の塊だ。
 敗北が続く、42年の南太平洋、ガダルカナルの激しい消耗戦で連合軍が戦い続けられたのはハルゼーの鼓舞によって将兵が奮起したからに他ならない。
 ガダルカナルを占領しソロモンを消耗しながらも進んで行けたのはハルゼーの手腕、いや闘志に寄るところが大きい。
 国民もハルゼーの闘志に熱狂している。
 だが、キングにはその闘争心が、蛮勇に近いと考えていた。
 あまりに猪突猛進な為、ハルゼーが暴走して何かミスをするのではないかと考えていた。
 キングは出来れば冷静沈着なスプールアンスに任せたかった。
  毀誉褒貶の多いキングが手放しに知将と評するスプールアンスならば安心できる。
 しかし、マリアナでの作戦の不手際をルーズベルトは問題視していた。
 キングに言わせれば準備不足の中、上陸作戦を強要したのであって、スプールアンスでなければ失敗していただろう。
 今また、マリアナが制圧できない中、フィリピンへ向かうのは危険すぎる。
 しかも、マッカーサーの大言壮語を実現するために艦隊を送るのは非常に不愉快だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

処理中です...