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佐久田の性格

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 マリアナの陥落により東条内閣は瓦解し、小磯国昭を総理とする新政権が誕生した。
 その影響で海軍も人員が刷新された。

 海軍大臣 米内光政
 軍令部総長 及川古志郎

 米内は日米開戦前、内閣総理大臣を務めており演じない書くの海軍大臣としては申し分ない。
 及川も大臣経験がある上、前職では海上護衛総隊の司令長官を務めており、海上護衛部隊の充実に尽力。
 当時開発されたばかりの磁気探知機を即座に採用し活用したことにより、商船の被害を低減させることに成功した。
 今後もアメリカの商船攻撃は激しくなることが予想されており、及川の手腕に益々、期待が高まることになった。

「それで私への詰問は続けると言うことですか?」

 大臣が替わった後も軍令部に呼ばれた佐久田はウンザリするような声で言った。

「なんだその言い方は」

 新連合艦隊司令長官の豊田副武は佐久田の言葉に激昂した。

「落ち着き給え、豊田君。佐久田君も自重したまえ」

 前連合艦隊司令長官の山本五十六が豊田を宥めるが、佐久田へ向いて叱責する。

「何時までも内輪で相争っている暇はないでしょう」
「相変わらず率直に物を言うね」

 山本は呆れるように言った。
 佐久田とは、前々回の連合艦隊司令長官時代に知っている。
 当時は小沢中将指揮下の南遣艦隊の参謀でマレー作戦、蘭印作戦に尽力。その後、インド洋作戦で活躍した。
 その時の航空機を活用した商船撃沈の手腕を評価され、ミッドウェーで壊滅した機動部隊の新参謀、再建なった機動部隊をインド洋へ投入するための人材として小沢の推薦もあって採用した。

「性格と人格に些か問題があるが、仕事は出来る」

 小沢の言う通り、性格と人格、特に何時も陰気な佐久田の表情は難があった。だが仕事に関してはピカイチだった。
 特に人がやりたがらない仕事、敵の弱点を見つけて徹底的に攻撃する方法と勝ち戦の中で万が一の負け戦の場合の対処方法の策定。
 得てして敗北が現実になったとき、その方法の果断な実行で佐久田は手腕を発揮した。
 負けじ根性を叩き込む海軍の中で負けを当然と考え込む佐久田は異常であり、浮いた存在だった。
 だが、ミッドウェーのあと劣勢にった日本海軍の状況に最も必要な人材であり、前線を支えたため、重宝されることになった。
 ただ、陰気な顔つきの割に強引な部分もあり、誰彼構わず正論、歯に衣着せない意見を口にする。
 山本も経験済みで知っていた。
 ソロモンの前線視察の時、い号作戦――ソロモン方面航空侵攻作戦のため無理矢理指揮下に入れられた艦載機部隊を引き上げようとラバウルをに来ていた佐久田が山本に噛みついたのだ。

「ソロモン方面の航空消耗戦にこれ以上航空部隊を使うな、特に再建の難しい艦載機部隊を使うな」

 佐官が将官、それも連合艦隊司令長官に向かって言うことではなかった。
 だが佐久田はミッドウェー以降の第二次ソロモン海戦、インド洋作戦、エスピリシスサット空襲、南太平洋海戦で勝利を収めた参謀として名声を高めていたので、山本も幕僚も佐久田の意見具申を無下には出来なかった。
 しかしスッポンのように噛みついたら離れない佐久田の勢いは強固で翌日の前線視察の時間になっても止める気は無かった。

「皆が待っているのだが」
「そうやって逃げるのか。いや、殺すために偽善を、演技を行うために行くのか」
「なんだと!」

 さすがに山本もぶち切れて殴り合いになり、視察は中止。
 佐久田との口論は続き、午前八時頃にはじまった敵の空襲によって中断されるまで続いた。
 ラバウルだけでなく敵がソロモン各地への航空攻撃を行ったため、前線視察どころではなくなり、山本はトラックへ引き返していった。
 後に山本の暗殺作戦があり、自分が撃墜するはずだったと主張するパイロットが現れる事になるが、一部のみが知るだけで、90年代の架空戦記物の中では山本撃墜が題材になった作品もある(売れ行きは芳しくなかった)。
 結局、山本はその後も連合艦隊の指揮を執るがソロモンでの消耗戦の激しさ、戦果の乏しさの責任を海軍内部から追及され、六月頃、横須賀鎮守府長官の古賀大将と交代することになる。

「君の言うとおり、手を引いておけばよかった」

 長官退任の際、佐久田にわびを言うほど山本は佐久田のことを信頼していた。
 佐久田の能力はそれだけ優れていたが、性格も人当たりも悪いが、仕方の無いことだった。
 佐久田の過去がそのような人格にしたのだ。
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