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船団襲撃
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田村艦長の攻撃命令に艦内の空気が変化した。
静かだが活力に満ちた雰囲気に艦内は包まれる。
機関は全速力で航行、敵船団の真横に向かって行く。
正面から攻撃するのも手だが、船団前方は潜水艦の待ち伏せを警戒する駆逐艦がいて、見つかる可能性が高いし、離脱の際に追撃を受けやすい。
見つかりにくく、魚雷を当てやすく、逃げやすい横方向から攻撃する事を田村は好んだ。
「艦長、魚雷準備出来ました」
「敵艦の方位〇三〇」
「推定距離一万。攻撃位置に達しました」
水雷長、聴音、航海長がそれぞれ報告する。
全てにおいて遺漏が無いか田村は検証してから、命令する。
「攻撃する。通信長、第六艦隊司令部へ魚雷発射と同時に通信」
「宜候」
敵前で電波を出すのは敵に自らの存在を明らかにするため危険だ。
だが敵船団の位置を知らせて僚艦の攻撃の手助けを求める必要もある。
なので魚雷発射後に打電して司令部に知らせる。
「準備出来ました」
「魚雷発射!」
田村の命令で水雷長がスイッチを押す。
艦首の八門の魚雷発射管から八本の一式魚雷が二本ずつ二秒間隔で打ち出されていった。
「打電終わりました」
「回頭、離脱する」
通信長の報告と共に田村は敵の攻撃を避けるために直ぐさま退避行動を行う。
雷速は三〇ノットのため距離一万だと到達まで一〇分五〇秒程掛かる。
副長がストップウォッチを見ながら命中音をひたすら待つ。
「間もなく時間です」
「エンジン停止!」
戦果を確認するため、魚雷が命中したか爆発音を確認する為に停止して耳を澄ませる。
「発射より一一分経過」
爆発音はなかった。船団に命中しなかったようだ。艦内には落胆の雰囲気が流れる。
だが、まだ機会はある。
「後方より推進音あり」
「急速潜航!」
通信を聞きつけて潜水艦探しに来た駆逐艦のようだ。
敵に見つからないように、深く潜ってひたすら息を潜めて敵がいなくなるのを待つしかない。
暫くして、遠くから遠雷のような音が響いてきた。
「一四分経過。命中です」
声には出さないが、艦内は喜びの空気に包まれる。
更にもう一度爆発音を聞くと小さくどよめきが上がる。
その後も二回の爆発音が響いた。
第二射法、九五式酸素魚雷の改造型である一式酸素魚雷の二万メートル以上にもおよぶ長射程を使った射法だ。
敵船団より距離一万の距離をおいて魚雷を発射する。
雷速は三〇ノットに抑えて距離を稼ぐ。普通の艦船なら振り切られるが、商船や補給船なら十分相手に出来る。
しかし通常の射法の場合、放物線上に魚雷を撃つだけなので命中の機会は一度だけだ。
そこを改良したのがカムを組み合わせて作った制御装置と第二射法が補う。
一式酸素魚雷は一定の距離を進むと、直径一〇〇〇メートルの円を描いて旋回を始めるように設定されている。
第二射法では互いの魚雷の円は三分の一程重なり、四本ずつ二列に分かれて広がるため幅奥行きがそれぞれ三〇〇〇メートルの範囲を魚雷が動き回ることになる。そこへ、船団が入り込めば、抜け出すまで何度も魚雷が回ってくる。
その分、命中のチャンスは多い。
特に長射程なるように改造された一式酸素魚雷の場合、三〇ノットで二万以上の射程を誇る。
距離一万から撃っても、船団までの距離さえ正しければ三周以上走り回るため命中の機会は多くなる。
射程が長くなった分、炸薬量は九五式の半分と少ないが、商船を撃沈するには十分な威力を持っている。
酸素魚雷は気室の生産が難しく生産数が伸びなかったが北山重工が専門の工場を作って大量生産してくれたお陰で、十分な数を手に入れる事が出来た。
魚雷の生産数増大により魚雷の本数制限、戦艦へは全門斉射してもよいが輸送船への攻撃は一本に止める、という制約が無くなった。
寧ろ船団攻撃に全門斉射を推奨する程には供給されていた。
お陰で幾度も魚雷が命中する音を聞く事が出来た田村は満足した。
「敵駆逐艦接近」
だが聴音手の報告で艦内に緊張が走る。
直後、ピコーンという音が艦内に鳴り響く。
後にアクティブソナーと呼ばれる敵の探知音だ。
潜水艦の特性は海に潜れることによる隠匿性だ。魚雷攻撃で撃沈するのは派手だが、敵に見つからず警戒を強要するのが最大の性能だ。逆に言えば敵に見つかってしまえば、これほど脆い存在はない。
敵に探知されたか、否かが田村達には気になるところだ。
「敵艦より投射音!」
「全速前進!」
敵艦がこちらの位置を確証して攻撃を仕掛けてきたようだ。
田村は躊躇無く全速を命じる。撃ってきているのは、恐らくヘッジホッグ。二四発の小型爆雷を前方へ一斉投射し投網のように潜水艦を包み、一発でも爆発すれば他も誘爆する兵器だ。
だから全速で逃げる。機関室のモーター音が発令所まで響いてくる。
「一一番管。ボールドおよびテティス、ついでにゴミを装填! 完了次第放て! その後閉鎖! 廃油投棄!」
田村は命じた。
幸いにしてヘッジホッグは命中しなかったが、駆逐艦が迫ってきている。
直上に来れば爆雷を打ち込んでくるはずだ。
その前に、出来る限りの事を行う。
「敵艦頭上を通過! 爆雷投射!」
聴音手が悲鳴のような声を上げ、レシーバーを外す。
「掴まれ!」
田村が命じた直後、爆発音が響き、艦を揺らす。
静かだが活力に満ちた雰囲気に艦内は包まれる。
機関は全速力で航行、敵船団の真横に向かって行く。
正面から攻撃するのも手だが、船団前方は潜水艦の待ち伏せを警戒する駆逐艦がいて、見つかる可能性が高いし、離脱の際に追撃を受けやすい。
見つかりにくく、魚雷を当てやすく、逃げやすい横方向から攻撃する事を田村は好んだ。
「艦長、魚雷準備出来ました」
「敵艦の方位〇三〇」
「推定距離一万。攻撃位置に達しました」
水雷長、聴音、航海長がそれぞれ報告する。
全てにおいて遺漏が無いか田村は検証してから、命令する。
「攻撃する。通信長、第六艦隊司令部へ魚雷発射と同時に通信」
「宜候」
敵前で電波を出すのは敵に自らの存在を明らかにするため危険だ。
だが敵船団の位置を知らせて僚艦の攻撃の手助けを求める必要もある。
なので魚雷発射後に打電して司令部に知らせる。
「準備出来ました」
「魚雷発射!」
田村の命令で水雷長がスイッチを押す。
艦首の八門の魚雷発射管から八本の一式魚雷が二本ずつ二秒間隔で打ち出されていった。
「打電終わりました」
「回頭、離脱する」
通信長の報告と共に田村は敵の攻撃を避けるために直ぐさま退避行動を行う。
雷速は三〇ノットのため距離一万だと到達まで一〇分五〇秒程掛かる。
副長がストップウォッチを見ながら命中音をひたすら待つ。
「間もなく時間です」
「エンジン停止!」
戦果を確認するため、魚雷が命中したか爆発音を確認する為に停止して耳を澄ませる。
「発射より一一分経過」
爆発音はなかった。船団に命中しなかったようだ。艦内には落胆の雰囲気が流れる。
だが、まだ機会はある。
「後方より推進音あり」
「急速潜航!」
通信を聞きつけて潜水艦探しに来た駆逐艦のようだ。
敵に見つからないように、深く潜ってひたすら息を潜めて敵がいなくなるのを待つしかない。
暫くして、遠くから遠雷のような音が響いてきた。
「一四分経過。命中です」
声には出さないが、艦内は喜びの空気に包まれる。
更にもう一度爆発音を聞くと小さくどよめきが上がる。
その後も二回の爆発音が響いた。
第二射法、九五式酸素魚雷の改造型である一式酸素魚雷の二万メートル以上にもおよぶ長射程を使った射法だ。
敵船団より距離一万の距離をおいて魚雷を発射する。
雷速は三〇ノットに抑えて距離を稼ぐ。普通の艦船なら振り切られるが、商船や補給船なら十分相手に出来る。
しかし通常の射法の場合、放物線上に魚雷を撃つだけなので命中の機会は一度だけだ。
そこを改良したのがカムを組み合わせて作った制御装置と第二射法が補う。
一式酸素魚雷は一定の距離を進むと、直径一〇〇〇メートルの円を描いて旋回を始めるように設定されている。
第二射法では互いの魚雷の円は三分の一程重なり、四本ずつ二列に分かれて広がるため幅奥行きがそれぞれ三〇〇〇メートルの範囲を魚雷が動き回ることになる。そこへ、船団が入り込めば、抜け出すまで何度も魚雷が回ってくる。
その分、命中のチャンスは多い。
特に長射程なるように改造された一式酸素魚雷の場合、三〇ノットで二万以上の射程を誇る。
距離一万から撃っても、船団までの距離さえ正しければ三周以上走り回るため命中の機会は多くなる。
射程が長くなった分、炸薬量は九五式の半分と少ないが、商船を撃沈するには十分な威力を持っている。
酸素魚雷は気室の生産が難しく生産数が伸びなかったが北山重工が専門の工場を作って大量生産してくれたお陰で、十分な数を手に入れる事が出来た。
魚雷の生産数増大により魚雷の本数制限、戦艦へは全門斉射してもよいが輸送船への攻撃は一本に止める、という制約が無くなった。
寧ろ船団攻撃に全門斉射を推奨する程には供給されていた。
お陰で幾度も魚雷が命中する音を聞く事が出来た田村は満足した。
「敵駆逐艦接近」
だが聴音手の報告で艦内に緊張が走る。
直後、ピコーンという音が艦内に鳴り響く。
後にアクティブソナーと呼ばれる敵の探知音だ。
潜水艦の特性は海に潜れることによる隠匿性だ。魚雷攻撃で撃沈するのは派手だが、敵に見つからず警戒を強要するのが最大の性能だ。逆に言えば敵に見つかってしまえば、これほど脆い存在はない。
敵に探知されたか、否かが田村達には気になるところだ。
「敵艦より投射音!」
「全速前進!」
敵艦がこちらの位置を確証して攻撃を仕掛けてきたようだ。
田村は躊躇無く全速を命じる。撃ってきているのは、恐らくヘッジホッグ。二四発の小型爆雷を前方へ一斉投射し投網のように潜水艦を包み、一発でも爆発すれば他も誘爆する兵器だ。
だから全速で逃げる。機関室のモーター音が発令所まで響いてくる。
「一一番管。ボールドおよびテティス、ついでにゴミを装填! 完了次第放て! その後閉鎖! 廃油投棄!」
田村は命じた。
幸いにしてヘッジホッグは命中しなかったが、駆逐艦が迫ってきている。
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その前に、出来る限りの事を行う。
「敵艦頭上を通過! 爆雷投射!」
聴音手が悲鳴のような声を上げ、レシーバーを外す。
「掴まれ!」
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