架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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31ノットバーク

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 軽巡バーミンガムに座上したバーク少将は静かに頷いた。
 第五八任務部隊の参謀長の職にあったが、日本軍の夜襲が迫っていたことから臨時に編成された第八任務群、各任務群からかき集めた水雷戦隊の指揮を命じられた。
 ソロモンで三一ノットバークーー作戦規定で三〇ノットに制限されている駆逐艦の編隊速度を三一ノットで航行させることを続けていたことからつけられたあだ名だった。
 そのあだ名が全海軍に広がった理由は彼がソロモンで多大な成績を残したからだ。
 日本軍の夜間襲撃に対して負けの多かったアメリカ軍の中で、唯一といっていいほど勝ち星を上げ続けたからだ。
 特に水雷戦隊を二つに分け、レーダー管制を用いて一方を囮にして、もう一方に攻撃させる戦法を編み出し、成果を上げるようになったのは彼の功績だ。
 この戦法により、一時的にせよ夜間戦闘の勝率が上がった。
 駆逐隊の指揮官たちはバークの戦法を学び彼の名があだ名とともにアメリカ海軍に広まるきっかけとなった。
 この功績によりバークは昇進しミッチャー中将率いる第五八任務部隊参謀長に任命された。
 彼が再び水雷戦隊を率いることになったのは、久方ぶりの日本軍による夜間襲撃であり、迎撃方法を熟知しているバークが各任務部隊から引き抜いた臨時水雷戦隊を率いるのにふさわしいと考えたからだ。
 リーの戦艦部隊が攻撃する前に、バークの駆逐艦部隊が日本艦隊を攪乱してくれると期待されていた。

「上手くいくかな」

 合同訓練を行ったことのない烏合の衆、リー中将は戦艦による攻撃を重視しているし、ここ数日の航空攻撃と艦砲射撃で各艦は疲労している。
 特に駆逐艦はピケット任務について日本軍の攻撃を受けて損傷し戦線離脱した艦が多い。
 指揮下の艦艇で日本軍を迎撃できるか心配だった。
 不安要素は多かったが既に命令は下っているし部隊も進撃中だ。
 それに後方には味方の上陸部隊がいる。
 彼らを日本軍の攻撃から守る為にも自分達が立ち塞がらなければならない。
 他に向かえる艦隊はいない。
 日本軍の艦隊は強大であり、生半可な兵力では返り討ちにあう。
 そのことをソロモンで嫌と言うほどバークは経験している。
 勝ち戦でも、危うい場面や血みどろの勝利も多い。
 日本軍は決して劣った部隊ではなく練度が高く、同数では、いや場合によっては日本側劣勢でも果敢に攻撃し逆転勝利、優勢だった米軍が敗北することも報告されている。
 集められる限りの兵力を集めて、迎撃に出て行くしかない。
 例え烏合の衆であっても。

「日本軍を探知しました」
「ジャップを通すな。第一任務隊および第二任務隊に命令、攻撃せよ」

 任務部隊は、その下に任務群を、さらにその下に任務隊を編成できる。
 編入された駆逐艦を所属していた任務群ごとに任務隊に再編し、合計五隊、十五隻の駆逐艦が指揮下にいる。
 彼らを使って、後方にいる戦艦隊を護衛するのが任務だ。
 戦艦隊は接近してくる敵の戦艦を迎撃する。
 そのうちの二隊を、囮役として向かわせた。
 そしてレーダー射撃で仕留める。
 第一任務隊は魚雷を放って命中するのを待つ。
 魚雷が命中したところで、砲撃し打撃を与え注意を引き寄せる。すると反対側にいるもう一隊が攻撃し、打撃を与えるとともに先に攻撃した隊の離脱と再攻撃の時間を稼ぐ。
 先行して攻撃した部隊は態勢を整えて再攻撃する。
 これの繰り返しだ。
 これによってバークはソロモンで日本海軍に勝ち星を上げていた。

「本艦も突撃を開始する。速力31ノットへ」

 定番の命令を下し、バークは先頭に立って突撃した。
 烏合の衆だと彼らの自発性には期待できない。
 ならば指揮官が文字通りリーダーとなって先導――先頭に立って敵に向かって進むしかない。
 そして一番危険な役目を果たして行うべき事を見せつけるしかない。

「砲撃用意。敵艦を捕捉しろ」
「レーダー敵艦を捕捉。照準良し」
「砲撃開始!」

 バーミンガムが主砲を放った。
 後続艦も砲門を開き、敵艦である日本軍に向かって砲撃を行う。
 闇夜の置くに白い水柱が薄らと見えた。
 だが、命中を示す紅蓮の炎は見えなかった。

「敵艦回避行動を開始」
「狙って砲撃を続けろ、敵艦を撃沈するんだ」
「了解」

 バークの命令で部下達はレーダー手の探知した目標へ砲撃を続けさせた。
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