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マリアナ沖夜戦
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空襲が終わって、被害集計を纏め報告した佐久田は勝機はないと感じていた。
第一部隊の被害は少ないが、装甲のない第二から第四部隊所属空母の被害が大きすぎる。
集中攻撃を受けた飛龍の沈没は仕方ないとしても、爆弾数発だけで発艦不能になった加賀と翔鶴、雲龍が痛い。
後方に艦載機が残っていても発艦させるための箱である空母群が発艦不能では攻撃できない。
無装甲の空母は航空攻撃に弱く、沈没しなくても甲板に穴をあけられただけで機能停止となる。
特に雲龍など爆弾一発で発着艦不能。たった一発で戦力を消失した。
やはり空母には飛行甲板に装甲が必要だ。艦政本部がもうすこし理解を示し、装甲空母を増やしてくれたら、信濃や大鳳のように軽微な被害に終わり攻撃可能だっただろう。
だが、それもたらればの話だ。
手元にある攻撃隊で何とかするしかない。
幸い、最後に出した攻撃隊が攻撃に成功し、空母を新たに二隻撃破してくれたようだ。
だが、もはや同じような攻撃は出せないだろう。
一航艦も連日の攻撃で消耗。特にマリアナに備蓄していた燃料が底を突いている。
しかもアスリート飛行場が占領されたとき備蓄していた魚雷が吹き飛び対艦攻撃力が無くなっている。
日本海軍は攻撃力を失った。
これ以上の攻撃は効果が望めず、いたずらに損害を増やすだけだ。
このことを理解した後方の連合艦隊司令部から撤収命令が出ておりマリアナの放棄が決まった。
闘将と呼ばれる山口も戦闘意欲があっても命令を無視することはできない。
だから、山口は命じた。
「第一機動艦隊全艦に通達! あ号作戦中止! 撤収に移る! 第一部隊と第五部隊及び指定された各隊は第二艦隊に集結。夜戦を決行する! コクサ! 編成を」
「宜候」
生気の無い声で佐久田は了解した。
「夜戦か」
第一戦隊司令官宇垣纏中将は、電信を受け取って表情を変えずに呟いた。
上の防空指揮所では森下艦長が防空指揮を執っている。
操艦の名手であり、絶妙の回避行動を行うため未だ被弾はない。
姉妹艦の武蔵も長門、陸奥にも被弾はなく、戦闘力は維持していた。
空母を最優先で狙うというアメリカ軍の方針で戦艦が狙われにくいという事情もあるが、とにかく第一戦隊は無傷だった。
被害がないことに安堵していたが、戦争が戦艦から航空機優先となったことを示すものだ。
「皮肉なものだな」
表情を変えず宇垣は呟いた。
この戦いの主兵力である航空機がなくなって負けが決まって戦艦の出番がやってきたのだ。
ただ戦艦は昼戦ではなく、夜戦を行う。
本来なら敵がよく見える昼間に行いたい。
だが、陽があるうちは、敵機の空襲を受ける。
飛行機の飛べない夜の間にすべてを終わらせる必要がある。
これはこの戦争の特徴であり日米共に航空劣勢側が艦隊行動を夜間に行う。
そのため、この戦争では夜戦が起きやすい。
遭遇戦も多いが、はじめから企図して行われる事も多い。
戦艦でさえ、投入される。
しかし、艦隊決戦用に作られた大和さえ投入されるのは、皮肉であり、日本海軍が劣勢である事を証明していた。
だが命令とあらば実行しなければならないし、昼間に艦隊決戦が出来るような状況ではない。
それに夜戦とはいえ、大和で砲撃できる事に宇垣は喜びを感じていた。
「田村少将に通達。夜戦用意。水雷戦隊の指揮を任せる。敵艦隊に向けて最大戦速。木村少将にはサイパンに突入するよう命令を出せ」
「はっ」
「第二艦隊、全軍突撃せよ」
宇垣はアメリカ艦隊に向かって自分の第二艦隊を突撃を始めた。
「敵艦隊が接近している?」
報告を受けたスプールアンスは珍しく戸惑いの表情を浮かべた。
空母部隊同士の戦闘に戦艦が殴り込みをかけてくるなど想定外だった。
「長官、退避命令を出しましょう」
「ダメだ」
「どうしてですか」
「我々の後方には上陸船団がいるし、サイパンで戦っている陸上部隊がいる」
空母部隊のみなら退避で正解だ。
しかし後方にはマリアナへの上陸船団がいる。
さらに未だ激戦が続くサイパンへ上陸している部隊やそれを支援する艦艇部隊もいる。
マリアナ占領を目指しているアメリカ軍にとって上陸船団に被害が、壊滅するのは敗北と同じだ。
たとえ日本の機動部隊を撃退したとしても、彼らが壊滅したら作戦失敗だ。
こんなことなら上陸作戦は後回しにすれば良かった。
だが、すでに部隊は上陸しており今から撤収させても作業中に敵艦隊が到達してしまう。
彼らを守るためには盾が必要だった。
その盾をスプールアンスは取り出し敵艦隊に向かわせる事にした。
「リー中将に命令。指揮下の第七任務群の戦艦部隊で迎撃せよ。船団には退避命令を。それと各任務群から駆逐艦を抽出して臨時の任務群を編成。リーの支援に回せ」
「了解!」
第一部隊の被害は少ないが、装甲のない第二から第四部隊所属空母の被害が大きすぎる。
集中攻撃を受けた飛龍の沈没は仕方ないとしても、爆弾数発だけで発艦不能になった加賀と翔鶴、雲龍が痛い。
後方に艦載機が残っていても発艦させるための箱である空母群が発艦不能では攻撃できない。
無装甲の空母は航空攻撃に弱く、沈没しなくても甲板に穴をあけられただけで機能停止となる。
特に雲龍など爆弾一発で発着艦不能。たった一発で戦力を消失した。
やはり空母には飛行甲板に装甲が必要だ。艦政本部がもうすこし理解を示し、装甲空母を増やしてくれたら、信濃や大鳳のように軽微な被害に終わり攻撃可能だっただろう。
だが、それもたらればの話だ。
手元にある攻撃隊で何とかするしかない。
幸い、最後に出した攻撃隊が攻撃に成功し、空母を新たに二隻撃破してくれたようだ。
だが、もはや同じような攻撃は出せないだろう。
一航艦も連日の攻撃で消耗。特にマリアナに備蓄していた燃料が底を突いている。
しかもアスリート飛行場が占領されたとき備蓄していた魚雷が吹き飛び対艦攻撃力が無くなっている。
日本海軍は攻撃力を失った。
これ以上の攻撃は効果が望めず、いたずらに損害を増やすだけだ。
このことを理解した後方の連合艦隊司令部から撤収命令が出ておりマリアナの放棄が決まった。
闘将と呼ばれる山口も戦闘意欲があっても命令を無視することはできない。
だから、山口は命じた。
「第一機動艦隊全艦に通達! あ号作戦中止! 撤収に移る! 第一部隊と第五部隊及び指定された各隊は第二艦隊に集結。夜戦を決行する! コクサ! 編成を」
「宜候」
生気の無い声で佐久田は了解した。
「夜戦か」
第一戦隊司令官宇垣纏中将は、電信を受け取って表情を変えずに呟いた。
上の防空指揮所では森下艦長が防空指揮を執っている。
操艦の名手であり、絶妙の回避行動を行うため未だ被弾はない。
姉妹艦の武蔵も長門、陸奥にも被弾はなく、戦闘力は維持していた。
空母を最優先で狙うというアメリカ軍の方針で戦艦が狙われにくいという事情もあるが、とにかく第一戦隊は無傷だった。
被害がないことに安堵していたが、戦争が戦艦から航空機優先となったことを示すものだ。
「皮肉なものだな」
表情を変えず宇垣は呟いた。
この戦いの主兵力である航空機がなくなって負けが決まって戦艦の出番がやってきたのだ。
ただ戦艦は昼戦ではなく、夜戦を行う。
本来なら敵がよく見える昼間に行いたい。
だが、陽があるうちは、敵機の空襲を受ける。
飛行機の飛べない夜の間にすべてを終わらせる必要がある。
これはこの戦争の特徴であり日米共に航空劣勢側が艦隊行動を夜間に行う。
そのため、この戦争では夜戦が起きやすい。
遭遇戦も多いが、はじめから企図して行われる事も多い。
戦艦でさえ、投入される。
しかし、艦隊決戦用に作られた大和さえ投入されるのは、皮肉であり、日本海軍が劣勢である事を証明していた。
だが命令とあらば実行しなければならないし、昼間に艦隊決戦が出来るような状況ではない。
それに夜戦とはいえ、大和で砲撃できる事に宇垣は喜びを感じていた。
「田村少将に通達。夜戦用意。水雷戦隊の指揮を任せる。敵艦隊に向けて最大戦速。木村少将にはサイパンに突入するよう命令を出せ」
「はっ」
「第二艦隊、全軍突撃せよ」
宇垣はアメリカ艦隊に向かって自分の第二艦隊を突撃を始めた。
「敵艦隊が接近している?」
報告を受けたスプールアンスは珍しく戸惑いの表情を浮かべた。
空母部隊同士の戦闘に戦艦が殴り込みをかけてくるなど想定外だった。
「長官、退避命令を出しましょう」
「ダメだ」
「どうしてですか」
「我々の後方には上陸船団がいるし、サイパンで戦っている陸上部隊がいる」
空母部隊のみなら退避で正解だ。
しかし後方にはマリアナへの上陸船団がいる。
さらに未だ激戦が続くサイパンへ上陸している部隊やそれを支援する艦艇部隊もいる。
マリアナ占領を目指しているアメリカ軍にとって上陸船団に被害が、壊滅するのは敗北と同じだ。
たとえ日本の機動部隊を撃退したとしても、彼らが壊滅したら作戦失敗だ。
こんなことなら上陸作戦は後回しにすれば良かった。
だが、すでに部隊は上陸しており今から撤収させても作業中に敵艦隊が到達してしまう。
彼らを守るためには盾が必要だった。
その盾をスプールアンスは取り出し敵艦隊に向かわせる事にした。
「リー中将に命令。指揮下の第七任務群の戦艦部隊で迎撃せよ。船団には退避命令を。それと各任務群から駆逐艦を抽出して臨時の任務群を編成。リーの支援に回せ」
「了解!」
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