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海戦二日目

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「第一段索敵機発艦始めます」
「良し」

 山口提督の許可を得て佐久田は偵察機を発進させた。
 甲板に待機していた索敵機が発艦していった。
 彼等は闇夜の中に排気炎を残して消えていく。
 三段索敵の一段目だ。
 夜間では敵艦隊を発見することは出来ない。暗闇で発見することはほぼ不可能だからだ。
 一応、機上電探を持っているが、信頼性が低いため目視の確認は必要だ。
 にも関わらず夜明け前に索敵機を発艦させたのは早期に敵を見つけるためだ。
 片道で一五〇〇キロ先まで索敵できる彩雲だが、巡航速は四〇〇キロに満たない。
 索敵線の先まで行くのに四時間は掛かる。
 敵艦隊を発見できなければ、攻撃に割ける時間が少なくなるし奇襲を許してしまう恐れもある。
 だから、夜の内に索敵線の三分の二まで進み、そこから索敵を開始するのだ。
 これなら、夜明けと共に一〇〇〇キロ先から索敵を開始できる。
 ただ一〇〇〇キロ以内は夜間飛んでいるため視認できず、偵察されていない。そこで一段索敵機が出たあと、時間をおいて五〇〇キロ地点で夜明けを迎えるよう二段目を発艦させ、夜明け直前に三段目を上げる事で夜明けから二時間以内に半径一五〇〇キロの索敵が終わるように計画していた。
 ミッドウェーで痛い目を見た機動部隊が、この決戦に備えて作り上げた索敵計画だった。
 これならば夜明けから二時間で一五〇〇キロ先まで偵察できる。
 昨日の攻撃から敵艦隊の位置はおおよそ把握済み。
 敵艦隊がいるとされる海域は特に念入りに索敵機を送り出しており夜明けから一時間以内に捕捉する事が出来る。
 スプールアンスは日本側機動部隊を見つけていないはず。
 日本側が先手を取って攻撃できるはずだった。



「何とか整備は終わったな」

 テニアン島飛行場の整備兵は掩体壕の中で整備の終わった天山を見て満足していた。
 突然第一機動艦隊の艦載機が飛来したときはたまげた。
 自分たちを攻撃している米機動部隊に大打撃与えてくれた英雄であり恩人だったが、自分の担当機以外も整備せよと命令されればげんなりする。
 夜間着艦が難しく設備の整った陸上飛行場に下ろすのは仕方ないし、決戦のさなかであり翌朝の攻撃に備えて一晩で整備を終了させなければならないのはわかる。
 しかし、人間にも限界がある。
 突然現れた倍以上の航空機相手に他の部隊や搭乗員の手を借りながら何とか時間までに終えた。
 仲間たちは今は掩体壕の片隅で眠っている。
 夜明けとともに出撃する準備があるし、夜が明ければまた何度も出撃していくことになる。
 その間、休みなく整備することになるから今のうちに休むのは当然だ。
 自分も上官に報告を終えれば大の字になって眠ろうと思っていた。

「空襲警報発令! 監視所が接近する敵編隊を発見! 来襲まで五分」

 警報とともに放送が流れる。

「レーダーは何をやっていたんだ!」

 口々に文句を言うが致し方なかった。
 艦載機部隊はレーダーが探知不能な超低空――地球の丸みで出来た影、探知不能な領域を飛行して来襲してきたのだ。遠くを見れるレーダーだが、電波を当てることの出来ない部分を探知することなど不可能だった。 

「奥に避難しろ!」

 入り口近くで寝ていた仲間をたたき起こして奥へ押し込むと同時に空襲が始まった。
 猛烈な爆発音と対空砲火の音が響いてくる。
 爆発音からして百機以上の大編隊で襲ってきたようだ。

「畜生、豪勢なことだな」

 第一機動艦隊がやってきたのに自分たちを空襲するなどアメリカには余裕があるのか。
 どうして攻撃するのか一介の整備員に分かるはずも無かったが疑問に思わざるを得なかった。
 激しい空襲の中、自分に爆弾が落ちてくると言う恐怖を紛らわせるためにはそんなことを考えていないと身が持たなかった。

「止んだか」

 早く終われと何時間も頭の中で念じ続けた後、不意に爆発が収まった。
 時計を確認すると飛び込んでから十数分しか経っていなかった。
 ほんのわずかな時間、この世の終わりのような爆発による音と衝撃を受け続け死を意識したのには長すぎるように感じると共に、人生の中では短すぎた。
 ほんの十数分の空襲が終わり静かになり安全だと思って整備員達は掩体壕を出て外を見た。
 先ほどまで全員怯えていたが、短い空襲が終わってほっとして外も大丈夫だと思っていた。
 だが、掩体壕を出た瞬間にそれは粉々に破壊された。
 誘導路はもちろん、駐機場や滑走路も穴だらけとなっていた。
 穴を埋めて修復しなければ出撃など不可能だ。

「復旧作業急げ!」

 悲鳴のような士官の号令が響く。
 直ちに施設隊だけでなく飛行場の防衛部隊からも応援を受けて修復作業に入る。
 整備兵たちもいてもたってもいられずシャベルを持って穴に駆け寄り埋め戻し作業を始めた。
 彼らの任務に滑走路の復旧作業も加わることとなった。
 そして、それは何時終わるともしれない復旧作業の始まりだった。
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