38 / 50
第一部 日露開戦編
天罰覿面
しおりを挟む
「何をなさっておられるのですか?」
冷たい声が龍馬の背後で響いた。
恐る恐る龍馬が振り返ると、通信を終えて戻ってきた沙織が照っていた。
沙織は静かに歩き始めると何かを言い足そうな龍馬を無視して横を通り過ぎて鯉之助の元へ向かう。
「長官、各部署に伝達は終わりました。円島での補給準備も完了しております」
「ありがとう」
「いえ、職務ですから。それで総帥」
「う、うん」
突然、矛先を向けてきた沙織の気迫に押されて龍馬は挙動不審になる。
「泊地に連絡しておきました。いろは丸への移乗準備は整っております。停泊と同時に、移乗できます」
「おう、すまんの」
「それと只今の件は乙女様、お龍様、さな子様にお伝えしておきます」
「止めてくれ!」
龍馬は大声で懇願したが沙織は涼しい顔で、拒絶する。
「ダメです。報告するように皆様からキツく言われておりますから」
幼少の頃、沙織は乙女、お龍、さな子の三人に武芸や様々な習い事をたたき込まれている。
貧しい樺太の開拓地での暮らしを考えれば、習い事を習えただけで恵まれている。
しかも三人とも龍馬のやんちゃに小言を言いつつも、ついて行き龍馬を守っている。
例え戦火の中に入ろうとも、男以上に勇猛に戦う姿を戦場で沙織は何度も見ていた。
そんなさんにんの活躍を見て自分もと考え実践していた。
様々な発明をして皆を幸せにする優秀な弟分だが、何をやるか分からない鯉之助の保護者役をやったのも三人に憧れてのことだ。
残念なながら鯉之助は予想以上にぶっ飛んでいて、面倒を見切れなかったので距離を置くことになってしまった。
それでも三人は沙織を叱ること無く、むしろ離れた分、冷静に鯉之助の動きを見て適切に指導しろと温かい言葉を言ってくれた。
その恩もあり、沙織は三人に頭が上がらないどころか、崇拝している。
三人の頼み事に比べれば龍馬の願いなど考慮するに値しない、という考えの持ち主になった。
「仁川あるいは京城で何をしたか話して貰います」
「い、嫌じゃ。三人には黙ってくれんかのう」
龍馬は娘のような沙織に懇願するが、沙織は頑固だった。
「ダメです。それでは、第一報の作成を行いますので失礼致します」
龍馬は鯉之助の方を見たが、鯉之助は首を振った。
ああなった沙織は鯉之助も止められない。
「鯉之助……」
一縷の望みを掛けて龍馬が縋るような目で鯉之助に助けを願う。
「父上」
鯉之助は慈愛に溢れる笑顔で言った。
「骨は拾いますよ」
説教の後の仲裁は交換条件のために何とかする、説教は自分で何とかして生き残れと言外に父親に伝える。
鯉之助の言葉の意味は寸分違わず伝わり、龍馬の顔に絶望がの色が広がった。
怒り狂った乙女、お龍、さな子の三人を止める事など鯉之助も無理だ。
三人の怒りが発散されてから、穏やかに関係修復を行った方が良い。
だから、最初の一撃は父である龍馬に三人の怒気が全て叩き付けられるまで独力で凌いで貰う。
中途半端に止めたらやぶ蛇となり、鯉之助に矛先がむけれれてしまう。
それに罪には罰が必要であり、良い薬になると鯉之助は思った。
「父親の危機を見捨てるのが息子のする事か」
「人と会う準備があるので。それに損傷した綾波の修理もありますし」
それに、鯉之助は会う必要のある人物がおり、その会見は龍馬の命令でもある。
龍馬の雑事に関わっている暇はないのだ。
「あ、長官」
露天艦橋から離れようとした沙織がついでのように言う。
「なにか?」
「さみしいからって手当たり次第に手を出さないように」
「しないよ」
「どうだか」
呆れたような態度で鯉之助が反論する前にタラップを下りていった。
「まったく、分かれたのに、何時までも女房のような事を言いやがる」
思わず愚痴る鯉之助は肩を落としたが、艦橋要員の視線が自分に集まっているのを見て、姿勢を正し、わざとらしく咳払いした。
彼らは顔を逸らしたが肩の部分が震えており、笑いを堪えているのがすぐに分かる。
全く、人の痴話喧嘩がそんなに面白い物なのだろうか。
娯楽の殆ど無い船であ対人関係の噂話は格好の暇つぶしであり、特に上層部は想像がはかどる。
今日にはあらぬ噂が皇海の全艦に広がり、翌日には全艦隊に広がるだろう。
各艦の間でも隊員達は様々な方法で情報網を構築しており互いに共有している。
時折、必要な情報もやりとりされているので、止める訳にもいかない。
「仕方ない、有名税として甘受するか」
鯉之助は諦めた。
噂が広がらないようにクタクタになるまで艦隊に演習を命じようかとも考えたが、やることが沢山あるのでやらせない。
せかせることにする。
「全艦、泊地へ帰投せよ」
冷たい声が龍馬の背後で響いた。
恐る恐る龍馬が振り返ると、通信を終えて戻ってきた沙織が照っていた。
沙織は静かに歩き始めると何かを言い足そうな龍馬を無視して横を通り過ぎて鯉之助の元へ向かう。
「長官、各部署に伝達は終わりました。円島での補給準備も完了しております」
「ありがとう」
「いえ、職務ですから。それで総帥」
「う、うん」
突然、矛先を向けてきた沙織の気迫に押されて龍馬は挙動不審になる。
「泊地に連絡しておきました。いろは丸への移乗準備は整っております。停泊と同時に、移乗できます」
「おう、すまんの」
「それと只今の件は乙女様、お龍様、さな子様にお伝えしておきます」
「止めてくれ!」
龍馬は大声で懇願したが沙織は涼しい顔で、拒絶する。
「ダメです。報告するように皆様からキツく言われておりますから」
幼少の頃、沙織は乙女、お龍、さな子の三人に武芸や様々な習い事をたたき込まれている。
貧しい樺太の開拓地での暮らしを考えれば、習い事を習えただけで恵まれている。
しかも三人とも龍馬のやんちゃに小言を言いつつも、ついて行き龍馬を守っている。
例え戦火の中に入ろうとも、男以上に勇猛に戦う姿を戦場で沙織は何度も見ていた。
そんなさんにんの活躍を見て自分もと考え実践していた。
様々な発明をして皆を幸せにする優秀な弟分だが、何をやるか分からない鯉之助の保護者役をやったのも三人に憧れてのことだ。
残念なながら鯉之助は予想以上にぶっ飛んでいて、面倒を見切れなかったので距離を置くことになってしまった。
それでも三人は沙織を叱ること無く、むしろ離れた分、冷静に鯉之助の動きを見て適切に指導しろと温かい言葉を言ってくれた。
その恩もあり、沙織は三人に頭が上がらないどころか、崇拝している。
三人の頼み事に比べれば龍馬の願いなど考慮するに値しない、という考えの持ち主になった。
「仁川あるいは京城で何をしたか話して貰います」
「い、嫌じゃ。三人には黙ってくれんかのう」
龍馬は娘のような沙織に懇願するが、沙織は頑固だった。
「ダメです。それでは、第一報の作成を行いますので失礼致します」
龍馬は鯉之助の方を見たが、鯉之助は首を振った。
ああなった沙織は鯉之助も止められない。
「鯉之助……」
一縷の望みを掛けて龍馬が縋るような目で鯉之助に助けを願う。
「父上」
鯉之助は慈愛に溢れる笑顔で言った。
「骨は拾いますよ」
説教の後の仲裁は交換条件のために何とかする、説教は自分で何とかして生き残れと言外に父親に伝える。
鯉之助の言葉の意味は寸分違わず伝わり、龍馬の顔に絶望がの色が広がった。
怒り狂った乙女、お龍、さな子の三人を止める事など鯉之助も無理だ。
三人の怒りが発散されてから、穏やかに関係修復を行った方が良い。
だから、最初の一撃は父である龍馬に三人の怒気が全て叩き付けられるまで独力で凌いで貰う。
中途半端に止めたらやぶ蛇となり、鯉之助に矛先がむけれれてしまう。
それに罪には罰が必要であり、良い薬になると鯉之助は思った。
「父親の危機を見捨てるのが息子のする事か」
「人と会う準備があるので。それに損傷した綾波の修理もありますし」
それに、鯉之助は会う必要のある人物がおり、その会見は龍馬の命令でもある。
龍馬の雑事に関わっている暇はないのだ。
「あ、長官」
露天艦橋から離れようとした沙織がついでのように言う。
「なにか?」
「さみしいからって手当たり次第に手を出さないように」
「しないよ」
「どうだか」
呆れたような態度で鯉之助が反論する前にタラップを下りていった。
「まったく、分かれたのに、何時までも女房のような事を言いやがる」
思わず愚痴る鯉之助は肩を落としたが、艦橋要員の視線が自分に集まっているのを見て、姿勢を正し、わざとらしく咳払いした。
彼らは顔を逸らしたが肩の部分が震えており、笑いを堪えているのがすぐに分かる。
全く、人の痴話喧嘩がそんなに面白い物なのだろうか。
娯楽の殆ど無い船であ対人関係の噂話は格好の暇つぶしであり、特に上層部は想像がはかどる。
今日にはあらぬ噂が皇海の全艦に広がり、翌日には全艦隊に広がるだろう。
各艦の間でも隊員達は様々な方法で情報網を構築しており互いに共有している。
時折、必要な情報もやりとりされているので、止める訳にもいかない。
「仕方ない、有名税として甘受するか」
鯉之助は諦めた。
噂が広がらないようにクタクタになるまで艦隊に演習を命じようかとも考えたが、やることが沢山あるのでやらせない。
せかせることにする。
「全艦、泊地へ帰投せよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
架空戦記 旭日旗の元に
葉山宗次郎
歴史・時代
国力で遙かに勝るアメリカを相手にするべく日本は様々な手を打ってきた。各地で善戦してきたが、国力の差の前には敗退を重ねる。
そして決戦と挑んだマリアナ沖海戦に敗北。日本は終わりかと思われた。
だが、それでも起死回生のチャンスを、日本を存続させるために男達は奮闘する。
カクヨムでも投稿しています
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる