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カルタゴニア大陸上空
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あてがわれた寝室で目覚めた時、忠弥は非常に心地よかった。
酷いエンジン音が響いているはずなのにヒュンヒュンヒュンという心地よい音が流れていると感じる。
転生する前に何度も見ていた国民的アニメのオープニングの音が魂にこびりついているのだろう。
荒唐無稽なメカの数々だったが空を悠然と飛んでいく姿は非常に印象的で、忠弥が転生前の世界で空を飛びたいと思ったきっかけの一つだ。
だから艦内の騒音も著しい脳内補正によって不快どころか快感であった。
船室を出てブリッジに下りて、外を見たときは更に脳内補正を意識する。
一面に広がる雲の壁。
雲が過ぎ去った後に広がる光景は大地から離れた故に、地平線遙か彼方まで見通せる非常に気持ちの良い景色だった。
「おはようございます司令」
艦長である草鹿中佐が忠弥に挨拶した。
「ああ、おはよう」
「昨夜は眠れましたか?」
「ああ、君の操縦が上手いのでぐっすりと眠れたよ」
「この飛天は全長二二〇メートル、体積一〇万立方メートルを超す大型飛行船ですからね。安定性はピカイチです」
草鹿中佐は自分の艦を自慢げに言う。
海軍でエリートコースを進んでいた士官で、いずれ提督になると思われている逸材だ。
そのため少佐として巡洋艦の砲術長を務めている時、空軍への派遣と飛行船の艦長を命じられた時は左遷と感じていた。
だが、空軍へ移動と同時に中佐へ昇進した上、与えられた艦の素晴らしさを知り、今ではぞっこんだった。
そんな草鹿中佐を見ると忠弥は自分の作った飛行船を与えて良かったと思った。
飛行船開発に関しても忠弥は興味を持っていた。
地球でも第一次大戦の前後から飛行船の商用飛行は行われており、飛行機より性能が上、特に航続距離と搭載力が優れていたことから、一時は飛行機を凌駕する勢いを見せていた。
しかし、航空機の性能向上による航続距離と搭載量の増大、そしてヒンデンブルク号の爆発事故により、飛行船の黄金時代は終幕を迎え、主役を飛行機に譲った。
だが、この世界では未だ飛行船が大きな勢力を占めていた。
硬式飛行船は大型化するほど体積は三乗に比例して大きくなり浮力は増大する。一方、硬式飛行船の特徴である骨組みの厚みは二乗に近似するため重量増加は浮力増加に比べて小さい。
そのため、大型化すればするほど能力が増大する。
勿論限界点はあるが、現状大型飛行船の利点が飛行機よりも多いのは認めざるをえない。
飛行機の技術が進歩する前に、航空産業を豊かにするためにも飛行船も発展して欲しくて忠弥は援助をしていた。
そして戦争前から飛行船の建造を行っており、ようやく完成させたのが飛天であり、初出撃に今回の作戦に参加させていた。
「中立国の領土に入らないように」
「ええ、気をつけています。我々は帝国の連中と違いますからね。他人の庭先を勝手に入るような無礼は行いません」
忠弥の頼みを、もちろんと言った態で草鹿中佐は答えた。
カルタゴニア大陸――旧大陸の南に位置し暗黒大陸の異名もある大陸だ。
豊富な地下資源が多く科学技術の発展が遅れていることもあって、列強各国が植民地として進出しており、領土が入り組んでいる。
旧大陸諸国を巻き込んだ戦争だが、未だに中立を維持している国もあり、中立を侵犯する事は出来ない。
飛行機が生まれたばかりで航空戦力など植民地にはなく、領空侵犯しても妨害されることはない。
だが、領土上空を通過することは各国とも神経質になっている。
航空機が生まれたばかりのこの世界に、領空という概念は未だにない。
しかし将来、領空についての国際条約が結ばれるとき、悪しき事例、前例とならないように気をつけたい忠弥だった。
まるで一九八六年のリビア爆撃のときフランスに領空通過を拒絶されヨーロッパ大陸を避けて海の迂回路をとる事になった米空軍F111のようだが、必要な配慮だった。
現状は攻撃さえしなければ、上空通過ぐらいは大丈夫――領空侵犯(仮)に適用できる国際法が無いため、相手国からは抗議程度しか受けず、制裁や宣戦布告は受けないと考えられる。
だが、諸外国の心証をよくするためにも配慮しておきたかった。
「しかし、連中はどうやって飛行機を植民地に持ち込んだんでしょう」
「それを調べるのも我々の仕事だ」
事の発端は、忠弥が飛行船基地攻撃に成功した一週間後だった。
連合軍は旧大陸だけでなくカルタゴニア大陸にある帝国の植民地へも攻撃、占領を行っていた。
勝利を収めたあかつきには、自国の領土とするため、万が一休戦する事になっても、有利な条件を得るための取引材料とするためだ。
植民地は列強同士の覇権争い――グレートゲームのチップの一つであり、各国は得ようと必死だ。
そんな思惑もあり連合軍の作戦は順調に進んでいた。
帝国は世界進出を目指しており、軍における昇進の条件として植民地での勤務を義務づけられるほど力を入れていた。
だが元々治安維持と反乱抑止のための最小限の兵力しか植民地軍は有していない。
植民地からの収入より支出が多いと植民地経営は赤字になり、世界進出の足かせになりかねないからだ。
だから戦争が始まり連合軍、特に王国海軍による海上封鎖が行われ、本国から切り離された帝国植民地軍は、孤立無援となり、何の妨害も無く海上輸送で大兵力を上陸させる事の出来る連合軍の前に戦わずして降伏する。
中には内陸へ後退し抵抗する部隊もあったが、大軍となって進軍してきた連合軍の前に敗退していった。
特に船で運び込まれた航空機の威力はすさまじく、素早く遠くまで高い位置から部隊を発見できるために広い植民地を遊撃する植民地軍を早期発見するのに役に立った。
航空戦力の無い帝国植民地軍の降伏は近いと連合軍は予想していた。
しかし、連合軍優位だった状況は、突如一変する。
降伏しない帝国植民地軍を追いかけていた連合軍が、帝国軍航空機、それも戦闘機の襲撃を受けたのだ。
酷いエンジン音が響いているはずなのにヒュンヒュンヒュンという心地よい音が流れていると感じる。
転生する前に何度も見ていた国民的アニメのオープニングの音が魂にこびりついているのだろう。
荒唐無稽なメカの数々だったが空を悠然と飛んでいく姿は非常に印象的で、忠弥が転生前の世界で空を飛びたいと思ったきっかけの一つだ。
だから艦内の騒音も著しい脳内補正によって不快どころか快感であった。
船室を出てブリッジに下りて、外を見たときは更に脳内補正を意識する。
一面に広がる雲の壁。
雲が過ぎ去った後に広がる光景は大地から離れた故に、地平線遙か彼方まで見通せる非常に気持ちの良い景色だった。
「おはようございます司令」
艦長である草鹿中佐が忠弥に挨拶した。
「ああ、おはよう」
「昨夜は眠れましたか?」
「ああ、君の操縦が上手いのでぐっすりと眠れたよ」
「この飛天は全長二二〇メートル、体積一〇万立方メートルを超す大型飛行船ですからね。安定性はピカイチです」
草鹿中佐は自分の艦を自慢げに言う。
海軍でエリートコースを進んでいた士官で、いずれ提督になると思われている逸材だ。
そのため少佐として巡洋艦の砲術長を務めている時、空軍への派遣と飛行船の艦長を命じられた時は左遷と感じていた。
だが、空軍へ移動と同時に中佐へ昇進した上、与えられた艦の素晴らしさを知り、今ではぞっこんだった。
そんな草鹿中佐を見ると忠弥は自分の作った飛行船を与えて良かったと思った。
飛行船開発に関しても忠弥は興味を持っていた。
地球でも第一次大戦の前後から飛行船の商用飛行は行われており、飛行機より性能が上、特に航続距離と搭載力が優れていたことから、一時は飛行機を凌駕する勢いを見せていた。
しかし、航空機の性能向上による航続距離と搭載量の増大、そしてヒンデンブルク号の爆発事故により、飛行船の黄金時代は終幕を迎え、主役を飛行機に譲った。
だが、この世界では未だ飛行船が大きな勢力を占めていた。
硬式飛行船は大型化するほど体積は三乗に比例して大きくなり浮力は増大する。一方、硬式飛行船の特徴である骨組みの厚みは二乗に近似するため重量増加は浮力増加に比べて小さい。
そのため、大型化すればするほど能力が増大する。
勿論限界点はあるが、現状大型飛行船の利点が飛行機よりも多いのは認めざるをえない。
飛行機の技術が進歩する前に、航空産業を豊かにするためにも飛行船も発展して欲しくて忠弥は援助をしていた。
そして戦争前から飛行船の建造を行っており、ようやく完成させたのが飛天であり、初出撃に今回の作戦に参加させていた。
「中立国の領土に入らないように」
「ええ、気をつけています。我々は帝国の連中と違いますからね。他人の庭先を勝手に入るような無礼は行いません」
忠弥の頼みを、もちろんと言った態で草鹿中佐は答えた。
カルタゴニア大陸――旧大陸の南に位置し暗黒大陸の異名もある大陸だ。
豊富な地下資源が多く科学技術の発展が遅れていることもあって、列強各国が植民地として進出しており、領土が入り組んでいる。
旧大陸諸国を巻き込んだ戦争だが、未だに中立を維持している国もあり、中立を侵犯する事は出来ない。
飛行機が生まれたばかりで航空戦力など植民地にはなく、領空侵犯しても妨害されることはない。
だが、領土上空を通過することは各国とも神経質になっている。
航空機が生まれたばかりのこの世界に、領空という概念は未だにない。
しかし将来、領空についての国際条約が結ばれるとき、悪しき事例、前例とならないように気をつけたい忠弥だった。
まるで一九八六年のリビア爆撃のときフランスに領空通過を拒絶されヨーロッパ大陸を避けて海の迂回路をとる事になった米空軍F111のようだが、必要な配慮だった。
現状は攻撃さえしなければ、上空通過ぐらいは大丈夫――領空侵犯(仮)に適用できる国際法が無いため、相手国からは抗議程度しか受けず、制裁や宣戦布告は受けないと考えられる。
だが、諸外国の心証をよくするためにも配慮しておきたかった。
「しかし、連中はどうやって飛行機を植民地に持ち込んだんでしょう」
「それを調べるのも我々の仕事だ」
事の発端は、忠弥が飛行船基地攻撃に成功した一週間後だった。
連合軍は旧大陸だけでなくカルタゴニア大陸にある帝国の植民地へも攻撃、占領を行っていた。
勝利を収めたあかつきには、自国の領土とするため、万が一休戦する事になっても、有利な条件を得るための取引材料とするためだ。
植民地は列強同士の覇権争い――グレートゲームのチップの一つであり、各国は得ようと必死だ。
そんな思惑もあり連合軍の作戦は順調に進んでいた。
帝国は世界進出を目指しており、軍における昇進の条件として植民地での勤務を義務づけられるほど力を入れていた。
だが元々治安維持と反乱抑止のための最小限の兵力しか植民地軍は有していない。
植民地からの収入より支出が多いと植民地経営は赤字になり、世界進出の足かせになりかねないからだ。
だから戦争が始まり連合軍、特に王国海軍による海上封鎖が行われ、本国から切り離された帝国植民地軍は、孤立無援となり、何の妨害も無く海上輸送で大兵力を上陸させる事の出来る連合軍の前に戦わずして降伏する。
中には内陸へ後退し抵抗する部隊もあったが、大軍となって進軍してきた連合軍の前に敗退していった。
特に船で運び込まれた航空機の威力はすさまじく、素早く遠くまで高い位置から部隊を発見できるために広い植民地を遊撃する植民地軍を早期発見するのに役に立った。
航空戦力の無い帝国植民地軍の降伏は近いと連合軍は予想していた。
しかし、連合軍優位だった状況は、突如一変する。
降伏しない帝国植民地軍を追いかけていた連合軍が、帝国軍航空機、それも戦闘機の襲撃を受けたのだ。
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