125 / 163
飛行船の戦略爆撃
しおりを挟む
飛行船は、気球が生まれてから模索された航空機だ。
浮体を球形から葉巻形にして抵抗を少なくしつつ浮力を確保し、動力を付ければ進むのではないか、という考え方から生まれ実験されていた。
だが、完成作――実用的な機体が出来たのは飛行機誕生後だった。
小型高出力の航空用エンジンが無かったため、適切な動力源が無く実用的ではなかったからだ。
飛行機が実用化されるとそのエンジンが飛行船にも搭載されようやく飛行船も実用的になった。
特に帝国では、とある退役騎兵将校が熱心に研究を続けていたこともあり、すぐに実用的な飛行船を開発。
開戦前には数十人の乗客を乗せた商業飛行さえ行っていた。
ほんの数人の乗客を乗せるのが限界である飛行機と違い、膨大な浮力を誇る飛行船ならではの搭載力を活用した方法だった。
そして戦争が始まると搭載物を乗客や郵便物から爆弾に切り替え、長距離爆撃に投入されたというわけだ。
「史上初の空からの攻撃に王国は混乱しているようです」
これまで帝国が王国本土を攻撃する手段がなかったことも大きく影響していた。
島国である王国は、帝国から攻撃されない。
帝国にも艦隊はいるが王国はそれ以上の戦力――事実上、世界最強の海軍を王国は持っており、攻撃を仕掛けることはない。
高速の巡洋戦艦を使った一撃離脱、陸上に近づいて砲撃を浴びせ、王国海軍がやってくる前に高速で逃げる。
その程度だった。
だが、敵は飛行船を投入してきた。
それも沿岸部ではなく、王国本土内陸部へ進出し、陸軍兵器工廠に爆弾を落として離脱していった。
反撃しようにも地上からは小銃や機関銃で撃っても空高く飛びすぎていて撃墜できなかった。
「王国にも航空部隊があるだろう……って、全て前線に送り込んでいるのか」
「はい、実戦部隊は全て前線に送りこんでいて王国本土防空に使用できる航空機がありません」
撃墜できるとしたら戦闘機だが、前線で戦闘機を失いすぎて、本土上空を守る戦闘機が居ない。
これまで本土を攻撃された経験が無かった王国は戦闘機部隊を、というより防空部隊さえ設立していないし、必要性も感じていなかった。
「新たに配備しようにも前線に戦闘機は必要だし、戦闘機を消耗している。そこで戦闘機の余裕のある皇国に援軍を求めています。いかが致しますか?」
相原の問いに忠弥はしばし考えてから答えた。
「……良いでしょう。戦闘機部隊を派遣しましょう。応援部隊は私が自ら率いていきます」
「司令がですか?」
予想外の答えに相原は驚いた。
「ええ、先遣隊として一個飛行中隊十四機。順次拡張して三個中隊編成の三個飛行隊で一個航空団を編成しようかと」
「総計で一三〇機以上、予備を含めると一五〇機になりますね。それほどの機体を送り込むのは」
「守備になりますから広範囲に機体を分散させることになると思います。それに何が起きるか分かりませんから、少し多めに」
「大陸戦線の部隊が減ることになりますよ。第一機材が足りません」
「基幹要員は一個中隊ほど選抜して大陸から引き連れて向かいますが、大半は王国本土に置いている練習部隊を一時的に編入する形にします」
「それでも機材は減りますね」
「司令代理の相沢中佐がどうにかしてくれると信じていますよ」
「自ら赴くおつもりで?」
「ええ、王国が防空体制を整えるまでの間、駐留します。航空隊も引き継ぎが終わり次第、こちらに移動させます」
「分かりました。短期間で終わるでしょうが持たせてみます」
「頼みます」
忠弥は相原に敬礼して別れた。
「自分の国を守れない国を手助けするなんてお人好しね」
相原と別れたと昴が忠弥に近づいてきて話しかけた。
「結構苦労すると思うけど」
「それでも経験になるよ。今後のためにも必要だと思うしね」
「? どういうこと?」
意味が分からず尋ねた昴に忠弥は説明した。
「いつか飛行機は着陸せずに地球を一周できるくらいの性能を持つことが出来るよ。その時は秋津も空襲を受ける可能性が出てくる。今後は大洋の真ん中にある島国の秋津も安全ではないんだ」
「そんな馬鹿なこと……」
笑おうとした昴だったが、表情が固まって出来なかった。
ほんの数年前まで人間が空を飛ぶというのは夢物語だった。
だが目の前にいる忠弥は人類初の有人動力飛行を成功させ、大洋の横断にも成功している。
その彼がいずれ無着陸で地球一周できる飛行機が出来るというのだから出来るのだろう。
その時秋津に敵の空襲が行われない、と思い込むのは愚かだ。
「だから今のうちに防空戦の経験を積んでおいた方が良い。実際に行えるというのなら万々歳だ」
「……分かった。選抜メンバーに加えておいてね」
「昴も来るの?」
「当然、僚機でしょう」
「後方に下がって欲しいんだけどな」
「嫌よ、そばにいないと貴方何するか分からないじゃない」
「そうかな?」
「空に飛び出すわ、海を越えて行くわ、戦争に参加するわ」
「同年代を奴隷にしようとしたり、啖呵切ったり、ラジオジャックした少女よりマシだと思うけど」
「嫌?」
「まさか」
ハチャメチャな忠弥に比べれば可愛いものだが昴の行動には結構感謝している忠弥だ。
忠弥が躓いても発破を掛けてくれる、動かしてくれる少女だ。
名前のごとく夜空に輝く星のように行く先を照らしてくれる存在だ。
「じゃあ、荷造りしてくるわね」
「了解」
昴と分かれると忠弥は早速王国へ移動して防空体制を整えるプランを立て始めた。
浮体を球形から葉巻形にして抵抗を少なくしつつ浮力を確保し、動力を付ければ進むのではないか、という考え方から生まれ実験されていた。
だが、完成作――実用的な機体が出来たのは飛行機誕生後だった。
小型高出力の航空用エンジンが無かったため、適切な動力源が無く実用的ではなかったからだ。
飛行機が実用化されるとそのエンジンが飛行船にも搭載されようやく飛行船も実用的になった。
特に帝国では、とある退役騎兵将校が熱心に研究を続けていたこともあり、すぐに実用的な飛行船を開発。
開戦前には数十人の乗客を乗せた商業飛行さえ行っていた。
ほんの数人の乗客を乗せるのが限界である飛行機と違い、膨大な浮力を誇る飛行船ならではの搭載力を活用した方法だった。
そして戦争が始まると搭載物を乗客や郵便物から爆弾に切り替え、長距離爆撃に投入されたというわけだ。
「史上初の空からの攻撃に王国は混乱しているようです」
これまで帝国が王国本土を攻撃する手段がなかったことも大きく影響していた。
島国である王国は、帝国から攻撃されない。
帝国にも艦隊はいるが王国はそれ以上の戦力――事実上、世界最強の海軍を王国は持っており、攻撃を仕掛けることはない。
高速の巡洋戦艦を使った一撃離脱、陸上に近づいて砲撃を浴びせ、王国海軍がやってくる前に高速で逃げる。
その程度だった。
だが、敵は飛行船を投入してきた。
それも沿岸部ではなく、王国本土内陸部へ進出し、陸軍兵器工廠に爆弾を落として離脱していった。
反撃しようにも地上からは小銃や機関銃で撃っても空高く飛びすぎていて撃墜できなかった。
「王国にも航空部隊があるだろう……って、全て前線に送り込んでいるのか」
「はい、実戦部隊は全て前線に送りこんでいて王国本土防空に使用できる航空機がありません」
撃墜できるとしたら戦闘機だが、前線で戦闘機を失いすぎて、本土上空を守る戦闘機が居ない。
これまで本土を攻撃された経験が無かった王国は戦闘機部隊を、というより防空部隊さえ設立していないし、必要性も感じていなかった。
「新たに配備しようにも前線に戦闘機は必要だし、戦闘機を消耗している。そこで戦闘機の余裕のある皇国に援軍を求めています。いかが致しますか?」
相原の問いに忠弥はしばし考えてから答えた。
「……良いでしょう。戦闘機部隊を派遣しましょう。応援部隊は私が自ら率いていきます」
「司令がですか?」
予想外の答えに相原は驚いた。
「ええ、先遣隊として一個飛行中隊十四機。順次拡張して三個中隊編成の三個飛行隊で一個航空団を編成しようかと」
「総計で一三〇機以上、予備を含めると一五〇機になりますね。それほどの機体を送り込むのは」
「守備になりますから広範囲に機体を分散させることになると思います。それに何が起きるか分かりませんから、少し多めに」
「大陸戦線の部隊が減ることになりますよ。第一機材が足りません」
「基幹要員は一個中隊ほど選抜して大陸から引き連れて向かいますが、大半は王国本土に置いている練習部隊を一時的に編入する形にします」
「それでも機材は減りますね」
「司令代理の相沢中佐がどうにかしてくれると信じていますよ」
「自ら赴くおつもりで?」
「ええ、王国が防空体制を整えるまでの間、駐留します。航空隊も引き継ぎが終わり次第、こちらに移動させます」
「分かりました。短期間で終わるでしょうが持たせてみます」
「頼みます」
忠弥は相原に敬礼して別れた。
「自分の国を守れない国を手助けするなんてお人好しね」
相原と別れたと昴が忠弥に近づいてきて話しかけた。
「結構苦労すると思うけど」
「それでも経験になるよ。今後のためにも必要だと思うしね」
「? どういうこと?」
意味が分からず尋ねた昴に忠弥は説明した。
「いつか飛行機は着陸せずに地球を一周できるくらいの性能を持つことが出来るよ。その時は秋津も空襲を受ける可能性が出てくる。今後は大洋の真ん中にある島国の秋津も安全ではないんだ」
「そんな馬鹿なこと……」
笑おうとした昴だったが、表情が固まって出来なかった。
ほんの数年前まで人間が空を飛ぶというのは夢物語だった。
だが目の前にいる忠弥は人類初の有人動力飛行を成功させ、大洋の横断にも成功している。
その彼がいずれ無着陸で地球一周できる飛行機が出来るというのだから出来るのだろう。
その時秋津に敵の空襲が行われない、と思い込むのは愚かだ。
「だから今のうちに防空戦の経験を積んでおいた方が良い。実際に行えるというのなら万々歳だ」
「……分かった。選抜メンバーに加えておいてね」
「昴も来るの?」
「当然、僚機でしょう」
「後方に下がって欲しいんだけどな」
「嫌よ、そばにいないと貴方何するか分からないじゃない」
「そうかな?」
「空に飛び出すわ、海を越えて行くわ、戦争に参加するわ」
「同年代を奴隷にしようとしたり、啖呵切ったり、ラジオジャックした少女よりマシだと思うけど」
「嫌?」
「まさか」
ハチャメチャな忠弥に比べれば可愛いものだが昴の行動には結構感謝している忠弥だ。
忠弥が躓いても発破を掛けてくれる、動かしてくれる少女だ。
名前のごとく夜空に輝く星のように行く先を照らしてくれる存在だ。
「じゃあ、荷造りしてくるわね」
「了解」
昴と分かれると忠弥は早速王国へ移動して防空体制を整えるプランを立て始めた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる