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聖夜祭休戦9
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「休戦なんて認めないぞ! 俺たちの畑からジャガイモ野郎を叩き出すまで、あるいは連中が肥やしになるまで俺たちの戦争は終わらん!」
共和国軍陸軍の士官が叫ぶと、周辺の兵士達も歓声を上げて答えた。
聖夜祭休戦の話は、共和国軍にも耳に入ってきていた。
しかし、彼らは休戦など認めるわけにはいかなかった。
自分たちの国土が占領されている状態で休戦など認められない。
休戦を認めそのまま講和になれば、国土を奪われる。
その屈辱と恐怖から休戦を認めるわけには行かなかった。
これまでの戦いで共和国軍は多大な損害を出していた。
超攻撃主義――防御を考えず、全ての行動は攻撃のみという考え方の共和国軍は突撃のみを指向し、無謀な攻撃を仕掛け大損害を受ける事が多かった。
そのため、将兵には戦死傷者が続出、将兵の誰もが友人知人、親族に戦死者が出ていた。
敵討ちを望む声も多かった。
共和国軍上層部も自分たちの失態を取り繕うため、あるいは攻撃を続けるために帝国軍を激烈に非難していた事もあり、帝国への敵愾心は高かった。
帝国軍の将兵が共和国軍と聖夜祭を祝おうと塹壕を出ててきたところを撃ち殺す共和国軍兵士が相次いだ。
そればかりか、敵と接触する者を攻撃せよ、砲撃を浴びせてやれ、といった命令さえ公然と出ていた。
「もし帝国と交渉を行う、あるいは接触する者を見つけたら同盟軍であろうと裏切りと見なし攻撃する!」
共和国軍最高司令官が命じたこともあり、共和国軍と戦線を接する王国軍、皇国軍では同士討ち寸前の状態となった。
特に中立を侵犯されて国土を奪われた諸国の戦意は高く、帝国軍に攻撃さえ仕掛けていた。
その一報が忠弥達の会談場所にもたらされた。
「……これでは講和はほど遠いですな」
「……そうじゃな」
報告を聞いた碧子も皇太子も講和が難しいことを理解した。
それどころか現状の休戦さえ維持が難しい状況だ。
「早く帰還すべきです」
相原が耳打ちしてきた。
戦闘の危険がある以上、留まるのは危険だ。
皇国軍士官としても皇族をこれ以上危険にさらすことも躊躇われるのだろう。
帝国軍が心変わりして拘束してくることも考えられる。
いや、功名心にはやった頭の足りない奴が出てきて仕舞うだろう。
だから珍しく焦り気味に、せかすように言う。
「ですが、講和交渉が出来ないか陛下に尋ねてみましょう」
「妾も陛下に尋ねてみよう」
しかし碧子も皇太子も講和を諦めてはいなかった。
一縷の望みを残そうと互いに交渉チャンネルを残そうとしていた。
「出された条件で進められるかどうかは分かりませんが、努力はすると約束します」
「妾もできる限り行う。できる限りの力を尽くす」
だが、講和への道が互いに険しいこと、総力戦となり多大な国費を投入していたこと。
犠牲が多すぎて、相手から賠償金を――それも相手の国が滅びかねないほど大きな金額を課さなければならない状況、負けが国家崩壊と同意義である事を知っていた。
しかし、このまま戦争が続けば戦争で死傷者も戦費も増えて雪結局破綻することは目に見えていた。
それでも、いやそれ故に二人は講和への道を捜していた。
だが相原は二人が前のめりになっている事に、この場に長く居続けようとする気配に不安を感じた。
相原の焦りを読み取った皇太子は落ち着かせるように宣言した。
「お帰りはご安心ください。我々がここにいることは他の誰も知りませんが、帝国軍の名にかけて、私の名誉をかけて、あなた方を無事に皇国軍へ帰れることを保証いたします」
「感謝する」
それだけ言うと二人は黙って立ち上がり、テントを出ていった。
互いに必要な存在であり何が何でも味方の陣営に帰還させること、国は違えど同じく愛国者であり、互いの国民のために行動する人物である事を尻、相手が重要である事を理解していた。
だからそれ以上の言葉は不要であり、相手のために自分が行動するべく自分の陣営へ戻っていった。
忠弥とベルケも互いに敬礼し、それぞれの上官に続いて出ていった。
皇太子の言葉に偽りは無く、飛行機は帝国軍の飛行場を離陸すると前線に向かっていった。
周りにはベルケ率いる戦闘機隊が囲み、帝国軍からの攻撃を防いでいる。
そして中立地帯に到着すると、忠弥の機体にバンクした後、帝国軍陣地へ帰っていった。
その様子を見送った後、忠弥は碧子に尋ねた。
「何故、あのようなことを」
いきなり全線を越えて皇太子と出会うことを行ったのか忠弥は尋ねた。
「あまりにも危険すぎます」
「其方、忠弥の願いを叶えてやりたかったのじゃ」
「私の?」
「そうじゃ。其方の願い、平和な空で皆と、皇国も王国も共和国も帝国も関係なく、空を飛べることを願っていたであろう。妾に微力なりとも平和に向かうことが出来るのなら、行わねばならぬからの」
「しかし、危険すぎました」
「じゃが、妾も望んでいた事じゃ」
碧子は言った。
「わらも前線を隔てて越えられぬ、越えるときは血が流れる空など良くないと思ったのじゃ。それは祖国を不幸にする。解決し、平和をもたらせる事が出来るのなら、それこそ妾の務めと思ったからのう」
「殿下」
「恭しく言うな。それより済まぬな。せっかくの講和の機会をものに出来ず、休戦も継続できなんだ」
「いえ、そのお気持ちだけで十分ですよ。それに私も、休戦の一時では無く、分け隔て無く空に挑戦できる時間を取り戻したいですから」
ベルケに会えたのは良かった。
だが、航空都市の時のように空へ協力して挑戦していたのと同じ時間では無かった。
国境など関係なく協力して空に向かう、それが忠弥の望みである。
一時の平和では無く、恒久的な平和が欲しかった。
碧この言うとおり、前線を越えようとしたら血が流れる空など、飛行機が落ちていく世界などまっぴらごめんだ。
だが、それには戦争で勝たなければならない。
終わるまでに血が流れ飛行機が落ちることに忠弥は気持ちが暗くなった。
飛行場にたどり着くと力なく飛行機を着陸させた。
停止させると駆け寄ってきた整備士に機体の整備を命じた。
いずれやってくる激しい戦いに備えて、機体を完璧にしておきたかった。
すでに夜は更けている。
聖夜祭の宴会は続き明るかったが、夜空は闇が広がっていた。
それはまるで、いずれ起こる大戦闘を予言しているかのようだった。
共和国軍陸軍の士官が叫ぶと、周辺の兵士達も歓声を上げて答えた。
聖夜祭休戦の話は、共和国軍にも耳に入ってきていた。
しかし、彼らは休戦など認めるわけにはいかなかった。
自分たちの国土が占領されている状態で休戦など認められない。
休戦を認めそのまま講和になれば、国土を奪われる。
その屈辱と恐怖から休戦を認めるわけには行かなかった。
これまでの戦いで共和国軍は多大な損害を出していた。
超攻撃主義――防御を考えず、全ての行動は攻撃のみという考え方の共和国軍は突撃のみを指向し、無謀な攻撃を仕掛け大損害を受ける事が多かった。
そのため、将兵には戦死傷者が続出、将兵の誰もが友人知人、親族に戦死者が出ていた。
敵討ちを望む声も多かった。
共和国軍上層部も自分たちの失態を取り繕うため、あるいは攻撃を続けるために帝国軍を激烈に非難していた事もあり、帝国への敵愾心は高かった。
帝国軍の将兵が共和国軍と聖夜祭を祝おうと塹壕を出ててきたところを撃ち殺す共和国軍兵士が相次いだ。
そればかりか、敵と接触する者を攻撃せよ、砲撃を浴びせてやれ、といった命令さえ公然と出ていた。
「もし帝国と交渉を行う、あるいは接触する者を見つけたら同盟軍であろうと裏切りと見なし攻撃する!」
共和国軍最高司令官が命じたこともあり、共和国軍と戦線を接する王国軍、皇国軍では同士討ち寸前の状態となった。
特に中立を侵犯されて国土を奪われた諸国の戦意は高く、帝国軍に攻撃さえ仕掛けていた。
その一報が忠弥達の会談場所にもたらされた。
「……これでは講和はほど遠いですな」
「……そうじゃな」
報告を聞いた碧子も皇太子も講和が難しいことを理解した。
それどころか現状の休戦さえ維持が難しい状況だ。
「早く帰還すべきです」
相原が耳打ちしてきた。
戦闘の危険がある以上、留まるのは危険だ。
皇国軍士官としても皇族をこれ以上危険にさらすことも躊躇われるのだろう。
帝国軍が心変わりして拘束してくることも考えられる。
いや、功名心にはやった頭の足りない奴が出てきて仕舞うだろう。
だから珍しく焦り気味に、せかすように言う。
「ですが、講和交渉が出来ないか陛下に尋ねてみましょう」
「妾も陛下に尋ねてみよう」
しかし碧子も皇太子も講和を諦めてはいなかった。
一縷の望みを残そうと互いに交渉チャンネルを残そうとしていた。
「出された条件で進められるかどうかは分かりませんが、努力はすると約束します」
「妾もできる限り行う。できる限りの力を尽くす」
だが、講和への道が互いに険しいこと、総力戦となり多大な国費を投入していたこと。
犠牲が多すぎて、相手から賠償金を――それも相手の国が滅びかねないほど大きな金額を課さなければならない状況、負けが国家崩壊と同意義である事を知っていた。
しかし、このまま戦争が続けば戦争で死傷者も戦費も増えて雪結局破綻することは目に見えていた。
それでも、いやそれ故に二人は講和への道を捜していた。
だが相原は二人が前のめりになっている事に、この場に長く居続けようとする気配に不安を感じた。
相原の焦りを読み取った皇太子は落ち着かせるように宣言した。
「お帰りはご安心ください。我々がここにいることは他の誰も知りませんが、帝国軍の名にかけて、私の名誉をかけて、あなた方を無事に皇国軍へ帰れることを保証いたします」
「感謝する」
それだけ言うと二人は黙って立ち上がり、テントを出ていった。
互いに必要な存在であり何が何でも味方の陣営に帰還させること、国は違えど同じく愛国者であり、互いの国民のために行動する人物である事を尻、相手が重要である事を理解していた。
だからそれ以上の言葉は不要であり、相手のために自分が行動するべく自分の陣営へ戻っていった。
忠弥とベルケも互いに敬礼し、それぞれの上官に続いて出ていった。
皇太子の言葉に偽りは無く、飛行機は帝国軍の飛行場を離陸すると前線に向かっていった。
周りにはベルケ率いる戦闘機隊が囲み、帝国軍からの攻撃を防いでいる。
そして中立地帯に到着すると、忠弥の機体にバンクした後、帝国軍陣地へ帰っていった。
その様子を見送った後、忠弥は碧子に尋ねた。
「何故、あのようなことを」
いきなり全線を越えて皇太子と出会うことを行ったのか忠弥は尋ねた。
「あまりにも危険すぎます」
「其方、忠弥の願いを叶えてやりたかったのじゃ」
「私の?」
「そうじゃ。其方の願い、平和な空で皆と、皇国も王国も共和国も帝国も関係なく、空を飛べることを願っていたであろう。妾に微力なりとも平和に向かうことが出来るのなら、行わねばならぬからの」
「しかし、危険すぎました」
「じゃが、妾も望んでいた事じゃ」
碧子は言った。
「わらも前線を隔てて越えられぬ、越えるときは血が流れる空など良くないと思ったのじゃ。それは祖国を不幸にする。解決し、平和をもたらせる事が出来るのなら、それこそ妾の務めと思ったからのう」
「殿下」
「恭しく言うな。それより済まぬな。せっかくの講和の機会をものに出来ず、休戦も継続できなんだ」
「いえ、そのお気持ちだけで十分ですよ。それに私も、休戦の一時では無く、分け隔て無く空に挑戦できる時間を取り戻したいですから」
ベルケに会えたのは良かった。
だが、航空都市の時のように空へ協力して挑戦していたのと同じ時間では無かった。
国境など関係なく協力して空に向かう、それが忠弥の望みである。
一時の平和では無く、恒久的な平和が欲しかった。
碧この言うとおり、前線を越えようとしたら血が流れる空など、飛行機が落ちていく世界などまっぴらごめんだ。
だが、それには戦争で勝たなければならない。
終わるまでに血が流れ飛行機が落ちることに忠弥は気持ちが暗くなった。
飛行場にたどり着くと力なく飛行機を着陸させた。
停止させると駆け寄ってきた整備士に機体の整備を命じた。
いずれやってくる激しい戦いに備えて、機体を完璧にしておきたかった。
すでに夜は更けている。
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