新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
118 / 163

聖夜祭休戦8

しおりを挟む
 声がした方を振り返ると、そこには茶色の髪を刈り上げ、無精ぶしょうひげを生やして眼鏡をかけている武骨ぶこつそうな男が立っていた。千景は男の姿を目で捉えた瞬間に、身構えた。透明状態を維持しているのに、男にはこちらの姿が見えている。

「そんな怖い顔をしなくてもいいぞ少年、少なくとも今は味方だ」

――今は? 引っかかる物言いをする

「そんな目で睨むなよ、あいつにきつい一撃を食らわせたのをお前も見ていただろ、少年?」男が手に持っている巨大な黒い十字架に、円形の突起物がついたもので、賢石けんせきを指しながら言った。千景は男への警戒けいかいを解くことなく「ああ、見ていた。ただ俺は少年なんて言われる年じゃない」と返した。

「そうかい、大分若く見えるな、まあ考えてみればそりゃそうか、あれだけ強いんだから、年もそれ相応にいってるか」

「お前は何者だ?」

「いきなり本題かい、初対面同士もっと会話を楽しもうぜ」

「俺は正体を知らないやつと会話をしない、せめて名前を名乗ったらどうだ?」

「そうかあ……まあ隠したところで、お前にはいつかバレるだろうし先に言っておくか、俺の名前はザックフォードだ、よろしくな」ザックフォードはそういうと同時に、白い手袋をした手で握手を求めてきた。千景は、その手を握るのを躊躇ちゅうちょした。

「用心深いのもいいことだが、俺はなにもしねえよ」と言ってザックフォードは千景の手をひったくるように握って、無理やり握手をした。

「な? なにもないだろってことでよろしくな、えっと……じゃあ次はお前の名前がなんなのか教える番だな」

 名前を教える番とか……ザックフォードに会話のペースを握られているように感じたが千景は、素直に自分の名前を名乗った。こんなところにいるんだこちらのことも少なからず知っているだろう。

「千景か、そうか……千景か……」ザックフォードは、口の中で名前の感触を確かめているようであった。そして「千景はノブナガという名前のやつを知らないか?」ザックフォードは唐突に思いもかけない名前を口にした。

「知っている」

「そうか、それは千景の味方だったのか? それとも敵だったのか?」

――歴史上の信長の事をいっているのなら敵も味方もない、俺は知らない。ゲーム内のノブナガなら明らかな敵。ただそれ以外にもノブナガなんていう名前はわりと多い気がする、漫画やドラマにも大量にでてくるし……

「ザックフォードが言うノブナガがどういうものかわからないから答えられないな」千景は思っていることを口に出した。

「そうか……なんていったらいいのかヴィネリアみたいに巨大な力を持ったやつとでもいったらいいのかそういう化物みたいなやつだと思うんだが」

「ああそれなら、敵だ、間違いなく」

「そ、そうか、なるほどな……」
「ノブナガがどうしたんだ? 何か関係があるのか?」

「いや……」ザックフォードは口ごもり、次に話すことを選んでいるようであった。そして「ちょっとな、こちらの事情ってやつだ」と歯切れが悪く続けた。

 そんなザックフォードの態度を見ると千景もあまり自分達のことを話す気にはなれなかった。ヴィネリアと共闘したことは確かだが、それだけで信頼するにはあまりにも、材料が少なすぎる。千景がザックフォードに対して知っている事実は、ヴィネリアに重い一撃を与えることが出来た。ただそれだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

小倉みち
ファンタジー
 公爵令嬢のヴァイオレットは、自身の断罪の場で、この世界が乙女ゲームの世界であることを思い出す。  自分の前世と、自分が悪役令嬢に転生してしまったという事実に気づいてしまったものの、もう遅い。  ヴァイオレットはヒロインである庶民のデイジーと婚約者である第一王子に嵌められ、断罪されてしまった直後だったのだ。  彼女は弁明をする間もなく、学園を退学になり、家族からも見放されてしまう。  信じていた人々の裏切りにより、ヴァイオレットは絶望の淵に立ったーーわけではなかった。 「貴族じゃなくなったのなら、冒険者になればいいじゃない」  持ち前の能力を武器に、ヴァイオレットは冒険者として世界中を旅することにした。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ありぽん
ファンタジー
いつも『もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!』をご愛読いただき、ありがとうございます。 10月21日、『もふもち』コミカライズの配信がスタートしました!! 江戸はち先生に可愛いジョーディ達を描いていただきました。 先生、ありがとうございます。 今後とも小説のジョーディ達、そしてコミカライズのジョーディ達を、よろしくお願いいたします。       ********* 小学3年生の如月啓太は、病気により小学校に通えないまま、病院で息を引き取った。 次に気が付いたとき、啓太の前に女神さま現れて、啓太自身の話を聞くことに。 そして啓太は別の世界の、マカリスター侯爵家次男、ジョーディ・マカリスターとして転生することが決まる。 すくすくそだった啓太改めジョーディは1歳に。 そしてジョーディには友達がいっぱい。でも友達は友達でも、人間の友達ではありません。 ダークウルフの子供にホワイトキャットの子供に。何故か魔獣の友達だらけ。 そんなジョーディの毎日は、父(ラディス)母(ルリエット)長男(マイケル)、そしてお友達魔獣達と一緒に、騒がしくも楽しく過ぎていきます。

処理中です...