93 / 163
運用方針の対立
しおりを挟む
「航空大隊の分散投入は止めて頂きたい」
ベルケを落としてから数日後、不満げな顔で忠弥は軍司令部で意見を述べていた。
「航空偵察や連絡の重要性と優位性は理解しています。そのため地上部隊が航空機を必要としていることも。ですが各師団に航空機を分散して派遣されては航空機の集中管理、投入が出来ません」
現在、前線に展開する各師団への航空支援の為に軍司令部は航空大隊から航空機を各師団へ分遣するようになっていた。
各師団がいちいち軍司令部に窺いを立てて航空機を飛ばして貰うより、師団の元に航空機を派遣して貰い受け取った師団が直接命令を下して飛ばす方が簡単で便利だからだ。
しかし航空機があちこちに派遣されるようになり航空大隊本隊の機数が減っている。
これでは集中的に投入して戦力として活用することは難しい。
航空機は機動性に優れ集中投入できることが長所だ。
滞空時間が短いのが弱点だが、それは敵も同じ。
敵が少ない場所、時間を見定めて集中投入して優位を獲得し勝利して引き上げる。
それが、航空戦だった。
だが、各師団に派遣されてしまうと集中投入が出来ない。
しかも派遣された航空機への命令権まで奪われるため、派遣先の航空機を忠弥が集結するように命令し、運用する事も出来ない。
これでは航空戦で勝つことが出来ない。
「偵察や連絡用の機体は分かりますが、その護衛に戦闘機までが投入されるのは納得いきません」
一番問題だったのは、連絡機や偵察機の護衛のために戦闘機まで分遣命令が出ていたことだった。
戦力の分散投入は愚の骨頂であり避けるべきだ。
特に敵戦闘機に対する重要戦力である戦闘機を各師団に分割されることは忠弥は避けたかった。
「だが、各師団は航空機を求めている。護衛無しで飛ぶのは危険だろう」
「理解しています」
司令官の反論に忠弥は同意した。
無防備な偵察機は敵戦闘機の獲物でしかなく、護衛が必要だ。
戦闘機に偵察をさせれば良いのではないかという意見もあるが、忠弥は却下した。
操縦と偵察を同時に行える操縦士はいないし、敵戦闘機に対する見張りと警戒がおろそかになり撃墜されてしまう。
だから、二人乗りで操縦と偵察を分担できる偵察機を飛ばし、戦闘機はその護衛に専念するのが一番合理的だった。
「しかし、航空大隊から分遣するのではなく、師団用の航空部隊を編成し配備するべきです。そして戦闘機は航空大隊で集中投入するべきです」
「各師団の偵察機や連絡機はどうなる」
軍司令官は忠弥に尋ねた。
「監視網を作り上げて、敵機が侵入した場合には迎撃で対応します。各師団の航空機は離陸を見合わせて下さい」
「見殺しにするのか」
「兵力を分散投入しても各個撃破されるだけです」
実際、各師団に分遣されてから戦闘機を含む多数の未帰還機が発生していた。
これ以上損害を増やすわけにはいかなかった。
「そもそも、師団付属にして偵察が必要な状況でしょうか。敵は塹壕を掘り、我々を待ち受けています」
戦争初期のモゼル会戦によって大損害を受けた帝国軍は後退し防御に有利な場所を選んで陣地を構築、塹壕を掘って待ち受けていた。
意外と強固な防衛網に連合軍は攻撃できず、同じように塹壕を掘って防衛する準備を整えるという状況に陥った。
「迅速に移動する必要が無いのであれば、師団への分遣など不要でしょう」
機動戦であれば、迅速に情報を収集し情報と命令を伝達するために師団が必要だ。
だが膠着状態、それも陣地線なら自分の陣地内に有線電話を構築することが出来るし、情報も軍司令部から送ることが出来る。
分遣する必要など無いはずだ。
「このままでは損害が大きくなり航空部隊は壊滅します。集中投入をお願いします」
「善処しよう。しかし、敵の陣地を突破すれば追撃となり偵察が必要だ。そのために一番有効なのは航空機であり、各師団の元に置いておくことが最も有効に活用できる。そのことを肝に銘じたまえ」
軍司令官の返答に忠弥は落胆して軍司令部を後にした。
結局の所忠弥は交通兵中佐であり、航空大隊は軍司令部の指揮下で命令を受ける立場だ。
航空戦のことを分からない将軍達が自分たちに都合の良いやり方で飛行機を動かしているだけだった。
忠弥は司令部に戻ると上申書を書いた。
航空部隊を独立させ空軍として陸海軍に並ぶ軍隊にして航空機を機動運用し一戦線に集中投入出来る環境を作り上げる事を提案する物だった。
そして司令部に送ると共に義彦の元にも送った。
上申書司令部に握り潰される事は分かっている。だから握り潰されても直ぐに議会で通るように義彦を通じて空軍創設が叶うように手を打ったのだ。
忠弥は書き上げると、直ぐに司令部と義彦に送るように命じた。
そして書きものをした疲れを解そうと外に出た直後上空に多数の航空機の音が響いてきた。
ベルケを落としてから数日後、不満げな顔で忠弥は軍司令部で意見を述べていた。
「航空偵察や連絡の重要性と優位性は理解しています。そのため地上部隊が航空機を必要としていることも。ですが各師団に航空機を分散して派遣されては航空機の集中管理、投入が出来ません」
現在、前線に展開する各師団への航空支援の為に軍司令部は航空大隊から航空機を各師団へ分遣するようになっていた。
各師団がいちいち軍司令部に窺いを立てて航空機を飛ばして貰うより、師団の元に航空機を派遣して貰い受け取った師団が直接命令を下して飛ばす方が簡単で便利だからだ。
しかし航空機があちこちに派遣されるようになり航空大隊本隊の機数が減っている。
これでは集中的に投入して戦力として活用することは難しい。
航空機は機動性に優れ集中投入できることが長所だ。
滞空時間が短いのが弱点だが、それは敵も同じ。
敵が少ない場所、時間を見定めて集中投入して優位を獲得し勝利して引き上げる。
それが、航空戦だった。
だが、各師団に派遣されてしまうと集中投入が出来ない。
しかも派遣された航空機への命令権まで奪われるため、派遣先の航空機を忠弥が集結するように命令し、運用する事も出来ない。
これでは航空戦で勝つことが出来ない。
「偵察や連絡用の機体は分かりますが、その護衛に戦闘機までが投入されるのは納得いきません」
一番問題だったのは、連絡機や偵察機の護衛のために戦闘機まで分遣命令が出ていたことだった。
戦力の分散投入は愚の骨頂であり避けるべきだ。
特に敵戦闘機に対する重要戦力である戦闘機を各師団に分割されることは忠弥は避けたかった。
「だが、各師団は航空機を求めている。護衛無しで飛ぶのは危険だろう」
「理解しています」
司令官の反論に忠弥は同意した。
無防備な偵察機は敵戦闘機の獲物でしかなく、護衛が必要だ。
戦闘機に偵察をさせれば良いのではないかという意見もあるが、忠弥は却下した。
操縦と偵察を同時に行える操縦士はいないし、敵戦闘機に対する見張りと警戒がおろそかになり撃墜されてしまう。
だから、二人乗りで操縦と偵察を分担できる偵察機を飛ばし、戦闘機はその護衛に専念するのが一番合理的だった。
「しかし、航空大隊から分遣するのではなく、師団用の航空部隊を編成し配備するべきです。そして戦闘機は航空大隊で集中投入するべきです」
「各師団の偵察機や連絡機はどうなる」
軍司令官は忠弥に尋ねた。
「監視網を作り上げて、敵機が侵入した場合には迎撃で対応します。各師団の航空機は離陸を見合わせて下さい」
「見殺しにするのか」
「兵力を分散投入しても各個撃破されるだけです」
実際、各師団に分遣されてから戦闘機を含む多数の未帰還機が発生していた。
これ以上損害を増やすわけにはいかなかった。
「そもそも、師団付属にして偵察が必要な状況でしょうか。敵は塹壕を掘り、我々を待ち受けています」
戦争初期のモゼル会戦によって大損害を受けた帝国軍は後退し防御に有利な場所を選んで陣地を構築、塹壕を掘って待ち受けていた。
意外と強固な防衛網に連合軍は攻撃できず、同じように塹壕を掘って防衛する準備を整えるという状況に陥った。
「迅速に移動する必要が無いのであれば、師団への分遣など不要でしょう」
機動戦であれば、迅速に情報を収集し情報と命令を伝達するために師団が必要だ。
だが膠着状態、それも陣地線なら自分の陣地内に有線電話を構築することが出来るし、情報も軍司令部から送ることが出来る。
分遣する必要など無いはずだ。
「このままでは損害が大きくなり航空部隊は壊滅します。集中投入をお願いします」
「善処しよう。しかし、敵の陣地を突破すれば追撃となり偵察が必要だ。そのために一番有効なのは航空機であり、各師団の元に置いておくことが最も有効に活用できる。そのことを肝に銘じたまえ」
軍司令官の返答に忠弥は落胆して軍司令部を後にした。
結局の所忠弥は交通兵中佐であり、航空大隊は軍司令部の指揮下で命令を受ける立場だ。
航空戦のことを分からない将軍達が自分たちに都合の良いやり方で飛行機を動かしているだけだった。
忠弥は司令部に戻ると上申書を書いた。
航空部隊を独立させ空軍として陸海軍に並ぶ軍隊にして航空機を機動運用し一戦線に集中投入出来る環境を作り上げる事を提案する物だった。
そして司令部に送ると共に義彦の元にも送った。
上申書司令部に握り潰される事は分かっている。だから握り潰されても直ぐに議会で通るように義彦を通じて空軍創設が叶うように手を打ったのだ。
忠弥は書き上げると、直ぐに司令部と義彦に送るように命じた。
そして書きものをした疲れを解そうと外に出た直後上空に多数の航空機の音が響いてきた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

私、のんびり暮らしたいんです!
クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。
神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ!
しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる