新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
89 / 163

プロペラ装甲板

しおりを挟む
「さあ、制空権を取るために出撃するぞ」

 ベルケを撃墜してから一週間、相原大尉は機関銃を上翼に搭載した愛機で連日出撃していった。
 上空へ飛び出すと、ハイデルベルク帝国軍の飛行機を撃墜するために周囲を哨戒する。
 そして敵機を見つけると銃撃を加えて、落としていった。
 その後も、連続して偵察機を落として行くやがてハイデルベルク帝国軍の飛行機は飛来しなくなった。
 出撃しても出てくる飛行機は居なくなり相原大尉の機体は空の支配者のような立場になった。
 だが、それは僅かな間だった。
 ベルケを撃墜してから一週間後、一機の牽引型の複葉機が向かって来た。

「ベルケか」

 相原は機体の動きからベルケだと推測した。
 接近して自分を撃墜しようとする。

「望む所だ!」

 相原は直ぐにベルケに向かって愛機を旋回させる。
 互いに旋回して背後を取ろうという動きをしたため、ドッグファイトが行われる。
 しかし、徐々に形勢はベルケの方へ傾いていった。

「むっ」

 ベルケの機体の方が速力が上で身軽なため徐々に相原の背後へ接近してきた。

「だが、銃撃は出来まい。翼の上に銃は無い」

 機体の他の場所にも銃は無く、銃撃は行われないと相原は判断した。
 だが次の瞬間、ベルケの機体から銃撃が、プロペラの回転域から機関銃の発砲炎が生まれた。

「なっ」

 一瞬驚いた相原大尉だったが、直ぐに機体を旋回させて逃げようとする。しかし、驚きのために一瞬遅れた。相原の機体は翼を失い、操縦が困難になった。

「くっ」

 相原は近くの平原に向かって機体を降下させ、不時着させた。
 不時着して無事である事を確認すると上空を旋回するベルケの機体を睨み付けた。



 ベルケが新しい機体を投入して相原が撃墜されたという報は航空部隊に再び驚きをもたらした。
 再び制空権がハイデルベルク帝国に握られたため、状況が不利になるのではと囁かれた。

「何としても制空権を奪回せよ」

 軍司令部からは命令が下ってきたが、忠弥は冷静に言い返した。

「現状では対抗できるだけの機体が有りません。無闇に航空機を出して稼働機を消耗していくのは、得策ではありません。無意味に突撃して大量の死者を出すのはいかがな物かと」

 強固に防御された陣地へ向けて白兵突撃するのは無謀である事は、先日の会戦で知っていた。そのため、航空隊を消耗させるのはどうかという話しとなり、命令は撤回され、制空権確保の為に可能な限り努力せよに変わった。

「しかし、どうして相原大尉の機は撃墜されたのでしょうか。それにプロペラの回転域で銃撃が出来たのが不思議です」
「それは簡単だよ」

 昴の疑問に忠弥は答えた。

「プロペラの根元、機銃の射線と交わる部分に装甲板を付けて機関銃を弾いてプロペラを守っているんだよ」
「……無茶苦茶ですね」
「でも有効な手だよ。お陰で機体性能が上がる」
「何か特別な改造をしているのでしょうか」
「いや、機銃をエンジンの上に持ってきているから、機体のバランスが良いんだ。バケツを持つとき腕を下げて持つのとと腕を伸ばして水平にして持つのとどっちが楽?」
「腕を下げた方です」
「そう。ベルケの機体は機銃がエンジンに近いので腕を下げた状態で楽に操縦できる。相原大尉の期待は上翼の上に付けたために腕を伸ばした状態なんだ。相原大尉の機体はバランスを取るために余計な力を使うから使える推力が低下していて、ベルケの機体に性能で負けたんだ」
「じゃあ、我々もプロペラに装甲板を付ければ何とかなるのですか」
「とりあえずの応急処置だね」
「直ちに整備班に命じて準備させます」
「念の為にお願い」
「念の為という事は、何か対策があるんですか?」
「何時やって来るか分からないけど」

 その時電話が鳴った。
 忠弥はそれを取り、報告を聞くとニヤリと笑った。

「相原大尉を呼んでくれ。あと曲芸飛行に優れた操縦士を集めてくれ。十数人位」
「何をするんですか。新しい中隊を作る。ベルケに対抗するための新型機を装備した精鋭の中隊だ」
「いよいよ反撃ですか。ですが、何故中隊を。完成した機体を与えてもらえれば、私が向かいますが」

 昴は頭は悪いが勘が良い。
 忠弥の教えたことをすぐに忘れるが、何をすれば良いのか身体が知っていた。
 特に飛行中は素晴らしく、飛行機の姿勢や状態を全身で感じるらしく簡単に難しい飛行、曲芸飛行さえこなせる。
 その腕は忠弥に次ぐ位であり、相原大尉さえ操縦の腕では一歩譲っていた。
 そのため少女ながら航空大隊では一目置かれていた。
 忠弥の事実上の連れ合い、婚約者という暗黙の了解は出来ていたが、それ以上に飛行士の技量で認められていた。

「いや、新型機は新しい部隊で使いたい。戦いの歴史を変えるのは機体ではなく、その機体をどう使うかだ」
「忠弥なら簡単に扱えるでしょう」
「うん、僕が上手く扱える自信はあるよ。でも集団として、部隊として使うのはまた別の話だ」
「? 飛行が上手い人を集めて飛べば良いのでは?」
「それだけだとただの喧嘩だ。軍隊として、制空権を握るにはそれだけじゃダメなんだ」
「それは?」

 昴は尋ねようとしたが、突然はいってきた人物に邪魔をされ中断した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...