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留学生達
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「航空機の未来は人々の支援だ。上空から行えることこそ意味がある」
「だからこそ空を制することが重要になる。飛行機を落とせる飛行機を作る事が重要だ」
二人の生徒が言い合いをしていた。
と言っても二人とも二〇代前半の男性で金髪碧眼と赤髪の外国人だ。
「どうしたんです?」
忠弥が尋ねると二人とも口論を中止して直立不動の体勢をとる。
自分より十歳以上若い忠弥だが、人類初の有人動力飛行を実現させ太陽を横断した英雄であり、偉大な師でもある。
何より空を飛ぶという夢の共有者であり、敬意を抱くなと言う方が無理だった。
「二人とも喧嘩していたのですか? ベルケ大尉、サイクス大尉」
金髪碧眼の男性はハイデルベルク帝国陸軍のベルケ騎兵大尉。
赤髪の男性はカドラプル連合王国陸軍のサイクス砲兵大尉だ。
「どうしたんです?」
黙り込んだ二人に再び忠弥が尋ねる。
「いえ、私たちの名前を覚えていて貰えたことに」
「感動いたしまして」
二人は忠弥が自分たちの名前を覚えていたことに感動していた。
「二人とも優秀な生徒だと相原大尉から聞いています。今では教官としても活躍して貰っていると聞いています」
パイロット志望者の数に対して教官の数が少ないため、生徒の中でも優秀で教え方の上手い人を教官として使っている。
臨機応変と言えるが生まれたばかりの弱小組織故の緊急処置だ。
若くても実力があれば、抜擢されるので生徒達には好評だが、手探り状態の飛行機に進んでくるため全員が尖った性格で一家言を持つ個性派だ。
「つまり喧嘩ではなく口論だと」
そのため持論を展開し論争になる事が多い。
『その通りです』
二人は揃っていった。
「サイクス大尉は航空機は砲兵の弾着観測の補助や偵察などに使うべきと言っております。そして海も陸も関係なく飛んでゆける飛行機は長距離を飛ばすべきだと」
「それに対してベルケ大尉は、それらを行う航空機を撃破するために空中戦闘を専門とする航空機を作るべきだと主張しています。障害のない空を高速で行く、それも他のどんな交通手段より速くゆける飛行機なのですからより特化するべきだと」
互いに、相手の意見を言う。
双方が文句を言わないところを見ると互いに異論は無く、二人の主張を理解しているようだ。
違う国がひしめき合う旧大陸では討論を日常的に行っており、こうした議論の技術が優れているのだろう。
持論を持って相手の意見を理解し、討論によって相違点と相互の長所欠点を探り合うのは未開拓の航空分野にとって好ましい。
島国根性――馴れ合いで周りの意見を大事にする、儒教的で先駆者や長年在籍してる人間の意見が通りやすい秋津皇国の技術者は素直に聞いてくれて物事が進みやすい。
だが、欠点や欠陥を見つける事が苦手、あるいは見つけても空気を読んで進言しないことが多いため、根本的な失敗が後になって分かることが多い。
そのため説得するのに時間が掛かるが、欠点を全て潰せる旧大陸のパイロット達と話し合う事を忠弥は好んだ。
「確かに、空を飛べば色々な事が出来ますね」
サイクス大尉の主張は明瞭だ。
既に忠弥が行っている航空写真の延長で、敵の部隊を上空から撮影したり、高い見張り台として弾着を観測しようというのだ。
これはサイクス大尉の出身である砲兵士官が考える典型的な発想だった。
「でもそんな便利なことを相手が許すはずがありません」
だが、戦争というのは相手が嫌がることをするのが普通だ。
相手が便利なこと、優位なことは自分にとって都合が悪く不利なことだ。
その手段を排除するのが順当な考え方だ。
特にベルケ大尉は騎兵の出身で、部隊から離れて自ら偵察に赴くことが多く偵察の重要性を知っている。故にそれを排除し、排除されたりする経験を持っている。
だから、サイクス大尉の意見を認めつつもそれを排除、駆逐するための航空機が必要だと主張する。
「ですがそれですと航空機が重くなってしまいます。ただでさえ人間を二人も積み込むのに」
しかしサイクス大尉は、反対した。
偵察に使う飛行機は既に人間二人の重量で一杯だ。そこに攻撃の為の能力を付け加えたら良くて重く鈍間な飛行機、最悪だと飛べずに地上を這い回るだけだ。
「実際に運用する二人の意見はもっともです」
忠弥は二人の意見を肯定した。
何故なら現在の飛行機の弱点、非常に非力な事を忠弥は知っているからだ。
星形エンジンが手に入っても、最大限に能力を生かし切れていないため低出力だ。
そのため機体にどんな性能を持たせるか、速さか、高さか、脚の長さか、あるいは重い物を運ぶ能力か。
ゲームのキャラ作成のようにエンジン出力をどの能力に割り振るか、少ないリソースを何処に注ぐべきかで二人の意見は対立していた。
忠弥の居た世界でもかつて、いや二一世紀の世界でもエンジン出力に対して何にリソースを注ぐかは航空産業の関係者の悩みだ。
「ですが、より大局的に見るべきです」
『と、言いますと?』
「もっと強力な飛行機を大量に作れば良いんですよ。大量に作れば、偵察用も戦闘用も別々に作れます。そして強力なエンジンを積んだ、高出力航空機が出来上がれば偵察装備と戦闘装備を積み込んでも速く遠くへ飛べる飛行機が出来上がります」
実際、忠弥の世界の飛行機の歴史は、単純に空を飛んだ後、如何に実用機を作るかを経て、その任務に専念する専用機の開発に移っていった。
そしてエンジンが強力になり装備の技術発展により小型軽量化すると、装備を変更してあらゆる任務をこなせるマルチロール機――汎用機の時代になる。
『……確かに』
忠弥の意見に二人は陶酔した表情で答えた。
「ただ、僕は飛行機が戦争に使われることが無いように祈りますが」
二度の世界大戦と幾多の戦争で航空機が戦争に使われ悲惨なことになっている。
勿論忠弥も男子であり空中を颯爽と飛び敵機を撃墜する空中戦に憧れはある。
しかし、世界中に飛行機を広めたい夢を持つ忠弥としては飛行機が飛行機を落とす場面を見たくない。
「だからこそ空を制することが重要になる。飛行機を落とせる飛行機を作る事が重要だ」
二人の生徒が言い合いをしていた。
と言っても二人とも二〇代前半の男性で金髪碧眼と赤髪の外国人だ。
「どうしたんです?」
忠弥が尋ねると二人とも口論を中止して直立不動の体勢をとる。
自分より十歳以上若い忠弥だが、人類初の有人動力飛行を実現させ太陽を横断した英雄であり、偉大な師でもある。
何より空を飛ぶという夢の共有者であり、敬意を抱くなと言う方が無理だった。
「二人とも喧嘩していたのですか? ベルケ大尉、サイクス大尉」
金髪碧眼の男性はハイデルベルク帝国陸軍のベルケ騎兵大尉。
赤髪の男性はカドラプル連合王国陸軍のサイクス砲兵大尉だ。
「どうしたんです?」
黙り込んだ二人に再び忠弥が尋ねる。
「いえ、私たちの名前を覚えていて貰えたことに」
「感動いたしまして」
二人は忠弥が自分たちの名前を覚えていたことに感動していた。
「二人とも優秀な生徒だと相原大尉から聞いています。今では教官としても活躍して貰っていると聞いています」
パイロット志望者の数に対して教官の数が少ないため、生徒の中でも優秀で教え方の上手い人を教官として使っている。
臨機応変と言えるが生まれたばかりの弱小組織故の緊急処置だ。
若くても実力があれば、抜擢されるので生徒達には好評だが、手探り状態の飛行機に進んでくるため全員が尖った性格で一家言を持つ個性派だ。
「つまり喧嘩ではなく口論だと」
そのため持論を展開し論争になる事が多い。
『その通りです』
二人は揃っていった。
「サイクス大尉は航空機は砲兵の弾着観測の補助や偵察などに使うべきと言っております。そして海も陸も関係なく飛んでゆける飛行機は長距離を飛ばすべきだと」
「それに対してベルケ大尉は、それらを行う航空機を撃破するために空中戦闘を専門とする航空機を作るべきだと主張しています。障害のない空を高速で行く、それも他のどんな交通手段より速くゆける飛行機なのですからより特化するべきだと」
互いに、相手の意見を言う。
双方が文句を言わないところを見ると互いに異論は無く、二人の主張を理解しているようだ。
違う国がひしめき合う旧大陸では討論を日常的に行っており、こうした議論の技術が優れているのだろう。
持論を持って相手の意見を理解し、討論によって相違点と相互の長所欠点を探り合うのは未開拓の航空分野にとって好ましい。
島国根性――馴れ合いで周りの意見を大事にする、儒教的で先駆者や長年在籍してる人間の意見が通りやすい秋津皇国の技術者は素直に聞いてくれて物事が進みやすい。
だが、欠点や欠陥を見つける事が苦手、あるいは見つけても空気を読んで進言しないことが多いため、根本的な失敗が後になって分かることが多い。
そのため説得するのに時間が掛かるが、欠点を全て潰せる旧大陸のパイロット達と話し合う事を忠弥は好んだ。
「確かに、空を飛べば色々な事が出来ますね」
サイクス大尉の主張は明瞭だ。
既に忠弥が行っている航空写真の延長で、敵の部隊を上空から撮影したり、高い見張り台として弾着を観測しようというのだ。
これはサイクス大尉の出身である砲兵士官が考える典型的な発想だった。
「でもそんな便利なことを相手が許すはずがありません」
だが、戦争というのは相手が嫌がることをするのが普通だ。
相手が便利なこと、優位なことは自分にとって都合が悪く不利なことだ。
その手段を排除するのが順当な考え方だ。
特にベルケ大尉は騎兵の出身で、部隊から離れて自ら偵察に赴くことが多く偵察の重要性を知っている。故にそれを排除し、排除されたりする経験を持っている。
だから、サイクス大尉の意見を認めつつもそれを排除、駆逐するための航空機が必要だと主張する。
「ですがそれですと航空機が重くなってしまいます。ただでさえ人間を二人も積み込むのに」
しかしサイクス大尉は、反対した。
偵察に使う飛行機は既に人間二人の重量で一杯だ。そこに攻撃の為の能力を付け加えたら良くて重く鈍間な飛行機、最悪だと飛べずに地上を這い回るだけだ。
「実際に運用する二人の意見はもっともです」
忠弥は二人の意見を肯定した。
何故なら現在の飛行機の弱点、非常に非力な事を忠弥は知っているからだ。
星形エンジンが手に入っても、最大限に能力を生かし切れていないため低出力だ。
そのため機体にどんな性能を持たせるか、速さか、高さか、脚の長さか、あるいは重い物を運ぶ能力か。
ゲームのキャラ作成のようにエンジン出力をどの能力に割り振るか、少ないリソースを何処に注ぐべきかで二人の意見は対立していた。
忠弥の居た世界でもかつて、いや二一世紀の世界でもエンジン出力に対して何にリソースを注ぐかは航空産業の関係者の悩みだ。
「ですが、より大局的に見るべきです」
『と、言いますと?』
「もっと強力な飛行機を大量に作れば良いんですよ。大量に作れば、偵察用も戦闘用も別々に作れます。そして強力なエンジンを積んだ、高出力航空機が出来上がれば偵察装備と戦闘装備を積み込んでも速く遠くへ飛べる飛行機が出来上がります」
実際、忠弥の世界の飛行機の歴史は、単純に空を飛んだ後、如何に実用機を作るかを経て、その任務に専念する専用機の開発に移っていった。
そしてエンジンが強力になり装備の技術発展により小型軽量化すると、装備を変更してあらゆる任務をこなせるマルチロール機――汎用機の時代になる。
『……確かに』
忠弥の意見に二人は陶酔した表情で答えた。
「ただ、僕は飛行機が戦争に使われることが無いように祈りますが」
二度の世界大戦と幾多の戦争で航空機が戦争に使われ悲惨なことになっている。
勿論忠弥も男子であり空中を颯爽と飛び敵機を撃墜する空中戦に憧れはある。
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