71 / 163
調査委員会
しおりを挟む
「……ものすごい危機なのでは」
義彦の言葉で皇主直属の枢密院が行う調査委員会の重みを再認識した忠弥は恐怖で震えた。
「くれぐれも失礼の無いように。調査委員会には皇族も参加している」
義彦の説明にさすがの忠弥も白目をむき始めた。
「忠弥、何を躊躇う必要があるのですか」
気絶しそうになる忠弥に昴は話しかける。
「皇族がなんですか。貴方は空を飛ぶのが夢でしょう。何千年も歴史がありながら空を飛べなかった連中に何を恐れる必要があるのですか」
「そうですね。空が飛べることの素晴らしさを力説すればきっと理解してくれるでしょう」
「くれぐれも失礼の無いようにな」
変な方向に盛り上がる二人を義彦は落ち着かせようとした。
さすがに皇国の最高権威に楯突いたとされたら島津はお終いだ。
意見を言うことさえ畏れ多いとされているので反論さえ不敬とされかねない。
「空を飛ぶ素晴らしさをお伝えすれば必ず理解して貰えます」
「人の話を聞いているかい」
忠弥のストッパー役をしていた義彦だが、忠弥の性格を思い出し、止めても無駄だと悟った。
「……まあ、忠弥の夢を阻む人間なんていないだろうね」
初めて忠弥と出会った時を義彦は思い出した。
片田舎の鍛冶屋の息子が突然、娘の車を修理して屋敷に入ってきて空を飛びたいという夢を語った。
荒唐無稽な話だったが、何故かリアリティがあり実現できると確信し、心が熱くなった。
内燃機関への知識だけでも利用出来れば十分、空を飛ぶのはついでだと思って許した。
しかし、すぐさま結果を、原付バイクを生み出し島津は躍進の機会を得た。
人も技術も集まってくる様を見て何時しか自分も忠弥の夢を一緒に追いかけていた。
出会ってから僅か半年ほどで人類初の有人動力飛行を成功させて仕舞った。
そしてかつては、二年ほど前までは夢物語だった大洋横断を成功させた。
勿論多くの敵も現れたが忠弥の夢の前に何時しか取り込まれ一緒に走ってしまっている。
今回も同じような事になる、と義彦は思った。
「出席すると先方には伝えておく」
「よろしくお願いします!」
忠弥は意気込んで答えた。
「忠弥、調査委員会の事は聞きましたか」
義彦と入れ違いに寧音が入ってきた。
「ええ、出席します」
「ダメです! 代理人を立てると言ってください。優秀な岩菱の弁護士が貴方の言い分を伝えてくれます」
「自分の夢は自分の口で語らないと」
「そのために雑事に時間を取る必要はありません」
珍しく寧音が慌てた様子で言う。
「新しい飛行機を作るためにそんな事に時間を使わないでください」
「でも、今は懐疑的な人でも説得すれば飛行機製作を支援してくれるかもしれませんし」
「私たちの支援で十分ではないのですか」
「手助けしてくれる人は多いほど良いですよ」
「そ、そうですけど」
「それにもう、先方には出席すると答えましたし」
「そ、そんな……」
寧音は床に崩れ落ちた。
「あの、大丈夫ですか?」
突然のことに忠弥は寧音を気遣う。
「一寸した立ちくらみでしょう。しかし大丈夫です。わたくしが看病しますから忠弥は明日の準備を」
「う、うん、昴、寧音を頼むよ」
そう言って昴に任せて忠弥はその場を離れた。
そして忠弥が去ると昴は看病もせず見下して高笑いをする。
「ほほほ、忠弥の夢を信じ切れないようですね」
寧音の姿を見て昴は笑みを浮かべ優越感に浸る。
だがそれも僅かな間だけだった。
寧音の腕が昴に伸びて行き昴の肩に指を食い込ませた。
「痛っ、何をする、ひっ」
激痛で抗議しようとする昴だったが、鬼気迫る寧音の表情に悲鳴を上げて仕舞った。
反射的に逃げようとしたが、がっしりと指を肩に食い込ませた寧音から逃げられなかった。
「昴さん、今、私たちの学校でなにが起きているか知っていますか? 何が起きたかしっていますか」
「い、いいえ……」
「……そうでしたね。貴方は学校を欠席していらっしゃるのでしたわね」
忠弥の側に居ることの多い昴はここ最近、学校を欠席していた。
「仕方ありませんね。無知の力で進んでいるのが昴さんの強さですが、ですが何も知らないと言うことが、説きに罪である事を覚えておきなさい」
「どういう意味よ!」
そのまま二人はその場で喧嘩になり、夜遅くまで言い合った。
翌日、昭弥は指定された時刻に枢密院の置かれている宮城に向かった。
近衛兵の守る南の太田門を通り過ぎ、近くにある枢密院の庁舎へ。
「国会議事堂みたいだな」
「国会議事堂を作る前の習作として設計施工されたから似ている」
建物を眺めていた忠弥に義彦が伝えた。
「いよいよですね」
車から降りて建物の中に入る忠弥は気合いを入れる。
「ここに来て、伝えるのもなんだが、注意するように」
「どうしたんですか?」
「今回の調査委員会の委員長は皇族が務めることになった」
「そんな事があるのですか?」
「皇族は枢密院の顧問官に自動的になれるからおかしくはない。だが、政争に巻き込まれるのを良しとしないため、傍聴はあっても出席することも希だ。今回は特例で就任しているようだ。だから気をつけろ」
「はい」
忠弥は、調査会が行われる部屋に入った。
予想より小さく教室程度の広さだ。だが、所々の装飾は凝っており、格式の高い部屋だと言うことは分かる。
「調査会を開会する。調査委員長が御入室する、総員礼!」
室内の全員が一斉に頭を下げ忠弥もそれにしたがった。兎に角失礼の無いように、特に初対面での第一印象は大事なので、許可があるまで頭は下げるようにと義彦に言われていた。
やがて複数の人々が入ってくる気配がして忠弥達の前に行く。
「其方が調査対象者、二宮忠弥か」
「はい」
想像していたような格式張った声どころか、全く違う鈴の音のような声に戸惑いながらも、忠弥は答えた。
「面を上げよ」
「はい」
言われるがまま、顔を上げるとそこには白銀の長い髪を持つ少女が座っていて、忠弥を驚かせた。
義彦の言葉で皇主直属の枢密院が行う調査委員会の重みを再認識した忠弥は恐怖で震えた。
「くれぐれも失礼の無いように。調査委員会には皇族も参加している」
義彦の説明にさすがの忠弥も白目をむき始めた。
「忠弥、何を躊躇う必要があるのですか」
気絶しそうになる忠弥に昴は話しかける。
「皇族がなんですか。貴方は空を飛ぶのが夢でしょう。何千年も歴史がありながら空を飛べなかった連中に何を恐れる必要があるのですか」
「そうですね。空が飛べることの素晴らしさを力説すればきっと理解してくれるでしょう」
「くれぐれも失礼の無いようにな」
変な方向に盛り上がる二人を義彦は落ち着かせようとした。
さすがに皇国の最高権威に楯突いたとされたら島津はお終いだ。
意見を言うことさえ畏れ多いとされているので反論さえ不敬とされかねない。
「空を飛ぶ素晴らしさをお伝えすれば必ず理解して貰えます」
「人の話を聞いているかい」
忠弥のストッパー役をしていた義彦だが、忠弥の性格を思い出し、止めても無駄だと悟った。
「……まあ、忠弥の夢を阻む人間なんていないだろうね」
初めて忠弥と出会った時を義彦は思い出した。
片田舎の鍛冶屋の息子が突然、娘の車を修理して屋敷に入ってきて空を飛びたいという夢を語った。
荒唐無稽な話だったが、何故かリアリティがあり実現できると確信し、心が熱くなった。
内燃機関への知識だけでも利用出来れば十分、空を飛ぶのはついでだと思って許した。
しかし、すぐさま結果を、原付バイクを生み出し島津は躍進の機会を得た。
人も技術も集まってくる様を見て何時しか自分も忠弥の夢を一緒に追いかけていた。
出会ってから僅か半年ほどで人類初の有人動力飛行を成功させて仕舞った。
そしてかつては、二年ほど前までは夢物語だった大洋横断を成功させた。
勿論多くの敵も現れたが忠弥の夢の前に何時しか取り込まれ一緒に走ってしまっている。
今回も同じような事になる、と義彦は思った。
「出席すると先方には伝えておく」
「よろしくお願いします!」
忠弥は意気込んで答えた。
「忠弥、調査委員会の事は聞きましたか」
義彦と入れ違いに寧音が入ってきた。
「ええ、出席します」
「ダメです! 代理人を立てると言ってください。優秀な岩菱の弁護士が貴方の言い分を伝えてくれます」
「自分の夢は自分の口で語らないと」
「そのために雑事に時間を取る必要はありません」
珍しく寧音が慌てた様子で言う。
「新しい飛行機を作るためにそんな事に時間を使わないでください」
「でも、今は懐疑的な人でも説得すれば飛行機製作を支援してくれるかもしれませんし」
「私たちの支援で十分ではないのですか」
「手助けしてくれる人は多いほど良いですよ」
「そ、そうですけど」
「それにもう、先方には出席すると答えましたし」
「そ、そんな……」
寧音は床に崩れ落ちた。
「あの、大丈夫ですか?」
突然のことに忠弥は寧音を気遣う。
「一寸した立ちくらみでしょう。しかし大丈夫です。わたくしが看病しますから忠弥は明日の準備を」
「う、うん、昴、寧音を頼むよ」
そう言って昴に任せて忠弥はその場を離れた。
そして忠弥が去ると昴は看病もせず見下して高笑いをする。
「ほほほ、忠弥の夢を信じ切れないようですね」
寧音の姿を見て昴は笑みを浮かべ優越感に浸る。
だがそれも僅かな間だけだった。
寧音の腕が昴に伸びて行き昴の肩に指を食い込ませた。
「痛っ、何をする、ひっ」
激痛で抗議しようとする昴だったが、鬼気迫る寧音の表情に悲鳴を上げて仕舞った。
反射的に逃げようとしたが、がっしりと指を肩に食い込ませた寧音から逃げられなかった。
「昴さん、今、私たちの学校でなにが起きているか知っていますか? 何が起きたかしっていますか」
「い、いいえ……」
「……そうでしたね。貴方は学校を欠席していらっしゃるのでしたわね」
忠弥の側に居ることの多い昴はここ最近、学校を欠席していた。
「仕方ありませんね。無知の力で進んでいるのが昴さんの強さですが、ですが何も知らないと言うことが、説きに罪である事を覚えておきなさい」
「どういう意味よ!」
そのまま二人はその場で喧嘩になり、夜遅くまで言い合った。
翌日、昭弥は指定された時刻に枢密院の置かれている宮城に向かった。
近衛兵の守る南の太田門を通り過ぎ、近くにある枢密院の庁舎へ。
「国会議事堂みたいだな」
「国会議事堂を作る前の習作として設計施工されたから似ている」
建物を眺めていた忠弥に義彦が伝えた。
「いよいよですね」
車から降りて建物の中に入る忠弥は気合いを入れる。
「ここに来て、伝えるのもなんだが、注意するように」
「どうしたんですか?」
「今回の調査委員会の委員長は皇族が務めることになった」
「そんな事があるのですか?」
「皇族は枢密院の顧問官に自動的になれるからおかしくはない。だが、政争に巻き込まれるのを良しとしないため、傍聴はあっても出席することも希だ。今回は特例で就任しているようだ。だから気をつけろ」
「はい」
忠弥は、調査会が行われる部屋に入った。
予想より小さく教室程度の広さだ。だが、所々の装飾は凝っており、格式の高い部屋だと言うことは分かる。
「調査会を開会する。調査委員長が御入室する、総員礼!」
室内の全員が一斉に頭を下げ忠弥もそれにしたがった。兎に角失礼の無いように、特に初対面での第一印象は大事なので、許可があるまで頭は下げるようにと義彦に言われていた。
やがて複数の人々が入ってくる気配がして忠弥達の前に行く。
「其方が調査対象者、二宮忠弥か」
「はい」
想像していたような格式張った声どころか、全く違う鈴の音のような声に戸惑いながらも、忠弥は答えた。
「面を上げよ」
「はい」
言われるがまま、顔を上げるとそこには白銀の長い髪を持つ少女が座っていて、忠弥を驚かせた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる