新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
34 / 163

忠弥の反撃

しおりを挟む
「私は二宮忠弥氏と島津義彦氏が喧伝する彼等の人類初の有人動力飛行について明確に異議を唱える。何故なら人類初の有人動力飛行は私がメイフラワー合衆国において去年の秋に成功させたからだ。故に人類初は私の栄誉であり、彼等は飛行に成功したかもしれないが、人類初では無い」

 船から秋津皇国の港に下りたダーク氏は上陸して真っ先に秋津の記者団に断言した。

「忠弥氏はあれこれと私の飛行に文句を付けているようだが私がポワータン川で飛行機を実際に飛行させたのは事実であり、彼等よりも先に飛んでいる。人類初の有人動力飛行を行ったのは私だ」

 以上の言葉は直ぐさま秋津皇国の新聞に載り世間に大々的に報道された。



「何やら雲行きが怪しくなってきましたね」

 新聞を読んでいた寧音は岩菱の屋敷で呟いた。
 ラジオ放送で大衆へ演説を始めた島津新党の支持率は大きく上がっており、選挙で大勝し第一党になり得る可能性が出てきていた。
 しかし、ダーク氏の来訪とこの記事により、島津新党の支持基盤、人類初の有人動力飛行のスポンサー、有人飛行そのものに疑義が生じ、支持率は徐々に低下しているように感じられた。

「くくく」

 寧音が新聞を読んでいる横豊久が笑っている。

「何か仕掛けたのですか?」

「なに、合衆国の有人に、少しばかりこの国で起きたことを伝えたまでよ」

 通信手段が限られた世界のため、よほどの緊急事態でも無い限り、情報が新聞に載ることは少ない。
 例え航空史に残る偉業でも、それが正確に伝わるのは時間が掛かる。
 地球でもライト兄弟の人類初の有人動力飛行が日本に知れ渡るのに年単位の時間が掛かった。
 忠弥の偉業は皇国では知られていたが、海外には一部を除いて伝わっていなかったし、効いた人間も眉唾ものだとして真面目に取り合っていなかった。

「だが、偉業を達成したと喧伝しているからには鉢合わせは回避出来ぬ」

「島津の政党を潰すために出したのでしょうか」

「どうかのう」

 豊久はごまかすように笑った。
 実際に手を回していたからだ。
 政商として政府に近く与党との繋がりも強い。
 義彦を潰すために合衆国からダーク氏を招くべく資金援助して、裏で手を回した。
 ラジオによる選挙演説で各地で島津の政党は優位に立ちつつある。
 ここで島津の足下を、異形とされる有人動力飛行に物言いが付くことで島津の新党の支持を失わさせることが目的だった。

「これ以上、お爺様達の方針を邪魔されないようにですか」

「その通りじゃ」

 寧音の推測を豊久は認めた。だが寧音はさほど驚かなかった。
 開国の厳しい情勢、世界の政治の中心が旧大陸か新大陸かでもめている時期に開国したのが秋津皇国だ。
 諸外国は大洋の中心にあり貿易中継拠点として役に立つ秋津を求め、隙あらば植民地にしようとしていた。
 現に開国を求めてメイフラワー合衆国が艦隊を強引に入港させてきたことが開国にいたる直接の原因だったが、他の諸国も似たようなものであり、メイフラワー合衆国と通商条約を結ぶと我も我もと秋津に条約締結を不平等条約を求めてきた。
 秋津が開国したのはそうした諸外国に対抗するためだ。
 豊久を始め今の政府の重鎮は出身や政策の違いはあれど、根幹に外国からの脅威に対抗するという強い意志であり、立場の違いはあっても共感できる同志であった。
 時に対立しても心の底では繋がっており、今の秋津の繁栄を築いたと考えている。
 しかし、民衆にまでその意志は伝わっていない。
 秋津を守るために政府与党が富国強兵策を議会で提言しても、生活向上を求めて否決することが続いていた。
 そのため、開国へ導いた重鎮達は与党系の政党を作り、政府の支持層を作っていた。

「再び民衆を扇動して国の方針を危うくされては危険だ。そして義彦は民衆の心を掴むのが上手い。民衆の心を短期間で掴んだ。今潰さなければ」

 選挙対策に祖父が並々ならぬ努力をしていたことは、寧音も知っていたから驚かなかった。

「しかし、上手くいくでしょうか?」

「上手くいかなくても、疑義が生じれば良いのだ」

 確かに、疑義が生じているだけでそれまで急激に支持を集めていた島津新党は支持率に伸び悩んでいる。
 普通選挙を手に入れた民衆だったが誰に投票するべきか理解できない、立候補者の能力を見定めることが出来ないため、候補者の業績を見て判断するしかなかった。
 島津が伸びていたのは人類初の有人動力飛行という快挙を皇国にもたらしたからであって、そこに疑義が生じれば支持は減っていく。

「そのためのダーク氏ですか」

 技術面で遅れていた秋津皇国には海外が優れている、舶来物をありがたがる風潮がある。
 確かに外国の方が優れている部分は多く、秋津に取り入れれば効果が上がりそうな物が多い。

(どうなのだろう)

 しかし、自らの手で生み出した、控えめに言って、世界に誇るべき発明を否定して良いのだろうか、と寧音は疑問に思った。

「このまま、義彦を潰してやろう」

 自分と同世代の少年が立てた偉業ごと、政敵を潰そうとする祖父豊久の不気味な笑みに寧音は背筋が冷え、同時に胸がチクリと痛んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

碧海のサルティーナ

あんさん
青春
~家出した令嬢は空に憧れて押しかけパートナーとなる~ レシプロエンジンの水上機が活躍するとある世界。 島から島へ荷物を運ぶフィンはある日一人の少女を島まで運ぶ依頼をオファーされた。 旅客は扱っていないと断るが、借金を盾に渋々引き受けさせられる。 初めての空旅で飛ぶことの魅力を知った彼女はとあるイベントに興味を惹かれ… ちょっと訳ありの少女をサルティーナ諸島に送る旅から動き始める物語。 この作品は試しに以下のサイトで重複投稿しています。 ・小説家になろう ・カクヨム ・アルファポリス ・ハーメルン ・エブリスタ ・ノベルアップ+ ・NOVEL DAYS

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

処理中です...