新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

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普及型飛行機

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「やあ、忠弥、明けましておめでとう?」

「ああ、社長。明けましておめでとうございます。本年もどうかよろしくお願いいたします」

 油まみれの顔と手で挨拶をしてきたのは二宮忠弥、今年小学校卒業予定の一〇才の少年だ。
 鍛冶屋の息子ながら幼い頃から頭が良かったため、小学校を二年飛び級して事し卒業出来る事になった。
 しかし、幼い頃からその溢れるばかりの才能を人類初の動力飛行を実現させるために使っていた変人でもある。
 実はこの忠弥は二一世紀の日本で病にやられた航空産業志望の青年の生まれ変わり、異世界転生者だ。
 この世界に飛行機が無い事を知ると自分で作って世界初の有人動力飛行を成功させようとひたすら研鑽してきた。
 しかし、田舎の鍛冶屋の息子ではどんなに頭が良く二一世紀の航空工学を頭に入れていても、実機を作る金も資材も伝手も無かった。
 だが島津義彦と出会ったことで流れは変わった。
 一人娘の昴が乗っていた車がエンコし、その現場に偶然立ち会った忠弥は直ぐに故障を直すと父親である義彦に会った。
 そして、島津産業に入り仕事をする代わりに自分の飛行機作りに手を貸して欲しいと頼み込んだ。
 見込みがあると見た義彦は直ちに採用し自動車作りを命じた。
 しかし忠弥は拒否した。皇国の道路事情では売れないと判断して、代わりに原付二輪を作り出した。
 原付二輪は大ヒットし会社を大きくして資金を得た忠弥は義彦の許しを得て実機の製作に入った。
 途中新世界から有人動力飛行成功の報が入るが昴の発破と模型動力飛行機に人が座っただけと知り、飛行機製作に更に力を入れる。
 そして去年の暮れに世界初の有人動力飛行を成功させた。
 一回目で上昇、旋回、下降、着陸、全てを成功させたが、二回目の飛行で、着陸寸前でバランスを崩して翼端を引っかけて損傷させてしまった。
 しかし、飛行に成功したのは事実だった。
 世界初の有人動力飛行が秋津皇国で行われ、しかも一〇才の少年が自分の力で作り上げ、飛んだことは建国以来の壮挙として皇国中に知れ渡った。
 忠弥の飛行を収めた写真やフィルムは直ぐに複製され皇国中で見られており、秋津史上の快挙と褒め称えられていた。

「今、普及型の試作機を作っているところです」

 明るい声で忠弥は義彦に報告した。
 人類初の有人動力飛行を成功させた忠弥と支援した島津産業は有名になり注目が殺到。
 自分も飛行機に乗りたい、飛行機を売ってくれと言う注文が殺到していた。
 その人達に販売する、空を夢見る仲間に送る普及型飛行機の開発に忠弥は年末から正月返上で取り組んでいた。

「初飛行をしたオリジナルと同じ物が欲しいと言っている人が多いが」

「あれは色々問題がありますから」

 忠弥が作り出した人類初の動力飛行機<玉虫>は手探りの中作り上げたために、様々な部分で無理をしていた。
 特に、操縦席と機体が酷い。
 忠弥が子供であるという特徴、小柄で背が低く体重が軽い事を最大限に利用して軽量化とスリム化を図り、忠弥以外誰も乗れないほど狭くしてしまった。
 二回目の飛行で昴を乗せていたが、昴も忠弥と同じ十歳の少女で小柄だったために出来た事だ。
 大人が乗るのには狭く、忠弥でさえ成長したとき乗れるかどうか怪しい代物だ。

「でも欲しがる人は多いよ」

 世界初の動力飛行機、人類初の有人動力飛行を行った飛行機。
 この強烈なタイトルを持つ機体が欲しいと誰もが思う。
 例え安全性が高まった普及型があるとしても、同じ者が欲しいと思うのはどの世界の人間でも思う性であった。

「一応、販売用に手直しはしていますけど」

 忠弥もその心は飛行機への熱い情熱を持つが故に理解できる。
 なので機体を大型化して大人も乗れるようにした販売用の機体を試作中だった。
 ただ、玉虫は軽量化のためや負荷の軽減の為に、車輪は取り付けず、軽便鉄道の軌道の上を台車で滑走し離陸、ソリで着地するという方式を採用していたため、扱いづらい。

「販売用の玉虫は技術者の方々に任せています。私は普及型の完成に力を入れています」

 忠弥は飛行機をより多くの人に飛行機を普及させるために、もっと扱いやすい飛行機を作って販売することにしていた。
 現在、空を飛べたのは事実上、忠弥と昴だけだ。
 しかし、これは短い距離を浮かび上がっただけだ。
 忠弥が求める世界、様々な飛行機が至る所を飛び回る世界にはほど遠い。
 そのためには多くの機体を作って多くの人に飛行機を以てもらい活用して貰う必要がある。
 普及型を作っているのは安全に空へ飛んで欲しいからだ。
 空が少年の夢を叶える場所から、日常に、生活に必要不可欠な世界にするためにも、多くの人に空の素晴らしさを実際に飛んで理解して貰うためにも普及型は必要だった。

「あー、こんなところにいた」

 そこへ、和服姿の少女、昴が声を上げて現れた。

「御父様、聞いて下さいよ。忠弥ったら初詣にも行かないのですよ」

 義彦の一人娘で最近は忠弥に付きっきりの昴はここぞとばかりに文句をいう。
 地元の神社へ新年の挨拶にお参りに行くのが皇国の伝統だ。

「氏神様に顔向けできません」

 昴は怒っているが、理由は初詣に行かないことでは無く、晴れ着を着た昴への感想を忠弥が言わなかったからだ。

「ははは、あまり根を詰めすぎないように。それでこれが普及型かい? 色々と改造されているね」

 飛行機の話しになり忠弥は目を輝かせて説明する。

「ええ、色々改造しましたよ。玉虫には付けることの出来なかった車輪を取り付けています。これで滑走路、幅広く長い道路さえ有れば何処でも離陸も着陸が出来ます。カタパルトもソリも不要で安全に着陸出来ますし、滑走路を何本か角度を変えて建設すれば、どんな風向きにも対応できます」

 軽便軌道のカタパルトは設置が少し面倒で、一度設置すると方向転換は容易ではない。
 特に向かい風に向かって走行して離陸する必要のある飛行機は、風向きに合わせて方向を変えて離陸できるようにしないと利便性が低い。
 そこで忠弥は普及型に車輪を付けて滑走路或いは整地された広場を使って離着陸できるように改造していた。
 初飛行とそのときのデータが揃ったため、改良が出来るようになった。

「それはいいね。だが、問題がある」

「何でしょう」

「予算が足りないんだよ」
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