抽選結果は大魔王だったので、剣と魔法と平和と欲に溢れた異世界で、のんびりとスローライフしたいと思います。

本編＿前編＿

第97話

その日の夕飯を終え、疲れが出たのかどうか分からないが、フリックは早々と眠ってしまったのである。
「それにしても…この子は良く寝るな」
シリウスは、1日に10時間は軽く寝ているような気がするフリックを見ながら言った。
「まあな…。フリックは人間年齢にするとまだ4歳前後だからな…」
年齢こそは12歳のエルフだが、まだまだ子供なのだとルシウスは、優しげにフリックの頭を撫でながら返した。
「そうなんだ。だから…子供っぽいんだね。この子」
「そういうことだ。最もあのことが遭ったから余計なんだけど」
少しエリオスは影を落としながら言った。
「あのことって…？」
「そういえば、確かミレイ殿には言っていなかったな…」
フリックは、生まれつきと膨大な魔力を持っているが故に制御はなかなか出来ず、自分自身の手で両親を殺めてしまったことにショックを受け、大人に成ることが出来ないまま、一生、このままの姿だということということだった。
「一生このままって…どうにかならないの？」
「ミレイさん。それは難しい問題だと思いますわ」
エルフは、心に傷を負うと無意識の中で自身の成長を止めてしまう種族なのだとシェルファは説明したのだ。
オマケにシルヴァンエルフは、この世界において絶滅危惧種であることから、元から10代半ば及び10代後半の容姿留まりのルシウスを始めとする兄妹たちは、他のエルフたちとは異なるのだと更に説明を付け加えたのだった。
「…何かごめんなさい。色々と知らなくて」
「別にミレイ殿が謝る問題じゃないから」
「そ、それもそうだね。じゃあ…あたしはそろそろ部屋に行くね」
夜も遅いことから、ミレイは一足先に部屋へと行ってしまったのである。
「じゃあ…僕たちもフリックを部屋に連れて行って来るよ」
エリオスは、そっとフリックを起こさないように抱き上げると、ミレイ同様に部屋へと行ってしまったのだった。


「明日の朝一にそのノイント都市国家のお嬢さんの移植か…」
「ええ、そうね。移植にはフリックちゃんの心臓が必要だから」
失敗は絶対に出来ないわとシェルファは、医学書を見ながら返した。
「蘇生魔法は本当に上手くいってくれるのでしょうか？シリウス殿」
「…そればかりはまだ分からないさ。あの練習だけで実践が上手くいくかどうかハッキリしないし」
「大丈夫よ。自信を持てば成功するわ。シリウスさんは私よりも魔法レベルは遙かに上ですもの」
シェルファ自身も前世は医者としてぷいぷいと周りに言わせた、名のある医者だったものの、手の施しようがない患者の遺族から医療ミスを始めとすることに揉められ、最後には、信号無視していた車に撥ねられてしまったことを言わず、この世界で医者として、ノイント都市国家を中心に多くの人たちを救って来たのだからと返したのだった。





「少しは食べないと体が持ちませんよ。リリア様」
その頃、ノイント都市国家をまとめあげている、若き大統領であると同時に心臓移植を受けることになっている、リリア・ネルソン・ルスト・アルヴィーンの看病をしている、世話係のエレナは、温めたばかりの野菜のスープをお皿に盛りながら言った。
「…分かっているわ。明日は大事な手術…ですもの」
マジックビジョンを通してシェルファから、手術の内容を始めとすることを伺っていることからリリアは、今は少しでも栄養を付けるために、野菜のスープを取り始めたのだった。