魔探偵探偵事務所

プロローグ

どうしてこうなったのだろう。
あの日までは・・・。
裕福な家庭に育てられ、両親に愛されていた。
それなのに・・・。

「お母さん・・・どうして・・・」

あの日、母親が癌（がん）で亡くなった３年前。
たった1人で亡くなった母親の姿を見ていた。
手が冷たくて、ピクリともしない。
1人で母親の死を見届けるのが怖かった。
父親は来たけど、遅かった。
ずっと呼んでいたのに。
息を切らして病院にやってきた。
すすだらけの顔が目に浮かんだ。
いつものトレードマークの黒い帽子とスーツはない。
カットソーにスペンサーを肩にかけて急いで来た。
だけど、すぐに帰って行った。
ゆっくりとした歩幅で。
翌日、母親の葬儀があった。
だけど、そこに父親の姿がなかった。
仕事だと言って彼に任せて行ってしまった。
周りの人も彼を気にかけてくれたけど、知り合いの人がいろいろと助けてくれた。
葬儀が終わった時、一瞬だけ父親の姿があった。
だけど、顔色が違った。
彼を睨（にら）みつけるような目つきで周りを見ていた。
母親の死にはお構いないような顔で。
そして、帰って行った。
何事もなかったかのように。
その翌日も何事もなかったかのように仕事に向かって行った。
家に居る時が大半。
夜も帰って来ないことが多かった。
周りが助けてくれたこともあったからかそこまで問題になることはなかった。
でも、そんなある日。
父親の甥（おい）がやってきた。
なんでも父親に頼まれて引き取ってもらいたいと頼まれたそうだ。
これからも父親の仕事は忙しく、面倒も見れないとのことで引き取ることになったのだ。
だが、この家はどうなる？
なくなってしまうのか？
そう思いながら家を後にしていった。
それから３年。
もうあの家には帰ってない。
あるのかどうかもわからない。
叔父に引き取られて３年。
小さな子供が1人。
そして、彼。
父親のことを何1つとして思っていないのか。
そんな不安もあった。
だけど、そんなこと子供の彼が考えることではない。
荷物も全部叔父の家にある。
今更帰ったところでどうなるのだろうか。
あの日、母親は叫んでいた。
父親のことを。
だけど、遅かった。
もっと早く来てほしかった。
そうすれば母親を苦しまずに亡くなれたのだと。
彼には父親の憎悪（ぞうお）しかない。
あの日常が一瞬にして奪われた。
父親のせいで。
憧れていた父親の姿。
かっこよくて羨ましい。
そんな人になりたい。
そう思っていたのに。
憧れが憎悪にあった瞬間、何かが音をたてて崩れていった。
今度は逆に父親に認められたいと願うようになった。
誰も悲しまないように、苦しまないようにと。
でも、そんな日がまたやってきた。
苦しい日々が。
止まない雨の中、訴え続けたあの日を。
あの魔探偵探偵事務所を。
この物語は1人の少年とその仲間達が織り成すストーリー。
そして、ある日を境（さかい）に狂いだした少年、金城シンの物語である。