47 / 47
長し夜に、ひらく窓
おまけSS それは早川の○○
しおりを挟む
俺は追いかけられている。
いや、俺だけじゃない。
俺も天神も悠斗も雨宮も藤枝も追いかけられていた。
「君は慣れているんじゃなかったのかい、早川!」
ああ、そうだ。たしかに俺は慣れている。慣れているけれども、こんなのは予想外だった。
そもそも俺は一人が好きなんだ。
「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん。どこかに隠れるとか、ダメかな?」
「ずっと一本道でしたので、それは難しいかと……」
「そっかぁ」
ほわほわとした雨宮に、冷静な藤枝。
この二人は、どこにいても平常運転なのか。いっそ、凄いとすら思う。
「じゃあ、やるしかないね! 大丈夫だよ! みんなは私が守るから!」
「え?」
男前な発言と共に、急に立ち止まった雨宮が敵の方を向いた。彼女の姿はいつもよりも、否、比べようがないほど頼もしく、ゴツい。
「では、僭越ながら私も助太刀致します」
雨宮のほぼ真横で前を見据える藤枝が、スラリと剣を抜く。
なんてカッコよくて頼もしいのか。
「じゃあ、オレは罠や抜け道がないか、重点に調べるわ」と言った悠斗は、飄々と慣れた手つきで壁や地面に触れていく。
これなら助かるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いたところで、俺の前を走っていたはずの天神がくるりと方向転換をした。
「それはいけない! 淑女を前に出すなんて」
「は?」
二人の前に出ようとする天神を、俺は言葉で必死に止める。
「待て待て!! おまえはヒーラーだろう?! 前に出るな!」
「案ずることはないさ!」
「案ずるわ! この初心者が!」
そうこう言っている内に、厳つい盾を持った大男が天神の前を塞ぐ。
ナイスプレー、ナイス判断、グッジョブ雨宮。
「心配しないで、天神くん。私もね、慣れてるんだよ?」
「そうなのかい? それならば大変心苦しいが、君に任せよう!」
にこっと微笑む筋肉隆々の大男が、ドンと胸を叩いたかと思えば、盾を地面に打ち下ろす。大きな地鳴りに負けず、雨宮が声を張り上げる。
「それじゃあ、彼らを止めます! 穂乃果ちゃんと早川さん、よろしくお願いします!」
「はい。任せてください」
「あ、うん」
ゆらゆらと不気味に動く、アンデッドの大群。意思統率はないはずなのに、皆一様の動きをする。現実世界で見たら、俺が卒倒すること間違いなしだろう。
その集団のなかを、ポニーテールの剣士が舞う。義経のようにひらりと飛んだかと思えば、敵の肩や壁を踏み台に、躊躇なく首を切っていく。サラサラと灰のように崩れ落ちるアンデッド。
見惚れるほど美しい剣技だ。
だが、見惚れている場合ではない。曲がりなりにも、俺は後方支援。毒矢を補填して弓を引く。アンデッドに毒が効くのかは知らないが、爆発矢よりも良いだろう。
「僕は何をすれば良いだろうか?」
「天神くんは、回復に勤めてくれると嬉しいな」
ワクワクする天神の声に応えるのは、雨宮。「承知したよ!」と答えた天神を中心に緑の輪が広がる。
凛とした声が呪文を唱え、パッと回復する天神。回復量0の表示が虚しく光って消えた。
待て。どうして、そうなった。
大体おまえは、ノーダメージだろう! と突っ込みたいところを抑えて、叫ぶ。
「藤枝さんと雨宮さんの回復だ!」
「これは失礼!」
再び輝く緑色の光。
間違ってデバフでも掛けるのではないかと、めちゃくちゃ不安になりながら弓を引き続けること三十分。最後の方は矢が足りなくなり、弓で相手を殴っていたような気もしたが、とにかく敵は全滅した。
ピロン、となるクリア音。
「さあ、次はどこに行こうか!」
と言う天神に疲労の色は見えない。後攻で逃げる必要もなく、回復に努めていたので当然と言えば当然だ。
雨宮と藤枝は、と思えば彼女たちは息切れ一つなく微笑んでいた。
頼もしい。そして、たくましい。
しかし、天神はとても気に入ったらしい。ワクワクしているのが、アバターからでも伝わる。まったく、たまに子どもっぽくなる彼に、苦笑する。
「そうだな、次は」
そう言いかけたところで、大音量の警告音が鳴った。
敵襲か! と焦ったところで、視界暗転。なぜか意思疎通が困難になった自分の目を懸命に開けると、見慣れた天井が見えた。
手には硬い感触。
どうやら、スマートフォンを握ったまま俺は寝落ちしていたらしい。
「夢でも天神は、天神なのか」
と、ため息を一つ。
アラームを止めてロックを外せば、時刻と共にメッセージの知らせ。
『今日、ランチ食べるですかい?』
「なんで、どこかの小物悪党みたいな口調なんだよ……」
だが、天神らしい文面に笑う。
彼が『未来の機器』を使いこなす道のりは、まだまだ長そうだ。
とりあえず今日の昼は、予測変換に頼らないメッセージの打ち方を教えようと思った。
いや、俺だけじゃない。
俺も天神も悠斗も雨宮も藤枝も追いかけられていた。
「君は慣れているんじゃなかったのかい、早川!」
ああ、そうだ。たしかに俺は慣れている。慣れているけれども、こんなのは予想外だった。
そもそも俺は一人が好きなんだ。
「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん。どこかに隠れるとか、ダメかな?」
「ずっと一本道でしたので、それは難しいかと……」
「そっかぁ」
ほわほわとした雨宮に、冷静な藤枝。
この二人は、どこにいても平常運転なのか。いっそ、凄いとすら思う。
「じゃあ、やるしかないね! 大丈夫だよ! みんなは私が守るから!」
「え?」
男前な発言と共に、急に立ち止まった雨宮が敵の方を向いた。彼女の姿はいつもよりも、否、比べようがないほど頼もしく、ゴツい。
「では、僭越ながら私も助太刀致します」
雨宮のほぼ真横で前を見据える藤枝が、スラリと剣を抜く。
なんてカッコよくて頼もしいのか。
「じゃあ、オレは罠や抜け道がないか、重点に調べるわ」と言った悠斗は、飄々と慣れた手つきで壁や地面に触れていく。
これなら助かるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いたところで、俺の前を走っていたはずの天神がくるりと方向転換をした。
「それはいけない! 淑女を前に出すなんて」
「は?」
二人の前に出ようとする天神を、俺は言葉で必死に止める。
「待て待て!! おまえはヒーラーだろう?! 前に出るな!」
「案ずることはないさ!」
「案ずるわ! この初心者が!」
そうこう言っている内に、厳つい盾を持った大男が天神の前を塞ぐ。
ナイスプレー、ナイス判断、グッジョブ雨宮。
「心配しないで、天神くん。私もね、慣れてるんだよ?」
「そうなのかい? それならば大変心苦しいが、君に任せよう!」
にこっと微笑む筋肉隆々の大男が、ドンと胸を叩いたかと思えば、盾を地面に打ち下ろす。大きな地鳴りに負けず、雨宮が声を張り上げる。
「それじゃあ、彼らを止めます! 穂乃果ちゃんと早川さん、よろしくお願いします!」
「はい。任せてください」
「あ、うん」
ゆらゆらと不気味に動く、アンデッドの大群。意思統率はないはずなのに、皆一様の動きをする。現実世界で見たら、俺が卒倒すること間違いなしだろう。
その集団のなかを、ポニーテールの剣士が舞う。義経のようにひらりと飛んだかと思えば、敵の肩や壁を踏み台に、躊躇なく首を切っていく。サラサラと灰のように崩れ落ちるアンデッド。
見惚れるほど美しい剣技だ。
だが、見惚れている場合ではない。曲がりなりにも、俺は後方支援。毒矢を補填して弓を引く。アンデッドに毒が効くのかは知らないが、爆発矢よりも良いだろう。
「僕は何をすれば良いだろうか?」
「天神くんは、回復に勤めてくれると嬉しいな」
ワクワクする天神の声に応えるのは、雨宮。「承知したよ!」と答えた天神を中心に緑の輪が広がる。
凛とした声が呪文を唱え、パッと回復する天神。回復量0の表示が虚しく光って消えた。
待て。どうして、そうなった。
大体おまえは、ノーダメージだろう! と突っ込みたいところを抑えて、叫ぶ。
「藤枝さんと雨宮さんの回復だ!」
「これは失礼!」
再び輝く緑色の光。
間違ってデバフでも掛けるのではないかと、めちゃくちゃ不安になりながら弓を引き続けること三十分。最後の方は矢が足りなくなり、弓で相手を殴っていたような気もしたが、とにかく敵は全滅した。
ピロン、となるクリア音。
「さあ、次はどこに行こうか!」
と言う天神に疲労の色は見えない。後攻で逃げる必要もなく、回復に努めていたので当然と言えば当然だ。
雨宮と藤枝は、と思えば彼女たちは息切れ一つなく微笑んでいた。
頼もしい。そして、たくましい。
しかし、天神はとても気に入ったらしい。ワクワクしているのが、アバターからでも伝わる。まったく、たまに子どもっぽくなる彼に、苦笑する。
「そうだな、次は」
そう言いかけたところで、大音量の警告音が鳴った。
敵襲か! と焦ったところで、視界暗転。なぜか意思疎通が困難になった自分の目を懸命に開けると、見慣れた天井が見えた。
手には硬い感触。
どうやら、スマートフォンを握ったまま俺は寝落ちしていたらしい。
「夢でも天神は、天神なのか」
と、ため息を一つ。
アラームを止めてロックを外せば、時刻と共にメッセージの知らせ。
『今日、ランチ食べるですかい?』
「なんで、どこかの小物悪党みたいな口調なんだよ……」
だが、天神らしい文面に笑う。
彼が『未来の機器』を使いこなす道のりは、まだまだ長そうだ。
とりあえず今日の昼は、予測変換に頼らないメッセージの打ち方を教えようと思った。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
磯村家の呪いと愛しのグランパ
しまおか
ミステリー
資産運用専門会社への就職希望の須藤大貴は、大学の同じクラスの山内楓と目黒絵美の会話を耳にし、楓が資産家である母方の祖母から十三歳の時に多額の遺産を受け取ったと知り興味を持つ。一人娘の母が亡くなり、代襲相続したからだ。そこで話に入り詳細を聞いた所、血の繋がりは無いけれど幼い頃から彼女を育てた、二人目の祖父が失踪していると聞く。また不仲な父と再婚相手に遺産を使わせないよう、祖母の遺言で楓が成人するまで祖父が弁護士を通じ遺産管理しているという。さらに祖父は、田舎の家の建物部分と一千万の現金だけ受け取り、残りは楓に渡した上で姻族終了届を出して死後離婚し、姿を消したと言うのだ。彼女は大学に無事入学したのを機に、愛しのグランパを探したいと考えていた。そこでかつて住んでいたN県の村に秘密があると思い、同じ県出身でしかも近い場所に実家がある絵美に相談していたのだ。また祖父を見つけるだけでなく、何故失踪までしたかを探らなければ解決できないと考えていた。四十年近く前に十年で磯村家とその親族が八人亡くなり、一人失踪しているという。内訳は五人が病死、三人が事故死だ。祖母の最初の夫の真之介が滑落死、その弟の光二朗も滑落死、二人の前に光二朗の妻が幼子を残し、事故死していた。複雑な経緯を聞いた大貴は、専門家に調査依頼することを提案。そこで泊という調査員に、彼女の祖父の居場所を突き止めて貰った。すると彼は多額の借金を抱え、三か所で働いていると判明。まだ過去の謎が明らかになっていない為、大貴達と泊で調査を勧めつつ様々な問題を解決しようと動く。そこから驚くべき事実が発覚する。楓とグランパの関係はどうなっていくのか!?
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
影の多重奏:神藤葉羽と消えた記憶の螺旋
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に平穏な日常を送っていた。しかし、ある日を境に、葉羽の周囲で不可解な出来事が起こり始める。それは、まるで悪夢のような、現実と虚構の境界が曖昧になる恐怖の連鎖だった。記憶の断片、多重人格、そして暗示。葉羽は、消えた記憶の螺旋を辿り、幼馴染と共に惨劇の真相へと迫る。だが、その先には、想像を絶する真実が待ち受けていた。
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる