今ドキのおばけ事情!?〜トイレの花子さんの働き方改革!〜

杏西モジコ

文字の大きさ
上 下
5 / 5

5

しおりを挟む
 わたし達は、放課後になるとみんなの目を盗むように渡り廊下へ行き、三階の音楽室横、女子トイレの三番目のドアを三回ノックした。花子さんを呼ぶと、花子さんは直ぐに出てきてくれて「やっと来たわね、おそいじゃない!」とうれしそうに言った。
 さっそく前回同様に花子さんの部屋へと移動する。
 花子さんはドアを開く前にいたずらっぽく笑った。
「見たらおどろくわよ」
 なんだか自信たっぷりで、開けるのを焦らされる。なんだろうか、久しぶりだから大きく模様替えでもしたのかもしれない。
「さぁ、どうぞ!」
 そう言って花子さんが思いっきりドアを開くと、中には大きなバースデーケーキとたくさんのお菓子とジュースや紅茶がテーブルいっぱいに並べられていた。
「わぁ!」
「すごい!」
「おいしそう!」
 わたし達が中に入ると、花子さんはいつの間にか小さなクラッカーを持っていて、それをパン、と鳴らした。
「明日香、誕生日おめでとう。わたしに誕生日を教えてくれた人間はあなたが初めてなの」
「花子さん……!わたしすごくうれしいよ、こんなに大きなケーキを見たのは初めてだもん!」
 花子さんはにっこり笑うと、わたしの背中を押して席につかせた。
「三人とも、今日は会いに来てくれてすごくうれしいわ!わたしね、あなた達のおかげでたくさんの友達ができるおばけになれて幸せなの。こんなに幸せなおばけ、わたしだけよ!おばけのみんなも、うらやましがるぐらいだし、本当にうれしすぎて魂抜けてどこか飛んでいっちゃいそうだった!」
 花子さんは手をパンパン、と鳴らす。すると、わたし達のグラスにジュースが注がれた。
「今日は明日香の誕生日だけど、葉月にも七海にもたくさんのありがとうを伝えたかったの。だから、たくさん食べて、楽しんでいってね」
 花子さんがグラスを上げると、わたし達もそれにならった。
「カンパイ!」
「カンパーイ!」
 四人のグラスが合わさって、乾杯の音が鳴る。わたし達のパーティーが始まった。


「でも花子さん人気がこんなに出るなんてね。わたし達、もう会えないのかと思っちゃった」
 切り分けたケーキを半分食べたところで葉月ちゃんが言った。
「そうよ。わたしのイラストも届けらなくて困ってたの」
 七海ちゃんは新しいプロフィール用のイラストを花子さんに渡しながら言った。
「七海、ありがとう」
 イラストをうれしそうに見ながら花子さんは言う。
「そうなのよね。これじゃあ、働きすぎて消えちゃいそう!もとの怖がられたおばけの方がもう少し時間はゆったりしてたもの」
 花子さんはため息を吐いて言った。
「明日香、何か良い案はないかしら?」
「えーっと、そうだなぁ……」
 そりゃ、今までの花子さんの生活を考えたらこんなに忙しいのは初めてなのだろう。おばけだって疲れてしまう。それに、こんなに仲良くなったお化けにまた会えなくなった上に、疲れて消えられてしまっては、わたし達もさびしい。
「じゃあ、一日に会える人数を決めて、お休みをつくろうよ。休みの日があれば、わたし達また会いに来れるよ」
 すると、葉月ちゃんが乗り出した。
「すごく良い案じゃない!わたしからもお願い。花子さん、お休みをつくって!」
「わたしも、またみんなでおしゃべりしたい!」
 七海ちゃんも言った。
「でも、おばけが休むって良いのかしら。おばけの体力は無限じゃないけれど、休んでいるおばけなんて聞いたことないわ」
 難しそうな顔をしている花子さん。わたし達だってお休みをもらうおばけは聞いたことがない。だけど、働き詰めのトイレの花子さんも、聞いたことがなかった。
「なら、花子さん。約束だったわたしのお願い聞いてくれる?」
「あ、じゃあわたしも!」
「わたしも!」
 葉月ちゃんと七海ちゃんが手をあげた。三人で顔を見合わせ、くすりと笑う。
「ええ。約束だったものね」
 すると、わたし達は声を揃えて言った。
「花子さんと遊べる日がほしい!」
 わたし達のお願いを聞いた花子さんは、おどろいた顔をした。
「そんなことで良いの?もっとあるじゃない、素敵なドレスを着たいだとか、遊園地をひとりじめして遊びつくしたいとか」
 わたしは首を横に振った。
「せっかく仲良くなれたんだもん。もっと花子さんと遊びたい!」
「そうだよ、まだわたし花子さんとゲームの対戦もしてない!」
「わたしも、一緒にお絵描きしたいわ!」
 わたし達は花子さんをかこんで、手を取った。
「困ったらまた一緒に色々考えられるし、名案だと思うの」
「ね、息抜きにわたし達と遊ぶ日をつくってよ。毎回じゃなくていいよ、ちゃんと花子さんのお休みを優先するからっ」
「花子さん、お願いっ」
 すると、花子さんは手を握り返した。
「……分かったわ。あなた達のお願いは約束だったもの。ちゃんと聞く!」
「本当っ?やったぁ!」
 わたし達は声を揃えて喜んだ。良かった、これで花子さんも休めるし、時々わたし達と遊ぶこともできるんだ!
「いい?これは新しい働き方改革でもあるわ。おばけの休日……良いじゃない!こうしちゃいられない、投稿してお知らせしなきゃ!三人とも、また一緒に考えてくれない?まずは一日に会える人数と、お休みにする曜日を決めたいの!」
 わたし達は顔を見合わせ、声を揃えて言った。
「もちろん!」



おわり

しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

Sirocos(シロコス)

杏西モジコさん

私、『ぼくらのオハコビ竜』の作者のしろこと言います。よろしくお願いします!

トイレの花子さん、最後まで読ませていただきました! おばけの働き方改革、面白いですね!
不気味な会談だったはずの花子さんが、明るくて賑やかなお話になって、私こういうノリが好きですwww

ところで、私の作品「ぼくらのオハコビ竜」にも、いろいろと変わったアイデアを盛り込んでいるつもりです。
とくにオハコビ竜は、竜と犬が合わさった、全身もふもふの竜で、さまざまなハイテクメカを身につけて空へと人を運ぶという竜たちです。ちょっと長めのお話ですが、一昨日完結したばかりですので、少しだけでもぜひ一度、私の作品をお読みいただければと思います。

なにとぞ、よろしくお願いいたします!(^▽^)

解除

あなたにおすすめの小説

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

プラネタリウムのめざす空

詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。 普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。 短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。