今ドキのおばけ事情!?〜トイレの花子さんの働き方改革!〜

杏西モジコ

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「うわぁっ!これ、どういうこと?」
 放課後、わたし達はこの間同様に音楽室の方へ向かった。だが、渡り廊下へ行くために二階におりると、長い列が渡り廊下から職員室の前まで続いていたのだ。列へ近づくと、その先は渡り廊下の奥まで続き、音楽室へ続く階段にも人がたくさん並んでいるのが見えた。
「ねぇ、これってなんの列?」
 わたしは最後尾にいる女の子に聞いた。すると、女の子は「花子さんに会うための列だよ」と言った。
「ええっ、こんなに長いの!」
「すごい、花子さん大人気だ!」
 でも、せっかく直接この反響を伝えにいこうと思ったのに、これではすんなり会うことができない。
 わたし達は顔を見合わせた。
「これじゃあ、会えないね」
「うん……今日はあきらめるしかないかも」
 だけど、今日でここが最後尾なら、明日は昇降口が最後尾かもしれない。その次の日は校庭にまで列が並んで、その次の日は校門を出て、すぐの公園や商店街にまで続くかもしれない。
「でも、花子さん楽しんでるかも」
「うん。たくさん人が来てほしいって言ってたしね」
「わたし達はみんなよりもたくさんおしゃべりもしたし、クッキーも紅茶も飲んだじゃない。少しはみんなと花子さんの時間にしてあげなきゃ」
 少しさびしくなったけど、花子さんのお仕事のじゃまはしないようにしようと、三人で話をした。

 その日、わたし達は真っ直ぐ家に帰った。


 次の日、やっぱり花子さんに会いたい人はたくさんいて、列が昨日よりも長くなっていた。その次の日も、そのまた次の日も、どんどん列は長くなり、とうとう校門の外に最後尾がくるほどだった。うわさを聞きつけた近所の小学校の児童や隣町の子ども。この学校を卒業した中学生のお姉さんやお兄さん達も並んでいた。
 花子さんはどんどん人気になった。わたし達もうれしかった。七海ちゃんはまた新しいプロフィール用のイラストを花子さんに描いてあげたのに、全然渡すことができなかった。


 ある日のことだった。
 花子さんはSNSに『今日は誕生日を祝うので、トイレの花子さんはお休みです』と投稿をした。そのコメント欄は花子さんの誕生日を祝うメッセージがいっぱいきていた。
 おかしいなぁ、誕生日は知らないって言ってたのに……。
 なんだか胸のあたりがモヤモヤした。

 学校に行くと、みんな「花子さん、今日はお休みだって」「じゃあ、サッカーしにいこうぜ」「お家でお菓子パーティーしようよ」と、花子さんに会いに行くことをあきらめて、別の予定を友達同士で立てている。
 その様子をながめなら、ランドセルを机に下ろすと、葉月ちゃんと七海ちゃんがわたしの席にやってきた。
「明日香ちゃん、お誕生日おめでとう」
 二人は声を揃えてわたしにお祝いを言い、それぞれ手に持っていたプレゼントを渡してくれた。
「わぁ、ありがとう!」
 すっかり花子さんのことで忘れていた。今日はわたしの誕生日だった。お母さんが「今日の夕飯は明日香の好きなものよ」って言っていた意味もやっと分かった。
「ねぇ、今日行ってみない?」
 葉月ちゃんがわたしと七海ちゃんにだけ聞こえるような小さな声で言った。
「行くって?」
「花子さんのところ。みんなにはお休みだって言ってるし、チャンスだよ」
 確かに。チャンスは今日ぐらいしかないかもしれない。
 わたしはうなずいた。
 久しぶりに花子さんに会いにいく。
 放課後の楽しみができて、わたし達はまだ朝の会も終わってないのにワクワクした。さっきまで胸のあたりをモヤモヤさせていたものは、きれいさっぱり消えていた。
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