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そうと決まればわたし達はとにかくたくさんの意見を出し合った。
ポスターを作って、学校の廊下に貼る案、みんなの家にチラシを配りにいく案、花子さんのうわさをクラスの子全員に話すとか、朝礼で校長先生にお話してもらうとか。
でも花子さんはどれもビビっとこないと言った。
「校長先生がわたしの話をするのって、なんだか変だわ。ポスターもチラシもウソっぽくなるし……その中のアイディアなら、ウワサを話してもらうっていうのが一番良いんだけど、それはずっとやってきたことだし、変わったものが良いのよね」
そうなると、また振り出しに戻ってしまう。わたし達はまた紅茶のおかわりをもらって、頭に浮かぶアイディアを出し合った。
「もう、なにも出てこないよ」
「やっぱり、ポスターが一番じゃない?」
葉月ちゃんと七海ちゃんが弱音を吐き出した。確かに、出切ってしまった感じはした。花子さんも一緒になって考えていたけれど、気に入ったものがなかったようだった。
「こんなに考えても出ないものなのね。変わったことを始めるのって、難しいわ」
花子さんもとうとう弱音を吐き出し、ベッドに寝転んだ。
「あっ」
もしかして……!
「ねぇ、花子さん。インターネットって知ってる?」
「ええ、知ってるわ。なめないでよね」
やっぱり!
「ここは学校なのよ。パソコン室に出入りだって簡単なんだから」
色んな新しい言葉を知っているおばけだと思っていたけれど、インターネットさえ分かるなら納得もできるが、まさかパソコン室に出入りしていたのはおどろきだった。
「それも魔法で?」
葉月ちゃんがキラキラと目を輝かせて言った。
「そうね、ここに来た時と同じ方法で移動するの。トイレのボタンを押すと、各階のトイレに移動もできるのよ」
花子さんはそれで四階のトイレに移動して、パソコン室に出入りしていると言った。ならもっと話が早い。わたしは早速提案した。
「パソコンが使えるなら、SNSを使って宣伝したら良いと思う!わたし達小学生もスマートフォンなら持ってるもん」
「えぇっ?」
おどろく花子さん。でもその横で「確かに!」「ナイスアイデア!」と葉月ちゃんと七海ちゃんは、きゃあきゃあ言っている。
「でも、おばけがSNSってどうなのよ」
花子さんは口をへの字に曲げ、腕を組んだ。
「そりゃあ、聞いたことはないけど面白そうって思うよね」
おばけがSNSをやるってなったら気になって見る人はたくさんいるはず。それに女の子だけじゃなくて男の子とも話ができるチャンスなのだ。
「うんうん。アカウント名も『トイレの花子さん』にしよう!」
花子さんはわたし達を不安そうな目で見てくる。
「大丈夫、わたし達もちゃんとフォローしてみんなに教えまくるから!」
「ね、花子さん。これが一番変わった方法だと思うよ!」
「花子さん、やろう!」
やる気になったわたし達は花子さんの背中をとにかく押した。だって、こんな面白くてワクワクするんだもの。絶対やった方が良い!
「……わ、わかったわよ!やるわよ、アカウント、作ればいいのね!」
花子さんはわたし達に押されて、SNSデビューをすることになった。
SNSのアカウントはすぐに作れた。アカウント名はもちろん『トイレの花子さん』だ。花子さんはおばけで写真には写らないから、プロフィールはお絵描きが得意な七海ちゃんが描いたイラストだった。
葉月ちゃんは塾や習い事をたくさんしているから、友達も多く、もともとフォロワーも多い。まずは花子さんのフォローをして、色んな人に見てもらえるよう拡散してもらった。
この中で本を一番読み、作文を書くのが得意なわたしは、花子さんと投稿する内容を考えた。
「どんなのが良いのかしら」
「じゃあ、まずは普通に花子さんのことを書いてみようよ」
「わたしのこと?」
「そう。誕生日とか好きなものでも良いの」
「ふぅん。わたし、自分の誕生日がいつなのか分からないの。あなたのを入れても良いかしら」
花子さんは画面を指差した。投稿を開始するには自分の誕生日を入れてプロフィールを完成させなければいけないようだ。
「うん、良いよ」
わたしは花子さんに誕生日を伝えた。画面に誕生日を入力すると、入力画面は投稿開始の画面に切り替わった。
「そうだ、花子さん。あの有名なトイレの花子さんの怖い話を投稿するの、どうかな?」
「でも、怖い話だとみんな読まないんじゃない?」
花子さんは本当に大丈夫?と念を押すように聞く。わたしはそれに自信たっぷりにうなずいた。
「学校の怪談、みんな読んだり聞いたりするのは大好きなの。ただ、そこに行ってみようって勇気はないだけ」
「そうなの?」
「そうだよ。夏になると特にみんな怖い話を求めるし、好きな人はずーっと怪談の本を読んでるもん。だからその投稿、すごいことになるはず!」
自信を持ってもらえるようにわたしは大げさに言った。でも、全部本当でそう思ったことだ。
「わかったわ、とりあえず自分のことから書いてみる!」
花子さんはブラウスの袖を捲ると、キーボードの表を見ながらパソコンに文字を打ち始めた。
「ねぇ、これ知ってる?」
「知ってる、知ってる!『花子さん』でしょ?」
「いると思う?」
「いるよー!だってアカウントもあるもん!」
「だよね!最初はトイレに引きずり込むおばけだって書いてあったけど最近はちがうみたいだもん」
「ね!引きずり込んだ人間と仲良くなっちゃったからいたずらやめるって、面白いおばけだよね。わたしも会ってみたいなぁ~」
わたしは葉月ちゃんと七海ちゃんとハイタッチをした。クラスの女の子の話題は花子さんがSNSに投稿を始めた次の日から、その話題でもちきりで、一週間も経つとまたたくまに広まり、今ではクラスの全員が花子さんのSNSをフォローしていた。もちろん、隣のクラスも、六年生も。四年生から一年生だって、知らない子はいない。葉月ちゃんの塾の友達もみんな知っている。つい昨日なんて、フォロワー数も三万人を超えたのだ。投稿した内容は初回の怖い自己紹介から、趣味のゲームやおばけの恋バナやウラ話まで。特に花『いいね』をもらったのは「実は理科室の人体模型くんはおばけの運動会の短距離走王なのよ」という投稿だった。
「すごい、良い反響だわ!」
「やったね、明日香ちゃん!会ってみたいって言ってる子いたよ」
「うん、花子さんに教えてあげなきゃ!」
わたし達は今日の放課後、花子さんに会いに行く約束をした。
しかし、わたし達はSNSの力をあなどっていたのだ。
ポスターを作って、学校の廊下に貼る案、みんなの家にチラシを配りにいく案、花子さんのうわさをクラスの子全員に話すとか、朝礼で校長先生にお話してもらうとか。
でも花子さんはどれもビビっとこないと言った。
「校長先生がわたしの話をするのって、なんだか変だわ。ポスターもチラシもウソっぽくなるし……その中のアイディアなら、ウワサを話してもらうっていうのが一番良いんだけど、それはずっとやってきたことだし、変わったものが良いのよね」
そうなると、また振り出しに戻ってしまう。わたし達はまた紅茶のおかわりをもらって、頭に浮かぶアイディアを出し合った。
「もう、なにも出てこないよ」
「やっぱり、ポスターが一番じゃない?」
葉月ちゃんと七海ちゃんが弱音を吐き出した。確かに、出切ってしまった感じはした。花子さんも一緒になって考えていたけれど、気に入ったものがなかったようだった。
「こんなに考えても出ないものなのね。変わったことを始めるのって、難しいわ」
花子さんもとうとう弱音を吐き出し、ベッドに寝転んだ。
「あっ」
もしかして……!
「ねぇ、花子さん。インターネットって知ってる?」
「ええ、知ってるわ。なめないでよね」
やっぱり!
「ここは学校なのよ。パソコン室に出入りだって簡単なんだから」
色んな新しい言葉を知っているおばけだと思っていたけれど、インターネットさえ分かるなら納得もできるが、まさかパソコン室に出入りしていたのはおどろきだった。
「それも魔法で?」
葉月ちゃんがキラキラと目を輝かせて言った。
「そうね、ここに来た時と同じ方法で移動するの。トイレのボタンを押すと、各階のトイレに移動もできるのよ」
花子さんはそれで四階のトイレに移動して、パソコン室に出入りしていると言った。ならもっと話が早い。わたしは早速提案した。
「パソコンが使えるなら、SNSを使って宣伝したら良いと思う!わたし達小学生もスマートフォンなら持ってるもん」
「えぇっ?」
おどろく花子さん。でもその横で「確かに!」「ナイスアイデア!」と葉月ちゃんと七海ちゃんは、きゃあきゃあ言っている。
「でも、おばけがSNSってどうなのよ」
花子さんは口をへの字に曲げ、腕を組んだ。
「そりゃあ、聞いたことはないけど面白そうって思うよね」
おばけがSNSをやるってなったら気になって見る人はたくさんいるはず。それに女の子だけじゃなくて男の子とも話ができるチャンスなのだ。
「うんうん。アカウント名も『トイレの花子さん』にしよう!」
花子さんはわたし達を不安そうな目で見てくる。
「大丈夫、わたし達もちゃんとフォローしてみんなに教えまくるから!」
「ね、花子さん。これが一番変わった方法だと思うよ!」
「花子さん、やろう!」
やる気になったわたし達は花子さんの背中をとにかく押した。だって、こんな面白くてワクワクするんだもの。絶対やった方が良い!
「……わ、わかったわよ!やるわよ、アカウント、作ればいいのね!」
花子さんはわたし達に押されて、SNSデビューをすることになった。
SNSのアカウントはすぐに作れた。アカウント名はもちろん『トイレの花子さん』だ。花子さんはおばけで写真には写らないから、プロフィールはお絵描きが得意な七海ちゃんが描いたイラストだった。
葉月ちゃんは塾や習い事をたくさんしているから、友達も多く、もともとフォロワーも多い。まずは花子さんのフォローをして、色んな人に見てもらえるよう拡散してもらった。
この中で本を一番読み、作文を書くのが得意なわたしは、花子さんと投稿する内容を考えた。
「どんなのが良いのかしら」
「じゃあ、まずは普通に花子さんのことを書いてみようよ」
「わたしのこと?」
「そう。誕生日とか好きなものでも良いの」
「ふぅん。わたし、自分の誕生日がいつなのか分からないの。あなたのを入れても良いかしら」
花子さんは画面を指差した。投稿を開始するには自分の誕生日を入れてプロフィールを完成させなければいけないようだ。
「うん、良いよ」
わたしは花子さんに誕生日を伝えた。画面に誕生日を入力すると、入力画面は投稿開始の画面に切り替わった。
「そうだ、花子さん。あの有名なトイレの花子さんの怖い話を投稿するの、どうかな?」
「でも、怖い話だとみんな読まないんじゃない?」
花子さんは本当に大丈夫?と念を押すように聞く。わたしはそれに自信たっぷりにうなずいた。
「学校の怪談、みんな読んだり聞いたりするのは大好きなの。ただ、そこに行ってみようって勇気はないだけ」
「そうなの?」
「そうだよ。夏になると特にみんな怖い話を求めるし、好きな人はずーっと怪談の本を読んでるもん。だからその投稿、すごいことになるはず!」
自信を持ってもらえるようにわたしは大げさに言った。でも、全部本当でそう思ったことだ。
「わかったわ、とりあえず自分のことから書いてみる!」
花子さんはブラウスの袖を捲ると、キーボードの表を見ながらパソコンに文字を打ち始めた。
「ねぇ、これ知ってる?」
「知ってる、知ってる!『花子さん』でしょ?」
「いると思う?」
「いるよー!だってアカウントもあるもん!」
「だよね!最初はトイレに引きずり込むおばけだって書いてあったけど最近はちがうみたいだもん」
「ね!引きずり込んだ人間と仲良くなっちゃったからいたずらやめるって、面白いおばけだよね。わたしも会ってみたいなぁ~」
わたしは葉月ちゃんと七海ちゃんとハイタッチをした。クラスの女の子の話題は花子さんがSNSに投稿を始めた次の日から、その話題でもちきりで、一週間も経つとまたたくまに広まり、今ではクラスの全員が花子さんのSNSをフォローしていた。もちろん、隣のクラスも、六年生も。四年生から一年生だって、知らない子はいない。葉月ちゃんの塾の友達もみんな知っている。つい昨日なんて、フォロワー数も三万人を超えたのだ。投稿した内容は初回の怖い自己紹介から、趣味のゲームやおばけの恋バナやウラ話まで。特に花『いいね』をもらったのは「実は理科室の人体模型くんはおばけの運動会の短距離走王なのよ」という投稿だった。
「すごい、良い反響だわ!」
「やったね、明日香ちゃん!会ってみたいって言ってる子いたよ」
「うん、花子さんに教えてあげなきゃ!」
わたし達は今日の放課後、花子さんに会いに行く約束をした。
しかし、わたし達はSNSの力をあなどっていたのだ。
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