今ドキのおばけ事情!?〜トイレの花子さんの働き方改革!〜

杏西モジコ

文字の大きさ
上 下
3 / 5

3

しおりを挟む
 そうと決まればわたし達はとにかくたくさんの意見を出し合った。
 ポスターを作って、学校の廊下に貼る案、みんなの家にチラシを配りにいく案、花子さんのうわさをクラスの子全員に話すとか、朝礼で校長先生にお話してもらうとか。
 でも花子さんはどれもビビっとこないと言った。
「校長先生がわたしの話をするのって、なんだか変だわ。ポスターもチラシもウソっぽくなるし……その中のアイディアなら、ウワサを話してもらうっていうのが一番良いんだけど、それはずっとやってきたことだし、変わったものが良いのよね」
 そうなると、また振り出しに戻ってしまう。わたし達はまた紅茶のおかわりをもらって、頭に浮かぶアイディアを出し合った。
「もう、なにも出てこないよ」
「やっぱり、ポスターが一番じゃない?」
 葉月ちゃんと七海ちゃんが弱音を吐き出した。確かに、出切ってしまった感じはした。花子さんも一緒になって考えていたけれど、気に入ったものがなかったようだった。
「こんなに考えても出ないものなのね。変わったことを始めるのって、難しいわ」
 花子さんもとうとう弱音を吐き出し、ベッドに寝転んだ。
「あっ」
 もしかして……!
「ねぇ、花子さん。インターネットって知ってる?」
「ええ、知ってるわ。なめないでよね」
 やっぱり!
「ここは学校なのよ。パソコン室に出入りだって簡単なんだから」
 色んな新しい言葉を知っているおばけだと思っていたけれど、インターネットさえ分かるなら納得もできるが、まさかパソコン室に出入りしていたのはおどろきだった。
「それも魔法で?」
 葉月ちゃんがキラキラと目を輝かせて言った。
「そうね、ここに来た時と同じ方法で移動するの。トイレのボタンを押すと、各階のトイレに移動もできるのよ」
 花子さんはそれで四階のトイレに移動して、パソコン室に出入りしていると言った。ならもっと話が早い。わたしは早速提案した。
「パソコンが使えるなら、SNSを使って宣伝したら良いと思う!わたし達小学生もスマートフォンなら持ってるもん」
「えぇっ?」
 おどろく花子さん。でもその横で「確かに!」「ナイスアイデア!」と葉月ちゃんと七海ちゃんは、きゃあきゃあ言っている。
「でも、おばけがSNSってどうなのよ」
 花子さんは口をへの字に曲げ、腕を組んだ。
「そりゃあ、聞いたことはないけど面白そうって思うよね」
 おばけがSNSをやるってなったら気になって見る人はたくさんいるはず。それに女の子だけじゃなくて男の子とも話ができるチャンスなのだ。
「うんうん。アカウント名も『トイレの花子さん』にしよう!」
 花子さんはわたし達を不安そうな目で見てくる。
「大丈夫、わたし達もちゃんとフォローしてみんなに教えまくるから!」
「ね、花子さん。これが一番変わった方法だと思うよ!」
「花子さん、やろう!」
 やる気になったわたし達は花子さんの背中をとにかく押した。だって、こんな面白くてワクワクするんだもの。絶対やった方が良い!
「……わ、わかったわよ!やるわよ、アカウント、作ればいいのね!」
 花子さんはわたし達に押されて、SNSデビューをすることになった。


 SNSのアカウントはすぐに作れた。アカウント名はもちろん『トイレの花子さん』だ。花子さんはおばけで写真には写らないから、プロフィールはお絵描きが得意な七海ちゃんが描いたイラストだった。
 葉月ちゃんは塾や習い事をたくさんしているから、友達も多く、もともとフォロワーも多い。まずは花子さんのフォローをして、色んな人に見てもらえるよう拡散してもらった。
 この中で本を一番読み、作文を書くのが得意なわたしは、花子さんと投稿する内容を考えた。
「どんなのが良いのかしら」
「じゃあ、まずは普通に花子さんのことを書いてみようよ」
「わたしのこと?」
「そう。誕生日とか好きなものでも良いの」
「ふぅん。わたし、自分の誕生日がいつなのか分からないの。あなたのを入れても良いかしら」
 花子さんは画面を指差した。投稿を開始するには自分の誕生日を入れてプロフィールを完成させなければいけないようだ。
「うん、良いよ」
 わたしは花子さんに誕生日を伝えた。画面に誕生日を入力すると、入力画面は投稿開始の画面に切り替わった。
「そうだ、花子さん。あの有名なトイレの花子さんの怖い話を投稿するの、どうかな?」
「でも、怖い話だとみんな読まないんじゃない?」
 花子さんは本当に大丈夫?と念を押すように聞く。わたしはそれに自信たっぷりにうなずいた。
「学校の怪談、みんな読んだり聞いたりするのは大好きなの。ただ、そこに行ってみようって勇気はないだけ」
「そうなの?」
「そうだよ。夏になると特にみんな怖い話を求めるし、好きな人はずーっと怪談の本を読んでるもん。だからその投稿、すごいことになるはず!」
 自信を持ってもらえるようにわたしは大げさに言った。でも、全部本当でそう思ったことだ。
「わかったわ、とりあえず自分のことから書いてみる!」
 花子さんはブラウスの袖を捲ると、キーボードの表を見ながらパソコンに文字を打ち始めた。



「ねぇ、これ知ってる?」
「知ってる、知ってる!『花子さん』でしょ?」
「いると思う?」
「いるよー!だってアカウントもあるもん!」
「だよね!最初はトイレに引きずり込むおばけだって書いてあったけど最近はちがうみたいだもん」
「ね!引きずり込んだ人間と仲良くなっちゃったからいたずらやめるって、面白いおばけだよね。わたしも会ってみたいなぁ~」

 わたしは葉月ちゃんと七海ちゃんとハイタッチをした。クラスの女の子の話題は花子さんがSNSに投稿を始めた次の日から、その話題でもちきりで、一週間も経つとまたたくまに広まり、今ではクラスの全員が花子さんのSNSをフォローしていた。もちろん、隣のクラスも、六年生も。四年生から一年生だって、知らない子はいない。葉月ちゃんの塾の友達もみんな知っている。つい昨日なんて、フォロワー数も三万人を超えたのだ。投稿した内容は初回の怖い自己紹介から、趣味のゲームやおばけの恋バナやウラ話まで。特に花『いいね』をもらったのは「実は理科室の人体模型くんはおばけの運動会の短距離走王なのよ」という投稿だった。
「すごい、良い反響だわ!」
「やったね、明日香ちゃん!会ってみたいって言ってる子いたよ」
「うん、花子さんに教えてあげなきゃ!」
 わたし達は今日の放課後、花子さんに会いに行く約束をした。

 しかし、わたし達はSNSの力をあなどっていたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

プラネタリウムのめざす空

詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。 普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。 短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。 彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。 その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。 「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。

処理中です...