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消えた来太
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自室のベッドに寝転がり、赤いマッチ箱を見つめ、来太は眉間に皺を寄せた。時刻は午前一時。既に外の通りも静まって、目覚まし時計の秒針だけが部屋に響く。もぬけの殻になった紅愛の部屋を後にした来太とラディは、ムキになった結斗を探して仕事に戻らせた。あのまま放置して、万が一紅愛を見つけたとしても良い話し合いにはならなかっただろうし、何よりあの地下道の占い師と繋がりがあると分かった以上、結斗を接触させるのは危険だと判断した。ただこれが思っていた以上に大変で、結斗も結斗でなかなか諦めが悪い。何度も説得を試みるが、頑固な結斗は頑なに拒み、ラディも来太もお手上げだった。最終的には行きつけの中華料理店で放流祭の理事会の人に見つかって、渋々仕事場へ戻って行く始末。タイミングが良いのか悪いのかは分からないが、結斗が戻ってくれたことには感謝した。しかし、その場にいた理事会の老人は来太を見るなり『お前が千年龍を目覚めさせた』と、嫌悪感を露わにぼそりと呟いたのを来太達は聞き漏らさなかった。
「昔話を信じすぎた老人の話だ。気にしなくて良い。現に放流祭から日数は経っているのに、言い伝えの大きな災害も何も起きてやしないだろ」
結斗は去り際にそう言ったが、来太は曖昧な返事を返すだけしかできなかった。
だが、懸念すべきはあの老人のように魔法使いや千年龍がどういう者達か知っている人間達だ。リュン達が動いた時、彼ら達が先頭に立って真っ先に魔法使い狩りを再び起こしてしまう。
そうなってはいけないから、紫苑さんは俺にあの日誌を渡したんだ……。
人間を止められるのは人間だけ。魔法使い狩りは二度と起こしてはならない。彼らも人間と等しく生きる意味も価値を持っているのだ。どの立場に立っても、互いを思いやらなければいけない。
だとしたら今俺に出来ることは……。
来太は自室から出ると、居間で紫苑の日誌を読んでいたラディに声を掛けた。
「なぁ、ラディ。俺、もう一回紅愛さんに会わないと」
「え、あぁ……」
ラディは日誌から顔を上げると、来太に向き直った。
「だけど、もう彼女もそうだがきっと例の占いの店にいる連中もさっさと移動したはずだ。それに、無闇に突っ込んだら来太の記憶ごとステビアのことが筒抜けになる。まぁ……きっともう筒抜けなんだろうけど」
「そんなこと分かってる。でも、ステビアさんの今の居場所は分からないし、俺の記憶を抜かれても知られることはないはずだ。寧ろそこを逆手に取って、俺から近付いて、この掃除機で化石を燃やしてしまうってのはどうかな」
来太は居間の隅に置いていた掃除機を軽く叩く。バーナーを搭載しているし、燃やすことは容易い。燃やすことが出来なかったとしても、掃除機の中に入れ込んでしまえば、化石を砕いて砂に変えることは可能だ。
「……君もまた物騒なものを作ったものだよ」
呆れ気味にラディは言った。
「その案は最終手段だ。良いかい?彼らは俺やステビア達と違う。人間をまだ憎んで憎んで仕方ない奴らなんだ。君から近付くなんてこと、僕は絶対に許可しない」
「じゃあ、どうしたら……」
これ以上の策はない。来太は手に持っていたマッチ箱を見つめた。
「僕が動く」
すると、ラディが立ち上がり、来太の手からマッチ箱を取った。
「さっきも言った通り、もうこの店には誰も居ないはず。今のうちに忍び込んで、そこから彼らの魔力を辿ってみよう」
「魔力を辿るって……。それこそ危険じゃないか」
ラディは首を振った。
「このまま待っているだけじゃ何も変わらない。それに僕は、今度こそステビアを守るって決めている」
真剣なその目に来太は何も言い返すことができず、代わりにラディの顔を強く見つめた。
「明日、君はもう一度結斗の元に行くんだ。人間だらけのところで魔法使いが騒ぎを起こすはずはないからね。その方が安心だ。夕方頃に迎えに行くから、一緒に帰ろう」
「……ラディは?」
「僕は明日の朝、地下道へ行く」
来太の眉が寄ったのを見て、ラディがくすりと笑った。
「なに、大丈夫さ。彼らの魔力が残っているかを確認するだけなんだ、すぐに戻るよ。その間だけど、君はなるべく人間の多いところを移動するんだ。良いね?」
「……分かったよ」
渋々頷く来太にラディは微笑む。一瞬、ステビアと離れたあの日が過って、ラディの指先が震えた。
大丈夫……今度こそは……。
ラディはそう自分に言い聞かせると、不安そうな顔をする来太の肩を強く叩き、客間に引っ込んだ。
次の日、来太が目覚めるとラディはもう家を出た後だった。簡単に朝食を済ませ、手早く結斗への差し入れを作ると、掃除機を背負って貯水タンクの事務所へと向かう。ラディの言い付け通り、来太は人通りの多い道を使った。道中、やたらと挙動不審になり、すれ違う人達と目が合って気まずくなるということもあったが何事もなく事務所へ辿り着いた。
「結局、全然終わらなくてさぁ……。本当、困ったものだよ」
事務室へ入るなり結斗が大袈裟すぎる溜息を吐いた。元はと言えば溜め込んだ自分が悪いのだろうが、彼の心情を逆撫ですることになりかねないので敢えてここは黙って苦笑いを返す。
「クレアが帰ってくるのはいつになるかなぁ……」
ボソリと呟きながら結斗がデスクの椅子にどかりと座る。
ああまで言われてまだ信じられるのか……。ここまでくると尊敬ものだな。
来太は結斗のデスクから、未確認と書かれたボックスに入ったままの書類を数枚取ると、近くのデスクに座った。
「一旦、やれることだけやっとこうよ。紅愛さんが帰って来たときにまた怒られるんじゃない?」
来太が促すと、結斗はまた大袈裟な溜息を吐いた。
「そうだな。まったく、本当に世話が焼ける我儘娘だこと」
それはブーメランでは、と喉元に出かけたが来太はゆっくり飲み込んだ。
「そろそろ休憩にしようか」
未確認だった書類を半分に減らした頃、結斗が大きく伸びをしながら言った。あれから一言も発することなく黙々と事務仕事をこなしたせいもあり、伸びたそばから関節の音がはっきりと聞こえる。集中すれば仕事は早いのに、どうして最初からやらないのかは、思っても口にしない。来太も一度伸びをすると、デスクから立ち上がった。
「おにぎりまだあるでしょ、それで良い?」
「うん。そういえば今日はまだ手を付けてなかったなぁ。通りで腹がこんなにもぺこぺこな訳だ。あぁ、でもお茶っ葉切らしてるんだった……」
「なら俺、下の自販機で買ってくるよ。ちょっと待ってて」
「おー」
結斗の返事を背中で聞くと、来太は事務室をそそくさと出て行った。
自販機は建物の一階、喫煙所の横に設置されていた。本来なら各階にもあって良いと思うのだが、自販機自体が古く、マツリダでも設置している場所は少なくなっているため、貯水タンクの管理事務所でもこの一箇所の設置となっている。
来太は小銭を投入し、お茶のペットボトルを二本購入した。受け取り口に落ちてきたペットボトルを取り出すと、すぐそばの灰皿に視線が奪われる。
紅愛さん……。
彼女は本当に魔法使いなのだろうか。来太の中でふわりと疑問が浮かぶ。そんな素振りは一度たりとも見たことがない。それに彼女は、紫苑や乃亜よりも人間に近かった。少なくとも人間に対して少なからず憎悪を抱いているのなら、紫苑や乃亜のように多少の壁があっても良かった。しかし、彼女は人間の社会で生きていた。それも、何年も、だ。やはりまだ、信じられない。
「……次に会った時もまたはぐらかされそうだしなぁ……」
昨日のやりとりを思い出し、占いなど興味ないとはっきりと言った彼女を思い出した時だった。
「何をはぐらかされるって?」
来太の真後ろで聞き覚えのない野太い声がした。
「……えっと……。だ、誰……ですか?」
来太が振り向くと、そこには大柄の金髪男が立っていた。来太自身もだいぶ身長はある方だと思ってはいたが、目の前の男は頭一つ分抜け出ている。見知らぬ大男を見上げていると、大男は面倒くさそうに頭を掻いた。
「ん……あぁ、そうだな。俺はオメーを知ってるが、オメーは俺を知らないんだった」
男の呑気な物言いに来太はたじろぐ。仕事柄マツリダで来太はそこそこ顔が広く、自分もおおよその住民の顔は知っているはずだった。
「……もしかして」
魔法使い…………。
ゴクリと喉が鳴る。来太が言い掛けた単語を察したのか、男はニヤリと口角を上げた。
「悪いようにはしねぇ。たぶんな。ただ、ボスがオメーに聞きてぇことがあるらしいんだよ。だから俺と一緒に来てもらう」
来太が後退ろうとした時、男は来太の手首を掴んだ。
「痛っ……!」
「おい、暴れんな。別に悪いようにはしねぇってさっきも伝えただろ」
そうは言うが、男の力は強く、手首には強い痛みが走る。
「は、離せ……っ」
来太がもがき、男の手を離そうとその手首を掴むと、頭上で大きな溜息を吐かれた。
「ったく、てめぇが悪いからな。俺は、悪いようにはしねぇって言ってんのに」
「何を……!」
「あー、面倒くせぇ……。とりあえずボスのとこ連れてきゃなんとかなるかぁ」
男は怠そうにそう言うと、来太のみぞおちに強い一発を差し込んだ。
「ゔっ、はっ……」
くぐもった来太の声が小さく漏れると、その身体から力が抜け、持っていたペットボトルを地面に落としたと同時に男の腕にもたれかかった。
「安心しろ、力は加減した。ボスが喋れない人間はいらねぇって言ったからな」
「ふざ……け……、加減って……」
立つこともままならない程の強い力を入れて何を言ってるんだと言い返したかったが、腹に響いた痛みと苦しさと、次第に遠のいていく意識で言葉も声も出てこなかった。
「クレアに感謝しとけよ、お前に魔具使うのはダメだって煩かったんだからなァ」
最後に聞こえたそのセリフで、来太は確信した。
この人が……ハルジだ……。
目の前が真っ暗になり、来太はそこで意識を手放した。
「お茶買うのにどんだけ時間がかかるんだよ、まったく……」
来太が事務室を出て二十分近く経った頃、結斗はようやくおにぎりを食べる手を止めた。空腹で勢いよく食べ進んだため、もう殆ど空になった弁当箱には、申し訳程度に来太の分が残っている。なかなか帰って来ない来太に痺れを切らし、結斗は席をたった。
「もー。昼休みは無限じゃないんだぞ」
唇を尖らせながら渋々と階段を降りて行く。一階まで降りて喫煙所へと向かう途中、貯水タンクの水質管理を任せていた部下二人が、近所の弁当屋のビニール袋を引っ提げて戻って来るのが見えた。見たところ、この二人が人数分の弁当をまとめて購入しに行ったのだろう。
「おーい。来太見てないか?」
喫煙所の自販機ではなく近所の店まで向かった可能性を考えて結斗が尋ねた。
「いや、見てませんけど……」
部下達は顔を見合わせて頷いた。
「まじか。じゃあ、やっぱり喫煙所の自販機だな……。足止めして悪かったよ。弁当しっかり食べて午後もよろしくな」
結斗はそれだけ言うと、踵を返して喫煙所へと向かって行った。
この事務所の喫煙所は、貯水タンクへ繋がる地下の階段を横切った建物沿いにあった。途中、ビュンと強い北風が吹き、結斗は思わず首をすくめる。
「寒っ!ったく、来太のやつ俺に隠れて煙草なんてやってんじゃ……。あーあークレアったら嫌な置き土産してくれたよ、本当にっ!」
未成年の来太をきっと紅愛が誑かし、煙草に誘ったに違いない。勝手な思い込みをしながら結斗は喫煙所への角を曲がった。
「…………あれ?」
気の抜けた結斗の声が北風に流される。いると思ったはずの来太はおろか、誰一人として喫煙所を使っている者がいなかった。
「……入れ違いか…………いや」
自販機のすぐそばにお茶のペットボトルが二本、転がっているのが見えた。すぐさま駆け付けてそのボトルを一本拾い上げると、まだほんのりと温かい。
「来太……?」
結斗は辺りを見渡した。誰かがいる気配はまったくしない。それもそうだろう。部下に喫煙者は数人いたはずだったが、だいたいが地下から上がるのを面倒くさがり、弁当購入を誰かに押し付けているのだ、きっと利用するにしても昼食後だろう。
……あいつらが弁当屋から帰って来たのは今さっきだし、まだ誰も利用していない可能性もある。ベビースモーカーはクレアぐらいだったし、昼休みに真っ直ぐここに来るのは飲み物を購入するぐらいだけど……。
給湯室は地下にもあるため、購入するためだけにここへ来るのはあまり考え難い。結斗はもう一度ペットボトルに目を落とした。
そうなると、このペットボトルを買ったのは……。
「……ん?」
自販機のすぐ真下から小さなバイブ音が聞こえた。結斗が屈むと、小さな機械が小刻みに震えているのが見える。手を伸ばして引っ張り出すと、黒猫のマスコットがぶら下がっているのが分かった。
「……なんだこれ」
結斗は訝しげにその機械を見つめた。恐る恐るその機械を開くと、画面が光り、そこには『CALL』と表示されている。
「……電話?」
それは結斗が見たことのない形の電話機だった。携帯できる通信機はもっと大きく、小さい物は無線機ぐらいだったし、離れている人と通話する際は、基本的に公衆電話か自宅用に取り付けられる電話機が主だった。こんな小さな電話機を見たのは初めてで、結斗はまじまじと手のひらに収まるそれを見つめる。
「いや、それよりこれ、どうしたら止まるんだ?」
一向に鳴り止まないバイブ音に、結斗は画面下の『通話』と書かれているボタンを慌てて押した。すると、画面上部に開いた穴から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『もしもし、来太くん。今、よろしいですか?現状のお話を一応お伝えしておこうかと……』
結斗は一瞬目を見開いた。
「……その声……紫苑さん?」
恐る恐るその声の主の名前を口にした。すると、一瞬の間が空いた。
『……あなたは……!結斗さん、なぜこれをあなたがお持ちなんです?』
焦った声が耳に抜ける。
「いやぁ、丁度今、拾ったとこなんですよ。これ、電話ですか?初めて見たんですけど、この形。もしかしてこれ、来太が作ったんですか?あいつやっぱ変なの作る才能だけはあるんですねぇー」
『……私の質問に答えてください。来太くんはどこです?なぜあなたがこれを?』
食い気味に紫苑が言った。その言い方に、結斗は以前顔を合わせて食事をした時とは明らかに空気が違うのを察する。
「紫苑さん、もしかして俺の弟分、変なことに巻き込んでないですよねぇ?いくら俺の大事な大事な紫苑さんでも、許せないことぐらいありますよ?」
結斗がいつものふざけた口調で聞き返すと、紫苑は黙り込む。数秒後、ゆっくりと息を吐く音が聞こえ、いつも以上に低い声で言った。
『……もう一度聞きます。来太くんはどこに?』
「それはこっちのセリフですよ。あいつが仕事を放っていなくなるような奴じゃないのは、あなたも知っているはず。一体、何に巻き込んだんです?」
結斗の問いにまたも紫苑は黙り込む。
「……来太が消えた。ついでに言うと、クレアもいなくなったんですよ。紫苑さん、何か知ってること……あるんじゃないですか?」
結斗の声が喫煙所に響く。少し離れたところから、喫煙所を利用しようと地下から上がってきた部下達の声が聞こえてきた。
『…………わかりました。あなたには全て話します。結斗さん、申し訳ないのですが、今から伝える場所に来ていただくことは可能ですか?』
結斗は腕時計の時刻を確認した。昼休みももうほんの数十分程度だ。どうせ残っている仕事も量が多いだけで、大したものではない。そもそも、たった一人で終わらせる気はさらさらなかった。
「ええ、もちろん。他でもない大事な大事な紫苑さんからのデートのお誘いですからね!どこにだって行きますよ」
結斗は見えない通話相手に微笑むと、紫苑から落ち合う場所を聞いて通話を切った。
「さてと……。とりあえず適当に急ぎの書類出したら俺も有休消化に入ってやるか……」
結斗は通信機を作業着の胸ポケットに入れ込むと、足早に事務室へと戻って行った。
通話を終えた紫苑がキッチンの椅子に座るなり額に手を当てた。
「……最悪の事態ですね」
小さな声でボソリと呟く。幸いにも乃亜はマルコと一緒に屋台の仕込みを手伝いに出ており、ステビアもアルバと一緒に庭で魔法薬草の植替えをしていた。結斗の口から聞かなくとも、来太が仕事中に黙って居なくなるような人間でないことは紫苑自身も重々承知だ。そうなると彼が消えた理由として考えられるのは最悪のケース。リュンが動き出したに違いない。
彼もここへ連れてくるべきだったか……。
紫苑は深い溜息を吐く。自分の考えに隙があったのは確かだ。ラディを側に置いておいたが、四六時中一緒に入れるとは限らない。紫苑は奥歯を噛み締め、拳を力強く握った。
やるせない思いはもうしたくない。ここで燻ってまた失うのはもうごめんだ……。
紫苑はゆっくりと立ち上がり、自分の鞄から呪符を数枚取り出して通信機と一緒に懐に仕舞い込んだ。すると、玄関扉が軋み音を上げた。
「……おや、もう作業は終わったんですか?」
扉の前にはステビアとアルバが泥だらけになって立っている。服はもちろん、手や顔にも土や泥が付いていた。
「あぁ。ある程度は終わった。魔力も注いだし、あとは様子見だな」
ステビアは大きな欠伸をしながら言った。
「ステビア、僕お風呂の準備をしてくるよ。流石にベッドにはそのままじゃ怒られちゃうしね」
「……あぁ、頼む」
アルバはにこりと微笑むと、風呂場の方へ駆けていく。
「随分仲良くなりましたねぇ」
「あいつも暇なんだろ。こんなとこでずっと身を隠すなんて……」
「引き篭もりが何を言ってるんです」
「うるさいな。それで、お前はさっき何を隠したんだ?」
ステビアが腕についた土を軽く払いながら言った。
「……何も隠してはいませんが」
紫苑の返答にステビアは眉を寄せる。昼過ぎにマルコと共に仕込みへ出かけた乃亜からは、紫苑が困ったように笑ったら、目を離すなと口酸っぱく言われていた。
「嘘が下手だな……」
深い溜息を吐き、ステビアは紫苑へ近付くと、彼の胸を指さした。
「オレの魔力がそこから匂う」
「これは護身用の呪符ですよ。私も何年も引きこもって薬ばかり作ってきたでしょう?回復魔法はできても、いざという時に役に立たないのは分かっていますからね」
以前そう言ってあなたから分けてもらった魔力で作りましたから。そう言って紫苑は悪びれもなくにこりと微笑むが、ステビアの中で更に疑いが膨らんでいく。
「昨日まではそんなとこに入れてなかっただろ。それに、さっき窓からお前が通信機で誰かと話ているのを見た」
ステビアが静かに答える。罰が悪そうな顔をした紫苑はまた溜息を吐いた。
「……相手はライタだよな」
ステビアの問いに紫苑は黙り込む。ここへ来る前に、黒猫のマスコットをつけた通信機を目の前で手渡しているのをしっかりと見ていた。
動力は魔力だと、言っていたはず。だとしたらライタから連絡をすることは出来ない。シオンから連絡を入れたか、あるいはラディから連絡が入ったか……。いや、用心深いラディがこんな早い段階で連絡を寄越すことはない。つまり、ライタに何かあったんじゃ……。
「誰と話していた?」
紫苑は相変わらず黙り込む。にこりとした笑顔が嫌な空気を纏っていた。
「……この後に及んで隠し事はやめておけ。後でノアから焼き入れられるぞ」
ステビアが呆れ口調で言うと、紫苑は隠し持っていた通信機を、静かにテーブルの上に置いた。同時に部屋の奥から勢いの良い水音がした。
「……そうですね、すみません。私の考えが浅はかでした」
「それで、オレの質問に答える気になったのか?」
すると、紫苑はもう一度口を真一文字に結び、眉を顰める。答え倦ねるその様子にステビアは苛立ちを覚えたが、ここで噛みついて答えを聞き出せなくなるよりはマシだと踏み、紫苑の口が開くのを待った。
「……通信機は今、結斗さんがお持ちのようです」
暫く黙っていた紫苑が、ゆっくりと口を開いた。
「あの、放流祭にいた……?」
「えぇ。彼が持っていました」
「……なんであいつが?」
ステビアの問いに紫苑は生唾を飲み込み、深い溜息を吐く。すると奥歯を噛み締め、眉を寄せながら小さな声で口を開いた。
「……来太くんが突然、消えたようです。通信機は結斗さんが拾ったとおっしゃってました……」
「…………なん、だと?」
一瞬でステビアの背中に寒気が走った。ゾクリとしたこの嫌な感覚は、何年も前に味わったもの。まだ攫われたとは決まっていないと、紫苑は言ったが、その声はぼんやりとくぐもって聞こえ、ステビアの耳にはっきりと届かない。身体中から血の気が引く音がし、ステビアの目の前が暗くなった。
「ステビアさんっ」
立ちくらみを起こしかけたステビアに、慌てて紫苑が駆け寄ろうとしたが、それをステビアは片手で制した。
「すみません、私が浅はかだったんです……。ここまで彼を巻き込んで置きながら連れて来ない選択肢をしてしまったのは間違いでした……」
「……いや、元はと言えばオレが蒔いた種だ……。あいつは……、あいつらはオレを見つけて助けた。全部それが元凶だ……」
「そんな、それは違います」
「違くないっ!」
頭を抱えながらステビアが嘆いた。元を辿れば自分の失態から始まった。あの日、来太がステビアの魔法薬草庫を見つけたのも、繋太が家の前で眠っていたステビアを招き入れたのも、全部自分の失態から起きたことだ。そのせいで繋太は我が子を抱くこともなく命を落とし、自分は記憶を失くしてしまうほど酷く心を病んだ。もう同じ過ちは決して踏まないつもりでいたというのに……。
「……マツリダに戻る」
ステビアは紫苑の腕を借りてゆっくり立ち上がると、震える声で言った。
「ちょ、ちょっと待ってください。あなたが行くのはもっと危険なんですよ!それこそもしリュンが来太くんを攫っていたとしたら……!」
紫苑がステビアの腕を掴んだ。行かせまいとするその力に、ステビアの顔が歪む。
「煩い、離せ……!今行かなきゃ、また最悪の結果になる!」
「ですからっ!あなたが捕まることも最悪の結果になるんですよ!」
紫苑の声が部屋に響く。すると、同時に部屋のドアが開いた。
「二人とも、どうしたの……?」
アルバが風呂の準備を終え、戻って来た。大人二人の言い争いが聞こえていたのか、その表情は強張っている。その顔に堪らなくなったのか、紫苑の掴む力が一瞬緩んだ。
「なんでもありません。すみません、急に大きな声を出してしまって……」
眉を寄せ、いつものようににこりとアルバに微笑んだ。すると、その一瞬の隙を突いたステビアが紫苑の腕を振り払い、テーブルの上から通信機をひったくると玄関扉から勢いよく飛び出した。
「ステビアさんっ!」
紫苑が舌打ちをしてその後を追いかけた。外に飛び出したステビアは、一目散に山の中へと向かっていく。
「おい、どこ行くんだ?」
飛び出したステビアの視線の先に、仕込みを終えた乃亜とマルコが屋台を引きながら戻ってきた。
「ノアくん!ステビアさんを止めてくださいっ!」
紫苑の叫び声を聞いた乃亜は、マルコに「悪い、手を離す」と一言断ると真黒な毛並みの犬の姿に変化した。
「……邪魔するなっ!」
犬の姿になった乃亜の足からは逃げ切れないと判断したのか、ステビアは手のひらに魔力を溜め、緑色の光をそこら一帯に放った。すると、みるみるうちに木々や草花が伸び始め、冬だというのに青々とした植物が広がり始めた。咄嗟に繰り出したステビアの魔法に制御はなく、その伸び始めた木々や草花の成長は止まる様子がない。乃亜の足元からは太い木の根が飛び出し行手を阻んだ。どこからか蔦や蔓も伸びてきて、足を取られる。その場から先へ進めない乃亜は、遠ざかるステビアの背中に向かって吠えた。
「ステビアさんっ!」
家から飛び出した紫苑もステビアの名前を叫ぶが、振り向くことなく山中の奥へとその後ろ姿が消えていく。
「ックソ!」
視界も行手も閉ざされた乃亜は人型に戻って大きな舌打ちをした。
「ステビアっ!」
アルバの声が遠くで聞こえる。同時に一羽の鳩がステビアが駆けて行った方へ飛んで行った。
「なんだって、あいつ……。どこに向かったんだ……?」
「……マツリダです」
紫苑が崩れ落ちるように地面に膝を付けた。
「ハァ?何考えてんだ、あいつは!」
「……来太くんが、消えたそうです」
「……は?」
乃亜の目が大きく見開かれた。最悪の事態を想像したのか、いつも以上に深く眉間に皺が寄る。
「……私が」
「これに関してはお前が、とかじゃねぇ」
「ですがっ」
「次言ったら噛み付くぞ。分かったらさっさと準備しろ、あいつら回収しに行くんだろ」
「……はい」
乃亜は紫苑に肩を貸して起き上がらせると、眼前でまだ成長を続ける植物を見上げて言った。
「……とりあえずこれ、どうにかするぞ」
「えぇ……。マルコさんもご出勤できそうにないですもんね……」
「昔話を信じすぎた老人の話だ。気にしなくて良い。現に放流祭から日数は経っているのに、言い伝えの大きな災害も何も起きてやしないだろ」
結斗は去り際にそう言ったが、来太は曖昧な返事を返すだけしかできなかった。
だが、懸念すべきはあの老人のように魔法使いや千年龍がどういう者達か知っている人間達だ。リュン達が動いた時、彼ら達が先頭に立って真っ先に魔法使い狩りを再び起こしてしまう。
そうなってはいけないから、紫苑さんは俺にあの日誌を渡したんだ……。
人間を止められるのは人間だけ。魔法使い狩りは二度と起こしてはならない。彼らも人間と等しく生きる意味も価値を持っているのだ。どの立場に立っても、互いを思いやらなければいけない。
だとしたら今俺に出来ることは……。
来太は自室から出ると、居間で紫苑の日誌を読んでいたラディに声を掛けた。
「なぁ、ラディ。俺、もう一回紅愛さんに会わないと」
「え、あぁ……」
ラディは日誌から顔を上げると、来太に向き直った。
「だけど、もう彼女もそうだがきっと例の占いの店にいる連中もさっさと移動したはずだ。それに、無闇に突っ込んだら来太の記憶ごとステビアのことが筒抜けになる。まぁ……きっともう筒抜けなんだろうけど」
「そんなこと分かってる。でも、ステビアさんの今の居場所は分からないし、俺の記憶を抜かれても知られることはないはずだ。寧ろそこを逆手に取って、俺から近付いて、この掃除機で化石を燃やしてしまうってのはどうかな」
来太は居間の隅に置いていた掃除機を軽く叩く。バーナーを搭載しているし、燃やすことは容易い。燃やすことが出来なかったとしても、掃除機の中に入れ込んでしまえば、化石を砕いて砂に変えることは可能だ。
「……君もまた物騒なものを作ったものだよ」
呆れ気味にラディは言った。
「その案は最終手段だ。良いかい?彼らは俺やステビア達と違う。人間をまだ憎んで憎んで仕方ない奴らなんだ。君から近付くなんてこと、僕は絶対に許可しない」
「じゃあ、どうしたら……」
これ以上の策はない。来太は手に持っていたマッチ箱を見つめた。
「僕が動く」
すると、ラディが立ち上がり、来太の手からマッチ箱を取った。
「さっきも言った通り、もうこの店には誰も居ないはず。今のうちに忍び込んで、そこから彼らの魔力を辿ってみよう」
「魔力を辿るって……。それこそ危険じゃないか」
ラディは首を振った。
「このまま待っているだけじゃ何も変わらない。それに僕は、今度こそステビアを守るって決めている」
真剣なその目に来太は何も言い返すことができず、代わりにラディの顔を強く見つめた。
「明日、君はもう一度結斗の元に行くんだ。人間だらけのところで魔法使いが騒ぎを起こすはずはないからね。その方が安心だ。夕方頃に迎えに行くから、一緒に帰ろう」
「……ラディは?」
「僕は明日の朝、地下道へ行く」
来太の眉が寄ったのを見て、ラディがくすりと笑った。
「なに、大丈夫さ。彼らの魔力が残っているかを確認するだけなんだ、すぐに戻るよ。その間だけど、君はなるべく人間の多いところを移動するんだ。良いね?」
「……分かったよ」
渋々頷く来太にラディは微笑む。一瞬、ステビアと離れたあの日が過って、ラディの指先が震えた。
大丈夫……今度こそは……。
ラディはそう自分に言い聞かせると、不安そうな顔をする来太の肩を強く叩き、客間に引っ込んだ。
次の日、来太が目覚めるとラディはもう家を出た後だった。簡単に朝食を済ませ、手早く結斗への差し入れを作ると、掃除機を背負って貯水タンクの事務所へと向かう。ラディの言い付け通り、来太は人通りの多い道を使った。道中、やたらと挙動不審になり、すれ違う人達と目が合って気まずくなるということもあったが何事もなく事務所へ辿り着いた。
「結局、全然終わらなくてさぁ……。本当、困ったものだよ」
事務室へ入るなり結斗が大袈裟すぎる溜息を吐いた。元はと言えば溜め込んだ自分が悪いのだろうが、彼の心情を逆撫ですることになりかねないので敢えてここは黙って苦笑いを返す。
「クレアが帰ってくるのはいつになるかなぁ……」
ボソリと呟きながら結斗がデスクの椅子にどかりと座る。
ああまで言われてまだ信じられるのか……。ここまでくると尊敬ものだな。
来太は結斗のデスクから、未確認と書かれたボックスに入ったままの書類を数枚取ると、近くのデスクに座った。
「一旦、やれることだけやっとこうよ。紅愛さんが帰って来たときにまた怒られるんじゃない?」
来太が促すと、結斗はまた大袈裟な溜息を吐いた。
「そうだな。まったく、本当に世話が焼ける我儘娘だこと」
それはブーメランでは、と喉元に出かけたが来太はゆっくり飲み込んだ。
「そろそろ休憩にしようか」
未確認だった書類を半分に減らした頃、結斗が大きく伸びをしながら言った。あれから一言も発することなく黙々と事務仕事をこなしたせいもあり、伸びたそばから関節の音がはっきりと聞こえる。集中すれば仕事は早いのに、どうして最初からやらないのかは、思っても口にしない。来太も一度伸びをすると、デスクから立ち上がった。
「おにぎりまだあるでしょ、それで良い?」
「うん。そういえば今日はまだ手を付けてなかったなぁ。通りで腹がこんなにもぺこぺこな訳だ。あぁ、でもお茶っ葉切らしてるんだった……」
「なら俺、下の自販機で買ってくるよ。ちょっと待ってて」
「おー」
結斗の返事を背中で聞くと、来太は事務室をそそくさと出て行った。
自販機は建物の一階、喫煙所の横に設置されていた。本来なら各階にもあって良いと思うのだが、自販機自体が古く、マツリダでも設置している場所は少なくなっているため、貯水タンクの管理事務所でもこの一箇所の設置となっている。
来太は小銭を投入し、お茶のペットボトルを二本購入した。受け取り口に落ちてきたペットボトルを取り出すと、すぐそばの灰皿に視線が奪われる。
紅愛さん……。
彼女は本当に魔法使いなのだろうか。来太の中でふわりと疑問が浮かぶ。そんな素振りは一度たりとも見たことがない。それに彼女は、紫苑や乃亜よりも人間に近かった。少なくとも人間に対して少なからず憎悪を抱いているのなら、紫苑や乃亜のように多少の壁があっても良かった。しかし、彼女は人間の社会で生きていた。それも、何年も、だ。やはりまだ、信じられない。
「……次に会った時もまたはぐらかされそうだしなぁ……」
昨日のやりとりを思い出し、占いなど興味ないとはっきりと言った彼女を思い出した時だった。
「何をはぐらかされるって?」
来太の真後ろで聞き覚えのない野太い声がした。
「……えっと……。だ、誰……ですか?」
来太が振り向くと、そこには大柄の金髪男が立っていた。来太自身もだいぶ身長はある方だと思ってはいたが、目の前の男は頭一つ分抜け出ている。見知らぬ大男を見上げていると、大男は面倒くさそうに頭を掻いた。
「ん……あぁ、そうだな。俺はオメーを知ってるが、オメーは俺を知らないんだった」
男の呑気な物言いに来太はたじろぐ。仕事柄マツリダで来太はそこそこ顔が広く、自分もおおよその住民の顔は知っているはずだった。
「……もしかして」
魔法使い…………。
ゴクリと喉が鳴る。来太が言い掛けた単語を察したのか、男はニヤリと口角を上げた。
「悪いようにはしねぇ。たぶんな。ただ、ボスがオメーに聞きてぇことがあるらしいんだよ。だから俺と一緒に来てもらう」
来太が後退ろうとした時、男は来太の手首を掴んだ。
「痛っ……!」
「おい、暴れんな。別に悪いようにはしねぇってさっきも伝えただろ」
そうは言うが、男の力は強く、手首には強い痛みが走る。
「は、離せ……っ」
来太がもがき、男の手を離そうとその手首を掴むと、頭上で大きな溜息を吐かれた。
「ったく、てめぇが悪いからな。俺は、悪いようにはしねぇって言ってんのに」
「何を……!」
「あー、面倒くせぇ……。とりあえずボスのとこ連れてきゃなんとかなるかぁ」
男は怠そうにそう言うと、来太のみぞおちに強い一発を差し込んだ。
「ゔっ、はっ……」
くぐもった来太の声が小さく漏れると、その身体から力が抜け、持っていたペットボトルを地面に落としたと同時に男の腕にもたれかかった。
「安心しろ、力は加減した。ボスが喋れない人間はいらねぇって言ったからな」
「ふざ……け……、加減って……」
立つこともままならない程の強い力を入れて何を言ってるんだと言い返したかったが、腹に響いた痛みと苦しさと、次第に遠のいていく意識で言葉も声も出てこなかった。
「クレアに感謝しとけよ、お前に魔具使うのはダメだって煩かったんだからなァ」
最後に聞こえたそのセリフで、来太は確信した。
この人が……ハルジだ……。
目の前が真っ暗になり、来太はそこで意識を手放した。
「お茶買うのにどんだけ時間がかかるんだよ、まったく……」
来太が事務室を出て二十分近く経った頃、結斗はようやくおにぎりを食べる手を止めた。空腹で勢いよく食べ進んだため、もう殆ど空になった弁当箱には、申し訳程度に来太の分が残っている。なかなか帰って来ない来太に痺れを切らし、結斗は席をたった。
「もー。昼休みは無限じゃないんだぞ」
唇を尖らせながら渋々と階段を降りて行く。一階まで降りて喫煙所へと向かう途中、貯水タンクの水質管理を任せていた部下二人が、近所の弁当屋のビニール袋を引っ提げて戻って来るのが見えた。見たところ、この二人が人数分の弁当をまとめて購入しに行ったのだろう。
「おーい。来太見てないか?」
喫煙所の自販機ではなく近所の店まで向かった可能性を考えて結斗が尋ねた。
「いや、見てませんけど……」
部下達は顔を見合わせて頷いた。
「まじか。じゃあ、やっぱり喫煙所の自販機だな……。足止めして悪かったよ。弁当しっかり食べて午後もよろしくな」
結斗はそれだけ言うと、踵を返して喫煙所へと向かって行った。
この事務所の喫煙所は、貯水タンクへ繋がる地下の階段を横切った建物沿いにあった。途中、ビュンと強い北風が吹き、結斗は思わず首をすくめる。
「寒っ!ったく、来太のやつ俺に隠れて煙草なんてやってんじゃ……。あーあークレアったら嫌な置き土産してくれたよ、本当にっ!」
未成年の来太をきっと紅愛が誑かし、煙草に誘ったに違いない。勝手な思い込みをしながら結斗は喫煙所への角を曲がった。
「…………あれ?」
気の抜けた結斗の声が北風に流される。いると思ったはずの来太はおろか、誰一人として喫煙所を使っている者がいなかった。
「……入れ違いか…………いや」
自販機のすぐそばにお茶のペットボトルが二本、転がっているのが見えた。すぐさま駆け付けてそのボトルを一本拾い上げると、まだほんのりと温かい。
「来太……?」
結斗は辺りを見渡した。誰かがいる気配はまったくしない。それもそうだろう。部下に喫煙者は数人いたはずだったが、だいたいが地下から上がるのを面倒くさがり、弁当購入を誰かに押し付けているのだ、きっと利用するにしても昼食後だろう。
……あいつらが弁当屋から帰って来たのは今さっきだし、まだ誰も利用していない可能性もある。ベビースモーカーはクレアぐらいだったし、昼休みに真っ直ぐここに来るのは飲み物を購入するぐらいだけど……。
給湯室は地下にもあるため、購入するためだけにここへ来るのはあまり考え難い。結斗はもう一度ペットボトルに目を落とした。
そうなると、このペットボトルを買ったのは……。
「……ん?」
自販機のすぐ真下から小さなバイブ音が聞こえた。結斗が屈むと、小さな機械が小刻みに震えているのが見える。手を伸ばして引っ張り出すと、黒猫のマスコットがぶら下がっているのが分かった。
「……なんだこれ」
結斗は訝しげにその機械を見つめた。恐る恐るその機械を開くと、画面が光り、そこには『CALL』と表示されている。
「……電話?」
それは結斗が見たことのない形の電話機だった。携帯できる通信機はもっと大きく、小さい物は無線機ぐらいだったし、離れている人と通話する際は、基本的に公衆電話か自宅用に取り付けられる電話機が主だった。こんな小さな電話機を見たのは初めてで、結斗はまじまじと手のひらに収まるそれを見つめる。
「いや、それよりこれ、どうしたら止まるんだ?」
一向に鳴り止まないバイブ音に、結斗は画面下の『通話』と書かれているボタンを慌てて押した。すると、画面上部に開いた穴から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『もしもし、来太くん。今、よろしいですか?現状のお話を一応お伝えしておこうかと……』
結斗は一瞬目を見開いた。
「……その声……紫苑さん?」
恐る恐るその声の主の名前を口にした。すると、一瞬の間が空いた。
『……あなたは……!結斗さん、なぜこれをあなたがお持ちなんです?』
焦った声が耳に抜ける。
「いやぁ、丁度今、拾ったとこなんですよ。これ、電話ですか?初めて見たんですけど、この形。もしかしてこれ、来太が作ったんですか?あいつやっぱ変なの作る才能だけはあるんですねぇー」
『……私の質問に答えてください。来太くんはどこです?なぜあなたがこれを?』
食い気味に紫苑が言った。その言い方に、結斗は以前顔を合わせて食事をした時とは明らかに空気が違うのを察する。
「紫苑さん、もしかして俺の弟分、変なことに巻き込んでないですよねぇ?いくら俺の大事な大事な紫苑さんでも、許せないことぐらいありますよ?」
結斗がいつものふざけた口調で聞き返すと、紫苑は黙り込む。数秒後、ゆっくりと息を吐く音が聞こえ、いつも以上に低い声で言った。
『……もう一度聞きます。来太くんはどこに?』
「それはこっちのセリフですよ。あいつが仕事を放っていなくなるような奴じゃないのは、あなたも知っているはず。一体、何に巻き込んだんです?」
結斗の問いにまたも紫苑は黙り込む。
「……来太が消えた。ついでに言うと、クレアもいなくなったんですよ。紫苑さん、何か知ってること……あるんじゃないですか?」
結斗の声が喫煙所に響く。少し離れたところから、喫煙所を利用しようと地下から上がってきた部下達の声が聞こえてきた。
『…………わかりました。あなたには全て話します。結斗さん、申し訳ないのですが、今から伝える場所に来ていただくことは可能ですか?』
結斗は腕時計の時刻を確認した。昼休みももうほんの数十分程度だ。どうせ残っている仕事も量が多いだけで、大したものではない。そもそも、たった一人で終わらせる気はさらさらなかった。
「ええ、もちろん。他でもない大事な大事な紫苑さんからのデートのお誘いですからね!どこにだって行きますよ」
結斗は見えない通話相手に微笑むと、紫苑から落ち合う場所を聞いて通話を切った。
「さてと……。とりあえず適当に急ぎの書類出したら俺も有休消化に入ってやるか……」
結斗は通信機を作業着の胸ポケットに入れ込むと、足早に事務室へと戻って行った。
通話を終えた紫苑がキッチンの椅子に座るなり額に手を当てた。
「……最悪の事態ですね」
小さな声でボソリと呟く。幸いにも乃亜はマルコと一緒に屋台の仕込みを手伝いに出ており、ステビアもアルバと一緒に庭で魔法薬草の植替えをしていた。結斗の口から聞かなくとも、来太が仕事中に黙って居なくなるような人間でないことは紫苑自身も重々承知だ。そうなると彼が消えた理由として考えられるのは最悪のケース。リュンが動き出したに違いない。
彼もここへ連れてくるべきだったか……。
紫苑は深い溜息を吐く。自分の考えに隙があったのは確かだ。ラディを側に置いておいたが、四六時中一緒に入れるとは限らない。紫苑は奥歯を噛み締め、拳を力強く握った。
やるせない思いはもうしたくない。ここで燻ってまた失うのはもうごめんだ……。
紫苑はゆっくりと立ち上がり、自分の鞄から呪符を数枚取り出して通信機と一緒に懐に仕舞い込んだ。すると、玄関扉が軋み音を上げた。
「……おや、もう作業は終わったんですか?」
扉の前にはステビアとアルバが泥だらけになって立っている。服はもちろん、手や顔にも土や泥が付いていた。
「あぁ。ある程度は終わった。魔力も注いだし、あとは様子見だな」
ステビアは大きな欠伸をしながら言った。
「ステビア、僕お風呂の準備をしてくるよ。流石にベッドにはそのままじゃ怒られちゃうしね」
「……あぁ、頼む」
アルバはにこりと微笑むと、風呂場の方へ駆けていく。
「随分仲良くなりましたねぇ」
「あいつも暇なんだろ。こんなとこでずっと身を隠すなんて……」
「引き篭もりが何を言ってるんです」
「うるさいな。それで、お前はさっき何を隠したんだ?」
ステビアが腕についた土を軽く払いながら言った。
「……何も隠してはいませんが」
紫苑の返答にステビアは眉を寄せる。昼過ぎにマルコと共に仕込みへ出かけた乃亜からは、紫苑が困ったように笑ったら、目を離すなと口酸っぱく言われていた。
「嘘が下手だな……」
深い溜息を吐き、ステビアは紫苑へ近付くと、彼の胸を指さした。
「オレの魔力がそこから匂う」
「これは護身用の呪符ですよ。私も何年も引きこもって薬ばかり作ってきたでしょう?回復魔法はできても、いざという時に役に立たないのは分かっていますからね」
以前そう言ってあなたから分けてもらった魔力で作りましたから。そう言って紫苑は悪びれもなくにこりと微笑むが、ステビアの中で更に疑いが膨らんでいく。
「昨日まではそんなとこに入れてなかっただろ。それに、さっき窓からお前が通信機で誰かと話ているのを見た」
ステビアが静かに答える。罰が悪そうな顔をした紫苑はまた溜息を吐いた。
「……相手はライタだよな」
ステビアの問いに紫苑は黙り込む。ここへ来る前に、黒猫のマスコットをつけた通信機を目の前で手渡しているのをしっかりと見ていた。
動力は魔力だと、言っていたはず。だとしたらライタから連絡をすることは出来ない。シオンから連絡を入れたか、あるいはラディから連絡が入ったか……。いや、用心深いラディがこんな早い段階で連絡を寄越すことはない。つまり、ライタに何かあったんじゃ……。
「誰と話していた?」
紫苑は相変わらず黙り込む。にこりとした笑顔が嫌な空気を纏っていた。
「……この後に及んで隠し事はやめておけ。後でノアから焼き入れられるぞ」
ステビアが呆れ口調で言うと、紫苑は隠し持っていた通信機を、静かにテーブルの上に置いた。同時に部屋の奥から勢いの良い水音がした。
「……そうですね、すみません。私の考えが浅はかでした」
「それで、オレの質問に答える気になったのか?」
すると、紫苑はもう一度口を真一文字に結び、眉を顰める。答え倦ねるその様子にステビアは苛立ちを覚えたが、ここで噛みついて答えを聞き出せなくなるよりはマシだと踏み、紫苑の口が開くのを待った。
「……通信機は今、結斗さんがお持ちのようです」
暫く黙っていた紫苑が、ゆっくりと口を開いた。
「あの、放流祭にいた……?」
「えぇ。彼が持っていました」
「……なんであいつが?」
ステビアの問いに紫苑は生唾を飲み込み、深い溜息を吐く。すると奥歯を噛み締め、眉を寄せながら小さな声で口を開いた。
「……来太くんが突然、消えたようです。通信機は結斗さんが拾ったとおっしゃってました……」
「…………なん、だと?」
一瞬でステビアの背中に寒気が走った。ゾクリとしたこの嫌な感覚は、何年も前に味わったもの。まだ攫われたとは決まっていないと、紫苑は言ったが、その声はぼんやりとくぐもって聞こえ、ステビアの耳にはっきりと届かない。身体中から血の気が引く音がし、ステビアの目の前が暗くなった。
「ステビアさんっ」
立ちくらみを起こしかけたステビアに、慌てて紫苑が駆け寄ろうとしたが、それをステビアは片手で制した。
「すみません、私が浅はかだったんです……。ここまで彼を巻き込んで置きながら連れて来ない選択肢をしてしまったのは間違いでした……」
「……いや、元はと言えばオレが蒔いた種だ……。あいつは……、あいつらはオレを見つけて助けた。全部それが元凶だ……」
「そんな、それは違います」
「違くないっ!」
頭を抱えながらステビアが嘆いた。元を辿れば自分の失態から始まった。あの日、来太がステビアの魔法薬草庫を見つけたのも、繋太が家の前で眠っていたステビアを招き入れたのも、全部自分の失態から起きたことだ。そのせいで繋太は我が子を抱くこともなく命を落とし、自分は記憶を失くしてしまうほど酷く心を病んだ。もう同じ過ちは決して踏まないつもりでいたというのに……。
「……マツリダに戻る」
ステビアは紫苑の腕を借りてゆっくり立ち上がると、震える声で言った。
「ちょ、ちょっと待ってください。あなたが行くのはもっと危険なんですよ!それこそもしリュンが来太くんを攫っていたとしたら……!」
紫苑がステビアの腕を掴んだ。行かせまいとするその力に、ステビアの顔が歪む。
「煩い、離せ……!今行かなきゃ、また最悪の結果になる!」
「ですからっ!あなたが捕まることも最悪の結果になるんですよ!」
紫苑の声が部屋に響く。すると、同時に部屋のドアが開いた。
「二人とも、どうしたの……?」
アルバが風呂の準備を終え、戻って来た。大人二人の言い争いが聞こえていたのか、その表情は強張っている。その顔に堪らなくなったのか、紫苑の掴む力が一瞬緩んだ。
「なんでもありません。すみません、急に大きな声を出してしまって……」
眉を寄せ、いつものようににこりとアルバに微笑んだ。すると、その一瞬の隙を突いたステビアが紫苑の腕を振り払い、テーブルの上から通信機をひったくると玄関扉から勢いよく飛び出した。
「ステビアさんっ!」
紫苑が舌打ちをしてその後を追いかけた。外に飛び出したステビアは、一目散に山の中へと向かっていく。
「おい、どこ行くんだ?」
飛び出したステビアの視線の先に、仕込みを終えた乃亜とマルコが屋台を引きながら戻ってきた。
「ノアくん!ステビアさんを止めてくださいっ!」
紫苑の叫び声を聞いた乃亜は、マルコに「悪い、手を離す」と一言断ると真黒な毛並みの犬の姿に変化した。
「……邪魔するなっ!」
犬の姿になった乃亜の足からは逃げ切れないと判断したのか、ステビアは手のひらに魔力を溜め、緑色の光をそこら一帯に放った。すると、みるみるうちに木々や草花が伸び始め、冬だというのに青々とした植物が広がり始めた。咄嗟に繰り出したステビアの魔法に制御はなく、その伸び始めた木々や草花の成長は止まる様子がない。乃亜の足元からは太い木の根が飛び出し行手を阻んだ。どこからか蔦や蔓も伸びてきて、足を取られる。その場から先へ進めない乃亜は、遠ざかるステビアの背中に向かって吠えた。
「ステビアさんっ!」
家から飛び出した紫苑もステビアの名前を叫ぶが、振り向くことなく山中の奥へとその後ろ姿が消えていく。
「ックソ!」
視界も行手も閉ざされた乃亜は人型に戻って大きな舌打ちをした。
「ステビアっ!」
アルバの声が遠くで聞こえる。同時に一羽の鳩がステビアが駆けて行った方へ飛んで行った。
「なんだって、あいつ……。どこに向かったんだ……?」
「……マツリダです」
紫苑が崩れ落ちるように地面に膝を付けた。
「ハァ?何考えてんだ、あいつは!」
「……来太くんが、消えたそうです」
「……は?」
乃亜の目が大きく見開かれた。最悪の事態を想像したのか、いつも以上に深く眉間に皺が寄る。
「……私が」
「これに関してはお前が、とかじゃねぇ」
「ですがっ」
「次言ったら噛み付くぞ。分かったらさっさと準備しろ、あいつら回収しに行くんだろ」
「……はい」
乃亜は紫苑に肩を貸して起き上がらせると、眼前でまだ成長を続ける植物を見上げて言った。
「……とりあえずこれ、どうにかするぞ」
「えぇ……。マルコさんもご出勤できそうにないですもんね……」
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