魔封都市マツリダ

杏西モジコ

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ステビアと青年【前編】

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その日、ステビアは扉がノックされる音で目が覚めた。毛布から顔を出そうとしたが、頬に触る風が冷たい。出るに出れず、訪問者を無視してしまおうとも考えたが、再びノックをされて渋々と目を擦る。もそもそとベッドから這い出たステビアは、大きな欠伸をしながら「煩い」とこもった声で返事をし、小さな家のドアを開けた。
「やぁ、ステビア。今日は一段と不機嫌だね」
「相変わらず朝が早いな、ラディ」
軋む音のする扉をゆっくり閉めながらラディは笑う。片手にはバスケットを持ち、その中から焼き立てのパンの香りがした。
「君は眠ったらなかなか起きないからなぁ。そんなに寝て魔力を積んでも、せいぜい何かを育てるぐらいにしか使えないんだ。もう少し早起きを心がけてくれると助かるよ」
ラディは小屋の中に入ると、小さな机にバスケットを置いた。
「魔力があるから稼げるんだろうが」
ステビアはフン、と鼻を鳴らすとベッドの横から椅子を二脚引いて机の横に置いた。実際、ステビアが言うように、魔法使いの魔力は生活はもちろん、仕事の手助けや人間の技術繁栄のためにかなり役立っている。かと言って威張り散らすのは違うのも分かっていたが、自分より人間のために貢献しているラディについては、もう少し踏ん反りかえってもバチは当たらないと感じていた。
ステビアは片方の椅子に座ると、バスケットの中からパンを取り出し、遠慮なく大きな口を開けて頬張った。もごもごと口を動かしながら、他に何かないかバスケットの中を確認する。中には少しの干し葡萄と今朝絞ってきたばかりの牛乳が入った瓶が入っていた。
「これだけか?」
ステビアが不服そうに言うと、困ったようにラディは眉を寄せる。
「マツリダの街で買える物は必要ない僕らより人間に回してあげないと……。もうすぐ冬だし、それに最近は景気も悪い」
ステビアは溜息をつきながら、反論したい気持ちを牛乳と一緒に喉の奥へ流し込んだ。
そう言われれば、週に一度売りに出ている自分の作った薬草や野菜が、最近殆ど売れ残っていたことを思い出す。
「だとしても、その売れ残りは山に住む人間達に分けているだろ?ラディ、お前にもだ」
ステビアは不思議そうに言った。売れ残った野菜や薬草は、傷む前にこの山に住む人間や魔法使い達に配り歩いていたはずだった。
「確かにそうだけど。僕は君ほど食料を必要としないからね……。隣の家にやってしまった」
「……お人好しめ」
申し訳なさそうに言いながら、そんな気持ちは一切ないラディを恨めしそうに睨むと、ステビアは再びパンを口いっぱいに頬張った。



山の小さな小屋に住むステビアは、山で育てた野菜や薬草と山で採取した山菜を週に一度、近くの村や街へ売りに行き生計を立てていた。身体が小さいため、荷車を運ぶ要員として風使いのラディを連れて行くことが多く、今日もその約束をしている。一方、ラディは山の風車小屋で風車や送電装置の管理をしている風の魔法使いだ。人間達の使う電気を供給する仕事をしているが、最近は人手や技術者が増えたのもあり、ラディにも頻繁に非番が回ってくるようになっていた。その暇を持て余した結果、ステビアの我儘に付き合っている。
「さてと、今日はマツリダまでだったかい?」
「あぁ。頼む」
ステビアは裾が擦り切れてほつれ掛かっているケープを羽織りながら答えた。
「……マツリダか」
「どうかしたのか?」
何かを考えて、ラディは動きを止める。
「いや、この間街へ出た仕事仲間がマツリダの様子が変だったって言ってたのが気になって」
「あそこは人間も多い。気のせいだろ」
適当に返すと、ステビアは小屋の外へ出た。風は大して強くはないが、気温は低い。両肩を軽く摩りながら、外に置いていた荷車の布を剥がし、その布をラディへ手渡す。昨日のうちに荷車には野菜や山菜入れて準備をしていた。
「いい加減、自分で畳める様にならないと」
「良いだろ、お前の方が手足が長くて畳みやすい」
「君ももっと成長したらよかったのに」
「身長と魔力は比例しないぞ」
「はいはい」
呆れるラディを横目に、ステビアは荷台の空いたスペースに飛び乗った。しっかりとステビアが縁に掴まったのを見たラディは「じゃあ……行くよ」と半ば心配そうに声を掛けながら人差し指を円を描くように動かす。すると、指先からキラキラとした緑色の光が放たれ、荷車の車両を囲う。
「ステビア、ちゃんと掴まって」
「おう」
ステビアの返事を合図に、その荷車は宙に浮き、ラディも荷台に飛び乗った。すると、追い風が強く吹き、風に乗って荷車は上昇して宙を進んでいく。ラディが呼び込むように腕を動かすと、強い風が荷車にあたり、スピードを増して進んでいった。


歩くと三時間はかかる道を、ラディの魔法で空を走ること数十分。ステビアとラディはマツリダの水路に架かる橋に降り立った。その場所はマツリダの中心部から少し離れた所に位置している。中心部は所謂市場の様で、様々な露店が連なった商店街の様な所だ。その通りは基本的に都市住まいの者が商いをする場所になっており、山から降りて商売をするステビア達は、通りから外れた場所で露店を開いていた。
荷車の車輪に木材を噛まして固定すると、ステビアとラディは開店の準備を始めた。地面に麻布を敷き、そこに野菜と山菜を並べる。薬草は荷台に乗せたまま綺麗に並べた。
「よし、準備出来たぞ」
腰に手を当て、得意げにステビアが言った。ラディはその様子を微笑ましく思って優しい目を向ける。しかし、いつもと街の様子が違うことに気がついた。
「待った、ステビア」
開店しよう、と言いかけたステビアをラディが止めた。怪訝そうな顔をし、ステビアはラディの顔を見上げる。ラディは足元に落ちていたビラを一枚拾うと、一瞬黙り込む。顔を上げ、周囲の様子を静かに観察し始めた。ピタリと止まった視線の先には、黒い軍服姿の男達が数人いる。
「……どうした?」
ステビアも同じ様に周りを見渡した。
変なところは……ない……か?
急に胸のあたりがザワっとする。嫌な雰囲気と妙な違和感を感じた。
軍服……?あんな奴ら、前からいたか…?
「ステビア……どうやら景気が悪いのは僕達だけみたいだ」
ラディは口をきゅっと真一文字に結ぶと、いつもの穏やかさが急に気配を消した。
「……っ!」
ステビアはラディの持っていたビラを引ったくる。そこに書いてあったのは『魔法使いから物を買うべからず』の文字だった。その下には『見つけ次第、罰金または禁錮刑』の記載もあり、最近の日付と仰々しい角印まで押されている。
「なんだ……これ」
ステビアはビラと軍服の男達を交互に見た。
「ここいらは魔法使いの露店も多いからだろうな……。反魔法一派の活動が本格化してきたって噂は本当みたいだ……。あの軍服はその巡回ってところか……。ごめん、僕もちゃんと調べておけば良かった」
「噂……?反魔法一派って、どういうことだ」
ステビアは鋭い目をラディに向けた。ラディは観念したと言うように溜息をつき、最近耳にした噂をステビアに話はじめた。



少し前にこのマツリダ都市一帯を治めていた人間が病に伏せって代替わりをした。この事は新聞にも大きく取り上げられ、ステビアの耳にも入っていた。彼は人間と魔法使いの友好をとても望んでたために、人間も魔法使いも大きなショックを受けた。しかし、それがことの発端だった。その次の長が選出される際は、倒れた彼に代わって人間と魔法使いの間を取り持つ架け橋になる人を選出しなければと言う者もいれば、ここぞとばかり魔法使いを排除しようという者も出てきた。人口比率的にも人間の方が圧倒的に数が強く、そもそも魔法使いに政治的力は殆どない。そうこうしているうちに先代は死に、慌ただしく新しい長が決まった。その男は、死んだ先代の想いを受け継ぐと豪語していたのだが、日が経つに連れ、小さな所から魔法使いへの圧力をかけ始めたという。

「それが反魔法一派の人間だったのか、考え方を変えてしまったのかはまだ分からない……。でも、この印は確実に……」
「そんなの人間の勝手だっ!」
「それは……そうだけど……。とにかく僕らは山の魔法使いだ。マツリダでの揉め事は避けた方が良い……。今日はもう引き返そう」
ラディはそう言うと、広げたばかりの野菜を荷台へ積み始める。
「……オレ達の生活はどうなる」
「商売は……ここじゃなくてもできるさ」
ラディの顔は真剣そのものだ。確かに、周りをみるといつも向かい側にいる魔法道具屋も、魔法使いが営む移動菓子屋やパン屋の姿もない。加えてあの黒い軍服の男達だ。妙な違和感の意味が分かり始め、背中がぞわぞわとした。
「何だってまた急に……」
「急じゃないさ……」
ラディは溜息をつき、手に持ち上げた野菜を荷台に置くとステビアに向き直る。
「僕の非番が増えたのもその一つだよ」
「はぁ?どういうことだ……。お前ら風使いがいなければ電力だって」
「ステビア、この話は帰ってからにしよう」ラディはそうと言うと、広げた野菜を再び荷車へ積み始めた。ステビアは眉をハの字に寄せ、ショックを隠せない様子でいる。橋を渡る人々がだんだんとこちらに目配せしているのも気になり始めた。先程から見かけている軍部の男達は巡回場所を変えたのか姿は見えない。しかし、騒いでいたら飛んできそうな距離にいる事は間違いなかった。だが、そんな事よりも水面下で少しずつ生活圏を蝕んでいこうとするやり方にステビアの中には沸々と怒りが湧き出してくる。
「こんなビラ一枚で納得すると思うか?」
「そりゃ言いたい事は分かるけど……とにかくここを動こう」
ステビアはラディの伸ばした手を振り払うと、手に持っていたビラを地面に叩きつけ、そのビラを踏んだ。橋を渡る人間に見られないように咄嗟にラディがステビアの足元にしゃがみ込む。
「何してるんだ!こんな所、見られたら」
「……お前が寝ずに仕事をした日もあったのをオレは知っている」
「ステビア……。それは帰ってからって」
「悔しくないのか……?お前はずっとアイツらのために働いてたのに、急に『要らない』だと……?馬鹿にしてるっ!」
「ステビア、落ち着いて。まだ要らないとは言われてない」
「こんな状態なんだ、直ぐに言われるだろ!」
息を荒げるステビアをラディは押さえた。小さな身体のくせに暴れるとどうも手が付けられない。ステビアはじたばたと手足を振り回し、ラディの腕から逃れようとする。
「ここはマツリダの中だ。お願いだから、大人しくしてくれ!さっきの奴らが戻って来たらどうするっ!」
「嫌だっ!こんなに腹が立ったのは初めてだっ!お前が悔しくなくてもオレは悔しいっ!」
いつものステビアからは想像できない泣きそうな顔が、ラディの胸の奥を抉る。そんな表情を見てしまって、ラディはステビアを押さえていた腕の力を緩めてしまった。
「オレがっ……抗議してやるっ!」
「ステビアっ!」
するりと腕の中から抜け出たステビアは、ラディに向かってそう言い放つと、ラディの声に耳を傾けることなく軍服の男達が消えた方向へ向かって走っていってしまった。



「……まずい。迷った」
マツリダは何度も来ていた場所だというのに、闇雲に走ったステビアは道に迷っていた。そもそも入り組んだ道も多いのに、最近は地下道まで作られ始めている。工事中の看板も多く、使えない道をとにかけ避けて走ったせいで、方向感覚も全くなくなってしまっていた。
「どこだ、ここは……」
いつもは市街地の中などほとんど入る事がない。山に住む人間や魔法使いに、ついでにと頼まれた買い物だって橋の近くにある商店街で済んでしまう。引き返そうにも振り返ったところで来た道がよく分からなかった。ラディの様に風を操って空を飛べてしまえたらこんなに困ることは無かったのだろう。大きなビルや家々の建ち並ぶ通りを抜け、ステビアはとにかく大通りを目指して歩いた。
時折、すれ違う人間からの視線が気になった。今までは大して気になったことはない。力の差で好奇の目で見られることは少なくはないが、嫌な雰囲気を纏った視線であることは確かだった。
なんなんだ、まったく……。どいつもこいつも嫌な視線を向けて。今の今まで何ともなかったじゃないか。長が変わると人間は自分の意思まで変えてしまうのか……?全く、群れをつくる動物は厄介だ……。
目が合わないように目を逸らすと、さっきラディが拾ったビラが通りの壁に貼られているのが見えた。その横には『魔法など必要ない!』と大きな文字が書いてあるビラが貼られている。その横にも、そのまた横にも。この通りそのものがまるで魔法使いの侵入を拒んでいるかの様に、ありとあらゆる所にそんな貼り紙が見えた。
あぁ、もうっ……くっそ……!
ステビアは小さく舌打ちをすると、居心地の悪いこの通りを抜けるべく、再び走り出した。


暫く行くと、田舎道が広がっていた。ぼこぼことした舗装されていない道が続き、流石に疲れたステビアは知らない人間の家の前に座り込んだ。この場所は人通りも少なく、先程の様な視線を感じることもなかった。この辺りはマツリダの中心部よりもだいぶ静かで、さっきの様な煽るビラも貼られていない。軍服の男達もこんな静かな場所に居るようには考えられなかった。ステビアは空を見上げながら溜息を漏らした。何もなければ、今頃はいつも来てくれる人間のおばあさんや小さな子連れの親子達がステビアの持ってきた野菜を買いに来る時間だった。

『ステビアの作る野菜はいつも瑞々しくて美味しいわ』
『冬の時期に季節関係なく色んな野菜を食べられるのはあなたのおかげね』
『安くしてくれて、本当にありがたいわ』

感謝の気持ちを持って接してくれる人達が沢山いた。ステビアやラディの様な魔法使いは、普段、人間が出来ないことを代わりにやっていた。それを当然として何がいけなかったのだろう。どうして、魔法使いから物を買ってはいけないなんて言われなきゃいけないんだ。どうして、なぜ、が浮かんでは熱を帯び、ステビアは頭の中でまた沸々と怒りを沸かす。身体が熱くなり、手のひらに痺れが走る。無意識に魔力を込めていたらしい。ステビアは顔を隠す様に膝を抱えて座り直すと「落ち着け」と自分に言い聞かせ、そのまま目を瞑った。



「おーい、寝てるのかー?ここじゃ風邪をひいてしまうぞー」
数回、身体を揺らされた。作務衣に厚手の羽織を着た長身の男が屈んでステビアの様子を伺う。しかし、ステビアは目を開けることなくそのまま眠り続けていた。
「ウーン、起きないか……仕方ない」
すると、観念した男はステビアを抱き抱えるとそのまま家の中に入っていく。
「ただいまー……って、誰もいないんだったな」
玄関を開けた男は、いつもの癖で大きな声を響かせた。その声で起きるかと思ったが、やはりステビアはそのまますやすやと気持ちよさそうに寝息を立てたままだった。
「髪色も珍しいし……眠りも深い。もしかして……」
男は器用に足だけで草履を脱ぐとそのまま軋む廊下を歩く。
「……客用の布団、あったよなぁ」
今度はステビアを起こさない様、ぼそりと独り言を呟きながら、客間へと足を運んだ。




「……ん、どこだ……ここ」
目が覚めると布団の中だった。帰った覚えが無かったステビアはキョロキョロと辺りを見渡しながら目を擦る。井草の香りに襖の糊の匂い。大きな柱が部屋の中心にあり、見るからに高価そうな掛け軸と壺が床の間に置かれている。自分が住む小屋よりも広い部屋を見て呆気に取られていると、襖が開く音がした。
「あ、起きたか」
手に持った皿に三つほどの握り飯を乗せて、部屋に入ってきたのはステビアをこの部屋に運んだ男だった。
「……お前、誰だ?」
そう言いながら目に入った握り飯に腹の虫が大きく反応した。
「繋太だ、成瀬繋太。お前この家の前で寝てたんだぞ」
繋太は笑いながら蹲み込んでステビアの方に皿を差し出した。
「……オレはステビア……。その、悪かったな……眠りこけて」
ステビアは頬を少し赤らめながらも、遠慮なく手を伸ばして皿の上の握り飯を両手で掴む。
「こんな寒い時になんだってあんな場所で寝ようとするんだ。帰る家がないのか?」
繋太は必死に握り飯を口へ運ぶステビアを見て不思議そうに言った。
「帰る家はある。でも道に迷ったんだ。霧ヶ山はどこだ」
「霧ヶ山はこっからマツリダ市街地を抜けた真反対の田舎道をずーっと歩いたところだ」
「ずっとってどれぐらいだ」
ステビアは頬と指に付いた米粒を取りながら口に運ぶ。もごもごと口はまだ動いているのに最後の握り飯へと手を伸ばした。
「そうだな……。ここからなら三、四時間かそこらじゃないか?」
「ハッタリ言うな。オレはあの山からマツリダまで三十分ぐらいで来るぞ」
「ハッタリ?そりゃ、そっちの……いや、魔法ならできなくはないか。知り合いが山の近くに住んでてな、俺の足で三時間は嘘じゃないぞ」
繋太は腕を組みながら一人で納得し、ケラケラと笑う。
「まぁ、オレもオレの魔法を使った訳じゃないけど……」
「あぁ、やっぱり魔法使いか」
「……都合、悪いか?」
ステビアは恐る恐る聞き返す。あの黒い軍服の男達に、マツリダの街中に貼られた魔法使いを否定するビラが脳裏に浮かぶ。もし、この目の前の人間が同じ考えであれば、今すぐここから逃げなければならない。しかし、それは杞憂に終わった。
「ん?何言ってんだ。むしろ大歓迎さ」
「は?」
「魔法使いに憧れてたって言ったら……笑うか?」
白い歯を見せ、ニカッと笑う。
「それで、ステビアは何の魔法を使うんだ?山からここまで短時間で来れるってことは……もしかして空を飛ぶとか?それとも瞬間移動的な?あ、でもさっきオレの魔法じゃないって」
「あぁ。その、どちらでもない。オレは植物や生き物の成長を早める魔法が使えるだけだ。それに、空を飛べる魔法使いはいない。あれは風を操っているだけで、飛んでいるやつなんて」
「それでも凄いじゃないか!」
繋太は大きな目をキラキラとさせながら言った。
「どちらも人間には出来ないことだし、特別で、それにカッコいい!」
興奮気味の繋太は鼻息荒く大きな声を出す。ステビアはその勢いに思わず身を引いた。
「……めでたい頭だな」
呆れながら小さく呟くと、ステビアは布団から出て立ち上がる。
「あれ、どこ行くんだ?手洗いならこの部屋を出てすぐ右の」
「帰る。世話になった」
ステビアは軽く頭を下げた。ここに居ては繋太に迷惑がかかってしまう。魔法使いから物を買うだけで禁固刑と書かれていたのだ。家に上げてしまったことがバレてしまえば大事になってしまう。目も覚めたし、山暮らしで夜目も利く。もう直に日も暮れる頃だったし、歩いて三時間ならなんとかなるだろう。
そう思って立ち上がったのだが、繋太はすぐさまステビアの手掴んだ。
「ちょ、なにして」
「今はダメだ」
繋太はさっきのキラキラした目と一変して真剣な眼差しをステビアに向ける。
「この辺は街灯がないから、最近は夜道に託けて出歩く魔法使いを黒服が狙っているらしい」
繋太の冗談ではなさそうな言い方に、ステビアの顔も強張っていく。黒服というのはきっと、あの軍服を着た奴らのことだろう。
「なら余計に帰らないとダメだ。ここに来る途中、ラディを……一緒にいた魔法使いを置いて来てしまった」
「だとしてもだ。君の方が危険だ。それに、さっきの話に出てきた風を使う魔法使いってことなら、空を飛んで逃げているはずだよ。きっと大丈夫。出て行くのは明日にしよう。マツリダの外までなら俺が案内できるし、夜より昼間の方が黒服も手薄だから」
「な?」と念を押すように繋太は言うと、ステビアは観念した様子でゆっくりと頷いた。


「いつからお前の言う『黒服』が出歩く様になったんだ?」
居間に案内されたステビアは、部屋の中心に置かれていた大きな炬燵の中に断りもなく肩まで入りこむと、寝転びながら繋太に尋ねた。初めて入った炬燵が珍しく、中に潜ったり出たりを繰り返す。その姿を見て笑っていた繋太はウーン、と唸りながらステビアの質問に答え始めた。
「最近だよ。長が代わってから急にそういう風潮になったんだ。先代は魔法使いを好いていたけど、後任がそうじゃなかった……って話だ」
ラディから聞いた話と同じままの答えに、ステビアは黙り込む。
「魔法使いの力を調べるって言って、妙な研究所も作られてたって噂だし……。その実験のために夜道を歩く魔法使いを攫ってるって話も聞いてるな」
「なんだその胸糞悪い話は」
「まぁ、あくまでも噂だ。俺も嘘であって欲しいと思ってるよ。だけど、知り合った手前そんな時間に外へ出す訳にいかないからな」
繋太はステビアに、遠回しに黙って出て行こうとするなという釘を刺す。それと同時に台所のやかんから湯が沸いた音が勢いよく鳴った。繋太は台所に立ち、お茶を二人分湯呑みに淹れると、ザルに入った蜜柑と一緒に炬燵へ持って戻ってきた。
「なんだ、それ」
「何って……炬燵には蜜柑だろう。知らないのか?」
ステビアに蜜柑を一つ手渡す。その辺の人間や魔法使いよりも長いこと生きていたが、蜜柑を食べたことはなかったステビアは、皮を剥かずにかじりつこうとしたため、繋太がそれを笑いながら止める。
「違うよ。こうやって食べるんだ」
そう言って、ステビアに教える様に蜜柑の皮を綺麗に剥き始める。ステビアは横目で繋太の手をじっと見つめ、ザルから蜜柑を一つ取ると見様見真似で皮を剥き始める。不慣れなステビアは上手く剥けずにボロボロとした皮が炬燵の天板に散らばった。
「……面倒だな」
「でも美味いぞ」
繋太は粗方筋を取りった蜜柑を一房取ると、ステビアの口の中に放り込んだ。
「んっ、酸っぱ!」
蜜柑の粒が口の中で弾け、ステビアは口を窄め目をキュッと瞑った。
「あははは。いい反応だなぁ」
「でも、うまい」
ステビアはちまちまと手を動かしながら、再び口を開けて繋太に蜜柑を催促する。
「だろ?」
眉を寄せながら笑い、繋太は蜜柑をステビアの口にまた放り込んだ。
「人間は炬燵に入ったら必ずコイツを食べるのか?」
「あぁ。他にも大福に饅頭や、団子。鯛焼きに餅……うん、和菓子はだいたいセットだな」
「……餅は知ってるぞ。でもなんだその、大福とか、まん……鯛?なんだ?」
「大福と饅頭と鯛焼きか?」
ステビアは興味津々に首を縦に振る。手に持っていた蜜柑をようやく剥き終わり、筋がついたまま口の中に運んでいる。周りは悲惨なことになっていたが、初めてにしては上手く剥けていた。
「ここいらなら村上屋が有名だな……明日寄ってから山に行くか」
「良いのか!」
「通り道だしな」
ステビアは魔法使いと聞いた繋太にも負けないほど目をキラキラと輝かせた。



「いたか?」
「いや、こっちには来ていない」
「手分けしよう。マツリダの外に住むやつらは夜目も利く」
「了解」
息を殺し、ラディは物陰から軍服の男達の様子を伺っていた。
あぁ……もう、最悪だ……。
今日何度目かの溜息をつく。ステビアと逸れた挙句、荷物の撤収にもたついたせいで軍服の集団に声をかけられてしまった。適当にやり過ごすつもりで会話に応じてたのがラディの運の尽きだった。「決まりだ」「法が変わった」など、理不尽な物言いをした彼らはラディの腕を掴むと、どこかへ連行しようとしたのだ。穏便に事を済ませてステビアを探しに行こうとしていたラディは咄嗟に魔力を使い、腕を掴んだ男を宙へ浮かせて周囲の人間を怯ませると、その隙に逃げ出してしまったのだ。
せっかくステビアが作った野菜や薬草を見捨てる羽目にもなってしまったし、マツリダの街に大して詳しくもない。道に迷い、足を止めてると軍服に見つかり、最悪のかくれんぼ延長戦となってしまった。
もうこの辺にはいないって、諦めてくれないか……。
自分も諦めて空から逃げて仕舞えばよかったのだが、ステビアを置いていく事は考えられず、こうやって逃げ隠れしか出来なかった。夜も更けたマツリダは山に住むステビアやラディにとって街灯や電気の着いた家々は明るくて眩しい。山に住む人家の中にも電気は通せているはずだったが、この辺は人間が住む家が連なっているせいもあり、灯りが大きく広がって周囲がはっきりと見渡せた。
ここじゃ直ぐに見つかるな……。それにしても、皮肉なもんだ。
ラディはキョロキョロと辺りを見渡しながらそう思った。眩しくて、遠い。慣れない目では視界がぼやけて全部幻の様にさえ見える。
近いはずなのに、遠い。
自分達が魔力を使って生み出した力が人間の生きる助けになっている。そう、自分達だけの力だった。人間よりも便利な世界に近いはずだった。それなのに、彼らは自分達の知識や技術が追いついてきた途端に魔法使いとの協働を拒み、魔法使いから自分達を遠ざけ始めた。
ステビアの言う通りじゃないか……。人間は魔法使いから技術や知識を学んで、密かに力を蓄えてきたんだ。そりゃ、僕らが要らなくなってきても当然だ。魔法は僕らの物なのに。なんだか遠くて……切ない。
ぎりぎりと音を立て、ラディは奥歯を噛み締める。胸のあたりがざわついて、嫌な痛みがジンジンと蝕んでいく。視線を上げた先には昼間見た今日の最悪に引き金を引いた貼り紙が貼られていた。
あぁ、もう……!
ステビア、君は一体どこにいるんだっ!



明け方、ステビアは腹の虫が鳴って目を覚ました。繋太がくれた握り飯は大きかったし、あれから蜜柑も三つ程食べたのだが、朝まで持たせることはできなかった。いつもなら自分の育てている野菜を畑から少しだけ引っこ抜く所なのだが、生憎他人の家でそんな事は出来やしない。就寝前、もし喉が渇いたらと繋太も教えたのは飲料水の在り処ぐらいで、もし腹が減ったら、という話は一切なかった。ステビアはのそのそと布団から抜け出すと、明かりが差し込む襖を開けた。内縁からガラス戸が見え、繋太の家の広い庭が視界に入る。冬だからか使われていない花壇が広めに瓦で囲われていた。少しでも気を紛らわせようと、朝陽が昇る前の空を見上げながら、ガラス戸をゆっくり開けて縁至に腰掛けた。すると、すぐ足元に何か転がっているのが見える。
「……なんだ?」
小さな鉢植えが数個、使われずに土埃を被ったまま転がっていた。ステビアはすぐ側にあったサイズのやたら大きな突っかけを履くと、その鉢植えを拾い上げる。全部で五つ程、使えそうなものがあった。ステビアはそれを手に持ち、使われていない花壇の方へ持って行く。
「どうせなら食べれる植物の世話跡だと助かるな……」
ステビアは花壇の土へ手をかざし、オレンジ色の光を土全体へ放った。すると、土の中からにょきにょきと色んな場所から芽が生え始めた。そのまま続けてステビアは魔力を土に降り注いでいく。みるみるうちに発芽した植物の芽は伸び、青々とした葉を揺らしていった。
「おぉ、青い実と赤い実だ」
普通であれば苗木から育てるはずの植物でも、根のカケラさえ土の中に残っていればステビアの魔法によって発芽が可能だ。大方、ここで育てられていたのは背の低い木の実だったのだろう。ステビアはその青い小さな実がついた植木を三本、鉢に入れ替えて残りの二つに赤い実をの植木を入れ替えた。土で汚れた手を叩くと、今度はその植木を内縁の方に運び上げた。ごとん、と大きな音を立てながら運ぶため、三つ目を持ち上げた頃には大きな欠伸をした繋太が顔を出した。
「……起きたのか」
「まぁ、その音がね……。どうしたんだ、そのブルーベリーと木苺の鉢」
繋太は肩を摩りながら運び込まれた鉢植えの前にしゃがむと、不思議そうに言った。
「あの花壇で育ててただろう?」
「まぁ、うん……。枯らして処分したはずだったけど」
ぽりぽりと頬を掻きながら答える。繋太の母が育てていたのを代わりに世話をしていたが、いつの間かに枯らしてしまった。そのため、秋のうちに切り抜いて処分したはずだった。
「根が残ってたから、もう一度増やしてみた」
「根から?そんな事できるのか」
「相手が植物だからな」
繋太は感心しながら鉢植えに入った植木を触る。どうやら本物だ。冬のこの寒い朝に育つのはステビアの魔法のおかげなのだろう。その横でステビアはブルーベリーを一粒摘むと、口の中に放り込んだ。蜜柑と同じで酸味が先に来るため、思わずステビアはキュッと強めに目を瞑る。
「あはは。目が覚めたか」
「腹が減って寝ていられなかったんだ。腹も満たせてお礼も兼ねれると思ってコレを……」
唇を尖らせながらステビアはブルーベリーと木苺の植木を指差す。繋太は思わず吹き出した。
「あははは!ステビアは賢いんだか、足りないんだか分からないなぁ。なら、その植木のお礼に俺が朝飯作ってやるか」
繋太はステビアの頭を優しくぽんぽんと撫でると、ステビアに手を洗って来いと言って、笑いながら台所へ向かった。



朝食を食べ始めて間もない頃だった。玄関の扉をダンダン、と強く叩く音がして繋太はステビアに「静かに食ってろ」とだけ言うと玄関へ向かっていった。ステビアがいる事がバレたのかと思い、繋太は引き戸に手をかけ、深く深呼吸をすると、ゆっくりと戸を開けた。
「朝っぱらからなんだ?」
玄関口に立っていたのは、新聞配達の若い男だった。
「新聞なら郵便受けがあるだろ」
「すみません……朝刊とあとついでに電報を渡せと言われたので」
男はぺこりと頭を軽く下げると、新聞と小さな封筒を繋太にて渡して足早に次の配達先へと向かっていった。
「電報……ねぇ」
繋太は新聞を脇に挟み、伝令といわれた封筒を開けながらステビアの座る炬燵の向かい側に座った。繋太は新聞を炬燵に置くと、封筒の差出し住所を確認する。
「……もしかしてっ!」
浮ついた声を出しながら繋太は電報の封筒を少し乱暴に開けようとした。
「どうした?」
「ん、もしかしたらカミさんかなって」
「カミさん……?お前はカミに仕える仕事なのか?」
「あぁ、確かに神社で働いてはいるが……。この場合のカミさんは俺の奥さんだ。今、出産のために里帰りしててな」
照れ笑いを浮かべながら繋太は答えた。
「ふぅん」
ステビアは雑に置かれた新聞をまじまじと見つめる。どこかの研究所が実験のせいで壊れたのか、崩れて悲惨な事になっている写真が大きく載せられていた。
「それは新聞だ。山にはこないのか?」
「あるぞ。読んでる人間と魔法使いを見たことはある」
へぇ。魔法使いも新聞を読むのか……。
暢気な感想を思い浮かべていたが、繋太は開けた電報を読み、ステビアの見ていた新聞へ視線を移した途端、大きく息を呑んだ。
「……ケイタ?」
ステビアはだんだんと青くなっていく繋太の顔を覗き込む。
「どうかしたのか?」
「い、いや……。なんでもない」
「そうか?顔色が悪いぞ」
「……気の、せいだよ。とりあえず、少し待っててくれないか。村上屋に行きがてら外の様子を見てくる」
そう言って繋太は電報を着ている作務衣の懐に仕舞い込むと、ゆっくり立ち上がる。
「どういうことだ?一緒にって言ってたじゃないか」
ステビアは眉を寄せた。ラディを振り切って来た事もあり、一刻も早く帰らなければならない。
「この新聞に書いてある研究所の件で黒服の見回りが増えた可能性が高い」
「研究所……?でもオレは山に」
「ステビア。安全な帰り道を探させてくれ。ブルーベリーと木苺の礼だから……」
下手くそな笑顔を見せ、繋太はステビアの頭をまた優しく撫でる。その手が震えていることに、ステビアは少しだけ不安を覚えた。

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