もしも僕がいなくなったら

そらね

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第1章

カゲ

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「何もないって、いいよね」
 カゲが僕に向かって言った。
「確かに。何もなければ、何も起こらないし、平穏な日々が続くだろうね」
 でも、何もないってことは楽しみもないってこと。ただ毎日なんとなく過ごすこと。面白くない。
「何もない。感情も薄れていく。いいことでもあるし、悪いことでもある。そんな世の中も悪くないな」
「例えば、いいことって?」
 カゲは微笑んで答えた。
「争いごともない、食い違いもない。感情が薄ければ薄いほど、人って何も考えなくなるだろう?」
 言われてみればそうだ。感情さえなくなれば、争いごとなんてまずないだろう。でも全くないってわけでもなさそうな気がする。
「ついでに、悪いことは....」
 カゲは少しの間、青い空を見つめてから僕の方に視線を向けて答えた。
「何もない。つまり、感情もない。何も考えない。たとえ大切なものを失ったとしても、何も感じない。相手が感情がないとして、こちら側が感情があるとしたら、どうなると思う?」
 どうなるのだろうか?きっと無表情で何も感じないと思う。
 僕は言った。
「感情がある方は、きっと悲しくなる。感情がない方は、無表情で何も感じない、ただ失ったってことだけ認識されるんじゃないかな?」
「君が今言った表情って言葉。とても重要な言葉だ。感情があることで、人は笑ったり泣いたりする」
 今の話をまとめたら、何もない世界は悪いことつまりデメリットばかりではないだろうか?
 カゲは壁によしかかり、目を閉じた。おそらく睡眠の時間だろう。僕はいつもカゲが寝たと思ったら、この場から離れることにしている。
 そして僕が帰ろうとした時、カゲに呼び止められた。こんなの今日が初めてだ。


「君はこの世界を救ってあげるんだ。君しかもう希望の光はない」


 カゲが言い終えた時、ちょうど雨が降ってきた。
 僕の全部を洗い流してほしい。

 僕はもう、この世界から戻れない。
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