随

あの日

  1，過去


ーー貴方が貴方であるためにすべき事は何。 
真冬の寒さに身をすくめながら帰宅していた途中、道端の隅に立っていた女がいきなり私にそう話しかけてきた。

「分からない」と、私は好奇心の赴くままに応えていた。

その返答に女は何を思ったのか口角を上げ微笑むと、その後に一言何かを告げた

次の瞬間にはあるべき女の姿が無かった。

ーー私が私であるためにすべき事、
そんな難しい事は大人になってからじゃないとわからない。今の私にその問いは相応しくない。子供の私には。

寒さで脚や手の感覚がなくなるまでになっても
私はその女が居た筈の場に呆然と立ち尽くしていた。



 私は小さい頃、明るく元気な子供だったらしい。
今はその反対だから分からないが、
父と母が言うにある冬の日、家に帰ってきた私は「ただいま。」も言わず帰宅し

2階の自室へと向かったそうだ。父と母は最初こそ驚いたらしいが、何かあったのだろうと、そっとしておく事にしたらしい。
明日には戻っているだろうという結論を出したのだそうだ。
 
だが、私は次の日から別人とも呼べるほどに変わってしまった。


ーーそれは、私のあるべき姿だから。