S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト

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イグニスの槍は新しくパーティを勧誘する

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 新イグニスの槍のルキナ、ソラ、アパムは一ヶ月の鉱山での労働が終わり、帝都に戻ってきた。

 新しくリーダーをルキナと決めて再起を図ろうとしている。

 Sランクのクエストは基本的にはダンジョン五十階層以上に行く必要がある。

 現在のパーティ構成はイグニスの槍新リーダー魔法使いのルキナ、僧侶のソラ、戦士のアパムだ。

 前衛が戦士アパム一人では心細い。

 今はギルドで前衛ができるメンバーの勧誘をしていた。

 「ふん、それにしても一カ月ぶりね。長かったわ。鉱山での仕事。私前衛できるくらい筋肉ついたもの。」

 そう言うのはルークの代わりにリーダーになった。ルキナだ。

 アパムが笑う。

 「アア。その意気だ。勇者は剥奪されたが、一から頑張っていこう。」

 ルキナはいらついていた。

 「あんたね。本当に勇者剥奪されていいわけ。悪いのは全部ルークよ。私は納得してないわ。」

 アパムとソラは何も言い返さない。たしかに勇者の剥奪は厳しい措置である。勇者認定があったからこそ貴族のような生活ができていて、高いホテルにも泊まれていたのだ。

 それがなくなった今、冒険者がよく利用する質素な宿しか泊まれない。

 ソラが発言する。

 「それはメンゼフさんに抗議しましょう。今の私たちがすることは新メンバーの勧誘です。まずは勧誘しましょう。」

 メンゼフは今ギルドにいないみたいだ。抗議はまた別の日にすることにして、勧誘の紙を掲示板に貼った。



 数日経ったが、イグニスの槍への加入申し込みが一件もない。

 ルキナのイライラが募るばかりだ。

 「なんで全然集まんないのよ! 勇者じゃなくなったとして、イグニスの槍はS級パーティよ! 本当にイライラするわ。」

 このままだとS級からも落とされてしまう。非常にまずい。

 ソラが提案する。

 「どっどうしましょう。ルキナさん。募集条件を下げますか。さすがにCランク以上だと皆パーティに所属していますから、ランクが低くてもいいじゃないですか。」

 「ソラ何言ってんのよ。そんな状態じゃあ私たちがS級クエストを受けるまでには半年はかかるじゃない。無能の教育なんて私はごめんよ。」

 「でも…このまま三人でクエストを受けると死ぬのは事実だ。」

 アパムが苛立つルキナをたしなめるように発言した。

 ルキナが横の椅子を思いっきり蹴飛ばす。

 ああこんなにイライラするなんて。私のプライドが許せない。神童と言われて勇者にもなったのよ。私がなんでこんな目に合わなくちゃいけないの。

 「そうよ。ソラ。あなたが募集の紙書いたんでしょ。なにか変なこと書いたんじゃないの。」

 ルキナがソラを睨む。

 「ま、待って下さい。話し合った内容で書きましたよ。」

 「アパムもただ突っ立ってるだけじゃなくて、動きなさいよ。前衛がほしいならあんたが誘うべきだわ。」

 「アア…」

 ルキナは八つ当たりだとは自分で分かっているが現状がどうしても許せなかった。つい仲間にあたってしまう。

 それを周りの冒険者が見ていて、コソコソと何か話している。

 「イグニスの槍も終わりだな。」

 「元々カインでもっていたものだろ。自業自得だ。」

 「調子に乗ってたからいい気味だな。あいつら冒険者やめてくれねえかな。」

 一緒に冒険したことがない冒険者たちの陰口がルキナに聞こえた。

 悔しくて泣きたくなってきた。

 ルキナは思いつく。

 そうだ。カインだ。カインを利用すれば、私たちは勇者に戻れるかも。ルークのせいにすれば勇者に戻れる可能性もある。

 「ねえ、一つ提案があるんだけど、カインに戻ってきてもらわない? 」

 ソラとアパムが驚いた顔をしている。あのプライドの高かったルキナがカインをパーティに戻すなんて思いもしなかったのだろう。

 「でも、ルークさんが散々ひどいこと言ったみたいだし…無理かもしれませんよ。」

 ソラが発言する。

 「誘ってみないと分からないじゃない。受付にいないみたいだから、裏にでもいるでしょ。」

 そう言うと、ルキナは席を立ち、窓口で働いているミントに話しかける。

 「私のことわかるわよね。イグニスの槍よ。カインいる? 」

 「カインさんは今、アシスト制度で初級冒険者の方とダンジョンに行ってますよ。」

 「待たせてもらうわ。帰ったら私のところにカイン呼んで頂戴。」
 


 すでに日は沈みかけている。

 遅い。もう2時間は待たされている。

 私はイグニスの槍の新リーダールキナよ。待たせるなんてありえないわ。

 ルキナは苛立ちを隠せない。アパムとソラは気まずそうに俯いている。

 ギルドの扉が開く。カインだ。

 「カイン。こっち来なさい。」

 カインがこちらに気がつく。一瞬嫌そうな顔したわね。生意気だわ。

 「どうした。ルキナ」

 「あんた。朗報よ。ルークがいなくなったから、私がイグニスの槍のリーダーになったの。」

 そうか。とカインが頷く。

 たったそれだけなの。カイン本当に生意気になったわ。いままでは何でも言うことを聞いていたのに。

 「それで、朗報っていうのはルキナがリーダーになったってことか。」

 「いや違うわ。あんたをイグニスの槍のメンバーにしてあげるって話よ。」

 カインは硬直している。嬉しくて声がでないのだろう。

 カインが入ったら私が使ってやる。絶対に勇者に戻るんだから。

 「いや。残念だが、お断りさせてもらうよ。今はギルド職員だから。」

 カインのくせに。

 ルキナのイライラが頂点に達した。

 「あんたねえ、こっちが下手に出てやってるに。なによ! 冒険者ギルドなんてただの受付でしょ。志が低いから、ポーン家でいじめられていたのよ。私がカインを拾ってやるって言ってるの。加入する以外の選択肢はないのよ! 」

 声の大きさに驚いた冒険者たちが遠巻きにこちらを見ている。

 ソラが間に入る。
 
 「ルキナさん。声が大きすぎます。周りからも見れてますし、ちゃんと話をしましょうよ。」

 ソラが間に入ったことも気に入らない。

 むかつく。

 「なんであんたまでカイン側に立ってるのよ! イグニスの槍のメンバーでしょ。それにカイン。あんたが早く戻るって言わないから悪いんじゃない! 」

 カインが困った顔で答える。

 「オレは所属がギルドだから。パーティに戻るのは無理だ。イグニスの槍の活躍を祈っているよ。」

 そう言うと、会話を切り上げてカインが奥に移動しようとする。

 「待ちなさい。まだ話は終わっていないわ。」

 ルキナがカインの腕を引っ張る。

 「私がお願いしてやってるのよ。あんた断るとどうなるか分かってるわね。」

 カインがため息をつく

 「ルキナ。がっかりだよ。お前たちが鉱山で変わったという報告を聞いていたのに。何も変わっていなんだな。」

 ルキナはカインをにらみ、

 額をビンタした。

 「あんたになにが分かるのよ。この裏切り者! 私たちの落ちぶれている姿を見てどうせ笑っているんでしょ! 」



 「おい。そこまでだ。」

 カインはルキナにビンタされて、どうしようかと思った。まだ仕事も残っているし。

 メンゼフさんが良いタイミングで階段から降りてきたみたいだ。

 「ルキナ。お前なにしてんだ。カインが嫌がってんだろ。」

 メンゼフさんが僕とルキナの間に立つ。

 「今、お前がしたことは脅迫と暴行だ。オレは言ったよな。次に問題起こしたらただじゃ済まさないぞって。」

 ルキナが唇をかみしめている。
 
 「だっだって、カインが。」

 「言い訳するなっ! いいか。S級パーティはな。冒険者の憧れにならないといけない。それなのにギルド職員を見下す発言。この騒動に挙げ句の果て暴行だぞ。これをどう説明するんだ。」

 メンゼフさんが怒っている姿を始めてみた。

 ルキナは俯いている。

 「オレはお前を勘違いしていたみたいだ。イグニスの槍は今日からA級に格下げだ! 」

 ルキナがその場で、へたり込んだ。

 「いや、いやよ。そんな私がA級だなんて…」

 「悪いが、決定事項だ。今のイグニスの槍にS級クエストはクリアできないだろう。」

 A級からやり直せと言いメンゼフさんは二階に去っていった。

 遠巻きに見ていた冒険者がザワザワしている。

 カインはルキナに話しかける。

 「オレが手伝えることあれば手伝うから。なにかあったら言ってくれ。このまま座っていると目立つから今日は帰った方がいい。」

 「うるさい! 」

 差し伸ばした手をルキナは弾いた。

 「ルキナさん。今日は戻りましょう。冷静になって。これからのこと話し合いましょうよ。」

 ソラにまで慰められるなんて屈辱だ。

 ルキナの目から涙が流れる。

 もういや。

 ルキナは走ってギルドを出ていった。

 「カインさん。ごめんなさい。私たち三人で頑張っていこうと決めたんです。でもルキナが感情的になっちゃって。お仕事の邪魔になってますし、ルキナが心配だから…失礼しますね。」 
 
 ソラがそう言うと、アパムと共にギルドを去っていった。
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