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ルークの策略
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その日カインは悪夢にうなされていた。自分が殺される夢を見たのだ。
こういう日は嫌なことが起こるんだよな…
時計を見ると、出勤時間にはまだ早い。
こういう日に二度寝して寝過ごしても嫌だな。少し早いがギルドに行こう。
ギルドに着くとギルド長室にだけ電気が着いていた。
一応挨拶だけしておこうか。
扉をノックして入る
「メンゼフさん。おはようございます。」
「おお。カインか。おはよう。」
どうやら、メンゼフさんは書類を書いているみたいだ。こんな時間から働いているのはよほど忙しいのだろう。
「なにか手伝いましょうか。」
メンゼフが書類に目を落としたままカインに話しかける。
「いや大丈夫だっ。これで最後だから。」
書類を書き上げたメンゼフが背伸びしながらカインに話しかける。
「どうしたこんな時間に。まだ営業時間までかなり時間あるだろっ。」
「なんか嫌な予感がして起きちゃって。せっかくなので早く来ました。」
そうか。とメンゼフが頷く。
「カイン。おまえがギルドに来てからもう数ヶ月か。早えもんだな。」
「メンゼフさんまだ1カ月ですよ。」
「細けえ事言うんじゃねえよ。でも本当に助かってる。これからもよろしくなっ。」
オレは少し寝るぜと言いメンゼフさんがソファーに横になる。
カインはメンゼフの睡眠の邪魔をしないように部屋を出た。
その日のギルドはそこまで忙しくなかった。今日はアシスト制度の予定もない。
あの嫌な感じはどうやら気のせいだったみたいだ。
受付業務で久しぶりにエンリルの弓矢のメンバーと話をした。赤龍攻略以来だ。
今日から50階以降のダンジョン攻略を再開するらしい。エルフの疫病はどうやら落ち着いたらしく、やっと冒険に集中できると言っていた。
「帰ってきたら、また飲みましょうね。カイン。」
ウインクをしてギルドを出るミナトたち。
隣のミントさんからの視線が痛い。
「カインさんモテモテですねっ。」
一緒に冒険したから仲が良いだけですよっと言い訳をする…なんで言い訳をしてるんだろうか。
朝の冒険者ラッシュも落ち着き、裏で依頼書の作成業務に入る。
ニコラは十六夜さんに毎回怒られている。今回は書類の字が汚いと怒られていた。あまり怒りすぎても萎縮するだけだし、ランチでも誘ってニコラのサポートもしないとな。
今日はランチに行く時間も作れそうだなっ。サクッと書類やっつけよう。
帝都の鐘がなり、午前の部も終わりだ。
ニコラをランチに誘ったが断られた。
「ちょっと予定があって…ごめんなさい。」と歯切れが悪かった。
まだオレのことを嫌っているかもしれない。こういう時はそっとしておこう。
ランチをミントさんと二人で明けの明星で済ませて、午後も書類業務だ。
午後の仕事に取り掛かって1時間位経っただろうか。
―――ビィビィビィと<助け手>が鳴り出した。
十六夜さんが助け手の機械に駆け寄る。
「あら、珍しいわね。53階でエンリルの弓矢のミナトからだわ。」
エンリルの弓矢が53階で…違和感を感じる。何かがおかしい。
「十六夜さん注意したほうが良いかもしれません。エンリルの弓矢が53階の魔獣で事故が起きるなんて実力的に考えられません。なにか事件に巻き込まれた可能性が高いと思います。」
エンリルの弓矢とは共に冒険した仲だ。実力はわかっているつもりだ。
「そうね。十分に警戒するわ。50階以降は難易度もぐっと上がるからカインはメンゼフさんに報告して頂戴。ニコラ行くわよっ。」
十六夜は装備を手にとりニコラにも急ぎの準備を命じだ。
「わかりました。念のためメンゼフさんにも報告しておきますね。」
よろしく頼むわね。と言い十六夜とニコラは部屋を飛び出していった。
嫌な予感がしていたのはこれだったのか…
50階以降の魔獣は弱くはない。だが、どう考えてもエンリルの弓矢が苦戦する敵は思い当たらない。
カインは急いで、ギルマス室へ行きメンゼフさんに報告した。
「そうか。なにかあるかもしれねえ。今日はお前も忙しくないから、応援に行ける準備だけしておけ。」
わかりましたと返事をして空を見上げる。ミナトたちが無事で居ることを祈った。
◇
ルークは50階に転移してから、暇だった。50階以降に来る冒険者なんて限られている。
チッ早く来いよ。
悪態をつきながら進む。襲うポイントを探していると、53階までたどり着いていた。
(これ以上、上の階に上がりすぎても冒険者がこない。53階は広間もあるから、罠でもしかけとくか。複数人を一気に相手するのは骨が折れるからな。)
裏ギルドで買った罠を仕掛ける。
クックック。カインを地獄に落とせると思うと笑いが止まらない。
さっそく下の階から数人上がってくる音が聞こえる。
オレも一芝居うつ必要がある。
ローブを頭まで被り、倒れて待つことにした。
◇
エンリルの弓矢のミナトはシンラとユキナと今回も3人でダンジョンを攻略していた。
今日は60階のボスに挑戦はしないが、レベル上げと道中の下見を兼ねてだ。
数階歩いた感じだと、問題なくボスまで辿り着けそうだ。
道中の話はカインのことがメインだった。3人ともカインと付き合いたいという話やどんなデートをしたいかと言う話で盛り上がっていた。
63階に上がり、警戒しながら進む。この階はあまり敵がいないみたいだ。
道を進むと、目の前の広間で男が倒れている。
「ううう…」
3人は慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですかっ」とミナトが声をかけた瞬間―――
シンラとユキナに矢が当たり二人は倒れた。痺れ矢だろうか。
なっなにがあったの。ミナトは一瞬パニックになった。
倒れているはずの男が笑いながら起き上がった。
「まさかエンリルの弓矢が引っかかるとはな。これは神もオレのことを愛しているのだろうな。」
「なっ。あっあんたは。」
ルークがミナトに斬りかかる。
至近距離からでは避けられない。ミナトは斬られた傷を手で抑えながら倒れ込んだ。
「大丈夫だお前は殺しはしない。オレの奴隷になってもらうだけだっ。」
ルークが笑いながら、ミナトの首にかかっている笛を取り上げる。
「あっあんた。なにすんのよ。」
「ほう。オレの攻撃を食らって意識があるとはたいしたもんだ。これはオレとカインの物語だ。眠ってろっ! 」
ルークがミナトの頭を蹴り上げる。
ミナトはカイン助けてと思いながら、意識を失った。
◇
十六夜とニコラは救助のために50階から一気に53階に駆け上る。
十六夜はニコラの様子がおかしいことには気がついていた。それでも当たり前に犯罪に手を染めていたニコラだ。私が厳しくしないといけないと考えていたのだ。
53階に入ると、くまなく探す。
いたっ。3人が広間で倒れていて、3人とも血を流しているっ。
その先には指名手配されているルークが笑いながらこっちを見ている。
「あんた、なにしてるのか分かってるの。冒険者を襲うなんて重罪よ。」
「あ? 偉そうに言ってんじゃねえぞ。ババア。」
「話してもわかんないみたいね。捕縛させてもらうわっ。ニコラいくわよっ。」
十六夜が双剣を構えて、駆け出そうとすると、ニコラが痺れ剣で十六夜を刺した。
慌ててポーションを使おうとするが、十六夜の体は思うように動かない。
血も出ているし痺れの効果がついた剣で刺されたのだろう。
倒れながら刺したであろうニコラを見つめると口がごめんなさいと動いている様に見えた。
「よくやったな。ニコラ。上出来だっ。」
十六夜の首から笛を取った。ルークは嬉しそうだ。
「えっええ…これで後はカインさんを刺すだけですねっ。」
「そうだ。それでお前はどこにでも行っていい。」
ニコラは今自分がしたことの大きさに戸惑い下を向いているが、カインを刺すことは忠実にとやりそうだ。
ルークはカインの絶望の顔を思い浮かべ笑いながら、十六夜から奪った笛を吹いた。
◇
嫌な予感がしてから、カインはいつでも自分が動けるように準備をしていた。メンゼフさんが気を使って話しかけてくれるがどうも頭に話が入ってこない。
このまま何もなく皆帰ってきてくれ。ブローチを握りしめて祈った。
―――ビィビィビィと<助け手>が再度鳴り出す。
どうやら悪い予感は的中したようだ。
名前と階層を見ると十六夜・53階と表示されていた。
「メンゼフさん僕行きますよっ。」
「あっ…ああ。ミスって吹いたってことも考えにくい。カイン一人では厳しいかもな。オレも行こう。」
「いえっ。僕にはイブもいますから。大丈夫です。一人で行きますよ。」
「そうか…」
いつもなら快く送り出してくれるメンゼフさんだが今回は迷っているみたいだ。
「もしかするとルークなどギルドに恨みを持った人間の仕業かもしれません。付いてきてくれる代わりと言ってはなんですが、念のためメンゼフさんにやってもらいたいことがあって…。」
◇
カインは50階から慎重に進んだ。罠を仕掛けられていると思ったほうがいい。
汗が額を伝う。
51階52階と歩みを進める。
向かいからニコラがふらふらと駆け寄ってきた。傷を負っているがどうやら無事みたいだ。
「ニコラかっ。大丈夫かっ。」
「カッカインさんですか。よかった。盗賊に襲われて。十六夜さんが助けを呼べって言ったから走って戻ってきたんです。」
「…そうか。今盗賊たちは何階にいる。エンリルの弓矢たちは無事か。」
「はい。奴隷として使うって言ってたから死んではいないと思います。」
ニコラにポーションを渡す。
「ニコラすぐにポーションで回復してくれっ。途中で罠を新しく仕掛けている可能性もある。警戒しながら、すぐに進もう。」
53階に上がる。どうやら罠を仕掛けられている痕跡はない。
少し進み、広場を覗くと十六夜さんとエンリルの弓矢の面々が縄で縛られている。血が出ていて気絶しているようだが、皆息はあるようだ。
助けに飛び出そうか。いやまずは犯人の確保が先か。
悩んでいるとルークの声が響き渡った。
「カアアアアアアアアアイン逢いたかったぜぇ。」
奥の小道からルークが歩いて広間の真ん中に出てきた。
「ルーーーーーク」
カインはすべてを悟り叫ぶ。やはりルークが犯人だった。
オレの大事な仲間たちを傷つけたことは許さない。
「ビビってないで広間に出てこいよ! カイン! 」
冷静になれ。ルークのことだ正々堂々と来るわけなんてないんだ。
カインは剣を握りしめ広間に一歩だけ入り立ち止まる。
「クックク。久しぶりだなカイン。逢いたかったぜ。」
「ルークお前を倒すっ。」
「ほざいてろ。雑魚カインがっ。早く助けないとお前の大事なお仲間が死んじゃうぞっ。そんなところにいて良いのか。」
駆け出し、今にでもルークに斬りかかりたい。
観察する限り、罠は見当たらないが…念には念をニコラに指示を出す。
「ニコラ、ギルドにニコラの笛を吹いて知らせてくれっ…」
そう言いながらカインがふり返ると、
ニコラがカインの横っ腹に剣を刺した―――
クッ。やっぱりニコラもグルだったか。
すぐにニコラを蹴り飛ばし、離れて回復魔法をかける。
「おっと。卑怯なことするんじゃない。」と言い、ルークが手に持った魔法具を発動させた。
まずい…回復が使えない。血はなんとか止められたが傷は癒えていない。
「そうだカイン。これは魔法を一定時間使えなくなる魔法具だ。お前は卑怯だからなっ対策させてもらったぜ。」
カインは助けを呼ぶために笛に手をかける。
「おっと。待ってもらおうかカイン。その笛を吹いたらエンリルの弓矢を一人ずつ殺す。」
ルークはしっかりと対策してきたのだろう。
「わかった。笛は吹かない。殺すなんて言わないでくれっ。」
ルークがカインの顔を見て声を出して笑う。
「いい気味だ。どうだカイン。大事なギルドの仲間に裏切られた気分は。今回ニコラがオレと共謀して十六夜とおまえを刺してくれたんだぜっ。」
「ニコラが…」
「そうだ。おまえが大好きなギルドのメンバーがだっ。もう行っていいぞニコラ。その代わりすぐに助けを呼ばれちゃこっちも嬉しくねえ。笛は置いていけ。」
ニコラは笛をルークに投げ渡し、来た道を戻っていった。
一瞬ニコラと目があう。ニコラは俯き何も言葉を発しなかった。
「ほらっやろうぜっカイン」
そう言うとルークが駆け出しカインに斬りかかった。
こういう日は嫌なことが起こるんだよな…
時計を見ると、出勤時間にはまだ早い。
こういう日に二度寝して寝過ごしても嫌だな。少し早いがギルドに行こう。
ギルドに着くとギルド長室にだけ電気が着いていた。
一応挨拶だけしておこうか。
扉をノックして入る
「メンゼフさん。おはようございます。」
「おお。カインか。おはよう。」
どうやら、メンゼフさんは書類を書いているみたいだ。こんな時間から働いているのはよほど忙しいのだろう。
「なにか手伝いましょうか。」
メンゼフが書類に目を落としたままカインに話しかける。
「いや大丈夫だっ。これで最後だから。」
書類を書き上げたメンゼフが背伸びしながらカインに話しかける。
「どうしたこんな時間に。まだ営業時間までかなり時間あるだろっ。」
「なんか嫌な予感がして起きちゃって。せっかくなので早く来ました。」
そうか。とメンゼフが頷く。
「カイン。おまえがギルドに来てからもう数ヶ月か。早えもんだな。」
「メンゼフさんまだ1カ月ですよ。」
「細けえ事言うんじゃねえよ。でも本当に助かってる。これからもよろしくなっ。」
オレは少し寝るぜと言いメンゼフさんがソファーに横になる。
カインはメンゼフの睡眠の邪魔をしないように部屋を出た。
その日のギルドはそこまで忙しくなかった。今日はアシスト制度の予定もない。
あの嫌な感じはどうやら気のせいだったみたいだ。
受付業務で久しぶりにエンリルの弓矢のメンバーと話をした。赤龍攻略以来だ。
今日から50階以降のダンジョン攻略を再開するらしい。エルフの疫病はどうやら落ち着いたらしく、やっと冒険に集中できると言っていた。
「帰ってきたら、また飲みましょうね。カイン。」
ウインクをしてギルドを出るミナトたち。
隣のミントさんからの視線が痛い。
「カインさんモテモテですねっ。」
一緒に冒険したから仲が良いだけですよっと言い訳をする…なんで言い訳をしてるんだろうか。
朝の冒険者ラッシュも落ち着き、裏で依頼書の作成業務に入る。
ニコラは十六夜さんに毎回怒られている。今回は書類の字が汚いと怒られていた。あまり怒りすぎても萎縮するだけだし、ランチでも誘ってニコラのサポートもしないとな。
今日はランチに行く時間も作れそうだなっ。サクッと書類やっつけよう。
帝都の鐘がなり、午前の部も終わりだ。
ニコラをランチに誘ったが断られた。
「ちょっと予定があって…ごめんなさい。」と歯切れが悪かった。
まだオレのことを嫌っているかもしれない。こういう時はそっとしておこう。
ランチをミントさんと二人で明けの明星で済ませて、午後も書類業務だ。
午後の仕事に取り掛かって1時間位経っただろうか。
―――ビィビィビィと<助け手>が鳴り出した。
十六夜さんが助け手の機械に駆け寄る。
「あら、珍しいわね。53階でエンリルの弓矢のミナトからだわ。」
エンリルの弓矢が53階で…違和感を感じる。何かがおかしい。
「十六夜さん注意したほうが良いかもしれません。エンリルの弓矢が53階の魔獣で事故が起きるなんて実力的に考えられません。なにか事件に巻き込まれた可能性が高いと思います。」
エンリルの弓矢とは共に冒険した仲だ。実力はわかっているつもりだ。
「そうね。十分に警戒するわ。50階以降は難易度もぐっと上がるからカインはメンゼフさんに報告して頂戴。ニコラ行くわよっ。」
十六夜は装備を手にとりニコラにも急ぎの準備を命じだ。
「わかりました。念のためメンゼフさんにも報告しておきますね。」
よろしく頼むわね。と言い十六夜とニコラは部屋を飛び出していった。
嫌な予感がしていたのはこれだったのか…
50階以降の魔獣は弱くはない。だが、どう考えてもエンリルの弓矢が苦戦する敵は思い当たらない。
カインは急いで、ギルマス室へ行きメンゼフさんに報告した。
「そうか。なにかあるかもしれねえ。今日はお前も忙しくないから、応援に行ける準備だけしておけ。」
わかりましたと返事をして空を見上げる。ミナトたちが無事で居ることを祈った。
◇
ルークは50階に転移してから、暇だった。50階以降に来る冒険者なんて限られている。
チッ早く来いよ。
悪態をつきながら進む。襲うポイントを探していると、53階までたどり着いていた。
(これ以上、上の階に上がりすぎても冒険者がこない。53階は広間もあるから、罠でもしかけとくか。複数人を一気に相手するのは骨が折れるからな。)
裏ギルドで買った罠を仕掛ける。
クックック。カインを地獄に落とせると思うと笑いが止まらない。
さっそく下の階から数人上がってくる音が聞こえる。
オレも一芝居うつ必要がある。
ローブを頭まで被り、倒れて待つことにした。
◇
エンリルの弓矢のミナトはシンラとユキナと今回も3人でダンジョンを攻略していた。
今日は60階のボスに挑戦はしないが、レベル上げと道中の下見を兼ねてだ。
数階歩いた感じだと、問題なくボスまで辿り着けそうだ。
道中の話はカインのことがメインだった。3人ともカインと付き合いたいという話やどんなデートをしたいかと言う話で盛り上がっていた。
63階に上がり、警戒しながら進む。この階はあまり敵がいないみたいだ。
道を進むと、目の前の広間で男が倒れている。
「ううう…」
3人は慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですかっ」とミナトが声をかけた瞬間―――
シンラとユキナに矢が当たり二人は倒れた。痺れ矢だろうか。
なっなにがあったの。ミナトは一瞬パニックになった。
倒れているはずの男が笑いながら起き上がった。
「まさかエンリルの弓矢が引っかかるとはな。これは神もオレのことを愛しているのだろうな。」
「なっ。あっあんたは。」
ルークがミナトに斬りかかる。
至近距離からでは避けられない。ミナトは斬られた傷を手で抑えながら倒れ込んだ。
「大丈夫だお前は殺しはしない。オレの奴隷になってもらうだけだっ。」
ルークが笑いながら、ミナトの首にかかっている笛を取り上げる。
「あっあんた。なにすんのよ。」
「ほう。オレの攻撃を食らって意識があるとはたいしたもんだ。これはオレとカインの物語だ。眠ってろっ! 」
ルークがミナトの頭を蹴り上げる。
ミナトはカイン助けてと思いながら、意識を失った。
◇
十六夜とニコラは救助のために50階から一気に53階に駆け上る。
十六夜はニコラの様子がおかしいことには気がついていた。それでも当たり前に犯罪に手を染めていたニコラだ。私が厳しくしないといけないと考えていたのだ。
53階に入ると、くまなく探す。
いたっ。3人が広間で倒れていて、3人とも血を流しているっ。
その先には指名手配されているルークが笑いながらこっちを見ている。
「あんた、なにしてるのか分かってるの。冒険者を襲うなんて重罪よ。」
「あ? 偉そうに言ってんじゃねえぞ。ババア。」
「話してもわかんないみたいね。捕縛させてもらうわっ。ニコラいくわよっ。」
十六夜が双剣を構えて、駆け出そうとすると、ニコラが痺れ剣で十六夜を刺した。
慌ててポーションを使おうとするが、十六夜の体は思うように動かない。
血も出ているし痺れの効果がついた剣で刺されたのだろう。
倒れながら刺したであろうニコラを見つめると口がごめんなさいと動いている様に見えた。
「よくやったな。ニコラ。上出来だっ。」
十六夜の首から笛を取った。ルークは嬉しそうだ。
「えっええ…これで後はカインさんを刺すだけですねっ。」
「そうだ。それでお前はどこにでも行っていい。」
ニコラは今自分がしたことの大きさに戸惑い下を向いているが、カインを刺すことは忠実にとやりそうだ。
ルークはカインの絶望の顔を思い浮かべ笑いながら、十六夜から奪った笛を吹いた。
◇
嫌な予感がしてから、カインはいつでも自分が動けるように準備をしていた。メンゼフさんが気を使って話しかけてくれるがどうも頭に話が入ってこない。
このまま何もなく皆帰ってきてくれ。ブローチを握りしめて祈った。
―――ビィビィビィと<助け手>が再度鳴り出す。
どうやら悪い予感は的中したようだ。
名前と階層を見ると十六夜・53階と表示されていた。
「メンゼフさん僕行きますよっ。」
「あっ…ああ。ミスって吹いたってことも考えにくい。カイン一人では厳しいかもな。オレも行こう。」
「いえっ。僕にはイブもいますから。大丈夫です。一人で行きますよ。」
「そうか…」
いつもなら快く送り出してくれるメンゼフさんだが今回は迷っているみたいだ。
「もしかするとルークなどギルドに恨みを持った人間の仕業かもしれません。付いてきてくれる代わりと言ってはなんですが、念のためメンゼフさんにやってもらいたいことがあって…。」
◇
カインは50階から慎重に進んだ。罠を仕掛けられていると思ったほうがいい。
汗が額を伝う。
51階52階と歩みを進める。
向かいからニコラがふらふらと駆け寄ってきた。傷を負っているがどうやら無事みたいだ。
「ニコラかっ。大丈夫かっ。」
「カッカインさんですか。よかった。盗賊に襲われて。十六夜さんが助けを呼べって言ったから走って戻ってきたんです。」
「…そうか。今盗賊たちは何階にいる。エンリルの弓矢たちは無事か。」
「はい。奴隷として使うって言ってたから死んではいないと思います。」
ニコラにポーションを渡す。
「ニコラすぐにポーションで回復してくれっ。途中で罠を新しく仕掛けている可能性もある。警戒しながら、すぐに進もう。」
53階に上がる。どうやら罠を仕掛けられている痕跡はない。
少し進み、広場を覗くと十六夜さんとエンリルの弓矢の面々が縄で縛られている。血が出ていて気絶しているようだが、皆息はあるようだ。
助けに飛び出そうか。いやまずは犯人の確保が先か。
悩んでいるとルークの声が響き渡った。
「カアアアアアアアアアイン逢いたかったぜぇ。」
奥の小道からルークが歩いて広間の真ん中に出てきた。
「ルーーーーーク」
カインはすべてを悟り叫ぶ。やはりルークが犯人だった。
オレの大事な仲間たちを傷つけたことは許さない。
「ビビってないで広間に出てこいよ! カイン! 」
冷静になれ。ルークのことだ正々堂々と来るわけなんてないんだ。
カインは剣を握りしめ広間に一歩だけ入り立ち止まる。
「クックク。久しぶりだなカイン。逢いたかったぜ。」
「ルークお前を倒すっ。」
「ほざいてろ。雑魚カインがっ。早く助けないとお前の大事なお仲間が死んじゃうぞっ。そんなところにいて良いのか。」
駆け出し、今にでもルークに斬りかかりたい。
観察する限り、罠は見当たらないが…念には念をニコラに指示を出す。
「ニコラ、ギルドにニコラの笛を吹いて知らせてくれっ…」
そう言いながらカインがふり返ると、
ニコラがカインの横っ腹に剣を刺した―――
クッ。やっぱりニコラもグルだったか。
すぐにニコラを蹴り飛ばし、離れて回復魔法をかける。
「おっと。卑怯なことするんじゃない。」と言い、ルークが手に持った魔法具を発動させた。
まずい…回復が使えない。血はなんとか止められたが傷は癒えていない。
「そうだカイン。これは魔法を一定時間使えなくなる魔法具だ。お前は卑怯だからなっ対策させてもらったぜ。」
カインは助けを呼ぶために笛に手をかける。
「おっと。待ってもらおうかカイン。その笛を吹いたらエンリルの弓矢を一人ずつ殺す。」
ルークはしっかりと対策してきたのだろう。
「わかった。笛は吹かない。殺すなんて言わないでくれっ。」
ルークがカインの顔を見て声を出して笑う。
「いい気味だ。どうだカイン。大事なギルドの仲間に裏切られた気分は。今回ニコラがオレと共謀して十六夜とおまえを刺してくれたんだぜっ。」
「ニコラが…」
「そうだ。おまえが大好きなギルドのメンバーがだっ。もう行っていいぞニコラ。その代わりすぐに助けを呼ばれちゃこっちも嬉しくねえ。笛は置いていけ。」
ニコラは笛をルークに投げ渡し、来た道を戻っていった。
一瞬ニコラと目があう。ニコラは俯き何も言葉を発しなかった。
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かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
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