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ミトVSシイナ

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 光に包まれると私はどこかに飛ばされていたみたい。周りを見渡すと書物庫かしら。少しかび臭いし、どうも暗いわね。

 目の前に対峙するのは女だ。面識はないがカノンが言っていたシイナだろう。

 「私はミト。あなたがシイナかしら。」

 「そうよ。シイナよ。殺される相手の名前くらい教えて上げるわ。」

 シイナは短めの双剣を構えて突っ込んでくる。
 シイナの動きは速い。ジョブは多分だけど盗賊ね。

 私は弓使いだけど、剣も少しなら扱えるのよ。
 寸前のところで弾き、バックステップをして距離を取り、弓を放つ。火の属性をエンチャントして攻撃力を上げたいけど、こんなところで火属性を付けたら火事になる。

 シイナが横に飛んで矢を躱した。数センチずれた。こいつ速い。
 
 「おばさんの癖にやるじゃない。」

 シイナが煽ってきた。年齢はたしかに私はカノンより数個だけ上だけどほとんど変わらない。

 「あら、カノンを私に取られたアバズレの元彼女が偉そうに煽ってるのね。かわいいわ。」

 私が笑うと、シイナの顔が真っ赤になる。

 「ふざけるな。カノンは私のものよ。私のペット。」

 「あんまり吠えると惨めよ。カノンはお姉さんが好きみたいだし、あなたの魅力じゃカノンがかわいそうだわ。」

 「うるさい。」と叫びシイナが突っ込んでくる。

 先程の攻撃よりは速度が上がっている。これが魔人化ね。たしかに速い。速いけど砂漠の魔獣たちの方が厄介だったわ。

 矢を連続で放ち、突っ込んでくるシイナの動きを阻害する。

 「卑怯者ね。正々堂々と戦いなさいよ! 」

 弓矢使いに至近距離で戦えと言うのはよくわからない。

 「帝国を裏切ったやつに正々堂々なんて言われたくないわ。」

 数本矢を放ち、矢でシイナの動きを誘導する。

 シイナは弓矢を双剣で弾き、距離を詰める。

 「もらった! じゃあねおばさん。」

 シイナが私の前に立ち、双剣を振りかざす。その顔は勝利を確信しているようだ。

 「バカなのはあんたよ。」

 魔法矢がシイナの後から背中に突き刺さり、シイナが崩れ落ちた。

 「なっなぜ。嘘でしょ。どうやって放ったのよ。」

 簡単な話だ。エルフの里で教えてもらった魔法矢だ。魔法矢は軌道をある程度コントロールできる。シイナを直接狙わずに、外して私に刺さるように撃ったのだ。誘導がうまくいくか心配だったがうまくいった。

 「言うわけ無いでしょ。」

 崩れ落ちたシイナの首を剣で斬る。

 刹那、シイナが寸前のところで躱し、後に飛んだ。

 「油断したわ。ただの弓矢使いだと思っていた。あんた性格悪いわね。」
 
 「シイナには言われたくないわ。権力しか興味がない女狐に言われてもなんとも思わない。」

 それにしても心臓に矢が刺さって生きているなんて恐ろしい。これはもう人間とは言えない。まさに魔人ね。心臓を突き破るか、首を飛ばすしかなさそうね。

 シイナが背中に刺さった矢を引き抜き、叫びながら斬りかかる。

 躱して、短剣に持ち替えて弾く。

 距離を詰められるとまずい。押し切られる。どうにかして距離を取らないと。

 「おばさん、遅いわよ。」

 シイナが連続で斬りかかる。
 
 素早い連続攻撃。全ての攻撃は防げない。受けきれない一撃は腕で受ける。激痛が走り血が出るが、まだ腕は動く。大丈夫だ。

 「さっきまでの威勢はどうしたの、おばさん! ほらほら余裕がないわよ。」

 シイナから感じる圧が上がる。

 リスクは承知で体当たりをして倒す。シイナは私より小柄だから、ヨロケて後に倒れた。

 「おばさん、必死ね。」

 「黙れアバズレ。」

 シイナがニヤニヤと笑っている。先程から微塵も自分の勝ちを疑っていないのだろう。

 距離は取れた。これならやれる。

 シイナが立ち上がり、双剣を構える。

 私は弓を精一杯引き、狙いをつける。

 「そろそろ決着を付けましょう。ババア。」

 「さっきから口が悪いわね。それは自身のなさの表れかしら。」

 「余裕ぶってんじゃねえ! 」

 シイナが突っ込んでくる。すぐに頭に血がのぼるところがまだまだ青いわね。

 弓をシイナの顔めがけて射る。
 シイナの前髪に当たるが体をねじって躱した。

 「もらった! 」

 シイナの剣撃が弓に当たり弓がへし折れた。私も衝撃で横に飛ばされる。
 父親の形見だったけど、しょうがない。無傷で勝てる相手ではない。

 「もう打つ手はないわね。命乞いしなさい。」

 シイナは目の前で私を見下している。

 「お断りよ。」

 「そう。命乞いしても殺すつもりだったけど残念ね。ばいばい。」

 弓はないが、射る姿勢を作る。

 「はっ最後の抵抗がそれ。もう弓はないでしょ。」

 シイナが剣を振り下ろす。

 刹那―――

 魔法で弓を作り、全ての力を込めて三本の魔法矢を連続で射る。

 シイナの顔と心臓、お腹に突き刺さった。貫通は出来なかったが、深く刺さっている。これで終わりだ。

 「なんで。弓はさっき壊したのに。」

 シイナが血を吐き、うつ伏せに倒れ込む。

 私を救ったのは先日、エルフから教えてもらった秘伝の魔法弓だった。エルフの里の秘伝の三本の矢。心臓に突き刺さっている。これで終わりだ。

 「あんたのことがかわいそうだよ。」

 「くそっくそっ。」

 シイナの口からは血がどんどん溢れている。

 「最後は一人寂しく、カビ臭い部屋の中で死になさい。」

 カノンたちに合流しようと部屋を出ようときびすを返す。

 刹那、シイナが声を上げながら後から斬りかかってきた。

 卑怯な魔獣はよく死んだふりをするのよね。

 もう既に魔法矢を放っている。
 振り返ると、私に斬りかかろうとしたシイナの心臓を魔法矢が貫通した。

 「うそ…」

 シイナが崩れ落ちる。もう立ち上がれないだろうが、念には念を入れる。こんな魔物が生きていてはいけない。

 短剣で首を掻っ切った。シイナは動かなくなった。

 これで終わりね。

 部屋を出る。現在地は分からないが、三階にいるようだ。急いで降りてカノン達に合流しよう。
 皆が無事なことを祈るしか今はできない。終わったらカノンにいっぱい褒めてもらおう。
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