74 / 90
賢者ロミの大脱走
しおりを挟むルーンがフフンと笑って言った。
「策と言えるほどではありませんが、捕まえた彼らの服を来て教会関係者のフリをして進みます。バレたらそこからは武力行使で、妹のユーリを一気に助けます。」
「なるほど。考えたね。それでユーリを助けたらどうするんだい。」
「その後に、地下3階の一番奥にある部屋には地下水路に繋がる穴があります。そこまで進みましょう。地下水路には私の関係者が待機しておりますので、そこまで来れば安全に逃げられます。」
「確かにシンプルな策だね。教会内の状況が僕には分からないから、ルーンの策に乗るしかなさそうさ。」
「ロミ様は昔言っていましたよ。作戦はざっくりでその場その場で対応できるのが一流の魔道士だって。」
確かにそんな事を言ったかもしれない。
「そうだね。早速行こうか。ルーンが部屋を出てから時間もだいぶ経っている。怪しまれる頃合いかもしれないさ。ユーリを助けて教会を出てから思い出話に花を咲かせようよ。」
男たちの服を脱がせて着る。少し臭いが我慢するしかなさそうだね。教会のローブがあるから顔を隠すのには都合が良い。念のため短剣も拝借するよ。使うことがないことを祈るけど。
「準備はいいかい、ルーン。」
「ええ。ロミ様。行きましょう。私が先に歩きます。横についてきてください。」
牢屋の扉を開けて階段を目指す。この階には人は見当たらない。
階段を上がる。妹のユーリがいるのは一番奥の部屋だったか。部屋の前には見張りが二人いた。
「おい、どうしたお前たち、こんな時間に。酔っ払っているとお偉方に怒られるぞ。」
僕らが変装していることには気がついていないみたいだね。
ルーンが低い声で返事をする。
「ああ。少しのみすぎてな。お前たち、見張りを変わってやろうか。」
「良いのか。助かるぜ。俺たちは下の階で賢者を痛めつけているらしいから、それに参加してくるよ。」
見張りの二人は下品な笑い声を上げながら去っていった。
ドアノブを開けようとするが鍵がかかっている。鍵を剣で壊そうか。いや大きな音が響いてしまうね。
「精霊よ鍵を開けよ! 」
ルーンが聖魔法で鍵を開ける。
「だれっ。もしかしてお姉ちゃん? 」
「ユーリ! 」
「会いたかったわ。お姉ちゃん。数カ月ぶりね。」
ルーンとユーリが抱き合う。久しぶりの再会なのだろうね。
「感動の再会は後だ。すぐにここを出よう。」
「ええ。ユーリに説明している暇はないわ。ロミ様についていって。」
「お姉ちゃんはどうするの。」
「私も一緒よ。さあ速く。走りましょう。」
私たちが部屋を出て走り出すと警報音が鳴り響いた。
『賢者ロミが逃げた。地下2階を中心に探し出せ。生死は問わぬ。必ず捕まえろ。』
階段から大勢の兵士が剣を持って現れた。
「いたぞ! ユーリ様も一緒だ。」「くそっこれだから帝国の人間は卑怯だ。」「お前たち一気にやるぞ。」
男たちが口々に言いながら突っ込んでくる。一人ひとりを相手にする余裕はない。一刻も速く逃げないと。
「邪魔はしないでもらいたいね。ダイアモンドダスト!」
全員を凍らせて足止めする。走り抜けて地下3階まで階段をかけ降りる。
「ユーリ、危ない! 」
ルーンの声に反応する。前から弓矢を放ってきたようだ。暗くて魔法では撃ちもらす可能性もある。
こういう時はこれだ。ユーリに飛んできた弓矢をギリギリまで引き付けて短剣で弾く。短剣の修行をカノンと旅の中でしていたのさ。訓練をしていて本当によかった。
目の前の敵をダイアモンドダストで凍らせる。一番奥の部屋に入れば、後は水路に出るだけさ。ここまで順調に進むとは思わなかった。扉を閉めて栓をする。これで時間は稼げるだろう。
床にある扉を開けると人が一人通れるくらいの穴があった。
「ルーンから先に行ってくれ。僕が追手を食い止める。」
「ロミ様から先に降りてください。水路に伏兵がいるかもしれませんから私じゃ人質に取られます。速く! 追手がきます。長くは持ちません。」
木の扉を体当りする音が聞こえてくる。たしかに長くは持ちそうにないね。言い争っている時間はない。
「わかったよ。僕が指示を出してユーリが降りたらすぐにくるんだよ、ルーン! 」
僕は穴を飛び降りた。
少し前に明かりを持った教会の制服を着た男がいた。どうやらルーンが言っていた仲間みたいだけど信用はしないほうがよさそうだね。
「キミは誰だい。」
「お前こそ誰だ。なぜこの道を知っている。」
「ルーンから聞いた。」
「それでルーン様はどこにいる。」
「上で兵を引き止めてくれている。」
「そうか。すぐに呼んでくれ。オレはルーン様側近の騎士アルベルトだ。」
男の表情を見るとどうやら嘘はついてなさそうだね。
「ユーリ、下は大丈夫だ。すぐに降りてきてくれ! 」
僕が叫ぶと、ユーリが穴から落ちてきた。
風の魔法でユーリをゆっくりと降ろす。
「ユーリ、上はどうなっている。」
「もう突破されると思いますが、姉もすぐに降りてくると思います。」
すぐにルーンも降りてきた。
「急ぎましょう。もう数秒もせずに追手が来ると思います。アルベルトありがとう。案内してちょうだい。」
「分かった。急ごう。」
三人でルーンの騎士アルベルトの後を追う。
穴から大勢の男が追いかけてきたみたいだ。
「待て。逃げられると思っているのか。」
教会の男が矢を放つ。こんな暗くて当たるわけがないさ。
後からドサッと音がして振り返るとルーンが地面に倒れていた。脚に矢が刺さっている様で立ち上がれないみたいだ。
「私は大丈夫。先に行って。」
「いやっ、お姉ちゃんを見捨ててはいけないよ。」
ユーリが立ち止まりルーンの元へ戻ろうとしている。
「走リ続けて、追いつかれます! 」
アルベルトが叫ぶが魔法でルーンは助けられない。
「私は魔法具が全部揃わないかぎり殺されることはないから! 速く逃げて!」
僕はユーリの手を引っ張り走り出す。
「ユーリ大丈夫だ。ルーンは助けに行くさ。今はキミの身が第一優先だよ。」
「でもでもっ。お姉ちゃんは見捨てられないよ。」
「それは後で説明する。お姉ちゃんは殺されることは絶対にない。僕を信じて。」
ユーリが頷いて、僕の横を走り出した。ユーリも強い子だ。
走り出すと目の前に光が見える。広場だ。ここから細い道が何本にも別れているから、どこかに入ってしまえば簡単に捕まることはない。
細い道をひたすらに走る。もう何分も走っている。さすがに疲れてきた。
「ここの部屋です。部屋の天井から建物に入ってください。僕は囮になってわざと見つかります。ご武運を! 」
お礼を聞くまでもなく、アルベルトは走って戻っていった。
0
お気に入りに追加
983
あなたにおすすめの小説
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最悪から始まった新たな生活。運命は時に悪戯をするようだ。
久遠 れんり
ファンタジー
男主人公。
勤務中体調が悪くなり、家へと帰る。
すると同棲相手の彼女は、知らない男達と。
全員追い出した後、頭痛はひどくなり意識を失うように眠りに落ちる。
目を覚ますとそこは、異世界のような現実が始まっていた。
そこから始まる出会いと、変わっていく人々の生活。
そんな、よくある話。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる