70 / 90
水の神殿へ
しおりを挟む早朝に村を出て南に進んだ。
教会に行動を感づかれる可能性もあるが、速度が第一優先だ。街道を突っ切って進む。
途中で帝国の兵士の格好をした男たち5人が検問をしていた。
「待て。お前たち止まれ。今この道は帝国の命により封鎖中だ。」
「私は帝国騎士No.Ⅱのエマ。特殊任務中。そんな報告は聞いていない。邪魔しないで。」
エマがオレたちの前に出て言った。
「待てよ。お前の顔は見たことあるぞ。カノンだな。ここでお前たちを殺せば昇格できる! 」
男たち五人が剣を抜く。
「遅い。」
エマが一瞬で五人を斬り捨てた。
疾い。バフをかけていない状態だとエマはオレよりも速い。さすがは帝国が誇る最強騎士エマだ。
「カノン、エマ強いね。」
ライカが驚いているが、オレも驚いた。ここまで強くなっていたなんて。オレもこの騒動が終わったらエマと戦いたい。
「物騒ね。死体は森に隠して、先に急ぎましょう。」
なにごともなかったような顔でエマは剣の血を布で拭き取り、話しかけてきた。
「ああ。エマが居ることが心強いよ。」
「そう。私よりカノンの方が強い。嫌味にしか聞こえない。」
死体を片付けてエマが先を歩き始める。
慌ててオレたちは進み始める。昼までには神殿に辿り着けそうだ。
南の神殿は水の神殿と言われている。水の神ウンディーネを祀っているウィル教の総本山。ウィル教はチャーチル教が台頭するまでは帝国で一番の信仰者数を誇っていた。チャーチル二世が即位してからはウィル教は廃れている。
「申し訳ないが、帝国の命令であっても協力することは出来ません。」
水の神殿にたどり着き、エマがルノガー将軍からの紙を教皇に渡したが、魔法具の引き渡しは断られた。
「なぜ。ウィル教は帝国に協力すると聞いている。」
「それとこれとは別です。【神の腕輪】はウィル教の象徴する魔法具です。お渡しすることは出来ません。」
「このままじゃチャーチル教に襲われる。」
「チャーチル教に襲われても結構。我々には戦う覚悟がある。もう出ていってくれ。」
ウィル教の教皇が手をシッシッと振った。話はここまでということか。側近の神父に案内されて外に出された。
教会を出て一旦食事を取りながら作戦会議だ。
「カノン、どうしよう。」
「ああ、困ったな。間違いなく神殿に腕輪はあるはずだ。指輪が共鳴していた。」
「そう。でもこのままじゃ研究所みたいに襲われちゃう。」
「しょうがない。取り付く島もないんだから。一旦、宿で休んで夜に忍び込んで盗もうか。」
エマが笑った。
「カノンは大胆。」
「そうか? 緊急事態だ。捜索されることには慣れているさ。ミトとライカも意見があれば言ってくれ。」
オレもエマに笑い返す。やるなら徹底的にだ。
二人は首を横に振った。満場一致だな。
宿を取り、休む。エマは帝国に報告を送ると言って出ていったが、オレは少しだけ仮眠を取ることにした。
「外も暗くなった。ご飯を食べ終えたら向かおう。」
オレが言うと皆が頷いた。
外を出ると、人通りが少ない。なにかおかしいな。なにか起こっているのだろうか。
「おい、見てみろ! 教会から火が上がっているぞ! 」
街の男が叫ぶ。
しまった。チャーチル教会に先を越されたか。
仲間と目を合わせて街を駆ける。走れば数分の距離だ。
神殿から火が上がっている。建物は直に崩れるだろう。長くは持たない。
広間に出ると、教会の格好をした男とウィル教教皇が対峙している。
「大人しく渡せばいいものを。バカな男だ。」
教会の格好をした男が笑った。
「うるさい。邪教の犬が。」
「ほざけ。さっさと魔法具を渡すんだな。まあ渡しても殺すがなっ! 」
男が教皇を何度も刺しているのだろう。教皇の白いマントは血で色が変わっている。
「めんどくせえが、自力で探すわ。あばよ。」
男が剣を振りかぶる。
オレは無詠唱でサンダーボルトを放った。
「おっと危ない。護衛は全員殺したと思っていたがな。」
男が振り返りこちらを見る。
「おやおやおや。キミはカノン君かな。会いたかったぜ。俺はサルス。お前のことがにくい三兄弟の末っ子さ。」
サルスが飛び一気に距離を詰めて斬りかかってきた。
草薙剣で受ける。剣がぶつかる音が神殿に響き渡る。
「エマとミナトは教皇を助けろ! それが終わったら建物の火を消してくれ。オレがこいつは倒す!」
「ハッ上等だ。俺は兄貴たちと違って甘くねえ。最初っから全力でぶっ殺してやる!そこらへんで転がってる雑魚みたいにな! 」
神殿の入口からここまで数多の死体が転がっていた。残念だが、どんなに強力な魔法使いでも死人は蘇らせることはできない。
サルスが叫ぶと角と羽が出る。最初から本気で来るだろう。
エマが、教皇にたどり着き、回復魔法をかける。同時にブリザードを放ち建物に移った火を消した。
ミトは後から火の矢を放った。サルスが後を振り返らずに矢を掴む。
「おっと、俺とカノンの邪魔はさせねえ、おまえらはこいつらと遊んでいてくれ。」
呪文を唱えると、床から魔獣が二体現れた。龍だ。黒龍。魔獣で最強とも言われる黒龍を召喚した。
黒龍は咆哮を上げてエマとミトに襲いかかった。
「よそ見してる暇なんてねえぞカノン! 楽しもうぜ! 」
サルスが斬りかかる。視線を外す余裕はなさそうだ。
「どうしたどうした。こんなのに兄貴は負けたのかよ。」
オレは防戦一方になる。バフをかけてもサルスが速い。スキを作りだすしかない。
0
お気に入りに追加
983
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる