上 下
61 / 90

秘密の水路

しおりを挟む
 魔法都市マジクトには昼前には着いた。

 ボスにお礼を言って、別れてから昼食を取った。

 「それで、これから帝都に向かうには山を超えないといけない。こんなにゆっくりしていていいのか。」

 「ふっふっふ。僕の足で山なんて超えられるはずがないだろ。」

 たしかに賢者のロミが歩くのは遅い。普通の人の半分以下の速度だ。通常の人でも山を超えるのであれば三日。ロミなら五日以上はかかるのではないだろうか。

 「そんなに偉そうに言われても…」

 ミトがロミの態度に少しだけひいいている様だ。

 「まぁ一日で帝都までは着くよ。僕は魔法使いだからね。なんでも出来るんだ。」

 ロミが悪い笑顔を浮かべた。


 食事後、ロミが学校に取りに行くものがあると言い出ていった。オレたちには装備や道具の準備をして欲しいと言われたので、商会を回る。ロミが買ってきてほしいものは紙で渡された。

 一時間は経っただろうか。用事を済ませて、ロミの家の前で合流した。

 「いいかね。キミたち。今日見たことは誰にも口外してはいけないさ。」

 なにが起こるんだ。こんなに念押しするロミも珍しい。

 「もしかして魔法で飛んでいくの? 」

 ライカが不思議そうな顔でロミに質問した。

 「現代の魔術では集団で飛ぶことは出来ないよライカ。まずは僕の家に入ろう。」

 すごいもったいぶるな。なにをするんだ。

 ロミの家に入り、台所に案内された。

 「さあ着いたさ。秘密の抜け穴を使うんだ。」

 「まさか…下水道なの。」

 ミトが少しだけ嫌そうな顔をした。

 「さすがはミトだね。若くして首長を務めるだけはあるさ。ほら文句は後だ帝都まで急ぐよ。いま出たら着くのは夜だ。」

 台所から地下水路に降りる、下水の匂いで臭いが水路は先が見えないくらいに広い。まぁ暗くて先が殆ど見えないのだが。

 ロミが松明に火を着けた。ロミが先頭で歩き始める。

 「帝国が誇る秘密の水路だ。四大都市と帝都はこの水路でつながっているのさ。」

 帝国騎士だったのにも関わらずオレは知らなかった。いや騎士でも知っているやつはいない。水路が各都市と繋がっているのを知っているのはお偉方だけなのだろう。

 「そうなのか。なぜロミはここを知っている。」

 「ふっふっふ。それは秘密さ。このままの速度であればちょうど約束の時間には間に合うよ。」

 ロミがニヤッと笑うのだが、地下水路でドヤ顔になるのは正直良くわからない。約束の時間まで決めているのであればしっかりと情報共有してほしいものだ。

 水路は下水を流しているみたいだが、暗くてなにも見えない。それに下水臭い。

 「ねえロミ、この水路ではお化け出たりしないよね。」

 「ライカ。お化けなんて出たりしないさ。多分だけどね。」

 そう言うと、ライカはオレの後に引っ付いた。

 「ライカ、歩きづらいからちゃんと歩いてくれ。」
 
 「だって…お化け怖いもん。」

 それを見たミトが笑いながら言った。

 「あんたたち、やっぱり大物ね。こんな状況なのにすごいわ。」

 「オレは被害者側なのだが、まあ良い。夜まで歩くんだ。今から集中していても気はそう長くは持たない。ミト、リラックスすることも冒険者には大事だ。」

 ミトが頷く。たしかに事態は事態だがすぐに解決出来るような問題じゃない。もう国家ぐるみの問題だ。帝国と教会の影の戦争と言っても過言ではないのだ。

 「それでロミ、本当にこの道であっているのか。」

 ロミの家から降りた時は一本道だったのだが、目の前には道が三本に分かれている。

 「それなのさ。僕は賢者だが興味のないことは覚えられなくてね。困ったどっちだったか。」

 「おいおい。しっかりしてくれよ。少なくとも道がどちらかは重要な問題だろ。」

 ロミが申し訳無さそうに頬をポリポリと搔く。

 「カノン、多分こっちだよ、奥で音がするし、ロミが昔通ったでしょ。ロミの匂いがするもん。」

 ライカが言ったようだ。

 最近、日を増す毎にライカの能力が上がっている。いやフェンリルに近づいている気がする。人間の状態でもより良く食べるようになったし。鼻も効くようだ。

 「ああ。そっちだ。思い出した。ありがとうライカ。」

 「ううん。大丈夫。私もみんなの力になりたいから。」

 そう言うとライカがニコっと笑った。

 「無駄話している余裕はない。さっさと進もう。」

 奥に進めば進むほど蜘蛛の糸が多くなっていった。

 邪魔と言うほどではないが顔につくのは正直不快だ。

 ロミが燃やそうとしているが、そこまでして誰かに気がつかれるのはもったいない。オレが先頭に立って、剣で蜘蛛の糸を薙ぎ払いながら進んだ。


 「おかしいな。以前はこんなに蜘蛛の糸がなかったのに。でも道は見覚えがある。道は合っているよ。」

 「ああ。道さえあっておけばいい。オレたちは観光で来ているわけじゃないんだ。」

 斬りながらどんどん進んでいく。

 歩くこと数時間。大きな広場に抜けたようだ。謁見の間より広いのではないか。
 
 通路から広場を見ると、一面蜘蛛の糸だらけだ。

 これは嫌な予感がする。広場に入らずに合図をする。一応警戒しよう。魔獣がいてもおかしくないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...