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祝杯と夜の散歩

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 ロミは忙しく回復をして回っていた。

 皆、傷ついていた。死人は出ていないが、オレたちの到着が少しでも遅ければ彼らは無事では済まなかっただろう。

 「よしっ。これで全員終わりだね。ほらカノン、速く見せて。」

 そう言うとロミがオレの横に来た。

 オレは左肩を蠍に斬られたが、重症でもなんでもない。回復なんてしなくても数日で傷は塞がる。

 「オレは大丈夫だ。」

 「なに言ってるのさ。街を救った英雄に傷があれば、皆が気を使うだろう。」

 驚いた。いつもは他人を気にしないロミが、そんな事を言うなんて。アドルフの件で何かロミの考え方も変わったのだろう。

 「そうだな。すまないが、ロミ頼む。」

 「謝らないでよ。はいっこれで傷はふさがったさ! 」

 ロミが回復した箇所をバン叩く。傷は塞がっても痛いものは痛い。前言撤回だ。ロミは変わっていない。ロミのままだ。

 「さて、皆は先に首長のテントに行ったみたいだね。私たちも向かいましょう。」

 「その前にライカの着替えをさせてからいこう。」

 ライカは人間に変身したら素っ裸になる。それを対策するために常にマントを狼化している状態でも着けてもらうことにした。 

 一応、ライカはマントで上半身から脚まで隠せてはいるが、それでも少女がマント一枚なんてかわいそうだ。朝まで飲むことになる可能性も高いし、服くらい取りに行ってもいいだろう。

 「そうね。ライカ行きましょ。」

 ロミはライカとおしゃべりしながら先に歩く。

 オレはどうも今回の事件が腑に落ちなかった。怪しい点が何個もある。今考えてもどうにもならないないが。


 黙りながら歩いていると、宿に着く。

 「ライカとロミは着替えに行ってくれ。オレはカルスを呼んでくる。」

 二人が頷いて部屋に戻っていった。

 カルスの部屋をノックする。

 「開いてるよ。」

 「やあカルス。カノンだ。無事だったか。」

 「ああ。別れてすぐに宿に戻って研究していたんだ。」

 「そうか。それはよかった。」

 「それでカノンは何のようだ。」

 「首長が街を救ったお祝いに全員を招待すると言っていてな。カルスも来るだろう。」

 「…そうだな。参加させてもらおう。」

 カルスト廊下に出るとライカも着替え終わったみたいだ。

 四人で首長のテントに向かう。



 首長ミトのテントはものすごくデカかった。怪しまれていたから、オレはテントに寄らなかったが百人は入るんじゃないか。

 「街を救った英雄さんたちは正面に来てくれよ。」

 ミトが入ってきたオレたちを見て、手招きした。

 ミトがグラスを持って立ち上がる。

 「集まったようだね。サンドタウンの奴らも、砂漠の走り屋たちも、そしてカノンたちもよく戦ってくれた。首長として皆にお礼が言いたい。ありがとう。報酬は後日出す。今日は私の奢りだ。朝まで飲もうじゃないか。乾杯! 」

 「「「乾杯! 」」」

 サンドタウンの酒は度数が強く独特な味がした。この土地独特のお酒らしい。いつもならすぐに酔えるのだが今日は酔える気がしない。

 ロミとカルスは研究の話で盛り上がっているし、ライカは首長ミトに気に入られたみたいだ。ずっとミトに抱きかかえられている。当然ライカは未成年だからアルコールはなしだ。その代わりと言ってはなんだが、ライカはすごい勢いで食べている。

 ミトがオレに質問してくるが、どうも頭に会話が入らない。申し訳ないが、適当に相槌をうつ。
 
 街の男たちもお礼を言いに来るが、オレは会話に集中が出来なかった。夢の中にいて、酒を飲んでいる自分を客観的に見ているようなそんな気分になっていた。


 数時間は経っただろうか。かなりの人数が酔っ払って寝ている。ロミはライカを連れて宿に戻ると言い、カルスも居ないようだ。

 「わかった。オレも戻ろう。」

 「助かるよ。僕も呑みすぎたのさ。世界が回っているよ。」

 それでもロミの機嫌は良いみたいだ。街の人たちからお酒を注がれて飲んでいたもんな。

 人に感謝されてこそ、冒険者冥利に尽きる。

 歩けなくなったロミをおんぶして、ライカと話しながら帰った。ライカは強くなったと言う話をするとすごく喜んでいた。

 ロミをベッドに降ろし、ライカを寝かしつける。

 二人共すぐに眠った。


 眠くないので首長のテントに戻ろうかと思うが、気がのらない。オアシスでも見に行こうか。


 
 オアシスには先客がいたみたいだ。カルスだ。

 オレは隣に腰掛ける。

 「やあ、カノンか。驚かせないでくれよ。」

 「ああ。すまない。」
 
 静寂が二人を包む。

 「カノンは今の帝国をどう思っている。」カルスが言った。

 「そうだな。難しい質問だが、色々と不安定な時期を迎えていると思う。戦争も停戦状態だし、またいつ始まるか分からないしな。」

 「不安定…そうだな。不安定か。」

 暗くてよく顔は見えないがカルスが笑っている気がした。

 「なあ、一つだけ聞いてもいいか。」

 「もちろんだよ。カノン。」

 「今日の騒動。いやこれまでサンドタウンで起きた事件はお前が犯人なんだろう。」

 再び静寂が二人を包む。
 
 数分後カルスが重い口を開いた。

 「なぜわかった。」

 「残念だ。カルスのことは友人だと思っていた。ウマも合う。俺じゃないと言ってほしかったよ。」

 「完璧に騙せたと思ったのだが、利用しようとしたやつがカノンやロミのような頭が切れる奴だったのが誤算だったな。」

 カルスが笑いながら言った。

 「それで、なぜわかったんだ。教えてくれよカノン。」

 「ああ。最初に疑問に思ったのは首長のミトがオレたちに弓を向けていたときだ。カルスは自分が保証すると言ったが、研究者がそんな事をできるとは思えない。立場がある帝都の研究所か、今だとチャーチル教の人間くらいじゃないと説明がつかない。」

 「確かに。そう言ったかもしれないな。」

 「次は、ダンジョンでの発言だ。昨日は二十階で研究していたが、四十階へ行った時にすぐに壁を指さしてロミと話し始めた。初めて来た場所でそんな事できるわけがない。それに、研究者が一人で四十階に来れるわけがないだろう。」

 「………」

 「後は、不自然にいなくなりすぎだ。ダンジョンでは二十階で研究するはずなのに、二十五階で合流したな。先程と同じだが、ただの研究者だとは思えない。どうやって魔獣を倒した。」

 「………」

 「決定打は小部屋に忘れ物して一人で先に行って良いと言ったことだ。そこに何をおいてきた。ツボとは言わないだろうな。まあ…明日見に行けば分かるが。小部屋の前でオレが寝ていて、戻る前に小部屋を確認したんだ。あの時忘れ物なんてなかったさ。」

 カルスは何も言わない。

 「最後に、その落ち着きだな。街が襲われているのに部屋に戻って研究。そんな事できるのは自分が襲われないと知っているやつだけだろう。」

 そう言うとカルスは声を上げて笑った。

 「カルス、お前は何者だ。」
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