帝国騎士団を追放されたのでもふもふ犬と冒険とスローライフを満喫する。~反逆の猟犬~

神谷ミコト

文字の大きさ
上 下
46 / 90

騎士エドガーの災難Ⅳカノンとの対峙

しおりを挟む
 翌朝カノンを捕獲するために帝都を出た。

 山は険しい。道は狭く、人一人分しか歩けない場所も多かった。

 それにしてもシイナとフラメルが遅い。

 シイナを落とそうかな。事故を装ってシイナがいなくなれば、俺様がリーダーに戻れるかもしれない。まぁシイナは女だからしょうがないか。フラメルは今度、模擬戦で腹いせにいじめてやる。

 いや………俺様が一人でカノンを捕縛して、団長に戻った暁にはシイナも言うことを聞かせてやるよ。




 無事に、魔法都市マジクトに着けたのだが数日はかかった。まったくこれだから、体力がない軟弱者は困る。

 「今日は疲れたし、明日からカノン捜索を開始しましょう。」

 「賛成だ。僕も疲れた。」

 魔法都市マジクトに無事に着くにはついたが既に夕暮れ、シイナの決定とフラメルの賛同で、宿に直行することとなった。来るのに数日要しているんだ。俺たちに残された日数は数日しかない。

 「俺はカノン捜索に出る。お前たちは休んでろ。」

 今はリーダーはシイナだが俺様がリーダーシップを発揮しないとコイツラはダメだ。

 「良いけど、カノンを見つけたら必ず私に報告して頂戴。絶対に接触しちゃダメよ。」

 俺様は頷く。

 「もちろんだ。リーダーに従うよ。」

 従う気なんてないけどな。手柄は俺様だけのものだ。



 冒険者ギルドなどで聞き取りをしたが、カノンの目的情報はなかった。くそっ。俺様の考えではここにカノンがいるはずだ。絶対に見つけてやる。

 一時間ほど探したが、カノンは結局見つからなかった。憂さ晴らしに飲み屋で女と飲んだ。騎士だと言うと女の目が変わった。これが俺様のあるべき姿だ。もっと崇めろ。

 今日のところは下見だから、明日から本気でカノンを探すさ。



 今日は久しぶりに呑みすぎた。帝都ではストレスが溜まっていたからな。たまには息抜きも必要だ。

 適当に酔を覚ますために歩いていると、完全に迷った。歩いていると場所もわからないし、宿の場所もよく思い出せない。

 周りは高そうな家が立ち並んでいる。俺様も貴族だ。カノンを捕まえた報酬で、こんな家に引っ越してやるさ。

 クソっここはどこだ。さっきの女の家に戻ってもいいが、寝坊してシイナに小言を言われるのは面倒だ。

 落ちていた瓶を蹴飛ばす。イライラするぜ。

 瓶が誰かの家の前の門に立っている男と犬の方に飛んだ。

 危ねえ当たるところだった。面倒事は起こさないようにしないとな。男はこちらを見る素振りをみせない。なにか怪しいな。普通音がしたら見るだろ。なにかおかしい。

 女が家から出てきて、早足で男と歩き出した。

 あの歩き方覚えているぞ。絶対にそうだ。カノンだ。神は俺様を見放しては居なかった。
 
 「カノオオオオオオオオオン!会いたかったぜぇぇぇ! 」

 俺様は無意識に叫んでいた。笑いが止まらない。

 男が振り向かずに歩く。カノンじゃないのか。いや絶対にカノンだ。

 走って追いつき、肩に手をかけローブを引っ張る。顔を見せろカノン。ローブがはだけて顔が露わになる。

 やっぱりそうだ、カノンだ! 俺様が正しかった! 俺様が見つけたんだ。

 「カノンちゃーん。つれねえじゃねえか。俺たちの仲だろ?」

 ニヤつきが止まらない。

 「エドガーか。」

 「元気にしてたか。カノン心配したんだぞ。」

 暗くて表情はよく見えないが、喜んでいるはずだ。俺様が話しかけてるんだからな。

 「ああ。ありがとう。オレたちは急いでるんだ。また今度にしてくれ。」

 「おい待てよ。カノン。お前に朗報があるんだ。」

 「なんだ。」

 「ったく、そんな態度じゃ教えてやらねえぞ。いつものようにお願いしろよ。」

 「だったら教えなくて良い。もう行くぞ。」

 「まあそう言うなよ、冗談だよ冗談。実は、俺様が将軍に掛け合ったらカノンが騎士団に戻っていいってさ。良かったな、カノン。戻ってこいよ。また一緒に騎士団で働こうぜ。」

 カノンには帝都に戻るまでは優しくしないとな。俺様は団長に舞い戻る男なのだから。

 俺様は手を差し伸べる。

 「いや断る。将軍にはよろしく言っておいてくれ。」

 カノンのくせに生意気だ。少し脅せばこいつは言うことを聞くはずだ。

 「あ? こっちが優しく言ってるのに何だその態度は謝るなら今のうちだぞ。」

 「それはこっちのセリフだ。用はそれだけか。終わったなら帰ってくれ。」

 カッチーン。さすがに心が広い俺様も苛ついてきたぜ。

 「待てって言ってんだろ。」

 歩き出そうとするカノンの腕をおもいっきり引っ張ってこかす。そうだお前は這いつくばって俺様を崇めていれば良いんだ。

 カノンがホコリを払いながら立った。

 「いいか。エドガー、一度しか言わないからよく聞け。戻ってきてくれと言われても、もう遅いんだよ。どうせ将軍からオレを連れてこいとでも命じられているんだろ。誰がお前と一緒に働きたいと思うんだよ。みんなお前のこと嫌っているぜ。」

 怒りで顔が赤くなるのが自分でも分かる。

 なっなんてやつだ。恩知らずな野郎。俺様が戻ってこいと言っているんだぞ。光栄なことだろ。それに俺様は嫌われてねえ。

 「ぶっ殺す。」

 「ああやって見ろよ。親の七光りで団長になったエドガー。いや元団長のエドガー君。」

 俺様は剣に手をかけて斬りかかった。

 カノンはバックステップで躱す。躱すのだけはうまい男だ。

 「どうした。まさか今のが本気じゃないだろうな。牽制の攻撃にしては遅かったが…。」

 一々煽ってきやがる。クソ野郎が。ぶっ殺す。

 「くらえっ!  俺様の必殺技! 十文字斬り! 」

 高速で十字に斬る十文字斬りだ。俺様の必殺技。カノンを殺してしまっても、死んでいたと報告してクビだけ持って帰ればいいか。

 「そんな技が当たるわけ無いだろ。自分で必殺技なんて言うなんて恥ずかしいやつだな。」

 カノンはいつの間にか避けてあくびをしてやがる。

 「嘘だろっ。模擬戦では十文字斬りでお前はいつも倒れていたはずだ! 」

 くそっ。なぜ当たらないんだ。俺様の必殺技だぞ。

 「エドガー、お前本気で言ってるのかよ。模擬戦なんて遊びだよ。お前の十文字斬りごとき目をつぶっていても避けられる。」

 俺様が毎回圧勝していた模擬戦が遊びだと。

 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

 「カノンが俺様より強いなんて普通に考えてありえないだろ。俺様が帝国騎士のNo.1なんだぞ! 」

 カノンが鼻で笑った。


 「お前の中ではそうなんだろうな、現実は違うみたいだが。それにエドガーはオレを追放する時にリシャール家で親の七光り言ったが、それはお前だ。ルノガー将軍の息子だから団長になれたんだ。そんなことも気が付かないのか。」

 クソが。カノンのくせに。俺様を鼻で笑いやがった。

 「うるせえ。お前をぶっ殺してやるよ! 」

 剣を振るうが一撃も当たらない。カノンは剣を抜きすらしていない。

 目の前の現実が受け入れられない。目の前がチカチカする。クソッ。なぜだ。なぜ俺様の攻撃が当たらないんだ。俺様は帝国騎士のNo.1なんだぞ。

 「エドガー、もう分かっただろ。剣すら使っていないオレに一撃も当てられないんだ。格が違う。」

 「うううう、嘘だ……嘘だ! 」

 剣を振りすぎて俺様も疲れてきた。肩で息をする。これを狙っていたのか。

 「もういいだろ。行こうロミ。時間の無駄だ。」

 「そうね。急ぎましょう。他の騎士もいる可能性が高いし。」

 俺様を置いてカノンが歩きだす。

 「てめえふざけんな! 女も出しゃばるんじゃねえ。」

 カノンの隣を歩く女に後から斬りかかった。俺様を舐めるな。

 カノンが振り向きもせず、剣を抜いて俺様の剣を弾いた。

 カノンが剣をいつ抜いて弾かれたのか見えなかった。俺様の剣が地面に音を立てて落ちる。

 「エドガー、このまま帰ってくれたら無事に帰れたのに。残念だよ。お前はやってはいけないことをやったな。」
 
 剣を拾おうとする。俺様をカノンが斬る。痛みが全身を駆ける。

 「痛えぇ。この卑怯者が。」

 「それはこっちのセリフだ。」

 カノンが俺様を投げて、床にうつ伏せで叩きつけられた。

 「ふざけんな。帝国の騎士にこんなことしてどうなるかわかってんのか。」

 「死人に口なしと言うだろ。」

 カノンが笑いながら近づく。全身鳥肌が立つ。殺られる。この場は取り繕うしかねえ。今日の俺様は酒を呑んでいて調子が悪かったんだ。

 「やめろ。全部ウソだ。謝る。カノン。頼む。」

 「聞こえねえよ。」

 カノンがオレの手を持って本来、曲がらない方向に曲げた。

 「ぎゃあああああああああああ。」

 ゴキッという鈍い音が響き渡ると同時に激痛がはしる。

 こいつ俺様の右腕を折りやがった。痛え。人生で一番痛え。クソッ。なぜ俺様が痛い思いをしなければならないんだ。

 「殺す。その女もぶっ殺してやる。お前に関係する奴、全員ぶっ殺してやる。」

 カノンがオレにまたがって顔を掴まれる。耳元でカノンが言った。

 「よく聞けエドガー、次にお前を見かけたら殺す。俺の知り合いと会っても殺す。帝国にオレと会ったことを言っても殺す。わかったな。」

 全身から汗が吹き出す。

 クソっカノンの癖に。

 「わかったか。」

 「分かるわけねえだろ。バカが。」

 俺様はカノンを睨む。

 ゴキッ

 鈍い痛みが右足に走る。

 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 俺様は痛みで叫んだ。

 その後のことはなにも覚えていない。

 カノンの笑う顔だけが記憶に残っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...