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騎士エドガーの災難Ⅰ再始動

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 結局、俺たちは臭い牢屋の中に三日間も入れられていた。

 人間の適応能力というのは素晴らしい。臭いと思っていた空間でも慣れるからだ。

 それでも牢屋を出たら二度とあんな臭い空間はゴメンだと思う。

 とりあえず、牢屋を出てから出所祝で呑みに来た。

 今日は俺様の奢りだ。団長として皆を労わないといけない。

 「やっと出れたな。団長。」

 クロスナーが笑顔で俺に話しかけてきた。

 「そうだな。これから再始動だ。カノンを必ず捕まえてやる。」

 クロスナーと比べて、フラメルはすごく参っているようだ。

 「僕は今は何も考えられない。とにかくお風呂に入りたい。」

 フラメルの顔に笑顔はない。自分の匂いを嗅いで落ち込んでいる。

 気持ちはわかる。俺たちは臭い空間にいたから分からないが、間違いなく臭いはずだ。先程から誰も他の客は俺たちの席に近寄らないからな。

 「私もお風呂に入りたいわ。絶対にくさいもの。」

 今日はシイナを可愛がって過ごすか。後数日は謹慎中なわけだし。時間ならたっぷりある。

 「団長。このままカノンを見つけずに過ごすのかよ。俺は金欲しいぜ。」

 クロスナーが酒を飲み干して言った。

 「そうだな。俺はクロスナーの意見に賛成だ。今日は休んで明日にでも捕まえに行きたい。カノンが団長なんて俺は許せない。」

 クロスナーがそうこなくちゃと言っている。

 「ちょっと待ってよ。ルノガ―将軍は来週まで自宅待機をしろって言ったわ。明日にでも捕まえに行くですってバカなことを言わないでちょうだい。」

 シイナが猛反対する。生意気な女だ。後でしっかりと調教しよう。

 「僕も金がほしい。使いすぎてもうないからな。将軍の言った手前、来週から探しに行くのがいいんじゃないか。一応、今は謹慎中なわけだし。」

 フラメルもある程度は俺様の意見に賛成のようだ。

 「フラメルも賛成だな。反対しているのはシイナだけか。」

 「わたしはお断りよ。騎士として活動するわ。カノンなんてもう良いじゃない。騎士として活動していけば貴族としても帝都で生活できるのよ。これ以上何を望んでいるの。」

 俺様は金貨500枚がほしい。酒池肉林ができる。何でも買えるんだぞ。

 それにしても、生意気な女だ。俺様の言うことだけを聞いていれば良いものを。

 「シイナ。俺様の言うことを聞け。悪いようにしないさ。」

 「そのエドガーの根拠のない意見を聞いて、今まで良かった事あるかしら。」

 徐々に苛ついてきた。なんなんだこの女。

 今までは俺様の意見をイエスとしか言わなかった。急に生意気になりやがって。

 「おい。いい加減にしろ。俺様は騎士団の団長だぞ! 」

 俺様はグラスを机に叩きつけて、大きな声で叫ぶ。

 「元でしょ。今は団長の地位は空席とルノガー将軍は言っていたわ。」

 頭にきた。

 「いい加減にしろ。黙って俺に従え! 」

 シイナの頬をパシッ叩く。

 これで、シイナは言うことを聞くはずだ。

 「何すんのよ。痛いわね! 」

 シイナが俺様の頬をおもいっきり殴った。

 目がチカチカする。なぜ俺様が殴られているんだ。

 クロスナーもフラメルも驚いている。

 「ちょっと待てよシイナ。この流れは俺に従う流れだろ。いい加減にしろ! 」

 「いい加減にしろはこっちのセリフよ! 依頼をミスして、団員の意見すら聞かずに、挙句の果てに暴力? あんたが勘違いしているだけよ。あなたは元団長なの。もう私とは立場が対等なはずでしょ。」

 ぐぬぬ。何を言い返せない。シイナのくせに生意気だ!

 「まっ、まあシイナの言うことも一理ある。団長…いやエドガーも考え直そうや。」

 くそっ。クロスナーすら俺様に敬語を使わなくなっただと。ムカつく、平民上がりの駄犬が。

 「そうだね。シイナの言うことももっともだ。エドガーも落ち着いて考えた方がいい。」

 フラメルは殴れば勝てるから、まあいいだろう。後回しだ。

 「お前たち、良いのか。俺様が団長じゃなくなって、これ以上かばえないぞ。」

 三人が顔を合わせる。

 「逆に聞くけど、元団長様。あなたが団長じゃなくなった今、何を私たちに与えられるんですか。」

 「………」

 嫌味な言い方は鼻につくがm何も言い返せない。

 たしかに俺様の人生プランでは団長から将軍への出世ルートに乗っていたはずだ。教会からの支援もあって、出世間違いなしだったのに。

 俺様には今やなにもないのか。

 俯いて考える。

 まずい。このままじゃまずい。

 どうすれば俺様は団長に戻れる。

 こいつらへの求心力も失っている今、俺様にはなにがある。

 何もない。

 カノンを捕まえられなかった。それだけで、全てを失った。

 馬鹿げている。

 誰のせいだ。

 カノンのせいだ。

 俺様は悪くない。

 悪いのはカノンだ。

 カノンを捕まえてぶっ殺してやる。

 そして、金貨500枚ももらって、団長へ昇格。

 行く末は将軍だ。

 そう考えると、機嫌が良くなってきた。

 まあここはこいつら部下の機嫌をとっておくべきか。まだこいつらは使える。

 「そうだな。たしかにシイナたちの言うとおりだ。俺が悪かった。これからは同じ騎士団のメンバーとして忌憚のない意見をを言ってほしい。俺が悪かった。本当に申し訳ない。」

 俺様は頭を深々と下げる。

 三人が再び顔を合わせる。

 どうだ。俺様の演技は。帝都の演劇場でもトップスターになれる演技だろ。

 反省しているように見えるだろ。

 俺様は今日という日を。この屈辱を忘れない。

 カノンを捕まえた暁には次はお前たちをいじめてやるよ。

 「分かればいいのよ。とにかくルノガー将軍の命令を待ちましょう。」

 「そうだな。そうしよう。今日はもう解散しようか。また争いごとに巻き込まれても困る。」
 
 俺様は苛つきすぎて、口の中が血の味がするが今は我慢だ。

 待っていろよ。カノン。絶対にお前に復讐してやるからな。
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