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狐の村の不思議④

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 何回にも渡って攻防を繰り返す中で、少しずつ分かってきた。

 白狐にはこの剣が効くこと。顔に強い一撃を与えられれば、なんとか倒せるだろう。

 だが、その強撃を与えるスキが作れない。

 どうする。負けることはないが倒せない。

 このままだと押し切られる。

 白狐の攻撃を寸前のところで防ぎ、カウンターを入れて傷はつけられてはいるが、一向に白狐の勢いは変わらない。

 むしろどんどん早くなっている気がする。

 『…呼んで…私を呼んで。』

 ライカの声か。でもライカは今は人型だ。

 『早く…このままだとまずい。』

 白狐が咆哮して飛びかかってくる。

 防ぐだけで手一杯だ。勢いが強く後にノックバックする。

 「くそっ! 」

 その後も、白狐は連続で腕で薙ぎ払い、防いだところを噛みつく。

 寸前のところで躱すが、次は尻尾だ。

 この勢いで攻撃されたら、攻撃に移ることすらできない。防戦一方だ。

 しょうがない。賭けにでるか。
 
 「ライカっ! 」

 大声で叫ぶと、ライカが人型から狼型に変わり駆け出す。

 白狐のクビに噛みつく。白狐の意識がオレからライカに移った。

 今だっ。

 詠唱を開始する

 少しだけ粘ってくれライカ。

 「全てを焼き払え! 『流星の輝き<メテオインパクト>』」

 最大火力の魔法を放つ。

 流星の如く、火球が白狐に当たる。

 ライカは魔法の発動と同時に回避している。

 白狐は幾千もの火球があたり、苦しみの声を上げて、のけぞった。

 今だっ

 オレに魔力は殆ど残っていない。これで決める。

 「ライカ! 」

 ライカに指示を出す。

 ライカを踏み台にしてのけぞった顔めがけてジャンプする。

 これで終わりだ。

 「ウォォォォオ! 十文字斬り! 」

 浮いた状態で、白狐の顔に縦と横に剣を斬る。

 白狐が悲鳴のような叫び声を上げる。

 頼む。これで墜ちてくれ。

 白狐は腹を上にして倒れ込んだ。

 オレも受け身が取れず、肩から地面に落ちる。

 すぐに立ち上がり、顔めがけて何度も斬る。

 白狐の叫び声が聞こえる。

 頼む。これで終わってくれ。

 数分は斬っただろうか。腕も痺れてきた。全身返り血を浴びて汗もすごく出ていて気分が悪い。だが手を止めてはいけない。ここで止めを刺さないと殺される。

 「ご主人様、もう終わっています。もう終わってますから。」

 そう言うと、人型に戻っていたライカがオレを後から抱きしめていた。

 「あっああ。」

 オレは剣を振るう腕を止めた。どうやら白狐は動いていないみたいだ。

 腕を止めると、全身疲労で体が鉛のように重い。

 両手から剣が落ちる。もう剣を持つ握力すら残っていない。

 終わった。白狐に勝ったんだ。

 「ウォオオオオオ! 」

 無意識に咆哮を上げた。

 そこからは何も覚えていない。意識がなくなった、

 最後に覚えているのは雲の間から光が差し込んでいる風景とライカが崩れ落ちるオレを支えてくれる暖かさだけだった。





 目を覚ますと、昨日泊まっていた宿だろうか。

 「ご主人様、目を覚ましましたか。」

 「ああ。全身だるいが、大丈夫だ。白狐はどうなった。」

 「覚えていないんですか。白狐はご主人様が倒したんですよ。」

 「そうか…オレが…良かった。」

 どうやら、白狐を倒したみたいだ。危なかった。ライカがいなければまた死んでいただろう。

 「まだ休んでいてくださいね。頭領に報告してきますから。」

 そう言うと、ライカが部屋から出ていった。

 まだ体を起こせるほどの力は残っていない。大人しく寝て回復させてもらおう。




 再び目を開けると周りは真っ暗になっていた。

 「ご主人様、大丈夫ですか。」

 「ああ。もう問題ない。心配かけたな。」

 体が動く。もう起きても問題ないだろう。上半身を起こす。

 「いえ。心配なんて。心配なんてしていません。」

 そう言うと、人型のライカが抱きついてきた。

 「そう泣くな。ライカ。オレは無事だ。」

 「よかった。本当によかった。心配したんですよ。ご主人様が死んだと思いました。ご主人様がいなくなったら私どうしようかと不安で…不安で。」

 泣いているライカの頭を撫でる。

 「大丈夫だ。ライカにお礼を言わないといけないな。ライカがいなかったら白狐に勝てなかった。感謝する。」

 「えへへ。嬉しいです。安心したらお腹が空いてきました。」

 ライカが泣き止んだみたいだ。良かった。

 確かに下からいい匂いがしている。オレもお腹が空いてきた。

 「そうだな。頭領への報告もしに、下に降りるか。」

 ライカが元気そうに頷く。

 下に行くと頭領と数人がこちらを向いた。

 「旅人よ、いやカノンよ。よく我々を救ってくれた。ご馳走を用意したぞ、食べれるだけ食べてくれ。」

 机には一面、ご馳走が並んでいる。

 「解決出来たみたいで良かった。オレもライカも空腹で倒れそうだ。いただこう。」

 ご馳走を頬張る。食べることが体力を回復するには一番だ。

 「それで、カノンよ。事の顛末を報告してくれるか。」

 「ああ。もちろんだ。」

 がっついて食べてしまった。まだライカは食べ続けている。

 「恐らく、教会が工作をしていたのだろう。東、南では狐人がいたが、ツボを破壊した。西には教会の人間が何かしら魔術を使っていた。一人取り逃したが、白狐を呼び寄せたのだろう。」

 「そうか。今はもう雨も止んでいる。解決出来たみたいだな。」

 「ああ。ツボは全部破壊したはずだ。白狐はその後どうなった。」

 「こちらで処理をした。今回のお礼なんだが。これを開けてくれ。」

 袋の中を見ると、先程の剣と巨大な魔石は、白狐の魔石だろうか。

 「もらっていいのか。」

 「もちろんだ。剣は我が一族に伝わる魔剣<草薙剣くさなぎのつるぎ>だ。」

 「これは先程借りた剣か。」

 剣を手に持つと剣が話しかけて来た。

 『お前が新しいご主人様か。シャバに出れたのは100年ぶりだぜ。』

 「頭領、この剣、話しかけてきたぞ。」

 「そんな伝説もあったな。まあ一族を救ってくれたお礼だ。使ってくれ。」

 『そんな寂しいこと言うんじゃねえよ。ご主人様。俺様は草薙の剣だぜ。クサナギって呼んでくれよな。』

 どうやら、周りの人間には聞こえていないみたいだ。

 「ああ。よろしく頼む。クサナギ。オレのことはカノンと呼んでくれ。」

 『わかったぜ、相棒。これからよろしくな。』

 剣はそれから話しかけても一切反応しなくなった。

 「頭領、これは白狐の魔石かい。これももらって良いのか。」

 「ああ。もちろんだ。それくらいしか我らが与えられるものはないからな。」

 「そうか。助かる。好きに使わせてもらうよ。」

 「そうしてくれ。それでカノン、一つお願いがあるのだが、我が一族と子を設けようとは思わぬか。」

 飲んでいたお酒を吹き出す。

 「頭領。冗談は辞めてくれ。」

 「なんてことない。強い血を一族に入れたい。自然の流れだろう。」

 ライカがこの場にいなければ是非となるところだが。

 「それはまたの機会にさせてもらおう。今回はさすがに疲れた。」

 「すまなかったな。今日は休んでいってくれ。明日また話をしよう。」

 そう言うと、頭領はニヤッと笑った。

 ライカはご馳走を全て平らげて眠そうな顔をしている。

 ここらへんで切り上げた方が良いだろう。

 「ああ。先に休ませてもらうよ。ごちそうさまでした。また明日、なにか手伝えることがあれば手伝わせてくれ。こんなご馳走までしてもらって申し訳ない。」

 「何、良いんだ。それでは我々はここで失礼する。カノン本当にありがとう。」

 そう言うと、狐族は出ていった。

 オレも疲れたし、ライカも眠そうだ。今日は朝までぐっすり寝よう。
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