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旅立ち
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その日のノーズ鉱山防衛成功のお祝いは広場でずっと続いた。
皆は楽しそうに飲んでいるし、何回も前に立たされてスピーチをさせられた。
かなり恥ずかしかったけど、何とも言えない気持ちになった。人に求められることがこんなに幸せだとは思わなかった。
だいぶ酔っている人が多くなっていく中で、ニーナさんが隣に来て座る。
「カノンさんのお陰で街は救われました。」
「いえ。ニーナさんまでそんな事言わないで下さい。」
「カノンさん…街から出ていくんですか。」
ハッとする。まさかバレるなんて思わなかった。
頷く。
「ええ。今日中には出ていこうと思っています。」
「そうですか。寂しくなりますね。」
ニーナさんが空を見上げる。
「カノンさん。これ。」
ニーナさんが袋を手渡した。
中を確認すると金貨が入っている。
「どうせ皆に黙って出ていくんじゃないかと思っていました。先に報酬をお渡しします。」
ニーナさんは気が利く女性だ。
「ありがとうございます。」
「お礼言うのはこっちのほうですよ。私はずっとカノンさんと居たかったな。」
沈黙が続く。
ニーナさんが口を開く。
「ギルドとしてカノンさんを保護することが決まりました。帝国から要請があっても引き渡したりしません。冒険者ギルドとして人を救ってくれていますので当然ですが。それに、新しく冒険者カードを作っておきましたので、これからはこちらを使ってくださいね。」
ギルドカードを手渡される。名前がカノンと書かれており、ランクもDと印刷されている。
「すみません。こんなによくしてもらって。すごく嬉しいです。」
「後、帝国は騎士団を使ってカノンさんを探しているみたいです。エドガー団長が指揮を取って探しているみたいです。注意してくださいね。この街に来たときには、別のところに行ったと嘘ついておきます。」
ニーナさんは笑った。
何から何までニーナさんにはお世話になりっぱなしだ。
「ニーナさん何から何までいつもありがとうございます。」
「いいえ。これくらいしか私に出来ることはありませんから。」
ニーナさんの横顔は奇麗だ。月の光で茶色の髪が輝いて見える。
「カノンさん、私はギルドの職員だから、付いていきたいけどそれは叶いません、最後のお願いです。もう少しだけ二人きりでいさせてください。」
◇
ニーナさんとお別れをして、ライカとこっそりと街を出る。
街道を歩いていると、後から爆発音が聞こえた。振り返ると大きな花火が上空に輝いている。
頭領たちが送り出してくれたのだろう。
笑みが溢れる。
街を救えてよかった。
今日のうちにサンタルークまで辿り着こう。
街道を歩いていると、木の影から男が現れた。
「待て。カノン。」
警戒して剣に手をかける。声をかけた男の顔は見えない。
「お前のせいで、散々な目にあった、ふざけんなよカノン。全てが台無しだ。」
どうやらサンドラみたいだ。
睨んで剣を構えている。
「サンドラ、今はどういう気持ちだ。ギルドに捨てられて、教会からも見捨てられたのか。」
サンドラが斬りかかってくる。
「うるせえ。ぶっ殺してやる。」
サンドラの剣は遅い。
目をつぶっていても躱すことはできる。
サイドステップで避けて、サンドラの斬撃が床に落ちたところで腕を蹴り上げる。
サンドラは剣を落とし、うめき声を上げた。
みぞおちを蹴り、跪かせる。
弱い。弱すぎる。
「サンドラ。お前にはすべて吐いてもらうぞ。オレは頭領と違って甘くないからな。」
サンドラは怯えている。
オレは脅すように笑った。
サンドラはすぐに吐いてくれた。目論見通り、教会から依頼があってツボを置いたみたいだ。ツボを置けとだけ言われたらしい。
依頼主のことを話すのは渋ったが、少し刺すだけですぐ吐いた。教会のお偉方から依頼が来たらしい。人を介しての依頼で名前は分からないと言っていたが、恐らく本当だろう。
卑怯な男が、この命がかかった状況で嘘をつく訳がない。
「もうこれだけ言ったんだ。助けてくれ。なあ。」
どうしようか悩む。
サンドラをこのまま放置していても良いことは起こらないだろう。
賭けで決めるか。
「サンドラ、お前はオレだけではなくギルド、そして街の皆までも危険にさらした。殺されても文句は言えないだろう。」
「ちっちがうんだ。俺は言われただけだ。」
「チャンスをやろう。コインをトスして、表なら殺す。裏なら見逃す。どうだ。のるか。」
押さえつけていたサンドラから手を離し、装備も返してやる。
コインを取るのを手間取る仕草をして、わざとスキを作る。
「うるせえ。お前にそんなことを言われる筋合いわねえ。」
そう言うと、サンドラが斬りかかってきた。
残念だ。
一閃でサンドラのクビをはねる。
害をなす人間は駆逐すべきだ。
「ライカ行こう。こんなまずそうな肉食べちゃダメだ。」
ライカが少し残念そうな顔をしてアオンと吠えた。
歩く足取りは軽い、次の街ではどんな出会いがあるのか楽しみだ。
皆は楽しそうに飲んでいるし、何回も前に立たされてスピーチをさせられた。
かなり恥ずかしかったけど、何とも言えない気持ちになった。人に求められることがこんなに幸せだとは思わなかった。
だいぶ酔っている人が多くなっていく中で、ニーナさんが隣に来て座る。
「カノンさんのお陰で街は救われました。」
「いえ。ニーナさんまでそんな事言わないで下さい。」
「カノンさん…街から出ていくんですか。」
ハッとする。まさかバレるなんて思わなかった。
頷く。
「ええ。今日中には出ていこうと思っています。」
「そうですか。寂しくなりますね。」
ニーナさんが空を見上げる。
「カノンさん。これ。」
ニーナさんが袋を手渡した。
中を確認すると金貨が入っている。
「どうせ皆に黙って出ていくんじゃないかと思っていました。先に報酬をお渡しします。」
ニーナさんは気が利く女性だ。
「ありがとうございます。」
「お礼言うのはこっちのほうですよ。私はずっとカノンさんと居たかったな。」
沈黙が続く。
ニーナさんが口を開く。
「ギルドとしてカノンさんを保護することが決まりました。帝国から要請があっても引き渡したりしません。冒険者ギルドとして人を救ってくれていますので当然ですが。それに、新しく冒険者カードを作っておきましたので、これからはこちらを使ってくださいね。」
ギルドカードを手渡される。名前がカノンと書かれており、ランクもDと印刷されている。
「すみません。こんなによくしてもらって。すごく嬉しいです。」
「後、帝国は騎士団を使ってカノンさんを探しているみたいです。エドガー団長が指揮を取って探しているみたいです。注意してくださいね。この街に来たときには、別のところに行ったと嘘ついておきます。」
ニーナさんは笑った。
何から何までニーナさんにはお世話になりっぱなしだ。
「ニーナさん何から何までいつもありがとうございます。」
「いいえ。これくらいしか私に出来ることはありませんから。」
ニーナさんの横顔は奇麗だ。月の光で茶色の髪が輝いて見える。
「カノンさん、私はギルドの職員だから、付いていきたいけどそれは叶いません、最後のお願いです。もう少しだけ二人きりでいさせてください。」
◇
ニーナさんとお別れをして、ライカとこっそりと街を出る。
街道を歩いていると、後から爆発音が聞こえた。振り返ると大きな花火が上空に輝いている。
頭領たちが送り出してくれたのだろう。
笑みが溢れる。
街を救えてよかった。
今日のうちにサンタルークまで辿り着こう。
街道を歩いていると、木の影から男が現れた。
「待て。カノン。」
警戒して剣に手をかける。声をかけた男の顔は見えない。
「お前のせいで、散々な目にあった、ふざけんなよカノン。全てが台無しだ。」
どうやらサンドラみたいだ。
睨んで剣を構えている。
「サンドラ、今はどういう気持ちだ。ギルドに捨てられて、教会からも見捨てられたのか。」
サンドラが斬りかかってくる。
「うるせえ。ぶっ殺してやる。」
サンドラの剣は遅い。
目をつぶっていても躱すことはできる。
サイドステップで避けて、サンドラの斬撃が床に落ちたところで腕を蹴り上げる。
サンドラは剣を落とし、うめき声を上げた。
みぞおちを蹴り、跪かせる。
弱い。弱すぎる。
「サンドラ。お前にはすべて吐いてもらうぞ。オレは頭領と違って甘くないからな。」
サンドラは怯えている。
オレは脅すように笑った。
サンドラはすぐに吐いてくれた。目論見通り、教会から依頼があってツボを置いたみたいだ。ツボを置けとだけ言われたらしい。
依頼主のことを話すのは渋ったが、少し刺すだけですぐ吐いた。教会のお偉方から依頼が来たらしい。人を介しての依頼で名前は分からないと言っていたが、恐らく本当だろう。
卑怯な男が、この命がかかった状況で嘘をつく訳がない。
「もうこれだけ言ったんだ。助けてくれ。なあ。」
どうしようか悩む。
サンドラをこのまま放置していても良いことは起こらないだろう。
賭けで決めるか。
「サンドラ、お前はオレだけではなくギルド、そして街の皆までも危険にさらした。殺されても文句は言えないだろう。」
「ちっちがうんだ。俺は言われただけだ。」
「チャンスをやろう。コインをトスして、表なら殺す。裏なら見逃す。どうだ。のるか。」
押さえつけていたサンドラから手を離し、装備も返してやる。
コインを取るのを手間取る仕草をして、わざとスキを作る。
「うるせえ。お前にそんなことを言われる筋合いわねえ。」
そう言うと、サンドラが斬りかかってきた。
残念だ。
一閃でサンドラのクビをはねる。
害をなす人間は駆逐すべきだ。
「ライカ行こう。こんなまずそうな肉食べちゃダメだ。」
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