5 / 90
誘われるがままに…
しおりを挟むオレは大きな木を見上げてつぶやく。
「完全に迷った。」
オレは森の中に入り、気が向くがままに。いやコインが指し示す方に進んでいた。それが原因で迷っていたのだ。
とにかく少し休もう。
大きな木の根に腰掛ける。
今までやるかやられるかの生活を送っていたのだ。こんな時くらいゆっくりしてもいいだろう。これからオレは自由なんだ。
眠くなっていた。木漏れ日が気持ちがいい。ウトウトしてきた。
少しだけ寝よう。一応警戒しながら目を閉じた。
小鳥のさえずりが聞こえる。どうやら眠っていたみたいだ。
日も数時間で暮れそうだ。急ぐか。
背伸びをして起きようとすると、犬らしき物体に顔を舐められる。
「おい、舐めるな。犬っころ。」
くーんと悪びれた様子もなく、オレを見つめる。
こいつ可愛いじゃないか。
へっへっへっと舌を出している。撫でてほしいということか。
撫でるともふもふだ。こんなところにいるなんて迷子ということではないだろう。
オレが名前をつけてやろう。名前はモフモフだから、モフだ。
よろしくな。モフッ。
名前を呼ぶと、モフが走り出し、振り返る。ジッとオレを見つめている。
着いてこい。とでも言いたいのか。
これも何かの縁だろう。乗った。ついていってやる。
モフを追いかけて、オレは駆け出す。
モフも走る。
アイツ本当に犬か。オレが速度強化のバフをかけてぎりぎり追いつける速さだ。
数分は走っただろう。村が見える。
人気がないが、間違いなく村だ。こんな森の中に村があるなんて聞いたことがない。
モフが村の入口で止まりオレを見つめる。
今度はなんだ。抱っこしろってことか。
モフをだき抱えると。クーンと鳴いた。どうやら正解みたいだ。
さて、中に進みますか。誰かいないかな。
看板には『クッド村』と書かれている。全体を見渡すと、どうやら家の数は10軒もないみたいだ。
違和感を感じる。人の気配がしないのだ。廃村であれば管理されておらず荒れているものだが、雑草が生えている訳では無い。むしろ誰かの手によって丁寧に管理されている気がする。
村の一番でかい建物前に立つと扉が自然と開いた。
誰かがオレを導いているが、罠の可能性も高い。
入ろうか。それとも去るか。
モフも警戒していないし、大丈夫だろう。
警戒しながらも中に入る。
そこには人間。いや人狼がいた。帝国の図書館で読んだことがある。人間と狼のミックス。基本的には人間の姿をしているが満月の夜には狼になるというのが人狼だ。
初めて見た。帝国に人狼が居ることなんて聞いたことがない。
観察するかぎり、9人はいるようだ。
敵意はないみたいだ。話しかけてみよう。
「はじめまして。オレはカノンだ。今は各地を放浪している。」
「人間か。このような場所で合うとは珍しい。それで人間がこの村になんのようだ。」
「オレに敵意はない安心してくれ。証拠に武器は持っていない。」
「ふむ確かにそうみたいだな。この村に来れたことも驚きだが、ライカが案内したのか。」
「この犬はモフじゃないのか。きみたちの飼い犬だったか。すまない。森に居て案内された気がしたから、着いてきてしまった。」
「なるほど。害意はないみたいだ。歓迎しよう。青年。」
「ありがとう。名前を聞いてもいいか。」
「オレはライタ。そしてその抱えている犬の名はライカだ。」
そうか。モフじゃなかったのか。さよならモフ。ようこそライカ。
晩ごはんをご馳走してくれた。人狼は肉を好むらしい。野菜はなかったが、美味しい料理だ。どうやら数日で満月なので、それまでには村を出ていってほしいと言われた。
「もちろんだ。感謝する。何も持っていなかったから助かった。それで一つだけ聞いてもいいか。」
ライタが勿論だと答える。
「今居るのは九人だろう。もう一人はどこにいる。おそらく頭領か。」
ライタは驚く。なぜそう思うと警戒しながらオレに問う。
「単純な話だ。この家は恐らく集会所としての役割もあるが、頭領の家だろう。ライタは気を使って使用しているように見える。それにこの村には家が十軒ある。だがいまここに居るのは九人だ。一人いないと思っても不自然ではないだろう。」
ライタはたしかにと頷くが、説明をしてくれることはなかった。
食事後も酒を飲みながら帝国の話題を聞かれた。戦争が終わり平和が訪れることや最近の流行りなどを話す。どうやらこういった話には疎いらしい。ほとんどこの村から出てはいないのだろう。
少し前に帝国の騎士が村に侵入してきたとライカから聞いた。だから警戒していたのだろう。騎士は皆戦場に行っていたはずだ。恐らく誰かが変装して何かをしたのだろうか。
情報を提供(話をした)お礼にこの村から近隣の街への行き方や特産品などを教えてもらった。現地の情報は現地の人に聞くに限るな。
食事が終わると、ライタの家に案内される。ベッドが二つに机が一つ。自由に使えと言われた。初日からベッドで寝られるとは思っていなかった。感謝だ。
「ありがとう。今日は疲れた。さっそく寝させてもらうよ。」
そう言うとライタが部屋を出ていった。気を使わせてしまったな。一食一晩の恩義だ。明日はこの村のために働こう。
水を浴びた後にベッドに入るとモフ。いやライカがベッドに入ってくる。
一緒に寝たいのか。人懐っこい犬だ。
ライカを抱きしめて眠りについた。
◇
これは夢だろうか。誰かの声が聞こえてくる。
『タスケテ…ダレカ…タスケテクレ…』
身を起こして、周りを見渡す。人の姿は見えない。
『ホコラ…コロシテ…モウ…イシキ…』
どうやら夢ではないみたいだ。まだ窓を見ると外は暗い。
なにやらこの村は人狼以外にも秘密を抱えているのだろう。不可解な点が多い。できる限りで手伝いはするが、明日中には出ていこう。問題に巻き込まれるとオレの第六感が告げている。
今のところは監視されている気配も、敵意も感じない。
明日は忙しくなりそうだ。今日はしっかりと寝て体力を回復させよう。
0
お気に入りに追加
983
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最強九尾は異世界を満喫する。
ラキレスト
ファンタジー
光間天音は気づいたら真っ白な空間にいた。そして目の前には軽そうだけど非常に見た目のいい男の人がいた。
その男はアズフェールという世界を作った神様だった。神様から是非僕の使徒になって地上の管理者をしてくれとスカウトされた。
だけど、スカウトされたその理由は……。
「貴方の魂は僕と相性が最高にいいからです!!」
……そんな相性とか占いかよ!!
結局なんだかんだ神の使徒になることを受け入れて、九尾として生きることになってしまった女性の話。
※別名義でカクヨム様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる