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誘われるがままに…

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 オレは大きな木を見上げてつぶやく。

 「完全に迷った。」

 オレは森の中に入り、気が向くがままに。いやコインが指し示す方に進んでいた。それが原因で迷っていたのだ。

 とにかく少し休もう。

 大きな木の根に腰掛ける。

 今までやるかやられるかの生活を送っていたのだ。こんな時くらいゆっくりしてもいいだろう。これからオレは自由なんだ。

 眠くなっていた。木漏れ日が気持ちがいい。ウトウトしてきた。

 少しだけ寝よう。一応警戒しながら目を閉じた。

 小鳥のさえずりが聞こえる。どうやら眠っていたみたいだ。

 日も数時間で暮れそうだ。急ぐか。

 背伸びをして起きようとすると、犬らしき物体に顔を舐められる。

 「おい、舐めるな。犬っころ。」

 くーんと悪びれた様子もなく、オレを見つめる。

 こいつ可愛いじゃないか。
 
 へっへっへっと舌を出している。撫でてほしいということか。

 撫でるともふもふだ。こんなところにいるなんて迷子ということではないだろう。

 オレが名前をつけてやろう。名前はモフモフだから、モフだ。

 よろしくな。モフッ。

 名前を呼ぶと、モフが走り出し、振り返る。ジッとオレを見つめている。

 着いてこい。とでも言いたいのか。

 これも何かの縁だろう。乗った。ついていってやる。

 モフを追いかけて、オレは駆け出す。

 モフも走る。

 アイツ本当に犬か。オレが速度強化のバフをかけてぎりぎり追いつける速さだ。

 数分は走っただろう。村が見える。

 人気がないが、間違いなく村だ。こんな森の中に村があるなんて聞いたことがない。

 モフが村の入口で止まりオレを見つめる。

 今度はなんだ。抱っこしろってことか。

 モフをだき抱えると。クーンと鳴いた。どうやら正解みたいだ。

 さて、中に進みますか。誰かいないかな。

 看板には『クッド村』と書かれている。全体を見渡すと、どうやら家の数は10軒もないみたいだ。

 違和感を感じる。人の気配がしないのだ。廃村であれば管理されておらず荒れているものだが、雑草が生えている訳では無い。むしろ誰かの手によって丁寧に管理されている気がする。

 村の一番でかい建物前に立つと扉が自然と開いた。

 誰かがオレを導いているが、罠の可能性も高い。

 入ろうか。それとも去るか。

 モフも警戒していないし、大丈夫だろう。

 警戒しながらも中に入る。

 そこには人間。いや人狼がいた。帝国の図書館で読んだことがある。人間と狼のミックス。基本的には人間の姿をしているが満月の夜には狼になるというのが人狼だ。

 初めて見た。帝国に人狼が居ることなんて聞いたことがない。

 観察するかぎり、9人はいるようだ。

 敵意はないみたいだ。話しかけてみよう。

 「はじめまして。オレはカノンだ。今は各地を放浪している。」

 「人間か。このような場所で合うとは珍しい。それで人間がこの村になんのようだ。」

 「オレに敵意はない安心してくれ。証拠に武器は持っていない。」

 「ふむ確かにそうみたいだな。この村に来れたことも驚きだが、ライカが案内したのか。」

 「この犬はモフじゃないのか。きみたちの飼い犬だったか。すまない。森に居て案内された気がしたから、着いてきてしまった。」

 「なるほど。害意はないみたいだ。歓迎しよう。青年。」

 「ありがとう。名前を聞いてもいいか。」

 「オレはライタ。そしてその抱えている犬の名はライカだ。」

 そうか。モフじゃなかったのか。さよならモフ。ようこそライカ。

 晩ごはんをご馳走してくれた。人狼は肉を好むらしい。野菜はなかったが、美味しい料理だ。どうやら数日で満月なので、それまでには村を出ていってほしいと言われた。

 「もちろんだ。感謝する。何も持っていなかったから助かった。それで一つだけ聞いてもいいか。」

 ライタが勿論だと答える。

 「今居るのは九人だろう。もう一人はどこにいる。おそらく頭領か。」

 ライタは驚く。なぜそう思うと警戒しながらオレに問う。

 「単純な話だ。この家は恐らく集会所としての役割もあるが、頭領の家だろう。ライタは気を使って使用しているように見える。それにこの村には家が十軒ある。だがいまここに居るのは九人だ。一人いないと思っても不自然ではないだろう。」


 ライタはたしかにと頷くが、説明をしてくれることはなかった。

 食事後も酒を飲みながら帝国の話題を聞かれた。戦争が終わり平和が訪れることや最近の流行りなどを話す。どうやらこういった話には疎いらしい。ほとんどこの村から出てはいないのだろう。

 少し前に帝国の騎士が村に侵入してきたとライカから聞いた。だから警戒していたのだろう。騎士は皆戦場に行っていたはずだ。恐らく誰かが変装して何かをしたのだろうか。

 情報を提供(話をした)お礼にこの村から近隣の街への行き方や特産品などを教えてもらった。現地の情報は現地の人に聞くに限るな。

 食事が終わると、ライタの家に案内される。ベッドが二つに机が一つ。自由に使えと言われた。初日からベッドで寝られるとは思っていなかった。感謝だ。

 「ありがとう。今日は疲れた。さっそく寝させてもらうよ。」

 そう言うとライタが部屋を出ていった。気を使わせてしまったな。一食一晩の恩義だ。明日はこの村のために働こう。

 水を浴びた後にベッドに入るとモフ。いやライカがベッドに入ってくる。

 一緒に寝たいのか。人懐っこい犬だ。

 ライカを抱きしめて眠りについた。



 これは夢だろうか。誰かの声が聞こえてくる。

 『タスケテ…ダレカ…タスケテクレ…』

 身を起こして、周りを見渡す。人の姿は見えない。

 『ホコラ…コロシテ…モウ…イシキ…』

 どうやら夢ではないみたいだ。まだ窓を見ると外は暗い。

 なにやらこの村は人狼以外にも秘密を抱えているのだろう。不可解な点が多い。できる限りで手伝いはするが、明日中には出ていこう。問題に巻き込まれるとオレの第六感が告げている。

 今のところは監視されている気配も、敵意も感じない。

 明日は忙しくなりそうだ。今日はしっかりと寝て体力を回復させよう。
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