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回顧

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 追放され、大事な彼女も奪われたオレは途方にくれるかと思ったが、どうにも心は晴れやかだった。

 正直、将軍との約束も果たしたし。オレは自由に生きられることに喜びを感じていた。



 あれは2年前。帝都での訓練が終わりついに戦争が始まるとうわさが流れていたところだ。

 夜遅くにルノガ―将軍からカノンは呼び出された。

 「将軍、お呼びでしょうか。」

 「ああカノンか、すまないまあ席にかけてくれ。お前はまだ15歳だから酒じゃなく水を出そう。」

 ありがとうございます。と言い席に着く。

 「それでご要件はなんでしょうか。」

 「うわさで聞いているだろう。ついに共和国との戦争が始まる。」

 ついにですか。

 「ああ。そこでだオレの倅のエドガーを団長にして一パーティを任せようと思ってな。」

 カノンは飲もうと持ったコップを止める。

 「エドガーがですか。失礼ですが、止めておいたほうがいいかと。恐らくですが、すぐに戦死すると思います。」

 エドガーは弱くはないが、帝国騎士の中では一番と言っていいほど弱かった。しかも頭が切れる訳では無い。悪いやつではないのだが…スキルも微妙だ。

 「そうか。それはワシも分かっておるが、一応序列はNo.1じゃろエドガーは。親の七光りと陰口を言われておることも知っておる。そこでだ、カノンおまえがエドガーを助けてやってくれんか。」

 将軍の息子だからエドガーが序列1位なのは事実だ。到底なれるわけがない。

 「それであれば、序列2位のエマにお願いすれば良いのではないでしょか。」

 「カノンおまえが言ってることも分かる。アイツの育て方をワシは間違えた。どうも甘やかしすぎたと思っておる。だが可愛い息子なんじゃよ。エマは強い。いやエドガーにとってはエマは強すぎるのだ。」

 たしかにエマは誰よりも強い。オレもサシでやりあえば無事ではない。

 「つまり、オレにエドガーの面倒を見ろということですか。No.6のオレに。」

 「カノン。おまえが力を隠していることは知っておる。それくらいワシにも分かる。リシャール家ということと<スキル猟犬>もあり疎まれたくないから力を抑えてるんじゃろ。」

 さすがに将軍までは騙しきれなかったか。

 カノンはあまり目立ちたくなかったのは事実だ。No.6の序列の今でも孤立しがちなのだ。これがNo.1にでもなったら、騎士団全員から嫌われるだろう。

 それに猟犬というスキルは誰も知らなかった。研究者が過去の書物を調べても未だになぞのスキルだ。それが原因でリシャール家を追い出されて、帝国騎士に入団したのだ。

 「わかりました。戦争中はエドガーを守れば良いんですね。」

 「ああ。そのとおりだ。おまえには迷惑をかける。今の貴族至上主義でスキル至上主義なのは帝国の悪しき習慣だ。戦争が終ればそれこそ平民であれ、どんなスキルであれ有能であれば騎士に登用しようと思っておる。そこでだカノンおまえは裏でエドガーを支える。代わりと言ってはなんだが、勲章とリシャール家には今よりも良い地位をやろう。」

 エドガーを守るのは面倒であるが、まぁ悪い条件ではない。もちろん帝国が共和国に勝つことが条件ではあるが。負けたらこんな話当然なくなるだろう。

 「わかりました。その代わりと言ってはなんですが、リーダーとしてエドガーが出す指示に従わなくて良い権利をください。犬死にすればエドガーを守ることもできません。」

 オレはかなり強いという自信はある。だが、敵に正面から突っ込めと言われても敵を全壊させることは物理的に不可能だ。無理なものは無理だ。

 「分かった。表立ってはやれんが、規則違反をしてもカノンには罰則はあたえん。ワシも貴族だ。言ったことは必ず守る。」

 そういうと将軍ルノガ―が頭を深々と下げた。

 カノンはチャンスだと思った。これで出世して、実家も見返すことができる。

 「ルノガ―将軍、こちらことよろしくお願いします。」

 俺は笑みを隠しながら頭を下げた。



 そう考えるともったいなかったか。俺はルノガ―将軍とのやり取りを思い出していた。

 これからもエドガーの元で働いてストレスを溜め込むよりはよっぽどましか。

 戦争が終わってもこの人間関係が続くと思うと、すべての事がめんどうに感じる。

 たしかに出世もできたかもしれない。出世して家を見返すという野望もあった。思い返すと、幼少期からずっと剣と魔法の訓練と実践しかやってこなかった。

 もう十分帝国には尽くした。

 これからは誰にも気を使わずに自由に生きよう。

 どうせオレは三男坊だ。最初から誰からも期待されちゃいないさ。

 カノンはどちらに進むか悩んでいた。今自分がどこにいるのかは把握していない。

 さて、どちらに進もうか。

 コインをトスして表なら来た道を戻る。裏なら…そうだなエドガーたちには会いたくない、道を外れて森の中を進もう。

 カノンはピンと勢いよくコインを弾く。

 ―――裏だ。

 森の中は魔獣もいるが、帝国領だしオレの強さ的には問題なく倒せるだろう。食料も取れるし金も稼げそうだ。一石二鳥だ。

 さっそくオレは森の中に歩みを進める。

 その時はなにも思っていなかった、オレが追放されたことが大きな問題になるなんて。
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