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ep2

ジュピター

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あぶみに足を掛けてジュピターに跨がった。
ラミさんにあぶみの高さを調整してもらう。

「膝の曲がりはこのくらい余裕があるといいんだ」

ラミさんに引き綱を持ってもらい柵の中を馬の背に乗って歩くのが最初だ。

「高いなぁ~」

馬の上からは見晴らしが良く感じた。

「じゃあ、少しスピードをあげようか。
馬の背がバウンドするから、そのリズムに合わせるんだ。」

軽く踵で馬の両脇腹を蹴ると、ジュピターはスピードをあげた。

ー 脚痛くない 走るの 楽しい ー

「えっ!」

シーナは一瞬馬の声が聞こえた気がした。

手綱を引いて、ジュピターを止まらせた。

「ラミ、引き綱をはずして。
一人で走らせてみたいわ」

「そんな、いきなり 無茶な
いやぁ、あんたなら無茶じゃないか。
よし、じゃあ、ツーリングと洒落込もうか。
直ぐに来るから、少し待っててくれ」

ラミは引き綱を柵に回し掛けて、厩舎へと小走りに行った。

ー 引き綱を外さなかったのは、一人で勝手に行くなよ ってサインかな? ー

そう思って暫く待つとラミも馬に乗ってやって来た。

「こいつは、ジュピターの娘のアクアだ、母親似で脚が早い馬なんだぜ」

ラミは引き綱からジュピターを解き放し、柵の入口を開放した。

「見晴らしのいい所まで、ご案内……
お おい 待てよ」

ー こっち ー

また馬の声が頭の中でした。
今度は、間違いない。
これは、ジュピターの心の声だ

ジュピターの意志に任せて走らせてみよう。

「ジュピター、私をあなたの行きたい所へ連れてって」

ジュピターは、シーナを乗せて走り出した。

ジュピターはまるで全盛期を思わせる若々しい走りで平原を駆け抜けた。

「アクア、お前のお袋さんどうしちまったんだ。
イキイキとしてるじゃないか。」
ラミは、シーナを見失わないように必死に追った。

ジュピターは、シーナを乗せてから不思議と力が漲るみなぎるのを感じていた。
今ならまた、あの場所迄行ける。
もう行けないと思っていた岬の上へ

周りの景色は、草原からゴツゴツした岩場に変わり急な登りに変わる。時々踏みしめた足下の小石がコロコロと落ちていく。
ゆっくりと慎重に、ジグザグに登っていく。
少しずつ磯の香りが風に混じって来るようになった。

ー あと少し、あの場所へ ー

ジュピターは岬の先で立ち止まった。

見渡す海は水平線が見え、崖を見下ろせば、波がよせて、砕けていく。
そして、少し離れた場所では野生馬が数頭いて、草を喰んでいた。

追いついてきたラミさんが並んできて、ジュピターの首筋をさする。
「ジュピターは、ここで捕まえた、元は野生馬なんだ。里心出したのかな。
ジュピター、もういいだろ。今のお前の家に帰るんだ。」

シーナが首をポンポンと軽く叩くとジュピターはゆっくりと来た道を戻り始めた。





厩舎に戻り2頭の鞍をはずして、エサと水を与えた。

「シーナさん、ジュピターには随分気に入られたみたいだな。
もう走りはベテラン並だな。」

「ありがとうございます。
早速ですが、ジュピターは、いくらならお譲りいただけますか?」

「ジュピターをかい?
もうお婆さんだよ。
何故か今日はやけに元気だったけどな。
旅の伴にはもう少し若い馬をお勧めするよ。
例えば俺が乗ってたアクアとかな。」

「2頭とも譲ってもらえませんか。親子なら、かばい合うことも出来るでしょう」

「馬の親子がかばい合う?
面白いことを言うな。
でも、シーナさんの特別な力をみたら、それも有るかもって気がするよ。
よし、2頭で120万だ、馬具も込みで」

「なんか破格の値段じゃないですか?」

「いいんだよ。馬だって情の通じる主人がいいに決まってるだろう。
ジュピターは、家で最期を看取るつもりだったが、アンタとならまだまだ長生きしそうな気がするんだ。
可愛がってくれよな。」

「もちろんです。
あと、出発迄の間私この厩で寝泊まりしてもいいですか?」

「えっ?そんなに金が無いのか?
無理して買うってことなのかい?だったら」

「無理はしてません。お金はまだ余裕があります。
馬と一緒に居たいだけです。」

「じゃあ、食事と風呂は家でとってくれよな。」

「ありがとうございます。
明日から一緒に旅する護衛対象の娘を、連れてきます。
その娘もど素人だと思います。」

「また、あっという間に乗れるようにのかな?」

「いえいえ、跳ねっ返りのワガママ娘なので、鼻っ柱を折る予定です。」

「ほう?
他人には厳しい人?」

「あの娘に会えば、ラミさんもわかりますよ。
私は、優しい女の子なのにぃ。ラミさん酷~~い」

「ゴメンね。ちょっとからかっただけだよ。」







ラミさんの家で夕食をご馳走になってから。光魔法で足元を照らしながら、厩舎に戻った。

ー 干し草のベッドってこんな香りと感触なんだ ー

そんな小さな感動を覚えながらシーナは目を閉じた。

ー あの時、確かにジュピターの気持ちが、私に伝わったのよね。どうしたら私の気持ちもジュピターに伝わるのかなぁー ー

そんなことを考えながらも、疲れでシーナはすぐに眠りについた。


気がつくとシーナは昼間に行った岬の所に居た。
栗毛の立派な雄の馬と少し小ぶりながらも引き締まった雌馬の間に自分がいた。

ここ一帯の草は、潮風にあたっていて少し塩味を感じる。
午後の暖かい日差しの中、少し両親と離れて平らな草原の方に行ってみた。

この辺りは、前にも両親と来たことがある。
ここの草は食べても余り塩気を感じない。
だけど、ここならアチコチ歩き回らなくても、食べきれないほどの草がある。
のんびり草を喰んでいて頭を持ち上げると、首にロープがかけられていた。

人間!
顔に袋を被せられた。
首を振っても袋は取れない。
まだ明るい時間のはずなのに周りが全く見えない。
首のロープをグイッと引かれるので、しかたなく引っ張られた方について行く。
どのくらいの時間歩いたのか分からない。とにかく遠く迄来てしまったようだ。
お父さん、お母さん助けて。


頭に被せられた袋が取られた。
どこか知らない小屋の中に居た。
お父さんお母さんの所に帰りたい。
狭い檻の中で暴れてやる。
アチコチぶつかってみるけど びくともしない。
ぶつかった所が痛い。
一人の人間が私を見ていた。
何か私に向かって言ってるけど、無視する。
足元には、乾いたわらがあって柵から顔を出すと美味しい草と水が用意されてる。

それから何日か経った。
昼間は、柵で囲った所に連れ出されて、夕方にはまたあの檻の中に連れてかれる。
檻に戻ると汚れてたはずの足元が綺麗になっている。
手に何か持って、人間が私に触れようとするから、噛みつこうとした。そしたら、人間は、手を引っ込めたので噛みつけなかった。
人間なんかに触られたくない。
「ジュピター ※※※」
人間がなんか私に向かって言ってる。
その人間は、何時も私のそばにいて私を見ている。そして私に声をかける時は何時も「ジュピター」って言う。
何なんだろう「ジュピター」って。


その人間は、今日も私のそばにいる。
「ジュピター ※※※※」
何か話しかけてくるけど、人間の言葉なんか、わからないし、わかりたいとも思わない。

でも1つだけわかった。
「ジュピター」って、きっと私のことだ。
人間は、私のことを「ジュピター」って呼ぶんだ。

いつも私のことをそばで見ている人間が
「ジュピター ※※※」
なにか言いながら、私の檻の中に入って来ようとした。

人間になにかされるのは嫌だ!
いなないて前脚を大きくあげて、踏みつけようとしたら、人間は慌てて出て行った。





朝の日差しが厩舎の隙間から入って来てシーナは目が覚めた。

ー 私はジュピターの夢と同期していたのかしら?
それともジュピターが私に向けて、昔語りをしてたのかしら ー

ギフトを使って厩舎を清掃して、新しい敷きワラにして、水と餌も替える。

「ジュピター 私も朝ご飯食べてくるね。」
シーナはそう言って厩舎から出て行った。
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