ルーザー

烏帽子 博

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ウィナーの世界

シルビア

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「アドバイザーのシルビアよ、よろしくね、レイ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「それじゃ、早速その首の物騒なものを外さないとね。
役場に行くわよ

役場では、この国の人の情報が全て登録されていて、管理されてるの。

まず覚えてほしいのが、ステータスよ。
ステータスは、リサーチャー、フリーマン、レイバーの3つよ
違いは追々分かると思うけど、ザッと言うと、
リサーチャーは、好きな時に何らかの仕事をやる人で最上級ステータス。
フリーマンは、仕事しなくても何不自由ない上級ステータス
レイバーは、仕事をしてポイントを貯めてはじめて、好きな物を買ったりできる一般ステータスよ。
因みに、私はリサーチャー。あなたとさっき迄一緒に居たアナウンサーはレイバー。解説の人は私と同じリサーチャーよ」

「私はどうなるんですか?」

「あなたは、ゲームでウィナーになった人だから、フリーマンよ」

「ゴンさんも、最初はフリーマンだったんですよね。」

「ああ 解説の人ね。そうね。自分がやりたい仕事に対してちゃんと実力が認められれば、リサーチャーに成れるわ。」

「レイバーの人が、フリーマンやリサーチャーに成ることは?」

「それは聞いたことが無いわよ。何でそんなこと聞くの?」

「ルーザーにはステータスとかなくて、大人か子供かってだけでしたから」

「ふぅ~ん
ああ、着いたわ ここよ」

役場に着くなり入口近くの女性が
「レイさんですね。お待ちしてました。さぁどうぞこちらへ。」
と、別室に案內された。

男性が入ってきて
「はい、その首輪を外しますねレイさん」

その人が手に持ったリモコンスイッチを押すと、首輪のロックがハズレた。

「私は、ヘイマン この役場 の長をやってる。よろしくな。これはあなたのステータスカードです。あなたと同期しますので、一滴だけ血をいただきたい。リサ頼むよ」

先程部屋へ案內してくれた女性が
「ちょっとチクッとしますね」
と針を親指に刺した。
小さな粒ほどの血が出ると、それをカードに着けた。

「これで同期は終わりだよ。
このカードで宿を取ることも、レストランでの食事も乗り物に乗ることもできるよ。
だから無くさないようにね。
まぁ無くしたとしても、本人以外は使えないから心配無く。
もし無くした時は、この役場で再発行ができる。
説明はこれだけだ。わかったかな。」

「はい、わかりました。凄いですね。このカードだけで何でも済んでしまうんですね」

「そうだよ。良きウィナーライフをレイ」

役場から出ると、シルビアは私を洋服屋に連れていった。

これまでは支給された人民服しか着たことが無かったので、カラフルな洋服に戸惑ってしまった。

「これなんて、似合うと思うわよ」とシルビアがつぎつぎと服を持ってきて、私は、着せ替え人形の用だ。

「次は美容室に行きましょう」

私に有無を言わさず連れ回すシルビアに従った。

髪をカットされ、メイクを施されると、一人の美しく若い娘が鏡に映し出された。

「いかがでしょう」

「えっ これが私!」

「見違えたわね。レイ。
とっても綺麗よ。羨ましいくらいにね!」

「ここも、ステータスカード出すだけでいいの?」

「そうよ。簡単でしょ。」

「この後は何が有るんですか?」

「そうね、レストランで食事して、宿に行くつもりだけど、何かしたいこと有るの?」

「この町が見渡せる所が有れば、行ってみたいです。」

「わかったわ、ちょうどいい場所が有るわ」

私達はシティカーという乗り物に乗った。
二十人位が一度に座れる乗り物で滑る様に走る。
ステーションという場所に着くと人が乗り降りしている。
3つ目のステーションでシティカーから私たちは降りて、
プリンセスタワーと言うところに着いた。
見たことないような凄く高い建物でビックリした。
ウィナーとルーザーを隔てる壁以上に高い人工建造物を私は初めて見た。

建物内に入ると、シルビアに「上に行く為の乗り物 エレベーターよ」と箱の中に案内された。

私は入口と反対側の窓から外の景色を見ていた。

エレベーターが動き出した衝撃を膝に少し感じてから外の景色が変わりだした。
周りの建物や人がどんどん小さく見えてくる。
これまで登ったどんな木よりも高い所に向かっているのがわかった。

「天に登るんですか?」

「さっき下から見たでしょ、そこまで高く無いわよ。
60階の展望レストラン。ここなら食事も美味しいし、町も見渡せるわ。」

夕刻で、家々に明かりが灯り出していた。

「日が暮れて辺りが暗くなると、もっと綺麗に見えるわよ」

エレベーターから降りると外周が窓だらけのフロアになっていた。
音楽を演奏している人とそれに合わせて踊っている人や、それを見て拍手してる人もいる。

「レストランはこの1つ下の階に有るの。行く前にこのフロアを一周しましょう。」

「レイ、見て見て、あれがさっきの役場よ、それから洋服買ったのがあの辺り、美容室はだいたいあのへんかな」
シルビアが次次と指を指して教えてくれる。

「それからあれが私と最初に会ったテレビ局、壁の所に有る建物にルーザー側と繋がるトンネルが有るのよ。
本当に良かったわねアナタ。こっちに来れて」

「シルビアさん。ルーザーは何で殺し合いしないとこっちに来れないんでしようか?
同じ人間なのに。」

「種族的には同じ人間かも知れないけど、ルーザーは見捨てられた人たちよ。

この星でこうして文化的に生活するには、キャパが有るのよ。
つまり全員がこの暮らしをするには資源や食糧が足りないの。
資源や食糧の奪い合いで殺人や強盗が起きる事になる。

私は生まれた時からウィナーだけど、そう教わってるわ

レイ、貴方にとってゲームはどうだったの?
もしゲームが無くて一生ルーザーのままの世界ならどう?」

「ゲームが無かったらなんて考えたこと無いわ。
小さな頃からゲームに生き残ってウィナーになることばかり考えて生きてきたから。」

「レイ これは、私個人の考えなんだけど、ゲームに勝ってウィナーになることが、生きる目標で、それが無かったら、生きがいが無くなるんじゃない。」

「それなら、他の手段でも」

「そうかしら?私は、命がけだからこそ、価値が有ると思うわよ。
私は、それを生き抜いたあなたを尊敬してるわ。
ウィナーであるわたしたちは、もしルーザーがいきなり私たちの中に入ってきて、私たちの生活を荒らしたら、許せないと思うでしょうね。
だから、ごくレアなケースでしか認められないと思うのよ。」

シルビアの言うことはもっともだと思った。
でも、それでいいのか。

次のゲームでマークが殺されるかも知れない。
私はもう彼を助けに行くことはできないんだ。
マークが死んでしまったら、私はどうしたらいいか分からない。
胸が張り裂けそうな思いを抱えてマークが生き残ることを祈って次のゲーム終了をただ待つことしかできないんだ。

「レイ 今 恋人のこと考えてたでしょ。心ここに在らずだったわよ。」

「あっ いえ 彼は恋人じゃ無くて」

「そんな顔を真っ赤にして『恋人』否定してもだめよ。
あなたが死にそうな彼を抱いて泣いてるの見せられてるんだからね。
彼、次のゲームで生き残るといいわね。
なんの力にもなれないけど、私もあなたの彼の無事を祈ってあげるわ。」

「シルビアさん ありがとう」

私は彼女の胸でひとしきり泣いた。
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