魔王の子

烏帽子 博

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第一章

Bランク冒険者

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「タマおまたせ~ 今日は早いね。」

「うん いつもやってたお手伝いが、すぐ終わって」

「そっか、お手伝いはどんなことしたの?」

「牛舎の掃除は、フンを魔法で片付けて、水汲みは行かないでも、魔法で水だせるから、すぐ瓶一杯にして、焚き木集めは、簡単に山程集められたわ。」

「そうね、今のタマには簡単ね。」

「やっぱり私、自分でも普通じゃ無いなぁって思うの」

「Bランクの冒険者になったんだから、そりゃあ普通じゃ無いわよ。
それに本当はもっと上の強さだってフウリンが言ってたわよね」

「なんか普通に戻りたいなぁ」

「そんなの簡単じゃん。魔力を小さく抑えて、お手伝いも昔みたいに魔法無しでやればいいだけよ。
ほら、ジンの家に行く途中は、町ではいつも魔力消すよう言われてたよね。あれは普通に見せるためだよきっと」

「そっか。親の前では、魔力抑えるようにしてみる。
それでさー マオマオ、いつ旅に出る」

「三日後の朝でどう?」

「いいけど、お金とか装備とかはどうするの?」

「それなら私にいい考えがあるわ」


私は、家に帰ると三日後の朝旅に出るとヒューリとマリアに伝えた。

ヒューリは「子どもだけで旅なんて」と反対したが
マリアが「二人はBランクの冒険者よ。子ども扱いは、駄目よ」と説き伏せてくれた。

たったの2日余りだけど、マリアと料理したり、ヒューリの畑仕事を手伝って、少しは親孝行になったかな。

タマの様子を念話で聞いてみたら。
魔力を抑えたら、最初は両親がぎこちないけどだんだんと普通に接してくれたそうだ。

ー 私も、ママやパパに抱きしめてもらえたよ ー

とタマも嬉しそうだった。

旅立ちの朝、両方の親に「リンク魔法」の説明をして、私たちの部屋を常に基地的に使う許可をもらった。

「本当にお金とか装備とかは無くていいのか?」

とヒューリが心配したけど、

「全然問題無いわよ、晩御飯は家で食べて自分のベッドで寝るから、あ そうそう、ちゃんと稼いだ中から食費は家に入れるから心配しないで」

「えっ 二人は、そのへんで遊ぶのを旅って思ってるのかな?」


「さっき『リンク』の魔法の話したわよね。
最初は馬車で1ヶ月以上かかるトッポの町のギルドで依頼をこなすつもりよ。
『リンク』なら一瞬で行ったり来たり簡単だし。
それで、お金が貯まったら宿屋に泊まるし、装備もそろえるわ。
二つ三つ依頼こなしたら、家には帰らなくても良くなると思うから、心配しないで」

「なるほど、もう、俺の旅のイメージとはまるで違うけど、安心したよ。
野宿して、魔物や盗賊に襲われるとかは無いんだな」

「そうね。私たちが、魔物や盗賊を退治することはあると思うけどね。」

「まぁ、とにかく自分たちの強さを、過信しないようにな。
行っておいで」

私はタマと手を繋ぎ、結界を創り出して、その中へと進んだ

「な な なんだこれは!」

私たちが姿を表わすと、ギルドマスターのハマーさんが目をむいてこちらを見てる。

「ごめんなさい驚かせて。
他の人に見られない場所で、秘密を守ってくれる人で、トッポの町だとギルドマスター室に居るハマーさんしか知らなくて」

少し落ち着きを取り戻したハマーさんが口を開いた。

「俺はまぼろしを見てるのか。君たちは、人間か。」

「ハマーさん、前にもお会いしたマオとタマラですよ。前にもジンときた人間よ」

「なんで人間が空間から突然姿を表すんだ」

「私たち人間だけど魔法使いですよ。
空間魔法『リンク』をつかったんです」

「そんな魔法、聞いたことが無いぞ」

「そうでしょうね。つい最近ジンが作った、できたてホカホカの魔法ですから。知らないはずですよ。」

「それで、なんで突然俺の部屋に来たんだ。」

「それは、このギルドの依頼をやろうと思ったからです」

「ジンさんにも散々驚かされたが、君たちもか。」

ー 次からは、先にこうして連絡しますね
それなら驚かないでしょう ー

「わっ! な 何だ!頭の中で声がする」

ー ハマーさん 念話ですよ。驚かせないで下さいよ。
これってみんな最初に覚える簡単な魔法………!!!
じゃないみたいですね~ ー

「はぁ~ これから私はしょっちゅうこうして驚かされるのかな。」

「それなら、ご相談なんですが、他の人に見られずに、こうして出入り出来そうな場所はありませんか。」

「そうだな、ん~ この部屋にしても、他の職員の案内無しに来れないから、不自然だしな。
そうだ、裏口のドアを外に出た所はどうだ。
あそこなら、表通りから建物沿いに回らないと行けないし、庇と生け垣で四方囲まれてる」

「ハマーさん、そこに私たちを連れてって下さい」

「わかった、ついてきてくれ」

私たちは誰にも会わずに裏口を出られた。

「今あったことは、私は全部忘れるから、後は君たち次第だ。
それじゃあ」

そう言うとハマーさんはドアを閉めて鍵をかけた。

「タマ マーク何にする?」

「私は猫がいい」

「うん そうしよう。」

私たちは、土魔法で猫を作り出して、魔力を込めて、それを地面に埋めた。

「それじゃあ、タマ 依頼を見に行こうよ」

「うん 行こう行こう」

私たちは、正面入口からギルドに再入場した。

「お嬢ちゃんたち、ここは子どもが遊びに来る所じゃ無いぜ、さぁ邪魔だからあっちいった」

体格のいい大男が声を掛けてきた。

すると、そこへ受付をしていた職員のおねえさんが慌てて割って入ってきた。

「この二人のお嬢さんは、当ギルド認定のBランカーですよ」

「なんだと!フザケてんのかこのギルドは。
腰に差してるのは、木のおもちゃの剣だぞ」

「あら、本当だ。でも前に彼女たちが闘技場に出たときは、素手で戦って、全勝でBランクになったのよ。」

「ここの奴ら、みんな弱いんじゃねえか?なぁツヨシ」

「シンゴ、おまえ子ども相手に、突っかかってるんじゃないよ。俺たちゃもうすぐAランカーになろうって、正真正銘のBランク冒険者だぜ。
大人の余裕を見せろよ」

「ちっ 仕方ねぇな」

そのときタマが、ツヨシと呼ばれた男の所に行って

「オジサンたち 私たちと闘技場で戦わない?
Bランク冒険者同士の戦いなら、きっとスポンサーがつくわ。
そうすれば、勝った方は賞金もらえるし、このギルドが弱いかどうかもハッキリするわよ。」

「子ども相手に勝ってもなあ~」

そのときタマが、抑えてた魔力を半分位開放した。

「お お前!」

周りでは気絶してる人もいる

「どうします?やりますか?逃げますか?」

「やるよ、やる。やってやるよ。」

ギルドの仲介で、スポンサーはすぐに見つかり、ファイトマネーは30万ゴールドとなった。
試合は一週間後で、観戦は有料となった。

タマは、それでは終わらなかった。ファイトマネーが安すぎるとゴネて、入場料の一割と売店や露天の売り上げの一割を勝者と敗者に7対3で受け取れるように交渉し成功した。

対戦までの一週間の間、私たちは色々なバイトをしながら宣伝につとめた。

宅配はもちろん、犬の散歩や子守、お年寄りの話し相手、庭の草刈り、ネズミ退治に蜂の巣の除去、トイレの詰まりの修理、煙突掃除。
ギルドに依頼が来てても誰もやりたがらないような依頼を選んでこなした。

いよいよ試合当日

「やっぱ、お前ら本当はザコだな、クソみたいな依頼ばっかりこなしてたそうだな」

シンゴが挑発してくる

「オッズみて怖くなったのなら棄権してもいいわよ」

掛率は8対2で私たちが圧倒している
私たちが闘技場で上りつめたのを覚えてる人がこの町には多いのかも

「さっさと始めるぞ!」

ちょっと可哀想だけど、彼らには踏台になってもらおう。

対戦形式は一対一
連勝出来なかったら、2対2のチーム戦となった。

タマが「最初は私にさせて」と前にでた。

ー マオマオ、観客の為に盛り上げないといけないのよ。
簡単に勝たないようにするからね。マオマオもそうしてね。ー

タマが闘技場の真ん中でツヨシと対峙する。

ツヨシの武器はタマと同じく槍を構えている

タマは低く構えて
「ニャーゴ」と低い声で相手を、威嚇する。
背中の短槍に手を添えて、獲物に狙いをつけた猛獣の美しいフォルムを見せている

ツヨシがダッシュしてタマに向かって槍を突きだす。

タマはその全てをかわして、踊るようにツヨシの周りを余裕で回っている。

「はぁ、はぁ なんで当たんないんだ」

少し息切れ気味のツヨシは

「これが避けられるか!ハハハ
終わりだぁ~」

と叫んでツヨシはファイアーボールを撃った。

「ウォーターウォール」

タマが作り出した水の壁にツヨシのファイアーボールは遮られて消える、湯気がもうもうとあがっている

ツヨシは、ウォーターウォールを飛び越えて、再びタマに槍を突きだす。

ー タマ、そろそろ勝ってもいいんじゃない?ー

ー もう少し見せないと ー

ー そうなの?私はそんなに長びかせる自信無いなぁ ー

ー マオマオ まあ、もう少し見てて ー

ー まだ、やるの?ー

ー 余り簡単だと、見に来た人に『金返せ~』とか言われるわよ ー

ー そっか、じゃ しょうがないわね ー

タマは水牢を作り出して、ツヨシを捉えた。

ツヨシは。身長より少し深い水牢の中で、時折ピョンピョンと跳ねて呼吸を確保している。

少し水を飲んでパニックになったツヨシは、ファイアーボールを放った。

ツヨシの周りの水が瞬時に沸騰してもうもうと湯けむりをあげる。

タマは、笑いそうになるのを我慢しながら

「湯加減はいかがですか?」

と水を足しながら様子を見てた

ツヨシは一旦底に沈んでから渾身の力でジャンプして水牢から飛び出すことに成功した

しかし、ツヨシにとっての不幸は、その着地点に又別の水牢が用意されていたことだ。

水をしこたま飲んで、ツヨシはゲホゲホ咳き込んでいる。

「助けてあげる。掴まりなさい」

タマは槍を水の中に差し込んだ。
槍と言っても、タマの持ってる槍は先端を尖らせただけの木の棒だ。

ツヨシがそれに掴まると、タマは鰹漁師のように槍を、振り上げ水牢の中からツヨシを引き抜き出した。

咳込むツヨシに

「まだやる?」

とタマが覗きこむように尋ねる。

そのときツヨシの槍がタマの首めがけて突き出された。

タマはその槍の軌道に沿うように動いて

「借りるわね」

と一言いって、取り上げた槍の切っ先をツヨシの首元に突きつけた。

「参りました。僕の負けです。」

タマの勝利が確定した。

「おいおい まじかよ。
小娘相手に一方的にやられてるじゃねえか。情けねえ」

大男のシンゴが、私に敵意をぶつけてくる。

試合開始の合図の前に大剣を振り上げ私に迫ってきた。

慌てて審判が開始の笛を吹いた。

ー マオマオ、ダメよすぐ倒しちゃ。
見せ場を作って ー

タマが注文をつけてきた。

私は仕方なく、シンゴの振り回す大剣をしばらくよけてまわった。

顔面付近はスウェイバックして
足元はジャンプしたりバク転したり。
壁走りして立つ位置を入れ替えた時には、拍手が湧いた。

「すばしっこいな。でもいつまでもよけられると思うなよ。
攻撃はしてこないのか」

息を、切らしながらも、ちょっと嫌らしく笑うシンゴ。

タマの顔をみると ウン とオッケーサインがきた。

私は木製の細いレイピアに結界を纏わせ。
セーラの真似をして光らせた

「木のレイピアが光ってるぞ!」

会場からどよめきの声があがった。

「手品でも見せてくれるのか。俺にそんなコケオドシは通用しねぇ」

シンゴはダッシュしてまた向かってくる。
もちろん私にとってはスローモーションみたいなものだけどね。

シンゴの大剣を受け止めようとしたんだけど………
シンゴ大剣を真っ二つに切ってしまった。

闘技場全体にまたどよめきがおこった。

「金属疲労って言うのかしら?あなたの剣は寿命だったのね
別の剣にすれば?」

シンゴはツヨシの元に行き、新たな剣を、手にした。

「バカな娘だな、これこそが俺の本来の剣だ。
可哀想に思ってなまくらで相手してたが、もう俺は遠慮しないぜ!」

新たな剣をシンゴは手に入れて斬りかかるが、私にはスローモーションにしか見えない。

難なくしばらく避け続けて、タマのゴーサインを待つ

ー もういいわ ー

「それじゃあ、木の剣が行くよ~」

わたしのか細い木の剣が、シンゴの持つ大剣を三つに切って、バラバラにした。
ついでにシンゴの長く伸びた後ろ髪も結っている根元から切り落とした。

ウオー

と会場からどよめきが湧いた


「髪の毛みたいに、首も落としましょうか?」

「降参だ。参りました。」

チーム戦をやることもなく、勝利が確定した。

私たちは、一日で百万ゴールド近いお金を手にした。


因みにシンゴとツヨシにも30万ゴールドが渡され、後から感謝された。
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