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7・4 対峙

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(嘘だ、嘘だ!)

「嘘だ!!」

 展覧会が開催されている王宮の大ホールで、ロイエは叫び続ける。
 会場にいた紳士たちから、床に押し付けられたままの姿だ。

「ノアルトは滝に落ちて死んだ! つまり俺の他に英雄だと名乗り出る者はいない! エルーシャに会わせろ! 彼女は俺にベタ惚れだ! なにをしても俺のことを大切に考えてくれる!!」

 ロイエはいまだに現実を認めようとしない。
 今まで通してきたわがままを、まだ貫こうとしている。

「静かにしろ。国王陛下がいらしたぞ!」

 ホールの出入り口から、誰もが知る黒髪の貴人が現れた。

 若き国王は堂々とした振る舞いながらも、笑みを絶やさない。
 愛妻家で有名な彼は、民からの人気も高かった。
 ロイエは騒ぐのをやめたかわりに、胸の内で悪態をつく。

(なんだ、国王か。へらへらしているだけで人気取りをしているような、たいしたことのないやつのくせに! よし、今なら……)

 国王が護衛や警備兵を伴っていることで、会場の雰囲気は安堵に包まれていた。
 その一瞬を突き、ロイエは取り押さえてくる来場者を振り払うと、集まっていた人々を押しのけ走り出す。

 あちこちから悲鳴が起こった。
 ロイエはいい気分になって速度を上げる。

(逃げればこっちのものだ!)

 思った瞬間、ホールの裏口に人影が立ちはだかっていると気づいた。
 騎士風の旅装をした青年だ。
 その顔を見て、ロイエは息が止まるほど驚く。

 会場内にもどよめきが溢れた。

「どういうことだ、ロイエがふたりいる!?」

 その言葉の通り、騎士の顔はロイエですら自分だと錯覚しそうなほど似ていた。
 しかし相手の怜悧な表情と瞳の奥の光の強さはモノが違う。
 ロイエの全身から嫌な冷や汗が噴き出した。

(嘘だ……嘘だ嘘だ!!)

 ロイエは恐怖のまま逃げようとした。
 しかし騎士はしなやかに間合いを詰めてくる。
 鍛え抜かれた動きに合わせ、胸元で光が反射した。
 商人が驚愕に声を裏返らせる。

「私が見た英雄の胸元の光は、あれです! 彼が荒魔竜を討ったノアルト・クリスハイル様です!!」

 気づけばロイエの目の前に、その人がいた。

「よくも今まで、エルをいじめてくれたな」

 再会の挨拶として、ノアルトは淡々と私怨を吐く。

「おまえの自慢の青髪、一本一本むしり取る程度ですむと思うなよ」

 言い訳の時間は与えられなかった。
 ノアルトは外套の下から腕を振りかぶる。
 そこに武器は握られていなかった。
 かわりに容赦のない拳がロイエの左頬にめり込む。

「があ……っ!!」

 ロイエは美しい曲線を描いて大ホールの宙を舞う。が、すぐ床に墜落した。


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