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22 渡したいもの
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***
ファオネア辺境伯から貸りている別荘は、瀟洒な邸館だった。
美しい庭園に、盛大なパーティーも想定された華やかなホール。
窓から一望できる緑豊かなファオネアの町は、自然的でも幻想的でもある。
誰もが羨むような別荘に滞在して数日、しかしミスティナはレイナルトに用意された調合部屋と薬庫にこもっていた。
「ティナ」
調合に没頭しているミスティナを見かねたのか、レイナルトが薬庫にやってくる。
「ライナスの解毒薬を頼んだのは俺だが、少し休んだらどうだ」
「あっ、レイ」
ここ数日、観光中の婚約者同士を演じていたため、ミスティナはすっかり敬語抜きで「レイ」呼びが定着していた。
「ここにある薬……すべてティナがつくったのか?」
「そうよ」
ライナスの解毒薬の調合は、乾燥や醗酵の工程も多い。
その合間に採った素材を調合してみたが、予想以上に熱中していた。
「傷薬や胃薬、頭痛薬、風邪薬、肌荒れや冷え性や保存食にお茶、香水とかを作ってみたの」
レイナルトは薄暗い部屋に所狭しと置かれた大量の瓶や壺を見回し、しばし言葉を失う。
「……数日の間に、帝都の薬屋にも勝る品揃えになるとはな。君の作った品が素晴らしいと、使用人たちからも聞いている」
「よかった。使った人に喜んでもらえるのが一番嬉しいわ」
ミスティナは作ったばかりの錠剤を、棚に用意していた小瓶に移し入れた。
「レイに渡したいものが、ようやくできたの」
「ライナスの解毒薬か?」
「そっちは寝かせる作業が多くて調合に時間もかかるわ。でも順調だから安心して。今できたのはレイに飲んでほしい薬なの」
「俺に?」
「そうよ。これからレイの部屋に行って、飲んでもらってもいい?」
「ああ、ちょうど君を誘おうと思っていた。俺もティナに渡したいものがある」
ミスティナの髪にレイナルトの指が触れ、なにかが着けられた。
「? これは、」
「見たほうが早い」
レイナルトはミスティナが自分の髪に触ろうとした手を引くと、彼の部屋へ連れて行った。
鏡の前に立つミスティナを前に、レイナルトは満足そうに目を細める。
「君はなにを着けてもきれいだな」
彼女の月色の髪には、緋色の宝玉が散りばめられた髪飾りが添えられていた。
(これ……ファオネアの町へ来た日に、私が宝飾店で見ていた髪飾りだわ。覚えていてくれたのね)
あの日は解毒薬の材料集めだったが、内実はおいしい食事をして、町を散策して領民と話したり、山嶺花畑に藍の洞窟という名所まで立ち寄ったりしている。
思えばデートのフリをしてデートをしているだけだった気もした。
(髪飾りだけじゃないわ。レイは私が崖から落ちたときも助けてくれたし。過ごしやすいように素敵な別荘に滞在させてくれたり、アランのことも捜してくれて……)
レイナルトからソファをすすめられ、お茶の用意された席に向かい合って座る。
ミスティナは感謝を込めて、持っていた小瓶を差し出した。
「前にレイが不眠だって話をしていたでしょう? だから私、安眠薬を作ってみたの。試してくれる?」
レイナルトは静かにお茶を飲みながら、独り言のように呟く。
「ティナは不思議な人だな。殺しても死なないと恐れ忌まれる俺のことを、気にかけるなんて」
「強さは関係ないでしょう? 私はレイが眠れなくてつらいなら、治ってほしいだけよ」
ミスティナが真剣に案じていることが伝わったのか、レイナルトは頷いた。
「試してみようか」
ミスティナの顔がぱっと明るくなる。
そして持ってきた小瓶の中から、さっそく一錠取り出した。
そして毒ではないことを示すため自分で飲もうとしたが、レイナルトは彼女から薬をつまみ上げると、自分でぱくりと飲んだ。
「ティナ、ありがとう」
「お礼を伝えたいのは私の方だわ。だってもうすぐ、アランと会えるんだもの」
「君は本当に弟思いだな」
「もちろん、アランは私の大切な家族よ」
ミスティナは一口お茶をいただくと、ローレット王国のある方角の窓を見る。
「それに私の親友が、アランとの再会を祈っているの。早く無事を伝える手紙を送りたいわ」
ミスティナは秘密を打ち明けるように、親友のフレデリカがアランにずっと想いを寄せていた話をする。
「一緒にいても、私は彼女の想いに全然気づいていなかったの」
「そうだろうな」
「えっ?」
「ん?」
「……な、なぜレイにバレているのかはわからないけれど。でもフレデリカの気持ちを知った今は応援したいわ」
「それはティナがひとりで帝国へ来た本音か」
「そうね。もともとアランを捜すつもりだったけれど。でも今はその先のことも……もし叶うことなら、私はフレデリカに幸せな恋をしてほしいもの」
静かに耳を傾けていたレイナルトが、少し間をおいてから口を開く。
「以前、恋愛ごとはわからないと言っていたが。なにか嫌な思い出でもあるのか?」
元婚約者のことが一瞬浮かび、すぐに消えた。
(彼に対しては、全然なにも感じないわ)
元婚約者が自分を正当化して、ミスティナのことをおとしめる関係に虚しさはあった。
しかし彼に恋心を抱いたわけではない。
今よぎるのは、前世のときに惚れ薬を飲まされて心を奪われた記憶だ。
「……ただ、私にそういうのは向いていない気がするだけ」
ミスティナがはぐらかすと、レイナルトはカップを静かに置いた。
「向いてないなら、俺に任せればいい」
「レイに?」
「そう、ティナには俺がついているだろう。もしも君がなにかに脅かされているのなら、俺が守る。だからひとりで抱え込まないでくれないか」
レイナルトはミスティナをまっすぐ見つめている。
その表情にふと、穏やかな笑みが浮かんだ。
「ところで明日の午後は時間を取れそうか?」
「もちろん大丈夫よ。でもどうしたの?」
「明日、ファオネア辺境伯領で月に一度開かれるガーデンパーティーがある。一緒に行かないか?」
「それなら任せて! 観光客の婚約者設定も、少しは上手になったと思うの」
ミスティナは両手を握って意気込んだ。
レイナルトは腕組みをすると、少し身を乗り出して笑う。
「設定もいいが、ティナは婚約式と婚約パーティーどっちにしたいんだ?」
「えっ」
ミスティナは飲んでいたお茶をこぼしかける。
「どうした、そんなに驚いて」
「驚くわよ! だって私たち、まだ婚約していないのに」
「していないから、これからの心づもりだろう? 俺はティナの意見を一番に尊重したい。婚約式か婚約パーティーの希望はないのか?」
ミスティナは改めて、レイナルトとの婚約は、元婚約者のときとはまったく違うのだと思う。
(確かにそうよね。婚約式か婚約パーティー、一般的にはするものだし。ただどちらを選ぶかは重要かもしれないわね。雰囲気がかなり違うもの)
ローレット王国やグレネイス帝国では、婚約の際には婚約式か婚約パーティーのどちらかを行うことが一般的だ。
婚約式は男性側の親族が主催し、婚約パーティーの場合は女性側の親族が中心になって開かれることが多い。
「婚約に関する、レイの希望はないの?」
「俺の隣にティナがいてほしい」
「大丈夫! 病気や怪我で中止なんてことにならないように、さらに薬を増やしておくから!」
「いやその辺はあの薬庫を見て十分だと思うが。婚約式か婚約パーティーか、今は思いつかないのなら、俺と一緒に考えていけばいいから。ひとまずは心に留めておいて……ん?」
「どうしたの?」
「安眠薬を飲んだせいか……眠いかもしれない」
(やったわ!)
レイナルトはその硬質な美貌で、無防備にあくびを噛み殺す。
そして座っていたソファに、気だるそうに横たわった。
「ティナも疲れているだろう。そろそろ休んだほうがいい」
「でも、私はこれからやることがあるの」
ミスティナは持参した記録用紙とペンを手にして、レイナルトの寝るソファのそばに椅子を置いて座る。
(ぐっすり寝て、調子がよくなってくれたら嬉しいけれど)
ミスティナの期待に満ちた眼差しが注がれ、レイナルトは怯んだように切れ長の目をそらした。
「まさかとは思うが、俺の安眠記録を取るつもりか?」
「そうよ」
「……寝れるか」
「でも眠くなってきたのよね?」
「いや、そういう意味ではない」
「?」
レイナルトは両手で顔をおおい、しばらく葛藤するように無言を貫いた。
やがて悩ましげに「俺たちはまだ結婚していないらしいからな……」とうめく。
「なぁティナ。君が薬術に関して情熱を持って取り組んでいることは知っているし、応援もしている。だが……このまま安眠記録をとるのはやめておこう。とりあえず互いのために、薬の効果は俺が翌日報告するだけにしないか」
(そういえば前世でも才能のある方には、ひとりの時間が必要な人も多かったわね)
「わかったわ。じゃあレイ、おやすみなさい」
「ああ。よく休んでくれ」
レイナルトの寝顔を拝めないのは残念な気がしつつも、ミスティナは自室に戻った。
そして明日のガーデンパーティー出席のことも考えて、いそいそと寝台に潜り込む。
ミスティナはレイナルトから贈られた緋色の髪飾りを外すと、窓から煌々と投げかけられる月光にかざした。
(もしかしてレイは、私がずっと調合ばかりしていたから、パーティーに誘って休ませようと考えてくれたのしら)
先ほどまでいたレイナルトが今はそばにいないことを意識すると、心に隙間風のようなものを感じて不思議に思う。
(明日が早く来たらいいのに)
ミスティナは緋色の髪飾りを見つめたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
ファオネア辺境伯から貸りている別荘は、瀟洒な邸館だった。
美しい庭園に、盛大なパーティーも想定された華やかなホール。
窓から一望できる緑豊かなファオネアの町は、自然的でも幻想的でもある。
誰もが羨むような別荘に滞在して数日、しかしミスティナはレイナルトに用意された調合部屋と薬庫にこもっていた。
「ティナ」
調合に没頭しているミスティナを見かねたのか、レイナルトが薬庫にやってくる。
「ライナスの解毒薬を頼んだのは俺だが、少し休んだらどうだ」
「あっ、レイ」
ここ数日、観光中の婚約者同士を演じていたため、ミスティナはすっかり敬語抜きで「レイ」呼びが定着していた。
「ここにある薬……すべてティナがつくったのか?」
「そうよ」
ライナスの解毒薬の調合は、乾燥や醗酵の工程も多い。
その合間に採った素材を調合してみたが、予想以上に熱中していた。
「傷薬や胃薬、頭痛薬、風邪薬、肌荒れや冷え性や保存食にお茶、香水とかを作ってみたの」
レイナルトは薄暗い部屋に所狭しと置かれた大量の瓶や壺を見回し、しばし言葉を失う。
「……数日の間に、帝都の薬屋にも勝る品揃えになるとはな。君の作った品が素晴らしいと、使用人たちからも聞いている」
「よかった。使った人に喜んでもらえるのが一番嬉しいわ」
ミスティナは作ったばかりの錠剤を、棚に用意していた小瓶に移し入れた。
「レイに渡したいものが、ようやくできたの」
「ライナスの解毒薬か?」
「そっちは寝かせる作業が多くて調合に時間もかかるわ。でも順調だから安心して。今できたのはレイに飲んでほしい薬なの」
「俺に?」
「そうよ。これからレイの部屋に行って、飲んでもらってもいい?」
「ああ、ちょうど君を誘おうと思っていた。俺もティナに渡したいものがある」
ミスティナの髪にレイナルトの指が触れ、なにかが着けられた。
「? これは、」
「見たほうが早い」
レイナルトはミスティナが自分の髪に触ろうとした手を引くと、彼の部屋へ連れて行った。
鏡の前に立つミスティナを前に、レイナルトは満足そうに目を細める。
「君はなにを着けてもきれいだな」
彼女の月色の髪には、緋色の宝玉が散りばめられた髪飾りが添えられていた。
(これ……ファオネアの町へ来た日に、私が宝飾店で見ていた髪飾りだわ。覚えていてくれたのね)
あの日は解毒薬の材料集めだったが、内実はおいしい食事をして、町を散策して領民と話したり、山嶺花畑に藍の洞窟という名所まで立ち寄ったりしている。
思えばデートのフリをしてデートをしているだけだった気もした。
(髪飾りだけじゃないわ。レイは私が崖から落ちたときも助けてくれたし。過ごしやすいように素敵な別荘に滞在させてくれたり、アランのことも捜してくれて……)
レイナルトからソファをすすめられ、お茶の用意された席に向かい合って座る。
ミスティナは感謝を込めて、持っていた小瓶を差し出した。
「前にレイが不眠だって話をしていたでしょう? だから私、安眠薬を作ってみたの。試してくれる?」
レイナルトは静かにお茶を飲みながら、独り言のように呟く。
「ティナは不思議な人だな。殺しても死なないと恐れ忌まれる俺のことを、気にかけるなんて」
「強さは関係ないでしょう? 私はレイが眠れなくてつらいなら、治ってほしいだけよ」
ミスティナが真剣に案じていることが伝わったのか、レイナルトは頷いた。
「試してみようか」
ミスティナの顔がぱっと明るくなる。
そして持ってきた小瓶の中から、さっそく一錠取り出した。
そして毒ではないことを示すため自分で飲もうとしたが、レイナルトは彼女から薬をつまみ上げると、自分でぱくりと飲んだ。
「ティナ、ありがとう」
「お礼を伝えたいのは私の方だわ。だってもうすぐ、アランと会えるんだもの」
「君は本当に弟思いだな」
「もちろん、アランは私の大切な家族よ」
ミスティナは一口お茶をいただくと、ローレット王国のある方角の窓を見る。
「それに私の親友が、アランとの再会を祈っているの。早く無事を伝える手紙を送りたいわ」
ミスティナは秘密を打ち明けるように、親友のフレデリカがアランにずっと想いを寄せていた話をする。
「一緒にいても、私は彼女の想いに全然気づいていなかったの」
「そうだろうな」
「えっ?」
「ん?」
「……な、なぜレイにバレているのかはわからないけれど。でもフレデリカの気持ちを知った今は応援したいわ」
「それはティナがひとりで帝国へ来た本音か」
「そうね。もともとアランを捜すつもりだったけれど。でも今はその先のことも……もし叶うことなら、私はフレデリカに幸せな恋をしてほしいもの」
静かに耳を傾けていたレイナルトが、少し間をおいてから口を開く。
「以前、恋愛ごとはわからないと言っていたが。なにか嫌な思い出でもあるのか?」
元婚約者のことが一瞬浮かび、すぐに消えた。
(彼に対しては、全然なにも感じないわ)
元婚約者が自分を正当化して、ミスティナのことをおとしめる関係に虚しさはあった。
しかし彼に恋心を抱いたわけではない。
今よぎるのは、前世のときに惚れ薬を飲まされて心を奪われた記憶だ。
「……ただ、私にそういうのは向いていない気がするだけ」
ミスティナがはぐらかすと、レイナルトはカップを静かに置いた。
「向いてないなら、俺に任せればいい」
「レイに?」
「そう、ティナには俺がついているだろう。もしも君がなにかに脅かされているのなら、俺が守る。だからひとりで抱え込まないでくれないか」
レイナルトはミスティナをまっすぐ見つめている。
その表情にふと、穏やかな笑みが浮かんだ。
「ところで明日の午後は時間を取れそうか?」
「もちろん大丈夫よ。でもどうしたの?」
「明日、ファオネア辺境伯領で月に一度開かれるガーデンパーティーがある。一緒に行かないか?」
「それなら任せて! 観光客の婚約者設定も、少しは上手になったと思うの」
ミスティナは両手を握って意気込んだ。
レイナルトは腕組みをすると、少し身を乗り出して笑う。
「設定もいいが、ティナは婚約式と婚約パーティーどっちにしたいんだ?」
「えっ」
ミスティナは飲んでいたお茶をこぼしかける。
「どうした、そんなに驚いて」
「驚くわよ! だって私たち、まだ婚約していないのに」
「していないから、これからの心づもりだろう? 俺はティナの意見を一番に尊重したい。婚約式か婚約パーティーの希望はないのか?」
ミスティナは改めて、レイナルトとの婚約は、元婚約者のときとはまったく違うのだと思う。
(確かにそうよね。婚約式か婚約パーティー、一般的にはするものだし。ただどちらを選ぶかは重要かもしれないわね。雰囲気がかなり違うもの)
ローレット王国やグレネイス帝国では、婚約の際には婚約式か婚約パーティーのどちらかを行うことが一般的だ。
婚約式は男性側の親族が主催し、婚約パーティーの場合は女性側の親族が中心になって開かれることが多い。
「婚約に関する、レイの希望はないの?」
「俺の隣にティナがいてほしい」
「大丈夫! 病気や怪我で中止なんてことにならないように、さらに薬を増やしておくから!」
「いやその辺はあの薬庫を見て十分だと思うが。婚約式か婚約パーティーか、今は思いつかないのなら、俺と一緒に考えていけばいいから。ひとまずは心に留めておいて……ん?」
「どうしたの?」
「安眠薬を飲んだせいか……眠いかもしれない」
(やったわ!)
レイナルトはその硬質な美貌で、無防備にあくびを噛み殺す。
そして座っていたソファに、気だるそうに横たわった。
「ティナも疲れているだろう。そろそろ休んだほうがいい」
「でも、私はこれからやることがあるの」
ミスティナは持参した記録用紙とペンを手にして、レイナルトの寝るソファのそばに椅子を置いて座る。
(ぐっすり寝て、調子がよくなってくれたら嬉しいけれど)
ミスティナの期待に満ちた眼差しが注がれ、レイナルトは怯んだように切れ長の目をそらした。
「まさかとは思うが、俺の安眠記録を取るつもりか?」
「そうよ」
「……寝れるか」
「でも眠くなってきたのよね?」
「いや、そういう意味ではない」
「?」
レイナルトは両手で顔をおおい、しばらく葛藤するように無言を貫いた。
やがて悩ましげに「俺たちはまだ結婚していないらしいからな……」とうめく。
「なぁティナ。君が薬術に関して情熱を持って取り組んでいることは知っているし、応援もしている。だが……このまま安眠記録をとるのはやめておこう。とりあえず互いのために、薬の効果は俺が翌日報告するだけにしないか」
(そういえば前世でも才能のある方には、ひとりの時間が必要な人も多かったわね)
「わかったわ。じゃあレイ、おやすみなさい」
「ああ。よく休んでくれ」
レイナルトの寝顔を拝めないのは残念な気がしつつも、ミスティナは自室に戻った。
そして明日のガーデンパーティー出席のことも考えて、いそいそと寝台に潜り込む。
ミスティナはレイナルトから贈られた緋色の髪飾りを外すと、窓から煌々と投げかけられる月光にかざした。
(もしかしてレイは、私がずっと調合ばかりしていたから、パーティーに誘って休ませようと考えてくれたのしら)
先ほどまでいたレイナルトが今はそばにいないことを意識すると、心に隙間風のようなものを感じて不思議に思う。
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