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39・好きな名前つけて

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 その後はレルトラスがイリーネの踏みつけていた小さな成長石をすぐ感知して、目的の素材もあっさりと見つけることが出来た。

 小石にはしゃぐイリーネを連れてレルトラスは町まで戻り、溺れていた少年を家に送り届けて感謝される。

「最後の秘密もよろしくね」

 イリーネにそう命じられて、レルトラスは町の外れにある特殊な大木まで駆り出されると、飛びながら梢の葉を集めることになった。

 そのついでに、枝に引っかかっていたある男性の形見のスカーフを取り、彼の飼い犬に喜びのまま跳びつかれたりしながらも、無事に目標以上の量を袋に詰める。

 従順な義賊活動を体験し終えたレルトラスは、葉を詰めた大きな布袋を両手に持たされたまま、館へ向かう帰り道でぽつりと呟いた。

「今日はなかなか疲れたよ」

「私にさんざんこき使われたからね」

 いつになく覇気のないレルトラスを横に、イリーネは「水分補給」と先ほど屋台で飲んだアルコールの匂いをまとわせながら、機嫌よく笑った。

「でもこれできっと、サヒーマたちがもっと元気になっていくよ」

(そうすればサヒーマたちの毛を売ってガロ領にお金も払えるし、マイフから指輪にかかった魔術の解除方法も教えてもらえるな)

 イリーネはふと、自分の左手にすっかりなじんだ指輪へ視線を落とす。

(レルトラスとこうしているのも、あと少しか)

「楽しかったな」

「……イリーネがかい?」

「うん。こんなに楽しかったの、母さんがいなくなってからはじめて」

 レルトラスはイリーネの横顔をちらりとうかがったが、なぜかその表情は楽しいという言葉にそぐわないような静かな悲しみに満ちていた。

 並んで歩く二人の影が、斜陽に縁どられ長く伸びていく。



 ***



 悪魔の燃えるような赤い髪と角は見る者に威迫的だ。

 木々の茂るサヒーマ保護区に来たレルトラスが、フードをかぶらずその禍々しい頭部丸出しで現れたため、タリカは少しどきりとする。

「わっ、レルトラスさん!?」

「そうだよ」

 以前、タリカが悪魔の雑学を試して伸ばした彼の滑らかな赤髪は一つに結われていて、邪悪に尖った耳がよく見えた。

「あれ……レルトラスさんの髪の毛、サヒーマにかからないようにまとめてくれたの?」

「イリーネがしてくれたよ」

「あーそっかそっか!」

 それを見せびらかせたくて、わざとフードを下ろしてきたのだと、タリカはすぐ納得する。

「イリーネが俺に、サヒーマを守れ世話しろかわいがれと館を追い出すから、来てみたよ」

「うん、聞いてる! 私のサヒーマふわつや計画は、二人が見つけてきた素材のおかげもあって順調だし、今は最高の状態だよー。こっちこっち!」

 タリカは手招きしてレルトラスを一匹のサヒーマへと案内しながら、イリーネに「サヒーマのかわいさがわかれば、レルトラスも世話をしたくなるはずだから、触り方を教えてあげて」と頼まれたことを思い出す。

 タリカは「イリーネがいたら、レルトラスさんは他に興味なんか示さないと思うな―」と茶化したが、「いたらそうかもね」とどこか寂しそうに返された。

 タリカはふと呟く。

「イリーネ、館から出て行くのかな」

「それは無理だよ。何度も脱走は企んでいたようだけれど、俺が指輪をつけて場所を把握しているから。おみやげだった君を持ち帰った時のように山で迷子になっても、迎えに行ける」

「あー脱出不可能なやつかぁ」

 元気がなさそうに見えたのは気のせいかと思い直し、タリカは一匹の素晴らしい毛づやとふんわり感のある猫科のサヒーマに手を伸ばした。

「見てー! このサヒーマ、本当にかわいいでしょ?」

 心行くまでほおずりをすると、目印としてつけた首輪の鈴から、サヒーマの安心する音がころころ鳴る。

「今日はね、レルトラスさんにこの子の名前を考えてもらおうと思って! 好きな名前つけていいよー」

 レルトラスが迷わず口を「い」の形に開いた時点で、タリカはすぐに却下した。

「あっ、イリーネはひとりでいいからね!」

 口の形はそのまま、レルトラスは眉を寄せる。

「レルトラスさんって、イリーネ以外で好きなものないの?」

「ないな」

「即答!? この子の名前にするんだよー! 響きとか、趣味とか、食べ物とか! 何かこのサヒーマの名前になりそうなもの思いつかない?」



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