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33・ケンカしたの?
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マイフカイルはレルトラスを欺く話を本人の前で漏らした失言に気づき、慌てて言い訳を並べ始める。
「ちっ、違うんです! これは僕とイリーネさんとのちょっとした秘密で……別にレルトラスが気にするほどの内容では全くありませんよ、ははっ!」
「それは俺が決めることだよ。イリーネは俺が世話をしているのに、マイフが勝手に彼女と道徳的に問題がある秘密を持っているのなら、把握していないほうが問題だろう。イリーネとの秘密って、何だい」
「えっ……僕、そ、そんなこと言、」
とぼけようとしたマイフカイルの足元から灼熱の炎が上がった。
物わかりの良いマイフカイルに迷いはなく、一目散に湖のあるガラス張りの壁へと駆けていく。
「レルトラス! だから人を燃やしてはいけないのですよ!」
火だるまのまま果敢に駆けるラザレ領主は、ガラス扉を開けてダイブする。
直後、湖から迫力のある水しぶきが上がった。
*
マイフカイルが館のそばにある湖で水浴びをしてから数刻後。
イリーネがサヒーマの保護区に入ると、平地だったはずの場所は少し見ない間に木々が植えられていて、森のようになっていた。
警備員に後で来ると伝えてもらっていたため、一匹のサヒーマを抱いてイリーネを待っていたタリカは、その小柄な姿に目を留めると、嬉しそうに手を振る。
「イリーネー」
仕事用らしい珊瑚色のつなぎを着たタリカは、ひとりでやってくるイリーネに近づきながら、きょろきょろと辺りを見回した。
「あれ? レルトラスさんも一緒に来るって聞いていたから、怯えないように心の準備してたんだけど」
「勝手に帰ったよ」
「え、そうなの? 私の世話しているサヒーマ、とってもかわいいから見せたかったのにー」
「いいよ、あんなやつ」
投げやりな口ぶりに気づき、タリカはイリーネのふてくされてた顔をまじまじと見つめる。
「あれー? ケンカしたの?」
「しつこいんだよ、あいつ!」
イリーネの苛立ちに、タリカの腕の中にいたサヒーマがするりと逃げていった。
タリカは困ったように笑って唇の前で人差し指を立て「静かに」と促す。
「あっ、ごめん。保護区内なのに大声出して」
「でもどうしたの?」
イリーネは少し声量を落として、不思議そうに首を傾げるタリカに愚痴を言い始めた。
「あいつ、私とマイフの話に割って入って来て……。約束って何だ秘密って何だって、あいつを欺く悪いたくらみだから隠しているのに、それを暴こうとしつこく脅してくるんだよ。適当にごまかしたら腹いせに謁見の間を火の海にして……」
「教えてあげたらいいじゃない」
「だから、あいつを欺く悪いたくらみなんだよ。言ったら燃やされるに決まってる」
「言わなくても色々燃やされたんでしょ?」
「……ま、まぁそうだけど。ほんと腹立つよ、あの粘着質」
イリーネは口をとがらせる。
(ずっとずっとずっと、「イリーネは俺が世話をしている」ってしつこく言い張って……。どうせレルトラスは私のこと、タリカにとってのサヒーマみたいに思ってるんだろうけどね。ま、そのうち飽きるでしょ)
浮かない顔のイリーネにタリカはにやにやすると、辺りの木で爪とぎを始めた一匹のサヒーマに目を向けた。
「だけどレルトラスさんの気持ち、ちょっとわかるかも。好きな子に他の人と秘密があるとか言われたら、私だって気になっちゃうよー」
タリカは言いながら、寄って来た一匹のサヒーマを抱き上げる。
その幸せそうな顔を見て、イリーネは小さくため息をついた。
「やっぱりタリカも、サヒーマたちに秘密があったら気になるものなの?」
にこにことサヒーマにほおずりしていたタリカは、それを聞いて怪訝な顔になった。
「えっ。もしかしてイリーネってすごく頭悪い?」
「は? 何いきなり」
「いや……えっと。なんかちょっと、レルトラスさんかわいそうだなーって」
「いいよ、あんなやつ。かわいそうな目にあえばせいせいする」
イリーネは吐き捨てるように言うと、不愉快なレルトラスのことをさっさと頭の中から追い出すことにする。
「ちっ、違うんです! これは僕とイリーネさんとのちょっとした秘密で……別にレルトラスが気にするほどの内容では全くありませんよ、ははっ!」
「それは俺が決めることだよ。イリーネは俺が世話をしているのに、マイフが勝手に彼女と道徳的に問題がある秘密を持っているのなら、把握していないほうが問題だろう。イリーネとの秘密って、何だい」
「えっ……僕、そ、そんなこと言、」
とぼけようとしたマイフカイルの足元から灼熱の炎が上がった。
物わかりの良いマイフカイルに迷いはなく、一目散に湖のあるガラス張りの壁へと駆けていく。
「レルトラス! だから人を燃やしてはいけないのですよ!」
火だるまのまま果敢に駆けるラザレ領主は、ガラス扉を開けてダイブする。
直後、湖から迫力のある水しぶきが上がった。
*
マイフカイルが館のそばにある湖で水浴びをしてから数刻後。
イリーネがサヒーマの保護区に入ると、平地だったはずの場所は少し見ない間に木々が植えられていて、森のようになっていた。
警備員に後で来ると伝えてもらっていたため、一匹のサヒーマを抱いてイリーネを待っていたタリカは、その小柄な姿に目を留めると、嬉しそうに手を振る。
「イリーネー」
仕事用らしい珊瑚色のつなぎを着たタリカは、ひとりでやってくるイリーネに近づきながら、きょろきょろと辺りを見回した。
「あれ? レルトラスさんも一緒に来るって聞いていたから、怯えないように心の準備してたんだけど」
「勝手に帰ったよ」
「え、そうなの? 私の世話しているサヒーマ、とってもかわいいから見せたかったのにー」
「いいよ、あんなやつ」
投げやりな口ぶりに気づき、タリカはイリーネのふてくされてた顔をまじまじと見つめる。
「あれー? ケンカしたの?」
「しつこいんだよ、あいつ!」
イリーネの苛立ちに、タリカの腕の中にいたサヒーマがするりと逃げていった。
タリカは困ったように笑って唇の前で人差し指を立て「静かに」と促す。
「あっ、ごめん。保護区内なのに大声出して」
「でもどうしたの?」
イリーネは少し声量を落として、不思議そうに首を傾げるタリカに愚痴を言い始めた。
「あいつ、私とマイフの話に割って入って来て……。約束って何だ秘密って何だって、あいつを欺く悪いたくらみだから隠しているのに、それを暴こうとしつこく脅してくるんだよ。適当にごまかしたら腹いせに謁見の間を火の海にして……」
「教えてあげたらいいじゃない」
「だから、あいつを欺く悪いたくらみなんだよ。言ったら燃やされるに決まってる」
「言わなくても色々燃やされたんでしょ?」
「……ま、まぁそうだけど。ほんと腹立つよ、あの粘着質」
イリーネは口をとがらせる。
(ずっとずっとずっと、「イリーネは俺が世話をしている」ってしつこく言い張って……。どうせレルトラスは私のこと、タリカにとってのサヒーマみたいに思ってるんだろうけどね。ま、そのうち飽きるでしょ)
浮かない顔のイリーネにタリカはにやにやすると、辺りの木で爪とぎを始めた一匹のサヒーマに目を向けた。
「だけどレルトラスさんの気持ち、ちょっとわかるかも。好きな子に他の人と秘密があるとか言われたら、私だって気になっちゃうよー」
タリカは言いながら、寄って来た一匹のサヒーマを抱き上げる。
その幸せそうな顔を見て、イリーネは小さくため息をついた。
「やっぱりタリカも、サヒーマたちに秘密があったら気になるものなの?」
にこにことサヒーマにほおずりしていたタリカは、それを聞いて怪訝な顔になった。
「えっ。もしかしてイリーネってすごく頭悪い?」
「は? 何いきなり」
「いや……えっと。なんかちょっと、レルトラスさんかわいそうだなーって」
「いいよ、あんなやつ。かわいそうな目にあえばせいせいする」
イリーネは吐き捨てるように言うと、不愉快なレルトラスのことをさっさと頭の中から追い出すことにする。
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