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26・どう見ても人さらい
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(そういえばあごひげ店主から行方不明者が頻発しているって聞いたけど、こいつら関係あるのかな。どう見ても人さらいだし)
イリーネが覗き見していることに気づかず、男たちはだらだらと歩きながら話し続ける。
「だけどこの女も、頭固いよな。どうやらディリアナに口答えして、聖獣だっけ? もふもふな獣の飼育員を解雇されたらしい」
「何やらかしたんだ?」
「確か聖獣のそばで匂いのきつい香水をつけるなとか、甲高い声で笑うなとか、ディリアナより聖獣を優先するようなことばかり言ったらしいぞ。終いには「聖獣を尊重できないのならお帰り下さい」だとよ。ガロ領主の愛人がやって来た時くらい、適当に合わせておけばいいのに」
「なるほどねぇ。それで解雇されたこの女は職場のつながりもないし、身寄りがないのも確認済みだからやられ放題ってことか。でも「気に食わない女をさらって売っ払え」なんて人さらいに依頼するとか、ディリアナは本当ロクな女じゃねぇよ。小金に握らされて従うだけの俺には、とても真似できねぇ性悪ぶりだ」
「でもこの女、けっこうかわいい顔してるよな。ディリアナの嫉妬じゃねぇか?」
「それはあるだろ。まぁ、俺らにとってはこの女の行き先が娼館か奴隷か……臓器提供かはどうでもいいけどな。一番良い値が付くところへやるだけだ」
「だな」
男たちのやり取りから見えたタリカの事情に、黙って聞いていたイリーネの感情は不穏に波立っていた。
(タリカはシモナが認める一流のサヒーマ飼育員なのに、そんなくだらない理由で解雇されて、しかもさらわれて酷い場所に売り飛ばそうとされているなんて……。もしかしてタリカの解雇がきっかけになって、あのサヒーマたちが弱ってしまって、それでガロ領主が国から責任を求められるのが嫌でマイフのところに押し付けてきたのかも)
イリーネが人知れずため息をつくと、男たちが再び話し始める。
「でも多少高く売れないと、割に合わないよな。なんだよあの水の獣。あんなの聞いてないぞ」
「本当だな。番犬追い払う分の追加報酬も欲しいくらいだ。ま、俺のストレス解消ってことでぶっ刺してやったけどよ」
「よく言うぜ。俺ら散々噛まれまくっただろ。あーあ、俺なんかまだ腕が痛ぇよ。ガラドなんてひどいザマだったしな」
イリーネはガラドという名が引っかかりつつも、自分の腕の中ではずむように溶けた精霊の感触が記憶から蘇り、冷静さを失っていた。
(あいつらが襲ってきたから、あの子はタリカを守ろうとしてあんな痛い思いをしたんだ……)
イリーネは熱っぽく麻痺した思考のまま自分のローブの中に手を入れ、どうやって苦しめてやろうかということばかりを考えながら革ベルトのポケットを探っていく。
その時、背後から叩きつけられるような衝撃を受けて、イリーネはそのまま山の中に伏した。
激痛も構わず振り返ろうとしたが、その隙すら与えられず、粗野な振る舞いの男が背を押さえつけてくる。
「放して!」
イリーネが叫びながらもがいたが、乱暴な振る舞いに慣れた様子の男の力は強く、びくともしなかった。
「おまえら、警戒を怠ったな。ガキにつけられていたぞ!」
「何っ! ガラド、本当か?」
その名を聞いて、イリーネは偵察中に感情的になっていた事をすぐ後悔した。
(会話に出てきた名前から、ちょっと考えれば気づけたのに。ガラドって奴がもう一人いて、人さらいの運搬は3人の交代制だったこと……!)
イリーネが容赦なく押さえつけられる苦しみに呻いていると、担いでいた袋を置いて二人の男がやってきた。
「このガキ、誰だ? 袋に詰めた女の弟か?」
「さぁ……女に身寄りはいないって話だったけどな」
「じゃあ人さらいを襲うっていう噂のアレか?」
「こんなガキが?」
「どうなんだ」
「さぁな。そんなことは、どうでもいいだろ」
ガラドは顔を見合わせている男たちに答えながらも、イリーネの鼻を中心に湿った布をかぶせる。
甘く、しかし臭みのある嫌な匂いを吸い込み、イリーネはすぐに顔を歪ませた。
(この匂い、マブラの根だ……まずい。眠らされる)
男たちはもがくイリーネを気にかけず話し続ける。
「こんな汚いガキ、袋の中の女よりは値もつかねぇだろうけど。どうせだから、捕まえて売っぱらおうぜ」
「売り物の方から飛び込んできてくれるなんて、ありがてぇなぁ」
男たちの下品な笑い声を聞きながら、イリーネは目を開けていられなくなり、意識が遠のいていった。
イリーネが覗き見していることに気づかず、男たちはだらだらと歩きながら話し続ける。
「だけどこの女も、頭固いよな。どうやらディリアナに口答えして、聖獣だっけ? もふもふな獣の飼育員を解雇されたらしい」
「何やらかしたんだ?」
「確か聖獣のそばで匂いのきつい香水をつけるなとか、甲高い声で笑うなとか、ディリアナより聖獣を優先するようなことばかり言ったらしいぞ。終いには「聖獣を尊重できないのならお帰り下さい」だとよ。ガロ領主の愛人がやって来た時くらい、適当に合わせておけばいいのに」
「なるほどねぇ。それで解雇されたこの女は職場のつながりもないし、身寄りがないのも確認済みだからやられ放題ってことか。でも「気に食わない女をさらって売っ払え」なんて人さらいに依頼するとか、ディリアナは本当ロクな女じゃねぇよ。小金に握らされて従うだけの俺には、とても真似できねぇ性悪ぶりだ」
「でもこの女、けっこうかわいい顔してるよな。ディリアナの嫉妬じゃねぇか?」
「それはあるだろ。まぁ、俺らにとってはこの女の行き先が娼館か奴隷か……臓器提供かはどうでもいいけどな。一番良い値が付くところへやるだけだ」
「だな」
男たちのやり取りから見えたタリカの事情に、黙って聞いていたイリーネの感情は不穏に波立っていた。
(タリカはシモナが認める一流のサヒーマ飼育員なのに、そんなくだらない理由で解雇されて、しかもさらわれて酷い場所に売り飛ばそうとされているなんて……。もしかしてタリカの解雇がきっかけになって、あのサヒーマたちが弱ってしまって、それでガロ領主が国から責任を求められるのが嫌でマイフのところに押し付けてきたのかも)
イリーネが人知れずため息をつくと、男たちが再び話し始める。
「でも多少高く売れないと、割に合わないよな。なんだよあの水の獣。あんなの聞いてないぞ」
「本当だな。番犬追い払う分の追加報酬も欲しいくらいだ。ま、俺のストレス解消ってことでぶっ刺してやったけどよ」
「よく言うぜ。俺ら散々噛まれまくっただろ。あーあ、俺なんかまだ腕が痛ぇよ。ガラドなんてひどいザマだったしな」
イリーネはガラドという名が引っかかりつつも、自分の腕の中ではずむように溶けた精霊の感触が記憶から蘇り、冷静さを失っていた。
(あいつらが襲ってきたから、あの子はタリカを守ろうとしてあんな痛い思いをしたんだ……)
イリーネは熱っぽく麻痺した思考のまま自分のローブの中に手を入れ、どうやって苦しめてやろうかということばかりを考えながら革ベルトのポケットを探っていく。
その時、背後から叩きつけられるような衝撃を受けて、イリーネはそのまま山の中に伏した。
激痛も構わず振り返ろうとしたが、その隙すら与えられず、粗野な振る舞いの男が背を押さえつけてくる。
「放して!」
イリーネが叫びながらもがいたが、乱暴な振る舞いに慣れた様子の男の力は強く、びくともしなかった。
「おまえら、警戒を怠ったな。ガキにつけられていたぞ!」
「何っ! ガラド、本当か?」
その名を聞いて、イリーネは偵察中に感情的になっていた事をすぐ後悔した。
(会話に出てきた名前から、ちょっと考えれば気づけたのに。ガラドって奴がもう一人いて、人さらいの運搬は3人の交代制だったこと……!)
イリーネが容赦なく押さえつけられる苦しみに呻いていると、担いでいた袋を置いて二人の男がやってきた。
「このガキ、誰だ? 袋に詰めた女の弟か?」
「さぁ……女に身寄りはいないって話だったけどな」
「じゃあ人さらいを襲うっていう噂のアレか?」
「こんなガキが?」
「どうなんだ」
「さぁな。そんなことは、どうでもいいだろ」
ガラドは顔を見合わせている男たちに答えながらも、イリーネの鼻を中心に湿った布をかぶせる。
甘く、しかし臭みのある嫌な匂いを吸い込み、イリーネはすぐに顔を歪ませた。
(この匂い、マブラの根だ……まずい。眠らされる)
男たちはもがくイリーネを気にかけず話し続ける。
「こんな汚いガキ、袋の中の女よりは値もつかねぇだろうけど。どうせだから、捕まえて売っぱらおうぜ」
「売り物の方から飛び込んできてくれるなんて、ありがてぇなぁ」
男たちの下品な笑い声を聞きながら、イリーネは目を開けていられなくなり、意識が遠のいていった。
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